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復活の厄災編
第五十一話 巫女の威圧②
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◆クロムside◆
「すっ、すごい…これが伝説に語られた神巫の巫女の力!」
コハクは空中で起きている戦いを見て喝采を上げる。
ニーナを含めた勇者パーティー一行は谷の崖下にのびている道を進み、目的地であるパンデルム遺跡へと向かっていた。
その道中、空中で広がる綺麗な光球の花火に、そして悪魔達を次々と屠るアマツの姿に衝撃を受けていた。
「私達だけでもあの数を相手にするのは一苦労だったのに…力の差がありすぎる、アマツさんが来ればすべて解決してしまうとはこういうことだったのですね。」
レズリィはなぜアマツが厳しく私達に接するのか、彼女に任せず住民達の力で戦わせようと告げているのか理解した。
強すぎる…正直頼りになるどころか彼女一人でも解決してしまうほどに。
彼女が魔物に対抗する抑止力になってしまえば、霊長の里にいる近衛隊や魔導隊は魔物との戦闘を必要としなくなる。そうなれば彼女の言う通り戦闘経験が浅くなり弱体化してしまうことだろう。
「違う、たしかにアマツは強いが彼女も人間だ、ああして魔法を撃ち続けていれば疲弊する。それでも彼女は俺達のように長期戦には持ち込まない、そうなる前に相手が倒されてしまう《反則技》を使っているからな。」
そんなアマツの強さに驚く一行に一人、彼女のその強さの秘密を知っているかのような口ぶりでクロムが言う。
「それって、あの輝く光る魔法がか?」
アルノアがそう答えると、クロムは空に無数に飛ぶ光球の花火を見上げながら続きを言う。
光魔法、悪魔族を殺すために作られた、代々伝わる神巫の巫女専用の魔法。悪魔族が編み出した闇魔法と対を成す存在であり、太陽のように暗い世界を照らし、その強すぎる光に肉をも焦がすと言われている。
それを聞いたアルノアは目を輝かせながら空を見上げた。
「光魔法…すげぇ、私もあの滅茶苦茶な魔法使ってみたい!」
「でたよ、魔法ジャンキーめ…」
隣でクロムは深々とため息をつき、崖下に伸びる道を再び歩き始めた。
◆アマツside◆
崖上を軽々と駆けながら逃げる悪魔を追うアマツ。
空中にいれば《散光弾》の餌食となることを察した悪魔は谷の構造を巧みに利用し、アマツの魔法射程から離れた。
一人で広大な地形を駆け抜けながら隠れた悪魔達を探し出す、普通に考えれば無理難題の情景に聞こえてくる。
「ほんと…予測範囲内で助かるわ。」
だがアマツにとってそれは不可能な課題ではない、精々面倒事が増えたとしか思っていなかった。
「さっきと同じ魔法だと思っていたら痛い目見るわよ!」
アマツは杖に魔力を込めると、先端から魔法陣を展開し彼女の体ほどに大きく膨れた光球を召喚した。
するとその巨大な光球を意のままに操るよう彼女は杖を巧みに動かし、まるで遠くの土壁を薙ぎ壊すイメージで杖を薙ぎ払った。それに連動し、巨大な光球は狙いをつけた壁に向かって飛び出した。撃滅魔法ーー中級光魔法《鬼神光弾》だ。
ドゴォォ!!
「なっ!?」
アマツの光魔法から身を隠していた悪魔達は、巨大な土壁が突如現れた光球により破壊されたその光景を目にし驚愕した。
光魔法は土壁を通さないと考えていた彼らにとって、それは予測にもしない恐怖を味わうこととなった。
「おい嘘だろ!マジかよ!」
「逃げるぞ!迫って来る!」
悪魔達は目の前に迫る死から逃れようと飛び上がって逃げ出す。幸いにも巨大な光球の速度は自分達の飛行速度より劣る、逃げ出せば捕まることはまずないだろう。
と、必死に逃げ出す彼らはそれしか考えていなかった。逃げるのに夢中で身を隠す土壁から離れると…
ジュァ!!
