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セレーナは遊戯を楽しむ
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キャリーが王都にやってきてからというもの毎日が楽しくて仕方がない。
本当にキャリーは、面白い駒!
「キャロライン=ガンボールです。よろしくお願いします。」
嘲笑をたたえた口元を扇で隠しながらメグとエイミーとでキャリーを取り囲む。
鈍臭い自己紹介だこと
王都から離れた田舎貴族の令嬢、キャリー。
土の匂いでもして来そうな野暮ったい身なり。
持ち物も何もかも目を背けたくなるようなセンス。
品性のかけらもない。
ここにいる誰もが彼女より優れているのは一目瞭然。
田舎貴族が馬鹿にされている理由を皆はっきり理解した瞬間と言ってもいいんじゃないかしら?
「あら、素敵な髪飾りですわ!どこで買われたのかしら?ぜひお店を教えていただきたいわ!」
メグが言うと、私達は一斉に肩を振るわせ、扇を口元から目元まで上げる。
でもその扇すらプルプル震えてしまった。
(やめなさいよ!)
言いたいけれども、ダメ。
今口を開けばきっと吹き出してしまうわ。
彼女のつけている髪飾りは明らかな流行遅れ。
3、4年ほど前に王都で流行っていたデザイン。
「あ……ありがとうございます。父親が王都に行くならと選別に行商から買ってくださったのです。」
最近買ったの?!
顔を赤らめ、嬉しそうに言うキャリーを前に、質問した張本人のメグですら扇で顔を全部隠した。
ちょっと……私横にいるから丸見えよ?
爆笑してるんじゃないわよ!
でも私も人の事は言えないわ。
顔が隠れるほど扇を上げるけれど、笑いを堪えているせいで扇どころか体ごと震えている。
だって王都に来る前にわざわざ時代遅れのアクセサリーを購入したなんて!
ダメよ。
もうフォローなんてできない。
あなた、なんとかしなさいよ!
そう言う意味を込めてエイミーをこっそり突っついた。
「まあ、素敵なお父様ですこと!私の父親はなかなかそんな気がきくお方じゃありませんことよ。」
私に突っつかれて大袈裟に褒め出したエイミー。
冷静を取り戻した彼女を見ていたら私も笑いが収まってきたわ……。
「え……そんな……」
顔を赤らめ、モジモジとなんて返していいのかわからない様子。
もう、返事がいちいち鈍臭いわね。
ふう。
完全に一息ついた私は笑っていた事を誤魔化すように「キャロライン様……なんだか顔色が……?」そう言ってわざとらしく顔を覗き込んでみる。
「い、いえ……少し緊張してしまって……。」
「まあ!私たち同じ年ですのよ!キャロライン様も今日から私たちのお友達ですわ!どうか緊張なんてしないでくださいませ!」
善人そうな笑顔を浮かべて言ってやる。
さあ、なんて返すのかしら?
「そ、そうは言われましても、私みたいな地方貴族……セレーナ様達のような洗練されたご令嬢とお話しするのは少し緊張します。」
まあ!よくわかっているじゃないの!!
我慢できず声をあげて笑ってしまう。
そうよ!
そういう身の程をわきまえている発言が聞きたいの!
手を叩いて笑い出したくなる気持ちを仕切り直すように咳払いを小さくすると、私は敬語をやめるようにキャリーに促した。
そんな、と言いながら戸惑うキャリーを見ていると、どうしても優位の笑みを隠しきれない。
それでもなんとか気安い物言いを絞り出しているキャリーに「そうそうその調子!」とメグが声をかけるものだからまた吹き出しそうになった。
犬の躾じゃないんだから!
