変人令息は悪女を憎む

くきの助

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悔恨 ーガネット夫人ー

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「ビジイ、あなたを子爵家のタウンハウスに連れて帰るわ。そこでゆっくり療養しましょう。」

ビジイの目が驚きで大きくなる。
そんな顔ですらお人形のように愛らしい。

思わず見つめると、気まずそうに目を逸らし、視線を彷徨うように動かした。
手はシーツをキュッと掴んでいる。

目が覚めたと聞いて医者にみせた。
昨日泣きながら眠ったせいだろう、目が少し腫れていた。
怪我のせいで少し熱が出ていたがそれもすっかり引いた様だった。

このまま2、3日様子見て大丈夫そうならと移動の許可が出た。
タウンハウスまでは馬車でゆっくり行っても二時間かからないくらい。
大丈夫だろう。

そうして医者を見送った後ビジイのベッドサイドに座りそこで決定事項として連れて帰ることを伝えた。
きっと色々な考えが頭を巡っているのだろう。
安心させるために言った。

「大丈夫よ、全部知っていると言ったわね。本当に全部よ。だから連れて帰るのよ。」

こちらをみたビジイの目は不安に揺れていた。

「でも……契約が……」

か細い声で囁き視線を落とす。

ああ、と声が漏れそうになる。

私達大人はこんな繊細な子に何をさせていたのか。

でもビジイのご両親はわかっていたのだろう。

セドリック様と契約するにあたって、ビジイのご両親も条件を出していた。
その条件はビジイが傷付かないよう、いつでも戻って来れるよう配慮されたものだった。

ゴスルジカ公爵夫人曰く、ご両親の思った以上にビジイは繊細で、我慢強く、責任感も強かったのだろう、と。
その上他人のせいにしない芯の強さもあった。

しかしそれがすっかり裏目に出てしまった。
決して投げ出すことをしなかった。


だけど私も彼女に我慢を強いた大人の一人だ。
私たちはあのアベルが初めて女性に興味を示したと聞いて舞い上がったのだ。
迷走している事を知りながらも任せてた。
親馬鹿がすぎた。

私は軽く嘆息するとゆっくり首を振った。

「いいえ、契約なんて成立していないわ。書面なんて交わしていないでしょう。ただの口約束だったのよ。そもそもタウンハウスも子爵家よ。契約があったとしても何も問題ないわ。」

出来るだけあっけらかんと言った。

「アベル様は……」
「アベルも了承してるわ。」

ビジイが握っているシーツの皺が深くなった。
私はなんとも言えぬ気持ちになった。

アベルのことを憎からず思っていてくれている事は知っていた。

ルイの結婚式で子爵家に訪れた時、ビジイは貴族の顔をしながらも誰も気付かぬ様にチラチラとアベルを盗み見ていた。
その様子が本当に愛らしかった。
きちんと思いが通じ合えば、こんな可愛い子が義娘になるのだと待ち遠しい気持ちにもなった。

(きっとゴスルジカ公爵夫人もこんな気持ちだったんでしょうね。)

セドリック様がビジイを公爵家に連れて帰って来た時、すでに婚約の書類が全てサインされて揃っていたそうだ。その事に違和感を感じつつも、ビジイが可愛くて総てに目を瞑り身元確認しかしなかった、という話だった。

事実ビジイには何とも言えない魅力があった。

アベルとの婚約が決まりドリンコート侯爵夫人から話があると言われた時には驚いた。
セドリック様とヒステマラ伯爵と交わした契約に、次の結婚のお相手に全ての説明をすると言うのがあったそうだ。
何より下位貴族であれだけ広がった悪女の噂を気にかけていた。

しかしその話があった時にはもうビジイはこちらに来て離れに住み始めていた。
アベルが悪女の噂を知ってる以上アベルを信じて下手に横槍を入れず静観した。

そうして会うのを楽しみに、実際会えばゴスルジカ公爵夫人の言うとおり、清廉でまっすぐな美しい少女だった。
焦ったくなり早くアベルが自分の気持ちに気付く様に煽ったりもしたが……


もうそれも夢と散った。

もう2人の関係は平行線だろう。
これ以上悪くなることも無いだろうが、良くなるとも思えない。

大人同士ならそれも悪くはないのだろうが、そもそもビジイは子どもだ。
まだまだこれからの子、未来は明るくあるべきだ。
私たちが潰してしまう前に……

「私のもとでしっかり療養しましょう!でも今はしっかり休んでちょうだいね。」

空元気を最大限に、景気のいい声を出し、微笑んだ。

ビジイはこくりと頷いた。
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