18 / 54
セレーナの計画は順調
しおりを挟む
「あのメイク!!私だったら人前を歩けないわ!」
「丸い鼻が羨ましいわって言っていたのは誰よ!吹き出しそうになったわ!」
「エイミーよ!嘘でもよく言うわね、あんな団子鼻!」
「照れていたキャリーの顔ったら!あれって本気にしていたのかしら?!」
「あそこまで言えばいくらキャリーといえど馬鹿にされていると気付くかと思ったのに、大喜びだったわ!」
皆揃ってドッと大笑いする。
「ああ、本当におかしいわ。どうしてあんな滑稽なのかしら。何を言ってもヘラヘラ笑って。こちらが苛立つ時もあるくらいよ。」
「家でも家族に鈍臭いと馬鹿にされると手紙に書いてあったわ。」
「そりゃあそうよ!私だって自分の家族にキャリーみたいな子がいたらきっと無視してしまうわ!情けなくって。」
「邪険にされているのね。きっと身を寄せているエイレン侯爵家でもそうなのでは?」
「きっとそうよ。田舎貴族なんて中央貴族が相手にするわけないもの。」
くすくすと笑いながら語り合う。
「さあ、ウォルターにまた手紙を書いてもらうわ。悪役令嬢のようなキャリーにグッときた、なんてね。後は……お兄様の塩対応を誤魔化さなくては。」
「それは、高位貴族が悪役令嬢が好きだなんて言えば馬鹿にされるから大っぴらには歓迎できないって言えばいいのよ。実際そうじゃないの!」
「でも本当は嬉しいから毎日そうしてほしい、なんてね。」
「そうね!それはいいわね!」
そこでまた堪え切れず笑い合う。
計画は着実に進んでいるわ。
なんだかごめんなさいねえ、キャリー。
でもいつまでもお兄様の婚約者に居座る厚顔無恥なあなたが悪いのよ?
それからも毎朝キャリーは下品なメイクに馬鹿な喋り方でお兄様のもとに通い続け、その姿はすっかり学園でも有名になり、順調に評判を落としていた。
そんなある日、いつもの様にメグの家でエイミーと3人でお茶をしていると遠慮がちにメグが聞いてきた。
「ねえ。実際のところアラン様の方はキャリーに対してどうお思いなのかしら?」
問いかけに私は顎を上げる。
「それも上々よ。借りたアクセサリーを返さないって話はまあまあの反応ってところかしら。それより授業に出ていないって話の方が嫌悪感がある様だったわ。」
「アクセサリーは作り話だけれども、授業に出ていないのは本当だものね。それで嫌悪感を持たれるのなら本当にお二人は合わないと言うことよね。」
呆れたような声を出しながらも、嬉しさが滲み出ているメグ。
「それにしても、キャリーはずっと授業に出ていないわよね。学園はモリス侯爵家のご好意で通わせてもらっているのでしょう?不義理を堂々とやってのけるなんて、あんな真面目そうな顔をしてやる事は大胆よねえ。」
エイミーが感心したように言う。
それは確かにそうなのよ。
化粧を落としていると一時間目は必ず遅刻する。
どんな顔をして授業に遅れてくるのか楽しみだった私達は結局戻ってこなかったキャリーに拍子抜けだった。
キャリーは驚くほど授業に出ていない。
珍しく出てきた時なんかは先生に当てられ、でも問題の意味がわからなかったのか、
訳のわからない答えを言って、先生に詰められていた。
ま、それはそれでお兄様に告げ口をしたけれど。
案の定嫌悪感たっぷりの顔でその話を聞いていたわ。
まあ、こちらとしては良い状況だから放置で良しとするわ。
本当の事だから噂も回りやすくていいのよ。
お兄様に憧れているご令嬢達の妬みがいい燃料になって、少しきっかけを作っただけでキャリーの不真面目さは知れ渡った。
「先生に詰められた時もケロッとしていたわね。」
呆れたようにメグが言う。
「鈍いと言っても程があるわ。」
