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契約と待遇 ーブリジットー
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離れでは専属の侍女が2人ついた。
親子らしく、母親がどうやらこの屋敷の侍女頭のようだが私の専属侍女で、娘の方はまだ使用人になって日が浅いらしく雑用担当だった。
「私がブリジット様付きの侍女となりましたカトリと申します。カトリとお呼びください。こちらは娘のマリーです。まだ未熟ですがよろしくお願いします。」
「…おねがいします。」
カトリは侍女頭にふさわしい佇まいの女性だった。
娘のマリーといえば燃えるような目で私を見ている。
この目つきにブリジットは見覚えがあった。
一度だけセドリックが学園の仲間と同窓会のようなパーティを庭でしていたのをたまたまバルコニーから見かけたことがあった。
覗いてると思われると品がない、と部屋に戻ろうとした時強い視線を感じて振り返る。
すると、周りにいる女性たちより一際目立って美しい女性がブリジットを燃えるような瞳で見ていた。
怖くなり慌てて部屋の中に戻ったが、後からあれがアリスだったのだとわかった。
この目つきは嫉妬だ。
(なんだか面倒な人が専属になっちゃったわね。)
ブリジットはため息を吐きたくなった。
それからはブリジットも好きなように過ごした。
本邸の図書室は外からも入れるようになっているので本を借りて読んだり、庭を散歩したりして過ごした。
庭は公爵家のタウンハウスほど大きくはないが、それなりに広く、しかし畑だらけだった。
温室もあるもののそこもほぼ畑だ。
ブリジットはそれが可笑しく、見て回るのが好きだった。
そうするとたまに何やら記録を取りながら観察をするアベルを見かけることがある。
そんな時は見つからないように、そっとその場を後にした。
しかしアベルを見つけた時に心臓がピョコンと跳ねるのがブリジットは好きだった。
どうでもいいと諦めていたブリジットだが、実は自分でも気づかぬ心の奥にまだ希望を持っていた。
嵐で遅れているだけでそのうちセドリックの詳細の書いた手紙がアベルに届く、と。
手紙さえ届けば誤解が解ける。
誤解さえ解ければ……
13歳の幼さゆえかそう思い、自分に芽吹いた初めての気持ちを無意識に大事にしていた。
そうして二ヶ月が過ぎようとしていた。
「アベル様と揃いで衣装などは作られないのですか?」
ブリジットはカトリに身だしなみを整えてもらっている時にそう問われた。
「揃いの衣装?」
「ええ、ロイフラング国ではありませんでしたか?少なくとも我が国では婚約が決まれば揃いの衣装を作り公の場にはそれで出てゆくのが一般的です。」
まあ、皆ではないですがと続けた。
「ロイフラングでは特にそんな慣習はなかったわ。素敵ね。」
「そう思われますか。では一度主様にお伺いを立ててみましょうか。」
ブリジットは馴染みのない慣習に内心はどうでもよかった。
しかし奥底にあった希望がひょこりと顔を出してしまった。
嵐で遅れていた手紙がそろそろ届いてるかもしれない。
「ええ、そうね。こちらの国の慣習に従うわ。」
どうでもよさそうな返事をしながらも、知らず浮き足だった。
そんなブリジットをカトリは微笑ましそうに見つめ笑みを浮かべた。
その日、ブリジットはそわそわとなんだか落ち着かなかった。
本を開いては閉じ、立ち上がったかと思えば座っている。
自分の身だしなみが気になり、鏡をのぞいてはちょいちょいと前髪を直す。
デスクの引き出しを開け、青のリボンを取り出そうとして、あっと小さく声を上げた。
いつも入れていたところにリボンがない。
いや、そうだと思い当たる。
マリーは衣装室の掃除や管理が杜撰である。
せっかく公爵家が持たせてくれた衣装や装飾品、マリーに安心して任せられず、たまにブリジットが管理をしに行っていた。
きっとその時だ。
ブリジットは衣装室になった客室に向かいドアを開けた。
「ふんふんふーん」
すると呑気な鼻歌が聞こえた。
部屋に入ったブリジットはマリーが鏡の前で踊っている姿が飛び込んでくる。
