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契約は2年 ーブリジットー
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ブリジットは目を冷やしながら自室のドレッサーの前に座っていた。
ドレッサーの上には青のリボン。
青のリボンをじっと見つめると、マリーが頭に付けていた姿が目に浮かぶ。
ブリジットは泣きたくなった。
ブリジットですら一度もつけたことがなく、大事に大事に引き出しにしまっていたのだ。
見つめているだけで、アベルからの手紙の中から思いがけずリボンが出てきた時のことを思い出せる。
胸が高鳴ってワクワクした気持ちになれていた。
ブリジットのお守りのような、精神安定剤のようなものだった。
なのに。
すっかり思い出も何もかも汚されたと思った。
悔しくて涙が出そうなのをブリジットはぐっと堪えた。
もういい。
青いリボンをドレッサーの引き出しにしまう。
ふと鏡の自分が目に入る。
目と鼻が赤く腫れている。
内出血はしていないようでホッとした。
「みっともない顔」
誰に言うともなくブリジットは呟く。
しかしアベルに聞かれたらなんて言おうか。
その前に話が聞きたいと言われてもこんな顔じゃ……
ブリジットがぐるぐると考えを巡らせているとノックの音がした。
まさかと思い、立ち上がりドアに向かうと返事もしていないのに扉が開いた。
そこにはブリジットが思い描いていた人物ではなく、今あまり会いたくない相手、マリーだった。
「ブリジット様、わたし今日はもうお休みいただくことになったので報告に。」
ニヤニヤしながらマリーが言う。
「アベル様がわたしは何も悪くないと慰めてくださって、気遣って今日はもう休めとおっしゃったのでお言葉に甘えることにしたんです。」
マリーは勝ち誇ったようにブリジットを見た。
何も悪くない?
ブリジットは呆れた。
「そうですか。わかりました。」
貴族の顔で答えると、マリーはムッとしたようだった。
しかしまたすぐ気を取り直したかと思うと
「そうそう。アベル様にあなたと揃いの服なんて作る気などないと伝言してくれと言われたのでお伝えしますねえ。それにしても婚約者様の事なんて何も聞かれなかったわ、お気の毒様。」
期待するような目でブリジットを窺い見る。
ゴスルジカ公爵家の使用人に慣れていたブリジットの目にはマリーの態度は醜悪に映った。
しかしブリジットはそれを顔に出さず
「そうですか。ではご苦労様。」
とマリーに退室を促した。
マリーは期待したような展開にならなかったからか、面白くなさそうにフンっと鼻を鳴らすとジロリとブリジットを睨みつけてからようやく出ていった。
ブリジットはマリーが出ていくのを見届けるとティーテーブルの前に座る。
そしてしばしじっと座っていたが、ふいに顔を上げると勢いよく立ち上がった。
セドリックからの手紙がアベルの元に届くことはない。
嵐で遅れているのではなく、嵐で紛失したのだ。
そして
アベルにとってブリジットは厄介者の婚約者。
ようやくブリジットは自分の中の最後の希望を追い出した。
最近のブリジットの過ごし方は屋敷の外に出る事である。
ブリジットは領地の街にある公園で本を読んでいた。
スラビーズ領は活気がある。
公園から見える店を眺めていると元気をもらえる気がした。
公園の真正面に見えるのは花屋さん。
かわいい店構えだが、店主は年配の男性が働いてる。
その隣はカフェ。女性客が多い。
どうやらカフェの店員の男性が人気らしく、彼目当ての客で溢れているようだ。
その隣は雑貨屋。
知的な店構えはセンスの良さを感じる。
しかし未だどんな方が働いているのか知らない。
木陰に座りひとつひとつ店をみてから本を読む。
ここでは誰もブリジットのことを知らない。
見ない。
それが心地よかった。
ブリジットは1人で来ていた。
そして外出している事を誰も知らない。
あのマリーと揉めた日を境にマリーは仕事をしなくなった。
そしてしばらくするとカトリも食事を運ぶ以外の仕事を放棄。
しかしずいぶん羽振りのいい格好をして離れには居るのだ。
一体何がどうなって、そうなったのかは知らない。
あれ以来ブリジットの装飾品には手を出されていないし、マリーが自分で買っているのなら知ったことではない。
そうしてアベルの兄の結婚式に参加するように言われ、泊まりでスラビーズ子爵家のタウンハウスに行くことになった。
そして帰ってきたらブリジットの部屋はカトリとマリーの部屋になっていた。
ブリジットの部屋は寝室のみ。
寝室から自室に続く扉があるのだがいつの間にやら鍵が変わっていた。
そういえば少し前からメイドとコックが増えており、自分達の仕事をさせているようだった。
「あなたが予算を使わないみたいだから、私が好きに使っていいってアベル様がおっしゃったのよ。離れの部屋も好きにしなさい、って私にメイドをつけてくださったわ!でも私は優しいから寝室くらいはあなたに置いておいてあげる。」
過剰なフリルのドレスに身をつつんだマリーに嘲笑うように言われる。
「あなた本当に嫌われているのねえ?公爵家の力を使って無理に婚約しただけなんでしょう?」
下品な態度に呆れ冷ややかに見ていると、マリーはフンっと面白くなさそうに去っていった。
本当にアベルがそんなことを言ったのかどうかはわからない。
どちらにしろブリジットにはどうしようもない。
悪女という名札をつけられたら最後。
信用などなくなる上に、罵詈雑言をぶつけてもいい相手と成り下がる。
それをブリジットは身をもって知っていた。
なにより出会ってすぐアベルに悪女の名札をつけられている。
ブリジットが何を言ってもカトリとマリーが正しい。
ブリジットは食事があるならもういい、と思っていた。
どうせここで暮らすのも2年でおわりだ。
ドレッサーの上には青のリボン。
青のリボンをじっと見つめると、マリーが頭に付けていた姿が目に浮かぶ。
ブリジットは泣きたくなった。
ブリジットですら一度もつけたことがなく、大事に大事に引き出しにしまっていたのだ。
見つめているだけで、アベルからの手紙の中から思いがけずリボンが出てきた時のことを思い出せる。
胸が高鳴ってワクワクした気持ちになれていた。
ブリジットのお守りのような、精神安定剤のようなものだった。
なのに。
すっかり思い出も何もかも汚されたと思った。
悔しくて涙が出そうなのをブリジットはぐっと堪えた。
もういい。
青いリボンをドレッサーの引き出しにしまう。
ふと鏡の自分が目に入る。
目と鼻が赤く腫れている。
内出血はしていないようでホッとした。
「みっともない顔」
誰に言うともなくブリジットは呟く。
しかしアベルに聞かれたらなんて言おうか。
その前に話が聞きたいと言われてもこんな顔じゃ……
ブリジットがぐるぐると考えを巡らせているとノックの音がした。
まさかと思い、立ち上がりドアに向かうと返事もしていないのに扉が開いた。
そこにはブリジットが思い描いていた人物ではなく、今あまり会いたくない相手、マリーだった。
「ブリジット様、わたし今日はもうお休みいただくことになったので報告に。」
ニヤニヤしながらマリーが言う。
「アベル様がわたしは何も悪くないと慰めてくださって、気遣って今日はもう休めとおっしゃったのでお言葉に甘えることにしたんです。」
マリーは勝ち誇ったようにブリジットを見た。
何も悪くない?
ブリジットは呆れた。
「そうですか。わかりました。」
貴族の顔で答えると、マリーはムッとしたようだった。
しかしまたすぐ気を取り直したかと思うと
「そうそう。アベル様にあなたと揃いの服なんて作る気などないと伝言してくれと言われたのでお伝えしますねえ。それにしても婚約者様の事なんて何も聞かれなかったわ、お気の毒様。」
期待するような目でブリジットを窺い見る。
ゴスルジカ公爵家の使用人に慣れていたブリジットの目にはマリーの態度は醜悪に映った。
しかしブリジットはそれを顔に出さず
「そうですか。ではご苦労様。」
とマリーに退室を促した。
マリーは期待したような展開にならなかったからか、面白くなさそうにフンっと鼻を鳴らすとジロリとブリジットを睨みつけてからようやく出ていった。
ブリジットはマリーが出ていくのを見届けるとティーテーブルの前に座る。
そしてしばしじっと座っていたが、ふいに顔を上げると勢いよく立ち上がった。
セドリックからの手紙がアベルの元に届くことはない。
嵐で遅れているのではなく、嵐で紛失したのだ。
そして
アベルにとってブリジットは厄介者の婚約者。
ようやくブリジットは自分の中の最後の希望を追い出した。
最近のブリジットの過ごし方は屋敷の外に出る事である。
ブリジットは領地の街にある公園で本を読んでいた。
スラビーズ領は活気がある。
公園から見える店を眺めていると元気をもらえる気がした。
公園の真正面に見えるのは花屋さん。
かわいい店構えだが、店主は年配の男性が働いてる。
その隣はカフェ。女性客が多い。
どうやらカフェの店員の男性が人気らしく、彼目当ての客で溢れているようだ。
その隣は雑貨屋。
知的な店構えはセンスの良さを感じる。
しかし未だどんな方が働いているのか知らない。
木陰に座りひとつひとつ店をみてから本を読む。
ここでは誰もブリジットのことを知らない。
見ない。
それが心地よかった。
ブリジットは1人で来ていた。
そして外出している事を誰も知らない。
あのマリーと揉めた日を境にマリーは仕事をしなくなった。
そしてしばらくするとカトリも食事を運ぶ以外の仕事を放棄。
しかしずいぶん羽振りのいい格好をして離れには居るのだ。
一体何がどうなって、そうなったのかは知らない。
あれ以来ブリジットの装飾品には手を出されていないし、マリーが自分で買っているのなら知ったことではない。
そうしてアベルの兄の結婚式に参加するように言われ、泊まりでスラビーズ子爵家のタウンハウスに行くことになった。
そして帰ってきたらブリジットの部屋はカトリとマリーの部屋になっていた。
ブリジットの部屋は寝室のみ。
寝室から自室に続く扉があるのだがいつの間にやら鍵が変わっていた。
そういえば少し前からメイドとコックが増えており、自分達の仕事をさせているようだった。
「あなたが予算を使わないみたいだから、私が好きに使っていいってアベル様がおっしゃったのよ。離れの部屋も好きにしなさい、って私にメイドをつけてくださったわ!でも私は優しいから寝室くらいはあなたに置いておいてあげる。」
過剰なフリルのドレスに身をつつんだマリーに嘲笑うように言われる。
「あなた本当に嫌われているのねえ?公爵家の力を使って無理に婚約しただけなんでしょう?」
下品な態度に呆れ冷ややかに見ていると、マリーはフンっと面白くなさそうに去っていった。
本当にアベルがそんなことを言ったのかどうかはわからない。
どちらにしろブリジットにはどうしようもない。
悪女という名札をつけられたら最後。
信用などなくなる上に、罵詈雑言をぶつけてもいい相手と成り下がる。
それをブリジットは身をもって知っていた。
なにより出会ってすぐアベルに悪女の名札をつけられている。
ブリジットが何を言ってもカトリとマリーが正しい。
ブリジットは食事があるならもういい、と思っていた。
どうせここで暮らすのも2年でおわりだ。
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