その言葉を聞いて私はニヤリと笑う。
「では、そろそろだらしない笑い顔以外の顔も見てみたいと思わない?」
「どういうこと?」
意味あり気に言えば、期待を込めた目がこちらを向く。
「ウフフ、お兄様には好き合っている恋人がいた……。面白いと思わない?」
2人は目を輝かせた。
「まあ!それは!ようやく面白い顔が見る事ができそうね!何か良い案でもあるのかしら!」
「前にお兄様がキャリーに誕生日の贈り物をしているの。でも全てウォルターに任せていたから、ね。領収書を回さなければ送っていないことを勘付かれてしまうし、私が選んで購入したのよ。お兄様の瞳の色、ブルーサファイアの髪飾りをね。もちろん私の手元にあるのよ。それをあなたがつけなさい。メグ。」
「私?!」
お兄様に憧れているメグは信じられないという風に目を見開くも、喜びが隠しきれない様子。
「そんなっ私がアラン様の色を身につけるなんて……ッ!」
そう言いながら赤らめた頬を隠すように両手で抑える。
「そうそう。その恥じらいがいいのよ!真実味があるわ。良い時期にさりげなく匂わせましょう。ふたりはキャリーのせいで引き裂かれた恋人同士だとね!」
「フフどんな顔をするのかしら。その時は頼んだわよ、メグ!」
私とエイミーが微笑むと、はにかみながらメグは頷いた。
ああ可笑しいったらないわ!
笑いが止まらない。
メグがお兄様の恋人だと教えた時のキャリーの顔ったら!!
名演技をした後の私達はしばらく笑い続けた。
ようやくヘラヘラした顔以外を拝めたわ!
予想以上に傷ついてくれたようで、それでも微笑もうとして凄い顔になっちゃって!
ああ、本当に可笑しい。
どうしてあんなにも惨めな姿が似合うのかしら!!
でもそろそろお遊びもお仕舞いね。
学期末のパーティーが近付いてきた。
さて計画はとても単純。
公衆の面前でキャリーに婚約破棄を突きつけるというもの。
でもそれだとこちらにリスクがある。
だから主催の生徒会に婚約破棄の断罪劇として催し物の申請をだす。
これで周りには『断罪劇の催し』として言い訳が立つ。
もしお父様やキャリー側から咎められてもあくまで学園非公式パーティーでの催しだと言い張ればいい。
それでもメグをお兄様に寄り添わせると、鈍臭いキャリーでも気付くだろう。
催しではなく本気だと。
モリス侯爵の好意で学園に通いながら授業に出ていないことや、
ブロンドのウィッグをかぶり、奇想天外な格好で高等部に足を運んでいること。
人のアクセサリーを欲しがる事やメグへの嫌がらせなんかを罪として言い渡せば、あの間抜けなキャリーは何も言えずに泣き出すだろう。
「そんな事していない。」
「あなた達の言う通りにしただけ」
もしそんな風に言われてもと私達は否定すればいい。
田舎貴族ひとりが喚いたところで証拠なんてないのだから。
キャリーにはお兄様からの偽の手紙は処分するようにあらかじめ言ってある。
悪役令嬢のような女性を好ましいと言っている手紙など残さないでほしい、なんて尤もらしい事言ってね。
お兄様も私の話を信じ込んでいる。
メグとエイミーとの口裏合わせも完璧。
『パーティーの催し』という名のもと、キャリーが侯爵夫人に相応しくないという事を学園中に知らしめることができたら、婚約を破棄しても皆納得といえる。
私たちに瑕疵などつかないはず。
そしてその事を両家が知れば、きっとキャリー有責で婚約破棄できるわ。
ああ、最高の気分よ!
下地は完璧。
パーティーで断罪劇、必ず上手くいくわ!
さあ、その時。
どんな顔を見せてくれるのかしら?
悔しがる顔をみせてくれるの?
それとも泣いちゃう?
どれでもいいわ!
長期休暇前にはもうさようなら。
とっとと王都からいなくなって頂戴ね!!