そして頭には大事なブリジットの青いリボン。
「泥棒!!」
気がついたら叫んでいた。
親子らしく、母親がどうやらこの屋敷の侍女頭のようだが私の専属侍女で、娘の方はまだ使用人になって日が浅いらしく雑用担当だった。
「私がブリジット様付きの侍女となりましたカトリと申します。カトリとお呼びください。こちらは娘のマリーです。まだ未熟ですがよろしくお願いします。」
「…おねがいします。」
カトリは侍女頭にふさわしい佇まいの女性だった。
娘のマリーといえば燃えるような目で私を見ている。
この目つきにブリジットは見覚えがあった。
一度だけセドリックが学園の仲間と同窓会のようなパーティを庭でしていたのをたまたまバルコニーから見かけたことがあった。
覗いてると思われると品がない、と部屋に戻ろうとした時強い視線を感じて振り返る。
すると、周りにいる女性たちより一際目立って美しい女性がブリジットを燃えるような瞳で見ていた。
怖くなり慌てて部屋の中に戻ったが、後からあれがアリスだったのだとわかった。
この目つきは嫉妬だ。
(なんだか面倒な人が専属になっちゃったわね。)
ブリジットはため息を吐きたくなった。
それからはブリジットも好きなように過ごした。
本邸の図書室は外からも入れるようになっているので本を借りて読んだり、庭を散歩したりして過ごした。
庭は公爵家のタウンハウスほど大きくはないが、それなりに広く、しかし畑だらけだった。
温室もあるもののそこもほぼ畑だ。
ブリジットはそれが可笑しく、見て回るのが好きだった。
そうするとたまに何やら記録を取りながら観察をするアベルを見かけることがある。
そんな時は見つからないように、そっとその場を後にした。
しかしアベルを見つけた時に心臓がピョコンと跳ねるのがブリジットは好きだった。
どうでもいいと諦めていたブリジットだが、実は自分でも気づかぬ心の奥にまだ希望を持っていた。
嵐で遅れているだけでそのうちセドリックの詳細の書いた手紙がアベルに届く、と。
手紙さえ届けば誤解が解ける。
誤解さえ解ければ……
13歳の幼さゆえかそう思い、自分に芽吹いた初めての気持ちを無意識に大事にしていた。
そうして二ヶ月が過ぎようとしていた。
「アベル様と揃いで衣装などは作られないのですか?」
ブリジットはカトリに身だしなみを整えてもらっている時にそう問われた。
「揃いの衣装?」
「ええ、ロイフラング国ではありませんでしたか?少なくとも我が国では婚約が決まれば揃いの衣装を作り公の場にはそれで出てゆくのが一般的です。」
まあ、皆ではないですがと続けた。
「ロイフラングでは特にそんな慣習はなかったわ。素敵ね。」
「そう思われますか。では一度主様にお伺いを立ててみましょうか。」
ブリジットは馴染みのない慣習に内心はどうでもよかった。
しかし奥底にあった希望がひょこりと顔を出してしまった。
嵐で遅れていた手紙がそろそろ届いてるかもしれない。
「ええ、そうね。こちらの国の慣習に従うわ。」
どうでもよさそうな返事をしながらも、知らず浮き足だった。
そんなブリジットをカトリは微笑ましそうに見つめ笑みを浮かべた。
その日、ブリジットはそわそわとなんだか落ち着かなかった。
本を開いては閉じ、立ち上がったかと思えば座っている。
自分の身だしなみが気になり、鏡をのぞいてはちょいちょいと前髪を直す。
デスクの引き出しを開け、青のリボンを取り出そうとして、あっと小さく声を上げた。
いつも入れていたところにリボンがない。
いや、そうだと思い当たる。
マリーは衣装室の掃除や管理が杜撰である。
せっかく公爵家が持たせてくれた衣装や装飾品、マリーに安心して任せられず、たまにブリジットが管理をしに行っていた。
きっとその時だ。
ブリジットは衣装室になった客室に向かいドアを開けた。
「ふんふんふーん」
すると呑気な鼻歌が聞こえた。
部屋に入ったブリジットはマリーが鏡の前で踊っている姿が飛び込んでくる。
そして頭には大事なブリジットの青いリボン。
「泥棒!!」
気がついたら叫んでいた。
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