2 / 54
遡って始まりを見る
しおりを挟む
ことの始まりは1年前。
地方の伯爵令嬢の私キャロラインが、アラン=マルルロード=モリス侯爵令息と婚約した事にはじまる。
アラン様はこの国の者なら誰でも知っている、輝くような美貌の御令息。
そんなアラン様と私との接点といえば『お互いの領が隣接している』という事だけだった。
とはいえモリス侯爵領は広大だ。
我がハーフナー領が隣接しているのはモリス侯爵領の端っこも端っこ。
とてつもなく辺鄙な場所なのだ。
あちらからすれば数ある隣接する小さな貴族領のひとつ。
個人的な接点などあるはずも無く、私はモリス侯爵様もアラン様も会った事はおろか見た事すらなかった。
そしてそれはこれから先も変わらない。
はずだった。
それを覆したのは、更に一年前の事。
この国を前代未聞の豪雨が襲ったのだ。
河川の氾濫や土砂崩れ。
ハーフナー領は山手にあるため被害は少なく済んだけれども大きい被害を受けた領も多かった。
その被害の一つがモリス領との領境の川の越水だ。
この辺りは土地が低く浸水の被害が出た。
ハーフナー領側は人も住んでおらず空き地だったがモリス領側は村があった。
村全体が浸水し、死者こそ出なかったものの大きな被害となった。
そこでハーフナー伯爵家は復興に出来うる限りの事をした。
農業の盛んなうちの領の技術と支援により畑を復活させ、ハーフナー領の屈強な農夫達の手により家も住めるようにと、異例のスピードで復興したのである。
落ち着いた頃、両親や復興に尽力したハーフナー領民へ感謝のしるしにと、モリス領主邸での晩餐会に招待された。
夜なため私は留守番だったけれど。
そして両親が帰ってくれば何故か私とアラン様との婚約が決まったと聞かされたのだ。
絶句する私にお父様は「ハーフナー領にいるものなら視察に来たアラン様にお前が恋に落ちた事はみーんな知ってるぞ?よかったなあ。」
と言ってにやあっと笑った。
どうして知っているの!!!
田舎の狭さにゾッとする。
確かに復興の手伝いに行った時、遠くから見えたアラン様に一目見て一瞬で心を持って行かれていた。
遠目にもわかる程洗練された貴族の優美さを持つアラン様に私は釘付けになり、目が離せないでいた。
アラン様はモリス侯爵様と一緒にお父様と話していた。
ふとお父様がキョロキョロと辺りを見渡しだした。
下の兄を見つけると大声で呼び寄せモリス侯爵様とアラン様に紹介しているようだった。
ハッと思わずパタパタと自分の服の泥を払う。
何故か払えば払うほど汚れていく。
そこでやっと自分の手が汚れていると気付いた。
またアラン様の方に視線を戻すと、今度は上の兄が紹介されている様だった。
もう一度お父様がキョロキョロと首を振る……。
次は自分だ。
背筋が凍る。
気が付けば踵を返して逃げ出していた。
どうしても取れない泥汚れ。
無造作に結い上げた髪の毛。
そんなもの気にした事もなかったというのに、急に恥ずかしくなった。
帰ろうとしていた領民にまじり私も馬車に飛び乗り、その日は帰ってしまった。
どうやらその一連の行動は領民の皆に見られていたらしい。
大体アラン様が来たのはその一度きりだ。
なのに私が恋に落ちたからと言って婚約が成るのはおかしいじゃないか。
加えて相手は侯爵家嫡男。
そんな簡単に決まるものかと、お父様も恥ずかしい冗談を言うものだと、そう思っていたら本当に婚約が成っていた。
そこからはあれよあれよと話が進んでいく。
モリス領の領主邸で顔合わせをする。
アラン様は学園があるためいらっしゃらなかったけれど、侯爵夫妻とはお話しをした。
そこでわかったのはハーフナー家による復興支援に随分恩義を感じてくださっているという事。
だからと言って婚約はやりすぎなのでは?
