悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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アランは小リス令嬢に出会う

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あのお茶会キャンセルからこっち、ハーフナー伯爵令嬢の突撃は無くなったと思ったのも束の間。
たったの3日で突撃は復活した。
すっかり文句を言う気力もなくなった俺はキンキン声を受け入れるしかなかった。

それどころか彼女はまたランチを一緒に食べないかと誘って来たのだ。

再度断ったが、それでも約束をすっぽかしておいて平然とまた誘える図々しさに驚くしかない。
こうなると昼に強引に来るんじゃないかと気が気じゃなかった。

そこで俺はふと小リス令嬢の話を思い出した。
誰も近付かない職員棟裏の畑。
確か小リス令嬢が現れるのは放課後だったはずだ。
ならばそれまでは畑には誰も来ないのでは?
もし先生がいたら頼んでお昼くらい食べさせて貰えばいい。

俺は昼休みになれば畑に行き、1人お昼を食べる事にした。

誰も来ないここはなかなか快適で、どうせ誰も来るはずがないと畑の脇にあるベンチでのんびりしていた。

すると唐突に棟の方からガチャガチャと音がした。

吃驚して素早く音の鳴る方へ目を向けると職員棟の裏口が開きバケツを持った人物が現れた。
その人物は俺に気付く様子もなくバケツの水をチャポチャポと音させながら畑へと歩をすすめる。
向こうもまた誰もいるはずがないとたかを括っているのだろう。

思わず息を呑んでその動きを見守ってしまう。

小さな体で水いっぱいのバケツを懸命に運ぶブルネットの髪の少女。
小柄なせいかとても健気に映る。

あれは多分

いや、きっと間違いない。

あれが噂の

小リス令嬢だ。


放課後に出没するという話ではなかったのか。

そう思っていると、小リス令嬢はふとこちらを見た。

思わず体が凍りつく。

あちらも俺の姿を認めたらしく、目も口も大きく開かれたかと思うと、飛び上がらんばかりに体を震わせ、音を立ててバケツを落とすと、あっという間に研究棟の扉の中に戻ってしまった。

あまりにも一瞬の出来事に、俺はポカンと呆気に取られしばらく閉じられた扉を見つめていた。

それが予想外の俺と小リス令嬢との出会いだった。






俺は次の日も昼休みは畑に向かった。
作業の邪魔をしてしまったかと申し訳ない気持ちもあれど、正直ここ以外に人気の無いところが思いつかず、今日はもういないだろうと楽観的な気持ちからまた訪れていた。

しかし予想に反して、また研究棟の扉から小リス令嬢が顔を出した。

しまった、と思う。

流石に2日連続は気まずい。
謝って事情を説明するか?

そう思って声をかけようとしたが、俺の姿を見るとピャッと顔を引っ込めてしまった。
思わず小リス令嬢に向かって伸ばした手は行き場を失い、そのまま頭を掻いた。

するとまたぴょこんと小リス令嬢が扉から姿を現す。
あ、と思う間もなく小リス令嬢はこちらに向かってペコリとお辞儀をすると、また素早く扉に戻って行った。


何だ?

今のは。


思わずプッと吹き出してしまった。
あちらも2回連続逃げたのは気まずかったのか?

成程、彼女からは中央の令嬢にはない素朴さと素直さがありありと伝わってくる。

確かにあの勢いで逃げられたら追いかけたくもなるな。

(小リス令嬢か。上手いこと言う。)

くすくすと笑いながら昼ご飯の続きを食べた。





また次の日。

おそるおそると言うように扉が開くと小リス令嬢が顔をだす。
俺を見るとビクリと体を跳ねさせた。

そんな彼女に、ふとイタズラ心が芽生えた。

すかさず俺は手をあげる。

「やあ!こちらでランチを一緒に食べないか?」

すると今までで一番大きく飛び上がると慌てふためいた様に扉に戻って行った。

「ぶっ!フハッ!!」

予想以上の反応に笑いが堪えられない。

小リスのようにこちらに怯え、でも立ち向かう様に再度出てくるとお辞儀をした彼女。
そんな様子についつい揶揄いたくなってしまったのだ。

昼の作業の邪魔をした上に揶揄って悪い事をしたか。
だがもし話せるならきちんとお昼にベンチを利用する許可をもらいたいものだ。
そう考えながら体をビクつかせて驚いた彼女の姿を思い出すと、つい口元が緩んでいた。


そうしてまた次の日。
扉から顔を出した小リス令嬢の手にはサンドウィッチの入ったバスケットが握られており、またしても予想外の反応に今度は俺が驚かされたのだった。









「なんだか最近ハーフナー伯爵令嬢の扱いも上手くなってきたか?」

いつもの朝の突撃を適当にいなして教室に入るとニコラスに言われる。

「そうか?」

そう言われてじっと考える。

「ハーフナー伯爵令嬢ほど過激ではないにしろ、お前に突撃してくる令嬢っていうのはたまに現れるじゃないか。いつもお前は不機嫌をあまり隠さない塩対応だったが、まあそれがアランだとはいえ、適当にいなせばいいのにといつも思っていたよ。心境の変化でもあったのか?」

心境の変化か。

口下手ゆえに人と関わるとどうしても肩に力が入ってしまう。
秋波を送ってくる様な令嬢相手だと特にだ。
それが不機嫌や塩対応と言われれば仕方がないと思っていた。


しかし小リス令嬢には自分から話しかけていたな。


バスケットを持って現れた小リス令嬢。
あの日俺は慌ててベンチの横を空けた。
横並びでランチをしていると、小リス令嬢も物静かな令嬢だとわかった。
俺が誘ったのだと思い、何とか話題を絞り出し話しかける。
令嬢が好きそうな話題で思い浮かんだのがハーフナー伯爵令嬢。
彼女が話していた事を思い出す。

「王城の近くにある人気のスイーツ店、君は行ったことがあるのか?」

そう話を振ると、はにかみながら自分なりに答えてくれる。
ぽつりぽつりと交わされる会話。

なぜか心地がいい。


その日からランチは小リス令嬢と畑のベンチで食べるというのが恒例になった。

毎日のハーフナー伯爵令嬢の話にも耳を傾ける。
彼女の朝の突撃はランチの話のネタになるような話題をふってくれる、もはやありがたい時間となっていた。



「そうだな。お昼がゆっくり食べることができているからかもな。」

呟く様に言うと、ニコラスがああという顔で問うて来た。

「そういえばお昼は今どこで食べているんだ?人目のないところなど見つけるのが大変だろう?」

「この間話していたろう。生徒は誰も寄り付かない畑。あそこのベンチで食べているんだ。」

するとニコラスが目を輝かせる。

「お!!お前も小リス令嬢に興味が出たのか?!どうだ?小リスは現れたか?!」

「いいや。誰も来ないから通っているだけだ。そもそも小リス令嬢が現れるのは放課後だろう?」

「それもそうか。いやー令息達のチャレンジは続いているらしいが未だ誰も言葉を交わす事すら成し遂げていない。俺もできれば会ってみたいね!学園の令息達を惑わす小リス令嬢。まあ放課後は俺は生徒会だから無理だけどさ。」

そう笑うニコラスを見ながら俺は全く違う事を考えていた。
思わず口元に手をやる。


何故俺は今誤魔化した?


別に言えばよかったじゃないか。

ニコラスだって会いたがっている。
ならば許可を取りニコラスも一緒にランチに行けばいいじゃないか。

でも何故だか言えなかった。
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