「がッ…!」
弾丸のように飛び込んできた光球が悪魔の体を貫いた、突然の急襲に何が起きたのか彼は把握する前に見てしまった。
こちらに向かって杖を振り払う巫女の姿を、次なる光球がこちらに向かって飛んでくる光景をーー。
「上へ逃げるな!狙われるぞ!」
上へ逃げた仲間がどのような末路を辿ったのかを目撃した悪魔は、壁沿いに飛行しながら背後から迫る巨大な光球から逃げ続ける。
だがそんな逃走劇も終わりを告げる、上空から真下に向かって無数の光の雨が降り注ぐ光景が逃げた先に待ち構えていた。
「くそっ!はめられ…!」
空中で急停止し、急ぎその場から離れようとするが、自然の脅威に当てられたかのように悪魔達の体を光の雨が貫き続ける。
再び谷全域に悪魔達の悲痛な叫び声が上がる、それをよりもっと響かせる指揮者のごとく、アマツは崖上で披露するーー死の演奏会《デスオーケストラ》を。
「誘い込んで仕留めるには丁度いい地形だわ、面倒な奴もいない雑魚ばかりなら容易く済みそうね。」
彼女は命乞いのように聞こえる奴らの叫びを耳にせず、躊躇なく出し惜しみもなしに攻撃を仕掛け続ける。優雅に杖を振りながら他の場所に放った《鬼神光弾》を誘導、そして飛び出してきた悪魔の狙撃と挟み込むように放つ光の雨。
もはやアマツを止めようとする者は誰もいなかった、いや…そもそも反撃の準備すら与えてもらえない。彼女に攻撃を仕掛けること自体無謀、無意味、それを理解してしまったからこそ逃げることしか選択肢が生まれないのだ。
そんな状況だからこそ、逃げという奴らの行動から逸脱した者がアマツの目に映った。
「あいつは…」
一人、崖上を走る何者かがいた。肉眼では遠すぎて確認できないが、人型というのは間違いない。しかもその者は私達が向かう場所とは逆の方へ走っていた。
「ここからじゃ人か魔物かわからないわね、でも…」
アマツは崖上を走る者に向かって手を伸ばした。
「勇者達以外でこんな場所に人間なんているわけがない、どちらにせよ駆逐対象よ。」
アマツの手から魔法陣を展開させ、光魔法を詠唱しようとした瞬間…
「消えた…!?」
フッと、今そこで走っていた人物が崖上から姿を消した。
◆クロムside◆
「止まってください皆さん!何者かがこちらに向かって飛んで来ます!」
一番早くにその存在に気がついたのは先頭を走るコハクだった。
コハクが指を指した方向へ視線を向けると、赤色の飛行体がこちらに近づ来るのが見えた。
「敵か!?」
「いや待てアルノア!あいつは…」
アルノアは魔法を展開し、こちらに向かって来る何者かに標準を合わせようとすると、クロムに手で遮られた。
理由を述べようとしたが、目視で確認できるほどに飛行体が近づいて来ると全員の警戒が緩んだ。
飛んで飛行してくるということは悪魔の他ならない、赤く見えていたのは飛行する影響で広がっていた赤色のコートで、それと一緒になびく長い黒髪がそのコートの赤を見え隠れする。そして…
「レェェェェズゥゥゥゥ…」
聞き覚えのある声が谷に反響し、俺は咄嗟に危険を感じた。
「やばいレズリィ、遮蔽壁《ウォール》張れ!」
「えっ、だってそれじゃ…」
「いいから!早く!」
そうレズリィに伝えた後、振り返るとハイスピードで迫る悪魔の全貌が見えた。谷の偵察で送り込んだセーレだ。
「…ゥゥリィィィィ様ァァァァ!!会いたかっ…!」
バギィィ!!
スピードを落とさずそのままレズリィに向かって突撃して来たセーレは、レズリィが唱えた防壁魔法に直撃した。その威力は凄まじく、透明なバリアに衝突した際の割れ模様ができていた。再会のハグにしては度が過ぎている。
「ッがっ!レズリィしゃま…!どぅぉしてぇわぁたしをこぉばあむぅでしゅか…!」
「な、言っただろ?」
「マジかよ、突撃しただけで障壁に大きなヒビ入れやがった。」
ヒビが入ったバリアにへばりつくセーレを見て、全員が驚きと呆れに染まっていた。
その後、遮蔽壁《ウォール》を解除し、レズリィはセーレを座らせると、涼しい顔で怒りつけた。
「セーレさん、感動的な再会はいいですが限度を考えてください。死んでしまいます。」
「だって!」
「だってじゃないです!私や他の皆さんに怪我をさせるところだったんですよ!もっと考えて行動してください!」
「はぁぁい…」
自分の主人からお叱りを受け、しおれる姿を見せるセーレ。
そんな可哀想な姿を見せる彼女だが、よく見ると所々傷だらけになっているのが見てとれた。胴体につけられた切り傷や刺し傷は赤いコートに黒く染みついた血痕として表れ、右手の甲は鋼鉄性の手甲を突き破り痛々しい傷跡を見せていた。
レズリィはその傷ついた体を見て、怒りから彼女に同情する気持ちが湧き上がった。
「…でも、セーレさんの頑張りおかげで私達は助かりました。こんなに傷を負って…かなり大変な仕事だったしょう。」
私達に挨拶もせずに一人で敵地に向かい、死ぬかもしれない戦いを潜り抜けてきた。
帰る場所に戻れることがどれだけ幸せなことか、仲間達の顔を再び見れることがどれだけ嬉しいことか、それならあの突撃はセーレなりの喜びの気持ちの表れなのではないか?