「丸い鼻が羨ましいわって言っていたのは誰よ!吹き出しそうになったわ!」
「エイミーよ!嘘でもよく言うわね、あんな団子鼻!」
「照れていたキャリーの顔ったら!あれって本気にしていたのかしら?!」
「あそこまで言えばいくらキャリーといえど馬鹿にされていると気付くかと思ったのに、大喜びだったわ!」
皆揃ってドッと大笑いする。
「ああ、本当におかしいわ。どうしてあんな滑稽なのかしら。何を言ってもヘラヘラ笑って。こちらが苛立つ時もあるくらいよ。」
「家でも家族に鈍臭いと馬鹿にされると手紙に書いてあったわ。」
「そりゃあそうよ!私だって自分の家族にキャリーみたいな子がいたらきっと無視してしまうわ!情けなくって。」
「邪険にされているのね。きっと身を寄せているエイレン侯爵家でもそうなのでは?」
「きっとそうよ。田舎貴族なんて中央貴族が相手にするわけないもの。」
くすくすと笑いながら語り合う。
「さあ、ウォルターにまた手紙を書いてもらうわ。悪役令嬢のようなキャリーにグッときた、なんてね。後は……お兄様の塩対応を誤魔化さなくては。」
「それは、高位貴族が悪役令嬢が好きだなんて言えば馬鹿にされるから大っぴらには歓迎できないって言えばいいのよ。実際そうじゃないの!」
「でも本当は嬉しいから毎日そうしてほしい、なんてね。」
「そうね!それはいいわね!」
そこでまた堪え切れず笑い合う。
計画は着実に進んでいるわ。
なんだかごめんなさいねえ、キャリー。
でもいつまでもお兄様の婚約者に居座る厚顔無恥なあなたが悪いのよ?
それからも毎朝キャリーは下品なメイクに馬鹿な喋り方でお兄様のもとに通い続け、その姿はすっかり学園でも有名になり、順調に評判を落としていた。
そんなある日、いつもの様にメグの家でエイミーと3人でお茶をしていると遠慮がちにメグが聞いてきた。
「ねえ。実際のところアラン様の方はキャリーに対してどうお思いなのかしら?」
問いかけに私は顎を上げる。
「それも上々よ。借りたアクセサリーを返さないって話はまあまあの反応ってところかしら。それより授業に出ていないって話の方が嫌悪感がある様だったわ。」
「アクセサリーは作り話だけれども、授業に出ていないのは本当だものね。それで嫌悪感を持たれるのなら本当にお二人は合わないと言うことよね。」
呆れたような声を出しながらも、嬉しさが滲み出ているメグ。
「それにしても、キャリーはずっと授業に出ていないわよね。学園はモリス侯爵家のご好意で通わせてもらっているのでしょう?不義理を堂々とやってのけるなんて、あんな真面目そうな顔をしてやる事は大胆よねえ。」
エイミーが感心したように言う。
それは確かにそうなのよ。
化粧を落としていると一時間目は必ず遅刻する。
どんな顔をして授業に遅れてくるのか楽しみだった私達は結局戻ってこなかったキャリーに拍子抜けだった。
キャリーは驚くほど授業に出ていない。
珍しく出てきた時なんかは先生に当てられ、でも問題の意味がわからなかったのか、
訳のわからない答えを言って、先生に詰められていた。
ま、それはそれでお兄様に告げ口をしたけれど。
案の定嫌悪感たっぷりの顔でその話を聞いていたわ。
まあ、こちらとしては良い状況だから放置で良しとするわ。
本当の事だから噂も回りやすくていいのよ。
お兄様に憧れているご令嬢達の妬みがいい燃料になって、少しきっかけを作っただけでキャリーの不真面目さは知れ渡った。
「先生に詰められた時もケロッとしていたわね。」
呆れたようにメグが言う。
「鈍いと言っても程があるわ。」
その言葉を聞いて私はニヤリと笑う。
「では、そろそろだらしない笑い顔以外の顔も見てみたいと思わない?」
「どういうこと?」
意味あり気に言えば、期待を込めた目がこちらを向く。
「ウフフ、お兄様には好き合っている恋人がいた……。面白いと思わない?」
2人は目を輝かせた。
「まあ!それは!ようやく面白い顔が見る事ができそうね!何か良い案でもあるのかしら!」
「前にお兄様がキャリーに誕生日の贈り物をしているの。でも全てウォルターに任せていたから、ね。領収書を回さなければ送っていないことを勘付かれてしまうし、私が選んで購入したのよ。お兄様の瞳の色、ブルーサファイアの髪飾りをね。もちろん私の手元にあるのよ。それをあなたがつけなさい。メグ。」
「私?!」
お兄様に憧れているメグは信じられないという風に目を見開くも、喜びが隠しきれない様子。
「そんなっ私がアラン様の色を身につけるなんて……ッ!」
そう言いながら赤らめた頬を隠すように両手で抑える。
「そうそう。その恥じらいがいいのよ!真実味があるわ。良い時期にさりげなく匂わせましょう。ふたりはキャリーのせいで引き裂かれた恋人同士だとね!」
「フフどんな顔をするのかしら。その時は頼んだわよ、メグ!」
私とエイミーが微笑むと、はにかみながらメグは頷いた。
ああ可笑しいったらないわ!
