悪役令嬢はあなたのために

くきの助

文字の大きさ
41 / 54

アランとエイレン次期侯爵夫妻

しおりを挟む
「まあまあ、とりあえず座ってくれたまえよ。」

部屋に通され座ることを促される前に謝罪を口にすれば軽くこう返された。

ロバート=エイレン次期侯爵。
リーネの叔父に当たる。

ニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべているが、心中は読めない。

彼はハーフナー伯爵家の一員でありながら研究にはあまり興味がない。
ただ、ハーフナー子爵家が伯爵に陞爵した立役者は間違いなく彼だ。
彼がいなければ、ハーフナー領の王家御用達はなかっただろう。
そのくらい彼は営業力に長けており、策略家だ。

人の良いハーフナー伯爵に代わりハーフナー領の権利を取りまとめている。

そんな彼が今回の訪問を許してくれたその真意はわからない。

しかし何か裏があっても構わない。
心からの謝罪をハーフナー家にしたいと思っている事を知ってもらえる機会が設けられた。それだけでもいい。

その隣にはトウプチ先生。
扇子で口元を隠しているので表情はわからないが決して穏やかではない表情なのは想像に容易い。

「君の学園での評判は妻から聞いているよ。順調に名誉を回復している様じゃないか。新聞も見たよ。若き彗星たちだっけ?だからかな?急に直接謝罪したいだなんて。」

親しみのある話し方で問いかけられる。

「こんな私に謝罪に行くことすら許されないと思っていました。ですが恥ずかしくない自分になったら、必ず謝罪に行こうと、心に決めておりました。」

「ところで、君の妹のモリス侯爵令嬢は戒律の厳しい修道院に入ったんだってね。元気でやっているの?」

「はい。妹も彼女なりに心から反省し、日々努めている様です。」

「ああ、自分からすすんで戒律の厳しいところに行ったんだってね。君のお父上から聞いたよ。」

そう言うと次期侯爵は紅茶を一口飲み、続ける。

「君のことも聞いているよ。学園に今まで通り通わせる事で自分のやったことと向き合わせるってね。確かに当時の君の評判はガタ落ちだったものねえ。」

カラカラと笑う。

(話しにくい)

罵倒されるのか。それともきつく説教をされるのか。

そんな事を思っていた俺は次期侯爵の態度は正直拍子抜けだった。

それどころか飄々とした話し方にペースを乱される。

「ここまで評判を回復するまでに色々あっただろうね。人が離れて行ったり、そうかと思えばここぞとばかり話しかけてくる連中がいたり。だろう?」

「確かにその通りです。仲の良かった人達の信用をすっかり失い周りから人がいなくなりました。悪い遊びを誘ってくる者もいました。ですがもう会うことが許されていないとはいえ、ハーフナー伯爵令嬢に顔向けできない事はしないと、常に誠実であろうと心がけていました。」

「自分とリーネの名誉の回復をお父上に言われてるのだったね。」

「それができなければ廃嫡と言われています。もちろんハーフナー伯爵令嬢の名誉回復にも努めています。」

パチパチパチパチ

突如湧き上がった拍手にハッとする。

見ると手を叩いているのはトウプチ先生だった。

目が合うと「素晴らしいわ!」と声をあげた。

その言葉をそのまま受け取るほど愚かではない。
意図が読めず黙っているとトウプチ先生が話し出す。

「パーティーの時といい、今といい……」

そこまで言うと言葉を切る。
そしてため息混じりにまた口を開いた。

「あなた本当に茶番が好きなのねえ。」

トウプチ先生は冷ややかに俺を見つめていた。

「ええ、ええ、学園での評判は聞いてますわ。上々のようで。順調に名誉回復されてこのまま行けば廃嫡は免れそうで何よりですわね。」

何と返していいのかわからず固まったままの俺を気にする様子もなく、トウプチ先生は続ける。

「美しいモリス侯爵令嬢は自らの罪を悔い、すすんで戒律の厳しい修道院に入り、兄のあなたは日々どんな中傷にも折れずに学園でたゆまぬ努力をし続け、勉学に励み結果を出し、自分の力で名誉を回復した。美談のように語られる2人の評判はもちろん私の耳にも届いてますわ。素晴らしいですこと。きっとモリス侯爵も鼻が高いでしょう!ピンチをチャンスに変えたとは本当このことね。」

「そのような……」

「リーネを踏み台にした見事なステップアップ、おめでとう。」


自分の息を呑む音が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

貴方が私を嫌う理由

柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。 その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。 カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。 ――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。 幼馴染であり、次期公爵であるクリス。 二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。 長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。 実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。 もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。 クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。 だからリリーは、耐えた。 未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。 しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。 クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。 リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。 ――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。 ――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。 真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

婚約者を借りパクされました

朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。 わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。 兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。 わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。 家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。 そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。

裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。 次の人生では幸せになりたい。 前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!! 自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。 そして元彼のことも。 現代と夢の中の前世の話が進行していきます。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

処理中です...