「中等治癒《ハイヒール》」
レズリィは怪我をしているセーレの右手を優しく手に取り、進化した治癒魔法でセーレの傷を癒した。
その回復力は初級の治癒魔法より早く傷を治し、重傷だった右手もかさぶたができる程だ。
「進化したのか、今までより凄い回復量だ。」
「さっきクロムさんを治療した時に編み出したんです。無茶なことばかりする人達ですから、ちゃんと無茶できるように今まで以上の回復力を身につけないといけないって考えついたんですよ。」
無茶なことと、まるでクロムだけに向かって言っているように聞こえた。呆れを通り越して吹っ切れたような微笑をクロムの方に向けると、ペコっと軽く頭を下げ、
「はい、気をつけます…」
と、クロムはパーティーのリーダーとは思えない様子で謝った。
そうともしてる内にセーレの回復が終わり、レズリィはセーレの体の所々を目で追いながら聞いた。
「一通り傷は治しました、翼は動きますか?右手は完全に治ったと思わずなるべく安静にしててください。」
怒った時は打って変わって、自分の怪我の具合を心配してくれるレズリィの表情はまるで聖母のような存在だった。
「レズリィ様…!もうあなただけですよ!傷を癒してくれて、しかも私の体を心配してくれるのは!こんなありがとうも言わない、再会も喜ばない、口先だけで無理難題押し付けてくる人扱いの悪い人と違って!」
「ねぇ、それ俺に言ってる!?悪質な部分だけ切り取って話すのやめてくれない!」
レズリィの胸に顔を埋めながら俺に指をさすセーレ、それに合わせて皆もジロッとこちらを半眼で睨んできた。
「そんな目で見るなお前ら!俺だってセーレを助けようと考えて魔導隊といざこざ…」
クロムの苦労話の途中、彼の背後から矢のような細長い黄色の弾丸が襲いかかる。
「ッ!!」
いち早く気づいたニーナはその弾丸の斜線上に身を投げ出し、クロムを片手で横に突き飛ばした。
「ぬあっ!」
クロムの呻く声と一緒に、ニーナの槍が弾丸を弾く音が響いた。
「クロム!無事!?」
「あぁ…って、そう言える雰囲気じゃなさそうだな。」
突き飛ばされた時、崖上から誰かがこちらを見ていることに気がついた。
そこから俺の体を正確に狙った射撃技術、いや…魔法技術と言うべきか、こんな芸当ができる人物など一人しかいない。それが敵側だったらどれだけ良かったことか。
「どういう事か説明してもらえる?」
アマツだ、白装飾の着物が目立つ格好でそれが誰なのかわかった。彼女は光魔法で作った光球を薄く伸ばし、光球の浮遊を駆使した力で十数メートルはある土壁から飛び降り俺達の前に現れた。
その目は無慈悲に冷たく俺達を見ていた、躊躇なく殺せるという自信が彼女の容貌から物語っていた。
「後からじゃダメ?今こうして話してる間にも敵が襲って来たら大変だろ。」
「心配いらないわ、話す時間を設けるためにあらかた殲滅しておいたから。残党達のあの様子じゃ、もう襲いにくる事はないでしょうし。」
「マジか…あの大軍を殲滅って軽く言えるあたり、すごいを通り越して末恐ろしいんだけど。」
空気が重い…まるで神巫の巫女と相手しているような気分だ。まだ対話に応じてくれるところから見て、相手の話も聞かずに力でどうこうしようとする考えではない事だけは救いだが…
カンッ!
