悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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アランと試験期間

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「次回のテーマは、我が国における災害とスラム街だ。」

「おや、もう次のテーマが決まったのか?」


集まりは不定期ではあるものの何となく月に2回と言うのが定番になりつつある。
そして先日あったばかりだ。
大抵その場で次のテーマが決まることが多いが、前回は決まらなかった。
どうなるのかと思っていたが。

「ああ、アイツにこのテーマはどうかと言われたんだ。なあ?フレデリック!」

一際大きな声で名前を呼ぶと、近くいた男が振り返る。
彼は伯爵令息のフレデリックだ。
名前を呼ばれたは「俺の話か?」と愉快そうに近付いてきた。

「ああ、そうだ。次のテーマは君の言っていたテーマで決まりそうだってね。」

「本当かい?嬉しいなあ!スラム街については皆の意見が聞いてみたかったんだ!」

フレデリックはニコラスの言葉を受けてパッと顔を明るくさせると素直な気持ちを口にした。

「興味深いテーマだけれども、どうして思いついたんだ?」

普通貴族ならまず近付かない地域だ。
率直な疑問を聞いた。
王都だから管轄は王家になるのだが、実態はどうなっているのか。
治安は決して良くはないが、恐ろしく悪いと言うわけでもないとは聞く。

俺が聞くと彼は少し瞳を暗くさせる。

「もちろん俺は行ったことなかった。しかし俺の家が王都で店をやることになったんだ。父が店舗を探しに行くと言うので付き合ったんだよ。効率よく回るために普段は避けている貧民街と呼ばれる地域の近くを通ることになったんだ。孤児は一目でそれとわかるほどのボロボロの服を着ているものだ。まさにそういう子供がいたんだよ。想定より多くのね。思わず声が出たよ。もちろん福祉の手からこぼれ落ちていく子はいるだろうが、俺は多くの孤児は孤児院にいると思っていたからね。」

「違うのか?」

「最近の集まりでは治水の話で盛り上がることが多かったらしいね。その背景には少し前の豪雨の被害があった。それで皆治水に興味を持っていた。そうだよね?」

俺は頷いた。
未だ復興の目処が立たぬ領も多いと聞く。
うちが被害が大きくとも早々に復興できたのは、ハーフナー伯爵家のおかげだ。

「一言で言えばそれで一気に孤児が増えたんだってさ。孤児院が追いつかないほどにね。馬車はそこを走り抜けたよ。隙を見せたら孤児の物乞いに囲まれると言ってね。」

そう言うとその時のことを思い出しているのか、考え事をする様な顔になった。

「はからずも実態を知ったと言うわけか。確かに俺も知らなかった、孤児が溢れているなど。しかし考えてみれば当然だ。あれ程の大災害だったのだから。では王都の福祉に問題があると?」

俺がそう問うと、少し驚いたようにフレデリックはこちらを見た。

「本当、君は存外おしゃべりだったんだね!前回初めて集まりに顔を出したが君が舌戦を繰り広げている光景には度肝を抜かれたんだよ!いやぁ興味深い!」

思っていた答えと違う事が返ってくる。
何と答えていいものかわからず黙るとニコラスが口を挟んだ。

「そうだろう?アランはよく物を見ている。だが余計な話はしない。それがクール王子だ。油断していたらすぐお前の知識など超えてくるぞ!」

茶化すように言い二人おかしそうに笑った。

「確かに前回の集まりでは意見ひとつひとつに舌を巻いたよ。すっかりクール王子のイメージがかわったね。俺も次の集まりまでにはしっかり勉強しなくては君に食われそうだ!」

そう笑いながらフレデリックは自分の仲間の中に戻って行った。

「俺は一体皆に何と思われているんだ。」

ボソっと呟く。

「モテると言うのに婚約者にすら塩対応の堅物。じゃないか?」

そう揶揄う様に言うとニコラスは笑った。

彼の笑い声に俺も一緒に笑う。
別にニコラスの冗談が面白かったわけではない。

物言わぬ代わりに物を見ている

ニコラスが言ってくれた言葉を噛み締める。

自分は口下手だと縮こまってあまり人と話さなかった。
その事でクール王子などと言われ居心地も悪かった。

だがニコラスが勉強会のような集まりを企画し、そこに俺を誘ってくれた。

いつも侯爵家の人間として堂々と振る舞っていたが、すべて虚勢だ。
しかし少しずつ肩の力が抜けてきている。

そう感じた。






「もう来週からは試験週間に入る。君も勉強に集中しなければならないだろう。高等部に来るのは今朝で終わりにしてくれ。」

ハーフナー伯爵令嬢にそう宣言した後若干身構える。

癇癪を起こすか?

「試験前は大事な期間ですわねぇ!アラン様のお邪魔にならないように致しますわぁ!」

しかしハーフナー伯爵令嬢は予想外にあっさり引き下がり帰って行った。

教室に入りニコラスの横に座る。

「いやあ。いつもながらアランの言うことはあっさり聞くんだなあ。こうなると癇癪起こしている姿の方が見たことないくらいだ。」

答える代わりにため息をつく。

「しかし試験が終われば今度こそ正式な顔合わせだろう?実は話せば素直な令嬢なんじゃないか?」

ニコラスの言葉に俺は顔を顰めた。
話すことがもう苦痛だと言うのに。
その俺の顔を見てニコラスはパッと雰囲気を変えた。

「まっ、確かに俺たちも勉強に本腰入れなくてはな。」

これ以上この話をしても仕方がないと思ったのだろう。

そう。明日からはテスト前の週間に入り、その後試験期間となる。
試験はペーパーのものとレポートがある。
そのため明日からは午前で授業は終わる。

すなわちランチはない。

ランチの時間がなければ、リーネと会う理由などないのだ。
そして試験が終われば、生徒会主催のパーティが開かれそして長期休暇に入る。

いわば今日のランチが終われば次リーネに会えるのは長期休暇明けだ。
寂しく思うものの約束など交わせるはずもない。

婚約者でもない男女が二人きりでランチなど、たまたま誰にも見られることのない畑だから続いているだけだ。

余計な事はせず長期休暇が過ぎるのを待って、二学期が始まればまたランチができる。
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