悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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アランと謝罪

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ニコラスの軽蔑の眼差し。
父上の冷たい視線。

エイレン侯爵邸へ謝罪に向かう馬車の中でひとり薄く苦笑いを浮かべた。

一晩経てば嫌でも頭は冷える。

何故あの拙いセレーナの話を盲目的に信じてしまったのか。
今となっては、どう転んでいても失敗していただろうとしか思えない。
ただ処罰の重軽が変わるだけだ。

自覚したばかりの恋情と、自身の婚約が進む焦燥感との均衡が上手く保てなかった。

望み通り婚約は破棄されるだろう。
処罰も厳しいものになるだろう。

ただ学校はどうなるだろうか。

こんな事になっても心を占めるのは、あきれるほどに琥珀の瞳のあの子の事だった。

馬車が止まる。
エイレン侯爵邸に着いたのだ。

ハーフナー伯爵令嬢は今何を思うのだろうか。
断罪劇の間彼女は始終俯いており、あっさり退場する姿はいつものハーフナー伯爵令嬢の印象とは違ったものだった。
ただ、どう思っていようとも誠心誠意謝る事しかできない。
それだけの事をしたのだから。



通された部屋に入ると我が目を疑った。

エイレン次期侯爵夫妻に挟まれて立っている彼女に目が奪われ動けない。

何故リーネがここに?


そこでトウプチ先生が口にした言葉は、到底信じられないものだった。

リーネがハーフナー伯爵令嬢?



「まあとりあえず座ってお話ししましょうか。」

エイレン次期侯爵に勧められるまま、俺、父上、セレーナの順に椅子に座る。


一体何が起きているのか、頭が追いつかない。

向かいの椅子には次期侯爵夫妻が守るように真ん中にリーネがいる。
彼女は俯いたままこちらを見ることもない。


「まずは謝罪をさせていただきたい。今回は愚息共がキャロライン嬢に公衆の面前でとんでもない事をやらかした。言い訳のしようもない。」

父上はそう言うと立ち上がり頭を下げた。ハッと我に返り俺も父上に倣う。

「セレーナ。」

苛立ちを押し殺した様な父上の声にセレーナを見ると、憮然と座ったままだった。

「いいんですよ。気持ちのない謝罪など、何の価値もない。いっそ清々しいではないですか。」

そう言いながら次期侯爵は手を差し出し私達に座る様に促した。

「婚約破棄は受け入れますよ。もちろんね。そこでどういった書面にするのかも含めて、聞きたいことがあるんだけれども、よろしいかな?」

まず、と言いながらツ…とこちらに目を向けた。

「侯爵夫人に相応しくないとはどういう意味だろうか。」

ドクン

心臓が震えるほど強く打った。


『令嬢のアクセサリーを返さなかったり友人に下品な嫌がらせをしたりと品位の欠片もない令嬢なのは事実です。』


昨日父上に呼び出され、苦し紛れの自己弁護に吐いた言葉を思い出す。
父上はその言葉を最初からまったく信じていなかった。

それはそうだろう。

一言でもリーネと言葉を交わした事があれば、彼女がそんな事する令嬢じゃないことは一目瞭然だ。


黙り込んだ俺を暫く見ていた次期侯爵が口を開く。

「侯爵夫人に相応しくないと言ったのは、ただのでまかせって事でいいかな?」

「息子はキャロライン嬢のことをまだよく知らなかったようだ。誤解を生んでしまったらしい。」

父上が口を挟むと次期侯爵は父上に顔を向けた。

「よく知らなかったとは?渋るリーネの父親を説き伏せ婚約を結んだのはモリス侯の方でしょう?交流のために王都の学園に来る様に言ったのもモリス侯だ。こちらは姿絵も釣書も渡してあるし、指示に従いリーネは王都の学園に通っている。その上でよく知らない?知らないのに次期侯爵夫人に相応しくない?そもそもの話、交流する気あったのですか?」

ゾッとするほど冷たい目をこちらに向けたまま、次期侯爵は口の両端を吊り上げた。

「ああ、そういえば顔合わせのお茶会は延期でしたね。登校の迎えにも来ず、ランチにも誘わず、ようやくランチに誘ったと思えば別人と思っていたとは!本当に驚く事ばかりだ。」

「そうね。正しくハーフナー伯爵令嬢と認識していた朝の交流では塩対応で学園では有名でしたよねぇ?アラン様。」

トウプチ先生も次期侯爵に続く。

そして先生の問いに口ごもる俺の代わりに、勢いよく話し出したのはセレーナだった。
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