悪役令嬢はあなたのために

お友達

「キャロライン様！改めて私のお友達を紹介しますわ！こちらはカーティス子爵令嬢のエイミー。そしてこちらはマーチ男爵令嬢のメグですわ。」

今は学園の庭のガゼボに来ている。
朝の約束通り、セレーナ様とご友人がランチに誘ってくれたのだ。
おふたりも例外なくキラキラと発光しているように輝いていた。

眩しさにうっと声が出そうなところをなんとか耐える。

「皆様。こちらお兄様の婚約者、ハーフナー伯爵令嬢キャロライン様ですわ。」

中でも一際輝いているセレーナ様が眩しい笑顔で私を紹介してくれる。
非現実感にクラクラしながらもかろうじて声を出す。

「キャロライン＝ガンボールです。よろしくお願いします。」

スラスラと自己紹介したつもりが実際は多少詰まりながらの自己紹介になってしまった。

「キャロライン様……なんだか顔色が……？」

心配気に覗き込むセレーナ様の美しい顔。正直まだ慣れない。

「い、いえ……少し緊張してしまって……。」

そう言えばセレーナ様は美しいライトブルーの瞳を大きくした。

「まあ！私たち同い年ですのよ！キャロライン様も今日から私たちのお友達ですわ！どうか緊張なんてしないでくださいませ！」

今日からもうお友達？！

セレーナ様からお友達宣言されて嬉しいやら何やら、どうしていいのかわからない。

「そ、そうは言われましても、私みたいな地方貴族……セレーナ様達のような中央の洗練されたご令嬢とお話しするのは少し緊張します。」

結果少しどもりながら正直な気持ちが口から出てしまった。
一瞬場がシンと静まり返り、ヒヤリとする。

今の発言は少し卑屈だったろうか……？

そう思ったのも束の間。

「まあ！」「キャロライン様ったら！」

可笑しくて仕方ないという具合に皆一斉に笑い出した。

「何を言い出すのかと思いましたら！そんなことを思っていらっしゃったの？キャロライン様……いいえ、もう私たちお友達ですもの！キャリーと呼んでも？もちろん私たちのことも名前で、様なんてつけないで！敬語もやめましょう！ね？そうしましょうよ！」

そういうとセレーナ様は他の方をぐるりと見渡す。
顔を向けられたご令嬢は皆口を揃えて、そうよ。そうしましょう。と言い合う。


「ね？そういうことだから、キャリー。これから仲良くしましょうね！」
「その通りよ、キャリー！王都のこと、学園のこと、気楽に話して！」
「そうよ、なんでもわからないことは聞いてちょうだい！」


す……すごい……

敬語なんてやめましょうと言ったらすぐに気安くお話しできるなんて、これが中央貴族！！
そしてここで頑なな態度を取れば場が白けることは田舎貴族の私でもわかる。

「ええ……わか、わかったわ。色々教えてく……教えてね。」

たどたどしい言い様に自分でも情けなくなり、カーと顔に熱が集まる。
なんとみっともないお友達デビューだろう。

窺うように皆の顔を見ると彼女達はうふふと笑いながら「ええ、もちろんよ。」「そうそう！その調子よ。」なんて励ましてくれる。

ニコニコと微笑んでいる皆をみて安堵する。

よかった。
引かれていないわ。

ほっと胸を撫で下ろした。







放課後は職員棟のおば様の部屋に行った。

「どうだった？学園デビューは！」
「とっても疲れたわ！！」

おば様は即答した私を見て楽しそうに笑う。

「おば様もそうだけど……どうして王都の皆様はあんなにキラキラと輝いているのかしら？気後れしてしまうわ……。」

「何を言っているのよ。あなたにはあなたの魅力があるわ。」

「そうかしら…………あ！でもセレーナ様のおかげでお友達ができたわ……あ！いけない……セレーナだわ！！」

そう言って両手でほっぺたをはさんでモニモニと口をマッサージするように揉む。

「あら？もう名前で呼び合っているの？」

「ええ、そう言われたの。やっぱり中央のご令嬢の社交力はすごいわ。」
そしてすぐ、「やはりダメ……様くらいはつけさせてもらうよう明日言わなくては……」と呟く。

「そう。リーネはお友達ができないかもしれないなんて言っていたけれど心配無用だったわねえ。アラン様とは？」

「校舎が違うとなかなかお会いする機会もないみたい。でも顔合わせの日は決まっているし、わざわざお会いしなくてもいいの。そうでなければ私の方がパンクしてしまうわ！！」

「ふふ、それもそうね。」

「あ！でもね！見て頂戴！」

「それは？」

「アラン様からのお手紙よ！セレーナ様が預かってきてくださったの！しかも私の返事もセレーナ様がアラン様に届けてくださるの！家同士を介するより早いからって！」

「へええ。セレーナ嬢は随分面倒見がいいのねえ。」

そう少し意外そうな顔をした。

でもすぐおば様は我が事のように嬉しそうに目を細めると、「さ！今日のいい報告を聞いたところで、早速畑に行きましょうか！今の研究の説明をしていくわ。」そう言って立ち上がる。

「ええ！」

今日一番いい返事をした私を見てステラおば様は吹き出すように笑った。