変人令息は悪女を憎む

くきの助

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無自覚は罪 ーアベルー

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「痛……ッ」

声にならないような悲鳴を上げ思わず手を引っ込めた。

見ると親指からうっすら血が滲んでいた。

「だって……だって……!」

前では顔を赤らめ泣きそうな顔をしたビジイが震える声でだってを繰り返している。

また指に視線を落とす。

これは……噛まれたのか?

いつ?何故?

「アベル兄さんいい加減にしろよ!またビジイにサラッと口付けしようとしたな!」

デイビットが私に食ってかかった。

「口付け?何を言ってるんだ。」

「なッ……!」

口も目も大きく見開きデイビットが絶句した。
デイビットの向こうで母上まで唖然としている。

どういう意味だ。
わからずブリジットの方に向き直りギョッとした。

ブリジットが信じられないものを見るかのような目で私を見ていた。

「ご自分の……」

「え?」

ボソッと囁くような声に思わず聞き返す。
するといきなり火がついたようにブリジットが捲し立てた。

「ご自分の行動をよく思い返してくださいませ!」

「え?」

聞こえていたが聞き返してしまった。

「本当に、本当にわかりませんか!」

必死に訴えるブリジットの迫力に押されながら、目を閉じ混乱しそうな頭をなんとか働かせる。

「………………。」

しばしの沈黙が流れる。

ブリジットに噛まれる直前は……

少し怪訝な顔をして私を覗き込むブリジットの唇がツンととんがっていた。

おそらく緊張した時や少し疑問に思った時、唇を尖らせるのがブリジットの癖なんだろう。

ただでさえ拗ねたようにツンとした愛らしい唇なのに、尖らせるものだからいつものアヒルのような唇が小鳥のようになっていてとても可愛かった。
そして思わず……

「唇に触れたな!」

思い出したとばかりにハッと目を開けると、真っ赤な顔で口をぱくぱくさせているブリジットが見えた。

「アベル……おま……心の声、漏れすぎだ……」

思考が全て口に出ていたらしい。
堪えるように、呆れたように、片手で顔を隠すようにして俯いたポールが言った。

いや、でも確かに指で唇には触れていた。
しかし口付けは……

「確かに無神経だったが……しかし口付けは言いがかりだ。」

「お、覚えていらっしゃらないの?信じられない!」

興奮気味のブリジットが私から離れるように後ずさる。

「ブリジット。」

「あの時、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたかなんて知りもしないで!」

「だが、口付けなどしていない。」

「今日は!でしょう?!」

一際大きな声を出したかと思うと、ブリジットはハッとした様に口を噤み母上達の方を見た。
つい私もつられて視線を動かす。

するとそこにはあんぐりと口を開けて呆気に取られている母上とデイビットがいた。

視線を受けてかデイビットがぎこちなく口を動かす。

「……なんだか……ブリジットじゃないみたいだ……」
すごい……と呟く。

そう言われるとブリジットは青ざめた。
嫌々をするようにゆっくり首を振れば、美しい蜂蜜色の髪が揺れる。

「だって……だって……言わないと…………」

ぽつぽつと言葉を発しながらまた後ずさりを始めた。

「言わないとアベル様は……わかってくれないんだもの……!」

そう言うとブリジットは激しく首を振りこちらを向く。

「どうしてそんな事をするのか私には理解できません!もう……やめてください!」

「理解できない?」

そう言うと私は後ずさって行くブリジットの腕を掴んだ。
ブリジットの肩がビクリと動く。

何故だか、今だと思った。
今なら届く気がした。

「離し……」

「どうして君に触れるかなんて、決まっている。君に恋をしてるからだ。」

私の手を振り解こうとしていた手がぴたりと止まる。

「君が、好きだからだ。」

しっかり確かめる様に言う。

ブリジットの顔がゆっくりと動き、私を見上げる。


そしてさっきまでの熱量が嘘の様に、静かに私を見据えるとブリジットは柳眉を顰めた。


「ご冗談を。」

「冗談なんかでは……」

「そのような悪ふざけに私はついて行けません。」

「ブリジット。」

「手を離してください。」


冷え冷えと言い放ち、取り尽く島がない。

「アベル様、離してください。」

キッパリと言われる。

(駄目だ、閉じられる。)



「…わかった。」

私はそう言うとそっとブリジットの腕から手を離した。
あからさまにホッとした様子が見て取れる。

「でも帰る前にひとつだけ渡したいものがあるんだ。」

今日の帰り際、渡そうかどうしようか迷っていたものだ。

「なんでしょうか。」

ブリジットはポケットを弄り出した私を不思議そうに見つめた。

「これは君に持っていてほしい。」

そう言って私はポケットの中のものをブリジットに差し出す。

ブリジットの顔が強張った。
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