私達はキャリーに気付かれないように目と目で合図を送り合う。
ふふ
皆目が輝いているわ。
きっと同じ気持ちよね。
これからしばらくは楽しめそう、ってね。
「あなた、そうそうその調子って犬じゃないんだから。」
「ではどう言えばいいというの?皆笑っていたでしょう?」
「どう言えばって他にもあるでしょう!明らかに私たちを笑わせようとしていたわね?悪い人!」
放課後、メグの家に集まりサロンでお茶を飲みながらキャリーの一挙一動を掘り返し、皆で大笑いしていた。
「本当に可笑しかったわ。あんなに笑いを堪えたの、生まれて初めてよ!」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら言うと皆「ええ」「本当に」と思い思いの返事をする。
ああ、楽しいけれどもそろそろ本題にいかなければね。
「さあて、では本題に入りましょうか。」
私は神妙な顔を作って畏まった声を出す。
するとふたりも笑い顔を引っ込めた。
「作戦通りお兄様とキャリーとの顔合わせを潰したいのだけれど、良い案はないかしらね。」
「顔合わせは学園がお休みの日になるのでしょう?でしたらディテイブ侯爵令息主催の勉強会があるのでは?それを理由にすればいいのではないかしら。」
「ディテイブ侯爵令息の勉強会に参加することは今や名誉なこととされているものね。その事を理由にお断りしても全く不自然ではないわ。」
「そう。ならばその理由で、嘘のお断りの手紙をいつものようにウォルターに書かせてお兄様の名前でキャリーに渡すわ。フフ、これでキャリーのお茶会すっぽかしは決定ね!」
ひと段落ついたとばかりにお茶を一口飲んだ。そこでああと思い当たる。
「でもすっぽかしの抗議をキャリーの滞在先に送られては少し困るわね。どうしたものかしら。」
そう漏らすと、皆うう~んと唸って黙り込む。
するとおもむろにメグが声を上げた。
「そうよ、あなたがキャンセルの理由を知っているって事にして両親を宥めたら良いのよ。キャンセルだなんて冗談だと思っていたから言わなかったの、なんて言って。」
「ねえ、その顔合わせの日にちに見覚えがあると思っていたのだけれど、ベルラトール伯爵令息主催のクラス親睦パーティーの日と重なるわ。」
メグの案にエイミーが続けた。
あら、タイミングがいいわね。
「ではキャリーは顔合わせをすっぽかして、人気者のベルラトール伯爵令息のパーティに来てたってことにしようかしら!」
「招待されてもいないのに勝手に行っていたってのは、どう?」
メグがくすくす笑いながら提案する。
「いいわね!きっとお父様もお母様もお兄様も皆呆れてキャリーとの婚約に疑問を持つはずよ!」
私も笑いながら同意する。
「お茶会すっぽかしの次の日の朝は高等部に行かない様に、それもウォルターに手紙を書かせるわ!正義感の強いお兄様ならキャリーに文句の一つも言いそうだもの。そこから色々疑いを持たれてしまったら計画は台無しだものね。」
「うまく行くかしら?」
「行かせてみせるわ。あんな田舎貴族がお兄様の婚約者だなんてあり得ないもの。」
「本当に……アラン様なら王族との結婚も夢ではないものねえ……。」
「よりにもよって……」
「そうよ。だから皆しばらくは協力して頂戴。そして最初からの計画通り、長期休暇の前にはキャリーに王都から出て行ってもらいましょう!」
私がそう言って見回すと皆しっかりと頷いた。
ちなみに顔合わせをすっぽかす計画は、半分成功、半分失敗。
顔合わせがなくなってしまった事への手紙をキャリーが送っていたのだ。
そのお陰で両親はキャンセルになったことを知ってしまったから失敗。
でもお兄様に来ているキャリーの手紙は全部私の手元に来るようになっているおかげで、お兄様はすっぽかされたと思っている。
だから半分成功っていうことでいいわ。
キャリーの手紙なんて目を通さずに捨てているから、しくじったわ。
でもいいのよ。
メインはお兄様なんだから。
まだまだ計画続行。
ちゃんと一学期の終わりのパーティで婚約破棄を突きつけるまで持って行ってやるわ。
本当にキャリーは、面白い駒!
「キャロライン=ガンボールです。よろしくお願いします。」
嘲笑をたたえた口元を扇で隠しながらメグとエイミーとでキャリーを取り囲む。
鈍臭い自己紹介だこと
王都から離れた田舎貴族の令嬢、キャリー。
土の匂いでもして来そうな野暮ったい身なり。
持ち物も何もかも目を背けたくなるようなセンス。
品性のかけらもない。
ここにいる誰もが彼女より優れているのは一目瞭然。
田舎貴族が馬鹿にされている理由を皆はっきり理解した瞬間と言ってもいいんじゃないかしら?
「あら、素敵な髪飾りですわ!どこで買われたのかしら?ぜひお店を教えていただきたいわ!」
メグが言うと、私達は一斉に肩を振るわせ、扇を口元から目元まで上げる。
でもその扇すらプルプル震えてしまった。
(やめなさいよ!)
言いたいけれども、ダメ。
今口を開けばきっと吹き出してしまうわ。
彼女のつけている髪飾りは明らかな流行遅れ。
3、4年ほど前に王都で流行っていたデザイン。
「あ……ありがとうございます。父親が王都に行くならと選別に行商から買ってくださったのです。」
最近買ったの?!
顔を赤らめ、嬉しそうに言うキャリーを前に、質問した張本人のメグですら扇で顔を全部隠した。
ちょっと……私横にいるから丸見えよ?
爆笑してるんじゃないわよ!
でも私も人の事は言えないわ。
顔が隠れるほど扇を上げるけれど、笑いを堪えているせいで扇どころか体ごと震えている。
だって王都に来る前にわざわざ時代遅れのアクセサリーを購入したなんて!
ダメよ。
もうフォローなんてできない。
あなた、なんとかしなさいよ!
そう言う意味を込めてエイミーをこっそり突っついた。
「まあ、素敵なお父様ですこと!私の父親はなかなかそんな気がきくお方じゃありませんことよ。」
私に突っつかれて大袈裟に褒め出したエイミー。
冷静を取り戻した彼女を見ていたら私も笑いが収まってきたわ……。
「え……そんな……」
顔を赤らめ、モジモジとなんて返していいのかわからない様子。
もう、返事がいちいち鈍臭いわね。
ふう。
完全に一息ついた私は笑っていた事を誤魔化すように「キャロライン様……なんだか顔色が……?」そう言ってわざとらしく顔を覗き込んでみる。
「い、いえ……少し緊張してしまって……。」
「まあ!私たち同じ年ですのよ!キャロライン様も今日から私たちのお友達ですわ!どうか緊張なんてしないでくださいませ!」
善人そうな笑顔を浮かべて言ってやる。
さあ、なんて返すのかしら?