そんな疑問を投げかける暇もなくあっという間に、半年後の4月にはアラン様のいる王都の学園の中等部に編入する話がまとまっていた。
モリス侯爵様曰く「王都にいなければなかなか息子とも交流をはかれないだろうし、モリス侯爵家に滞在して息子達と一緒に学園に通えばいい。」らしい。
しかしながら王都には父親の弟が婿入りした侯爵家がある。
いくら婚約者といえど同じ屋根の下になどという話になり、私はそちらに身を寄せる事になった。
「息子のアランは高等部だから校舎も違うのだけれども、娘のセレーナは君と同い歳だ。きっと同じクラスになるだろうから仲良くしておくれ。」
もう現実味もなく素早くまとまっていくアラン様との婚約の話にもはや唖然とする以外なかった。
そうして王都に行くまでの半年間はアラン様とセレーナ様と手紙での交流をはかる事が決まった。
地方の伯爵令嬢の私キャロラインが、アラン=マルルロード=モリス侯爵令息と婚約した事にはじまる。
アラン様はこの国の者なら誰でも知っている、輝くような美貌の御令息。
そんなアラン様と私との接点といえば『お互いの領が隣接している』という事だけだった。
とはいえモリス侯爵領は広大だ。
我がハーフナー領が隣接しているのはモリス侯爵領の端っこも端っこ。
とてつもなく辺鄙な場所なのだ。
あちらからすれば数ある隣接する小さな貴族領のひとつ。
個人的な接点などあるはずも無く、私はモリス侯爵様もアラン様も会った事はおろか見た事すらなかった。
そしてそれはこれから先も変わらない。
はずだった。
それを覆したのは、更に一年前の事。
この国を前代未聞の豪雨が襲ったのだ。
河川の氾濫や土砂崩れ。
ハーフナー領は山手にあるため被害は少なく済んだけれども大きい被害を受けた領も多かった。
その被害の一つがモリス領との領境の川の越水だ。
この辺りは土地が低く浸水の被害が出た。
ハーフナー領側は人も住んでおらず空き地だったがモリス領側は村があった。
村全体が浸水し、死者こそ出なかったものの大きな被害となった。
そこでハーフナー伯爵家は復興に出来うる限りの事をした。
農業の盛んなうちの領の技術と支援により畑を復活させ、ハーフナー領の屈強な農夫達の手により家も住めるようにと、異例のスピードで復興したのである。
落ち着いた頃、両親や復興に尽力したハーフナー領民へ感謝のしるしにと、モリス領主邸での晩餐会に招待された。
夜なため私は留守番だったけれど。
そして両親が帰ってくれば何故か私とアラン様との婚約が決まったと聞かされたのだ。
絶句する私にお父様は「ハーフナー領にいるものなら視察に来たアラン様にお前が恋に落ちた事はみーんな知ってるぞ?よかったなあ。」
と言ってにやあっと笑った。
どうして知っているの!!!
田舎の狭さにゾッとする。
確かに復興の手伝いに行った時、遠くから見えたアラン様に一目見て一瞬で心を持って行かれていた。
遠目にもわかる程洗練された貴族の優美さを持つアラン様に私は釘付けになり、目が離せないでいた。
アラン様はモリス侯爵様と一緒にお父様と話していた。
ふとお父様がキョロキョロと辺りを見渡しだした。
下の兄を見つけると大声で呼び寄せモリス侯爵様とアラン様に紹介しているようだった。
ハッと思わずパタパタと自分の服の泥を払う。
何故か払えば払うほど汚れていく。
そこでやっと自分の手が汚れていると気付いた。
またアラン様の方に視線を戻すと、今度は上の兄が紹介されている様だった。
もう一度お父様がキョロキョロと首を振る……。
次は自分だ。
背筋が凍る。
気が付けば踵を返して逃げ出していた。
どうしても取れない泥汚れ。
無造作に結い上げた髪の毛。
そんなもの気にした事もなかったというのに、急に恥ずかしくなった。
帰ろうとしていた領民にまじり私も馬車に飛び乗り、その日は帰ってしまった。
どうやらその一連の行動は領民の皆に見られていたらしい。
大体アラン様が来たのはその一度きりだ。
なのに私が恋に落ちたからと言って婚約が成るのはおかしいじゃないか。
加えて相手は侯爵家嫡男。
そんな簡単に決まるものかと、お父様も恥ずかしい冗談を言うものだと、そう思っていたら本当に婚約が成っていた。
そこからはあれよあれよと話が進んでいく。
モリス領の領主邸で顔合わせをする。
アラン様は学園があるためいらっしゃらなかったけれど、侯爵夫妻とはお話しをした。
そこでわかったのはハーフナー家による復興支援に随分恩義を感じてくださっているという事。
だからと言って婚約はやりすぎなのでは?
そんな疑問を投げかける暇もなくあっという間に、半年後の4月にはアラン様のいる王都の学園の中等部に編入する話がまとまっていた。
モリス侯爵様曰く「王都にいなければなかなか息子とも交流をはかれないだろうし、モリス侯爵家に滞在して息子達と一緒に学園に通えばいい。」らしい。
しかしながら王都には父親の弟が婿入りした侯爵家がある。
いくら婚約者といえど同じ屋根の下になどという話になり、私はそちらに身を寄せる事になった。
「息子のアランは高等部だから校舎も違うのだけれども、娘のセレーナは君と同い歳だ。きっと同じクラスになるだろうから仲良くしておくれ。」
もう現実味もなく素早くまとまっていくアラン様との婚約の話にもはや唖然とする以外なかった。
そうして王都に行くまでの半年間はアラン様とセレーナ様と手紙での交流をはかる事が決まった。
935
あなたにおすすめの小説
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
婚約者を借りパクされました
朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。
わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。
兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。
わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。
家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。
そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。
裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。
たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。
次の人生では幸せになりたい。
前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!!
自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。
そして元彼のことも。
現代と夢の中の前世の話が進行していきます。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる