変人令息は悪女を憎む

くきの助

文字の大きさ
25 / 56

使用人 マリーの話

しおりを挟む
気に入らないあの女。

私の方がずっとアベル様に思いを寄せてたというのに。

いつかアベル様の専属になれるようにと頑張ってた。
専属にさえなれば私がアベル様をお支えして、いつかはと思っていた。

本邸の使用人も皆アベル様になんとかお近づきになろうとしてたけど、皆撃沈してた。
そんな中、明らかに私だけアベル様の態度が違った。
何かにつけ気をかけてくれていた。
他の使用人にそんなことはしない。

だから朴念仁なアベル様には、ゆっくり距離を詰めればいいと思っていたのに、あんなガキに掻っ攫われるなんて。

あの女が離れに住み始め、私もお母さんと離れの専属になり、最初こそまだ婚約期間だから同じ屋敷に住まないのだと思ってたんだけど。

一ヶ月経っても二ヶ月経ってもアベル様と交流してる様子が一切ない。
もちろんアベル様が訪ねてくることもなければこちらから行く様子もなかった。

もしかしてあの女アベル様に嫌われてる?

そこで探りを入れるべくお母さんに聞いた。

「ねえ。結婚式っていつやるの?衣装作ってる様子ないけど。」
「まだお若いからご成長なされてからされる予定のようよ。」
「でも横に並んで採寸したり身長差のバランスとか考えられたらいいのに。ルイ様の結婚式もあることだし対になるような衣装を作られないのかしら。婚約していると言うのに揃いの衣装がひとつもないなんて。普通考えられないわ。」
「アベル様はこう言うことには鈍いお方だから……気にはなっていたのだけど。」

お母さんはあの女に聞いてみると言った。
これで採寸に来たアベル様の様子をみれば一目瞭然かしら。

もしそっけなくされてたら笑っちゃうかも。


その日が来るのを楽しみにしつつ、それでも仕事はしなければならない。
ちなみに侍女の仕事はお母さんが。
わたしは雑用をしていた。

掃除は大嫌い。
でも衣装室を掃除と管理は好きだった。

あの女が持ってきた大量の装飾品やドレス。
どれも華やかでいつも掃除と言って部屋に入っては装飾品を身につけて鏡の前でポーズを取っていた。
ドレスはちょっときつかった。
まあ、子供サイズだからね。
ただあの女が身につけているのを見た事がない。

少しならもらってもバレなさそう。
試しにひとつ、くすねてみようか……

そう思っていたら衣装室のチェストの上に青いリボンがあるのを見つけた。
決して高くはないだろうが立派な刺繍が施されており美しいブルーのリボンだった。

いきなり高価なものをくすねるのもね。
これならもらっても問題なさそう。

そう思って髪に結んでみる。
鏡をみると自分のアッシュブラウンの髪に鮮やかなブルーがよく映えている。

「ふんふーん」

楽しくなって鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズを決めているとドアが開く音がした。
お母さんかと思ったが最悪なことにあの女だった。
ハッとすると向こうも驚きに目を大きくしている。

目は私の頭に。

まずいと思った時にはもうあの女の手が私の頭に伸びていた。

「泥棒!!」
「!」
「外して!外しなさいよ!!」

髪の毛を引っ張られて思わず抵抗して叫んでしまう。

「痛い!やめてよ!!」

なによ、あんなに高価なものたくさん持ってるくせに!!

アベル様と婚約して、こんなにたくさんの宝石を持っていて、リボンのひとつくらいくれてもいいじゃない!

「ケチね!」

思いっ切り揉み合いになる。
あの女はリボンを取るのに必死だった。
髪の毛ばかり引っ張られる。
必然的にあの女の顔が目の前にあった。

憎らしいほど、綺麗な顔。

腹立つわあ!

あの女目掛けて思いっ切り手を振り下ろした。

「っ!!」

声もなくあの女がよろめく。
髪を引っ張られてる私もよろめいた。

「なにを騒いでいるの!」

どさっと2人で尻餅をついた時にお母さんの声がした。

パタタと小さく音がした。

「ブリジット様!」

お母さんが悲鳴のようにあの女の名前を叫んだ。

その声に私はあの女に目を向ける。

「あは!!」

思わず吹き出した。

私の手はあの女の顔面を直撃したらしい。
鼻血をだしてる!みっともなーい!

しかし笑ったのも束の間

「ブリジット様これは一体!」

そう言いながらお母さんがハンカチを出しあの女の鼻を押さえ、私の方にキッと目を向けた。

私の手は鼻と目をたたいたらしい。
右目が赤くなっていてこうしてる間にみるみる腫れ上がっていく。
こちらはせいぜい髪をひっぱられた程度だ。


「ひどいひどい!髪の毛がこんなに抜けてしまったわ!!!」

それなら、私は泣き喚こうかしら。
幸いリボンはあの女が持っているしね。

「リボンを見てただけなのに!見てただけなのにい!」

睨みつけるような目を向けていたお母さんも私が泣き喚くと困惑したような顔になる。

うん、うまくいった。

お母さんは濡らしたタオルを持ってきてあの女の目を冷やすと、青ざめた顔で
「アベル様に謝りに行かなければ」と言った。


ちょっとなんでよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

もう一度、君を好きになる時間

なべぞう
恋愛
結婚後、夫とのすれ違いと孤独な生活の中で心身を壊し、若くして病死した女性・相沢美月。 後悔だけを残して人生を終えたはずの彼女は、目を覚ますと――大学時代へと時間が巻き戻っていた。 二度目の人生を得た美月は決意する。 「今度こそ、自分を大切にして生きる」と。 前の人生で結婚した元恋人・恒一との再会。 しかし、同じ未来を辿るつもりはない。 そんな中、前の人生では出会うことのなかった青年・三浦との出会いが、彼女の未来を少しずつ変えていく。 「我慢すること」が正解だと思っていた彼女は、二度目の人生で初めて自分の幸せを選び取る勇気を学んでいく。 ――人は、やり直せたなら本当に幸せになれるのか? 失敗した人生をもう一度歩き直す、一人の女性の再生と恋、そして本当の愛を見つける物語

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜

月山 歩
恋愛
サラとマリウス・ハンプトン侯爵夫婦のもとに、衝撃的な告白を携えた男が訪れる。「隠れてサラと愛し合っている。」と。 身に覚えのない不貞の証拠に、いくらサラが誤解だと訴えてもマリウスは次第に疑念を深めてゆく。 男の目的はただ一つ、サラを奪うこと。 *こちらはアルファポリス版です。

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...