悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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モリス侯爵令嬢セレーナのプロローグ

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「ハーフナー伯爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」



やったわ!!


とうとう婚約破棄を宣言できたわ!!


キャリーを見やると絶望した顔をしている。

フフフ!

私はメグやエイミーと目を合わせあい緩みそうになる口を引き締め頷き合った。


善良で、馬鹿で、身の程知らずのキャリー。


ええそうよ。

誰が応援なんかしているものですか。
こんな婚約、決まった瞬間から潰してやるつもりだったわ!








初めてキャリーに会った時はあまりの田舎臭さに本当に驚いたわ。

キャリーの学園初日は私が馬車で迎えに行った。

それはそれはもう一緒の馬車に乗るのも悍ましいくらいの田舎臭さだったわ!
本当に匂ってくるのではないかと一瞬息を止めたくらいよ。
これがお兄様の婚約者ですって?

冗談じゃないわ!

本当はお兄様も一緒に迎えに行くと言う話だったのだけれども、
『同じクラスの女同士で気楽に親睦を深めたい。お兄様はその後ね。』
そう言えばあっさりお兄様は引いた。

ほぉら。お兄様だって交流が面倒なのよ。


私のお兄様は本当に素敵。
自慢のお兄様よ。

学園に通い始めてからは特にそう思うようになった。

朝お兄様と一緒に登校し、学園でお兄様が馬車から降りると誰ともなく歓声が上がる。
瞬時に場の雰囲気が変わりサワサワと落ち着かない様子があたりを包む。
お兄様に手をとってもらい私も馬車から降りると刺さるのは羨望の眼差し。

爵位関係なくご令嬢なら皆例外なくお兄様をうっとりと見つめ、その中には今学園に通っている第二王女、公爵令嬢までも混じっているというのもまたいい。

それが一体どうして?

名も知れぬ田舎の貴族令嬢を婚約者になんて!
酷い水害の時、うちの領の被災地があっという間に復興したのはハーフナー伯爵のおかげだって。

だからなによ。

それでなんで、そこの娘がお兄様の婚約者になるっていうの。
信じられない!!

お父様がお兄様に婚約の挨拶を手紙で送るように言っていた。
私にも学園では同級生になるのだからと文通を強要してきた。

気に入らないわ。
お兄様が手紙を送ることも、私が田舎娘と文通することも。

お兄様の侍従のウォルターに言って、お兄様が送ろうとしていた手紙を取り上げた。
ついでにキャリーからお兄様宛に手紙が来たら私に渡すように言う。
ウォルターは顔を赤らめながら「必ず。」と返事した。
「ありがとう。」と目を合わせ微笑むとウォルターの耳まであかくなった。

ふん

誰が交流なんてさせるものですか。


何度か手紙のやり取りをするとキャリーが田舎貴族の典型だと気付いた。
馬鹿みたいに人がよく、警戒心など持ち合わせていない。

だから少しずつ嘘を吹き込んでみた。

お兄様は悪役令嬢のような方が好みなのよ、なあんてね。

どこまで信じるのか、お遊びだった。
信じ込み、悪役令嬢のような格好で現れたら笑っちゃうわ。
だって実際はお兄様の一番嫌いなタイプだもの。

あっさり信じる間抜けなキャリー。
でも退屈なはずな文通が一気に楽しくなった。


そうしているうちに一つ問題が起きた。

「アラン、キャロライン嬢との手紙の交流は順調なのか?」

珍しく晩餐が一緒になったお父様がお兄様に言った。

「きちんと手紙は書きましたよ。先日も彼女の誕生日が近いので贈り物とカードを送りました。返事はまだいただいてませんが。」

不味いわ。

確かに贈り物を選んでカードと一緒に送るように言われたと、ウォルターに聞いていた。
そこで私が選んだものを購入し、領収書だけ回して品物は手元に残した。
カードは捨てた。

送っていないのだから返事なんて来るはずがないのよ。

適当に誤魔化さなくては。

私は平然と会話に口を挟む。
この国の郵便事情はあまり良くない。
届かない事はもちろん、後から出した手紙の方が早く着くことも、しばしば。

その事を引き合いに出し、
「私は沢山手紙を送っているから、一通二通届かなくても問題ないわ。お兄様ももう少し頻繁に送られてはどうかしら?」
ともっともらしい事を言えば、杜撰な我が国の郵便事情に2人は納得した様子で事なきを得た。


でもこのまま放置すればいつか気付かれる。
そこでウォルターの顔が思い浮かんだ。

私と目が合えば真っ赤になるウォルター。

あれは使える。

そこで代筆を頼めば頬を紅潮させ二つ返事で頷いた。

侯爵家の封筒と便箋に侯爵家の封蝋。
字は違うけれどもキャリーがお兄様の字など知る由もない。

手紙で探りを入れてみればすっかり騙されているようだった。

とはいえ、こちらの状況は変わらない。
でも……この状況を利用すれば……この婚約を無かったことに誘導できるのでは?
手紙からもひしひし伝わってくるキャリーの愚鈍さ。

これなら……

そう思い友人のメグとエイミーに計画を話せば、お兄様に想いを寄せているメグなどは大はしゃぎで賛成した。
そうして私達は定期的にメグの家に集まり作戦を練るようになった。

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