アマツは杖の先を地面に叩いた、それと同時に彼女の足元から黄色の魔法陣が展開され、その中から多くの光球が外へ出てきた。
「だから聞かせてほしいの、あなた達とその悪魔…どういう関係なのか。」
冷たく相手を気圧させるアマツの声に、俺達は恐怖という感情で心臓を締め付けられる。
そう…今までの対話と違う点として挙げられるのは、アマツ相手ではたとえ本当の事を話しても受け入れてくれる保証など絶対に無いことと…
戦って相手を落ち着かせるような、アマツはそんな柔な存在ではないということだ。
「すっ、すごい…これが伝説に語られた神巫の巫女の力!」
コハクは空中で起きている戦いを見て喝采を上げる。
ニーナを含めた勇者パーティー一行は谷の崖下にのびている道を進み、目的地であるパンデルム遺跡へと向かっていた。
その道中、空中で広がる綺麗な光球の花火に、そして悪魔達を次々と屠るアマツの姿に衝撃を受けていた。
「私達だけでもあの数を相手にするのは一苦労だったのに…力の差がありすぎる、アマツさんが来ればすべて解決してしまうとはこういうことだったのですね。」
レズリィはなぜアマツが厳しく私達に接するのか、彼女に任せず住民達の力で戦わせようと告げているのか理解した。
強すぎる…正直頼りになるどころか彼女一人でも解決してしまうほどに。
彼女が魔物に対抗する抑止力になってしまえば、霊長の里にいる近衛隊や魔導隊は魔物との戦闘を必要としなくなる。そうなれば彼女の言う通り戦闘経験が浅くなり弱体化してしまうことだろう。
「違う、たしかにアマツは強いが彼女も人間だ、ああして魔法を撃ち続けていれば疲弊する。それでも彼女は俺達のように長期戦には持ち込まない、そうなる前に相手が倒されてしまう《反則技》を使っているからな。」
そんなアマツの強さに驚く一行に一人、彼女のその強さの秘密を知っているかのような口ぶりでクロムが言う。
「それって、あの輝く光る魔法がか?」
アルノアがそう答えると、クロムは空に無数に飛ぶ光球の花火を見上げながら続きを言う。
光魔法、悪魔族を殺すために作られた、代々伝わる神巫の巫女専用の魔法。悪魔族が編み出した闇魔法と対を成す存在であり、太陽のように暗い世界を照らし、その強すぎる光に肉をも焦がすと言われている。
それを聞いたアルノアは目を輝かせながら空を見上げた。
「光魔法…すげぇ、私もあの滅茶苦茶な魔法使ってみたい!」
「でたよ、魔法ジャンキーめ…」
隣でクロムは深々とため息をつき、崖下に伸びる道を再び歩き始めた。
◆アマツside◆
崖上を軽々と駆けながら逃げる悪魔を追うアマツ。
空中にいれば《散光弾》の餌食となることを察した悪魔は谷の構造を巧みに利用し、アマツの魔法射程から離れた。
一人で広大な地形を駆け抜けながら隠れた悪魔達を探し出す、普通に考えれば無理難題の情景に聞こえてくる。
「ほんと…予測範囲内で助かるわ。」
だがアマツにとってそれは不可能な課題ではない、精々面倒事が増えたとしか思っていなかった。
「さっきと同じ魔法だと思っていたら痛い目見るわよ!」
アマツは杖に魔力を込めると、先端から魔法陣を展開し彼女の体ほどに大きく膨れた光球を召喚した。
するとその巨大な光球を意のままに操るよう彼女は杖を巧みに動かし、まるで遠くの土壁を薙ぎ壊すイメージで杖を薙ぎ払った。それに連動し、巨大な光球は狙いをつけた壁に向かって飛び出した。撃滅魔法ーー中級光魔法《鬼神光弾》だ。
ドゴォォ!!
「なっ!?」
アマツの光魔法から身を隠していた悪魔達は、巨大な土壁が突如現れた光球により破壊されたその光景を目にし驚愕した。
光魔法は土壁を通さないと考えていた彼らにとって、それは予測にもしない恐怖を味わうこととなった。
「おい嘘だろ!マジかよ!」
「逃げるぞ!迫って来る!」
悪魔達は目の前に迫る死から逃れようと飛び上がって逃げ出す。幸いにも巨大な光球の速度は自分達の飛行速度より劣る、逃げ出せば捕まることはまずないだろう。
と、必死に逃げ出す彼らはそれしか考えていなかった。逃げるのに夢中で身を隠す土壁から離れると…
ジュァ!!