「そ、そうは言われましても、私みたいな地方貴族……セレーナ様達のような洗練されたご令嬢とお話しするのは少し緊張します。」
まあ!よくわかっているじゃないの!!
我慢できず声をあげて笑ってしまう。
そうよ!
そういう身の程をわきまえている発言が聞きたいの!
手を叩いて笑い出したくなる気持ちを仕切り直すように咳払いを小さくすると、私は敬語をやめるようにキャリーに促した。
そんな、と言いながら戸惑うキャリーを見ていると、どうしても優位の笑みを隠しきれない。
それでもなんとか気安い物言いを絞り出しているキャリーに「そうそうその調子!」とメグが声をかけるものだからまた吹き出しそうになった。
犬の躾じゃないんだから!
私達はキャリーに気付かれないように目と目で合図を送り合う。
ふふ
皆目が輝いているわ。
きっと同じ気持ちよね。
これからしばらくは楽しめそう、ってね。
「あなた、そうそうその調子って犬じゃないんだから。」
「ではどう言えばいいというの?皆笑っていたでしょう?」
「どう言えばって他にもあるでしょう!明らかに私たちを笑わせようとしていたわね?悪い人!」
放課後、メグの家に集まりサロンでお茶を飲みながらキャリーの一挙一動を掘り返し、皆で大笑いしていた。
「本当に可笑しかったわ。あんなに笑いを堪えたの、生まれて初めてよ!」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら言うと皆「ええ」「本当に」と思い思いの返事をする。
ああ、楽しいけれどもそろそろ本題にいかなければね。
「さあて、では本題に入りましょうか。」
私は神妙な顔を作って畏まった声を出す。
するとふたりも笑い顔を引っ込めた。
「作戦通りお兄様とキャリーとの顔合わせを潰したいのだけれど、良い案はないかしらね。」
「顔合わせは学園がお休みの日になるのでしょう?でしたらディテイブ侯爵令息主催の勉強会があるのでは?それを理由にすればいいのではないかしら。」
「ディテイブ侯爵令息の勉強会に参加することは今や名誉なこととされているものね。その事を理由にお断りしても全く不自然ではないわ。」
「そう。ならばその理由で、嘘のお断りの手紙をいつものようにウォルターに書かせてお兄様の名前でキャリーに渡すわ。フフ、これでキャリーのお茶会すっぽかしは決定ね!」
ひと段落ついたとばかりにお茶を一口飲んだ。そこでああと思い当たる。
「でもすっぽかしの抗議をキャリーの滞在先に送られては少し困るわね。どうしたものかしら。」
そう漏らすと、皆うう~んと唸って黙り込む。
するとおもむろにメグが声を上げた。
「そうよ、あなたがキャンセルの理由を知っているって事にして両親を宥めたら良いのよ。キャンセルだなんて冗談だと思っていたから言わなかったの、なんて言って。」
「ねえ、その顔合わせの日にちに見覚えがあると思っていたのだけれど、ベルラトール伯爵令息主催のクラス親睦パーティーの日と重なるわ。」
メグの案にエイミーが続けた。
あら、タイミングがいいわね。
「ではキャリーは顔合わせをすっぽかして、人気者のベルラトール伯爵令息のパーティに来てたってことにしようかしら!」
「招待されてもいないのに勝手に行っていたってのは、どう?」
メグがくすくす笑いながら提案する。
「いいわね!きっとお父様もお母様もお兄様も皆呆れてキャリーとの婚約に疑問を持つはずよ!」
私も笑いながら同意する。
「お茶会すっぽかしの次の日の朝は高等部に行かない様に、それもウォルターに手紙を書かせるわ!正義感の強いお兄様ならキャリーに文句の一つも言いそうだもの。そこから色々疑いを持たれてしまったら計画は台無しだものね。」
「うまく行くかしら?」
「行かせてみせるわ。あんな田舎貴族がお兄様の婚約者だなんてあり得ないもの。」
「本当に……アラン様なら王族との結婚も夢ではないものねえ……。」
「よりにもよって……」
「そうよ。だから皆しばらくは協力して頂戴。そして最初からの計画通り、長期休暇の前にはキャリーに王都から出て行ってもらいましょう!」
私がそう言って見回すと皆しっかりと頷いた。
ちなみに顔合わせをすっぽかす計画は、半分成功、半分失敗。
顔合わせがなくなってしまった事への手紙をキャリーが送っていたのだ。
そのお陰で両親はキャンセルになったことを知ってしまったから失敗。
でもお兄様に来ているキャリーの手紙は全部私の手元に来るようになっているおかげで、お兄様はすっぽかされたと思っている。
だから半分成功っていうことでいいわ。
キャリーの手紙なんて目を通さずに捨てているから、しくじったわ。
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