笑いが止まらない。
メグがお兄様の恋人だと教えた時のキャリーの顔ったら!!
名演技をした後の私達はしばらく笑い続けた。
ようやくヘラヘラした顔以外を拝めたわ!
予想以上に傷ついてくれたようで、それでも微笑もうとして凄い顔になっちゃって!
ああ、本当に可笑しい。
どうしてあんなにも惨めな姿が似合うのかしら!!
でもそろそろお遊びもお仕舞いね。
学期末のパーティーが近付いてきた。
さて計画はとても単純。
公衆の面前でキャリーに婚約破棄を突きつけるというもの。
でもそれだとこちらにリスクがある。
だから主催の生徒会に婚約破棄の断罪劇として催し物の申請をだす。
これで周りには『断罪劇の催し』として言い訳が立つ。
もしお父様やキャリー側から咎められてもあくまで学園非公式パーティーでの催しだと言い張ればいい。
それでもメグをお兄様に寄り添わせると、鈍臭いキャリーでも気付くだろう。
催しではなく本気だと。
モリス侯爵の好意で学園に通いながら授業に出ていないことや、
ブロンドのウィッグをかぶり、奇想天外な格好で高等部に足を運んでいること。
人のアクセサリーを欲しがる事やメグへの嫌がらせなんかを罪として言い渡せば、あの間抜けなキャリーは何も言えずに泣き出すだろう。
「そんな事していない。」
「あなた達の言う通りにしただけ」
もしそんな風に言われてもと私達は否定すればいい。
田舎貴族ひとりが喚いたところで証拠なんてないのだから。
キャリーにはお兄様からの偽の手紙は処分するようにあらかじめ言ってある。
悪役令嬢のような女性を好ましいと言っている手紙など残さないでほしい、なんて尤もらしい事言ってね。
お兄様も私の話を信じ込んでいる。
メグとエイミーとの口裏合わせも完璧。
『パーティーの催し』という名のもと、キャリーが侯爵夫人に相応しくないという事を学園中に知らしめることができたら、婚約を破棄しても皆納得といえる。
私たちに瑕疵などつかないはず。
そしてその事を両家が知れば、きっとキャリー有責で婚約破棄できるわ。
ああ、最高の気分よ!
下地は完璧。
パーティーで断罪劇、必ず上手くいくわ!
さあ、その時。
どんな顔を見せてくれるのかしら?
悔しがる顔をみせてくれるの?
それとも泣いちゃう?
どれでもいいわ!
長期休暇前にはもうさようなら。
とっとと王都からいなくなって頂戴ね!!
646
あなたにおすすめの小説
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
婚約者を借りパクされました
朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。
わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。
兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。
わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。
家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。
そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。
裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。
たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。
次の人生では幸せになりたい。
前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!!
自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。
そして元彼のことも。
現代と夢の中の前世の話が進行していきます。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる