悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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日々を積み重ねる

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「令嬢がからくり箱を作ってしまうなど、面白い。」

アラン様が私の持っているからくり箱の仕掛けを楽しみながら言った。

「ジョーは建築も大好きで、この間などはハーフナーの家に遊びに来た時、橋の設計図をギブ兄さんに説明されて喜んでいました。まあ、一番楽しそうなのは説明しているギブ兄さんでしたけれどね。」

思い出すと思わずくすくす笑ってしまう。

「この長期休暇中に橋の見学に来たいと言っていましたので、その時はご紹介いたしますね。」

「リーネの友達に会えるなんて楽しみだな。是非。」

アラン様も目を細めた。


あれから橋の建設が始まると、ちょうど学園も夏の長期休暇に入った。
休みを利用して毎日兄達にくっついて私も橋の建設現場まで来るようになった。

そして私達が再会した丘でアラン様とランチをとるようになったのだ。

あの時の畑の様な時間が流れているのが心地良い。

(こういう時間をきちんと積み重ねていれば良かったのかな。)

でも当時はそんな長い目で見る事が出来なかった。

田舎臭い地方貴族の私。
いつも通りの自分が良いなんて思えなかった。
セレーナ様達の言う通りにしておけば安心だった。

夢だと思わなければ婚約と向き合うことも出来なかった。

目の前のアラン様を見つめる。
またこんな時間が訪れるなんて。

帰る時はいつも名残惜しい。
また明日も会えるというのに足取り重く帰って行くのが日常となっていた。




約束の丘の待ち合わせには、アラン様の方がいつだって私より早く着いている。

アラン様はいつも私をそっと抱き寄せ、こめかみや瞼、頬に優しく口付けを落とす。
最初こそ鼻血が出そうな勢いでのぼせ上がり、卒倒しそうになっていたがようやくそんな恋人同士の様なやり取りにも慣れてきた。
少しは……。

そんな日が続いていた時だった。
いつもの様に頭やこめかみ瞼に口付けを落とされる。

そして優しく顎を掬われたかと思うと唇に柔らかいものが掠めていった。

へ?

アラン様はもう一度瞼に口付けを落とすと「では行こうか。」と、そう言っていつも腰をかけているベンチに向かい、ランチを食べた……様な気がする。

私はあんなにも間近でアラン様のダークブルーの瞳を見たのが初めてで頭が真っ白になっていた。
煙が出ているのではないかと言うくらい顔が熱く、その日はアラン様の顔が見られなかった。

ついでに家族の顔も見られずにいたのでギブ兄さんが
「何かあったのか!酷い事言われていないだろうな?!やはり俺もランチに行かねばなるまい!」
と言い出したので恥ずかしさなど吹っ飛んでしまった。

お母様が適当にいなしてくれたので何とかランチの兄の乱入は防げたけれど、
「兄さん達にあまり心配かけちゃ駄目なのよ。悪い子ねえ。」とウィンクしたのは……
考えないでおくことにしよう……



今日も丘に行けばアラン様が先に待っている。

近付けば優しく抱き寄せられる。

口付けを落とされながら、頭のどこかでまた思っている自分に気付く。

ああ、夢みたいだと。

いつか醒める……と思いかけて頭を振りそうになるのを堪え、口付けを降らせてくれるアラン様に顔を向ける。

いきなり顔をあげた私にアラン様の瞳が丸くなる。

一度は諦めた人だった。
今が夢だと言うのなら確かに夢のよう。

男女問わず皆の憧れの的。
光り輝くような容姿のアラン様の隣に私がいるだなんて到底現実とは思えない。

それでも……

何度自信を無くそうとも

(そんなアラン様に、私は恋をしたのよ。)

「アラン様、私幸せです。」

私はそう言ってアラン様に縋るように背伸びをすると、顔を近付け目を閉じた。
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