「がッ…!」
弾丸のように飛び込んできた光球が悪魔の体を貫いた、突然の急襲に何が起きたのか彼は把握する前に見てしまった。
こちらに向かって杖を振り払う巫女の姿を、次なる光球がこちらに向かって飛んでくる光景をーー。
「上へ逃げるな!狙われるぞ!」
上へ逃げた仲間がどのような末路を辿ったのかを目撃した悪魔は、壁沿いに飛行しながら背後から迫る巨大な光球から逃げ続ける。
だがそんな逃走劇も終わりを告げる、上空から真下に向かって無数の光の雨が降り注ぐ光景が逃げた先に待ち構えていた。
「くそっ!はめられ…!」
空中で急停止し、急ぎその場から離れようとするが、自然の脅威に当てられたかのように悪魔達の体を光の雨が貫き続ける。
再び谷全域に悪魔達の悲痛な叫び声が上がる、それをよりもっと響かせる指揮者のごとく、アマツは崖上で披露するーー死の演奏会《デスオーケストラ》を。
「誘い込んで仕留めるには丁度いい地形だわ、面倒な奴もいない雑魚ばかりなら容易く済みそうね。」
彼女は命乞いのように聞こえる奴らの叫びを耳にせず、躊躇なく出し惜しみもなしに攻撃を仕掛け続ける。優雅に杖を振りながら他の場所に放った《鬼神光弾》を誘導、そして飛び出してきた悪魔の狙撃と挟み込むように放つ光の雨。
もはやアマツを止めようとする者は誰もいなかった、いや…そもそも反撃の準備すら与えてもらえない。彼女に攻撃を仕掛けること自体無謀、無意味、それを理解してしまったからこそ逃げることしか選択肢が生まれないのだ。
そんな状況だからこそ、逃げという奴らの行動から逸脱した者がアマツの目に映った。
「あいつは…」
一人、崖上を走る何者かがいた。肉眼では遠すぎて確認できないが、人型というのは間違いない。しかもその者は私達が向かう場所とは逆の方へ走っていた。
「ここからじゃ人か魔物かわからないわね、でも…」
アマツは崖上を走る者に向かって手を伸ばした。
「勇者達以外でこんな場所に人間なんているわけがない、どちらにせよ駆逐対象よ。」
アマツの手から魔法陣を展開させ、光魔法を詠唱しようとした瞬間…
「消えた…!?」
フッと、今そこで走っていた人物が崖上から姿を消した。
◆クロムside◆
「止まってください皆さん!何者かがこちらに向かって飛んで来ます!」
一番早くにその存在に気がついたのは先頭を走るコハクだった。
コハクが指を指した方向へ視線を向けると、赤色の飛行体がこちらに近づ来るのが見えた。
「敵か!?」
「いや待てアルノア!あいつは…」
アルノアは魔法を展開し、こちらに向かって来る何者かに標準を合わせようとすると、クロムに手で遮られた。
理由を述べようとしたが、目視で確認できるほどに飛行体が近づいて来ると全員の警戒が緩んだ。
飛んで飛行してくるということは悪魔の他ならない、赤く見えていたのは飛行する影響で広がっていた赤色のコートで、それと一緒になびく長い黒髪がそのコートの赤を見え隠れする。そして…
「レェェェェズゥゥゥゥ…」
聞き覚えのある声が谷に反響し、俺は咄嗟に危険を感じた。
「やばいレズリィ、遮蔽壁《ウォール》張れ!」
「えっ、だってそれじゃ…」
「いいから!早く!」
そうレズリィに伝えた後、振り返るとハイスピードで迫る悪魔の全貌が見えた。谷の偵察で送り込んだセーレだ。
「…ゥゥリィィィィ様ァァァァ!!会いたかっ…!」
バギィィ!!
スピードを落とさずそのままレズリィに向かって突撃して来たセーレは、レズリィが唱えた防壁魔法に直撃した。その威力は凄まじく、透明なバリアに衝突した際の割れ模様ができていた。再会のハグにしては度が過ぎている。
「ッがっ!レズリィしゃま…!どぅぉしてぇわぁたしをこぉばあむぅでしゅか…!」
「な、言っただろ?」
「マジかよ、突撃しただけで障壁に大きなヒビ入れやがった。」
ヒビが入ったバリアにへばりつくセーレを見て、全員が驚きと呆れに染まっていた。
その後、遮蔽壁《ウォール》を解除し、レズリィはセーレを座らせると、涼しい顔で怒りつけた。
「セーレさん、感動的な再会はいいですが限度を考えてください。死んでしまいます。」
「だって!」
「だってじゃないです!私や他の皆さんに怪我をさせるところだったんですよ!もっと考えて行動してください!」
「はぁぁい…」
自分の主人からお叱りを受け、しおれる姿を見せるセーレ。
そんな可哀想な姿を見せる彼女だが、よく見ると所々傷だらけになっているのが見てとれた。胴体につけられた切り傷や刺し傷は赤いコートに黒く染みついた血痕として表れ、右手の甲は鋼鉄性の手甲を突き破り痛々しい傷跡を見せていた。
レズリィはその傷ついた体を見て、怒りから彼女に同情する気持ちが湧き上がった。
「…でも、セーレさんの頑張りおかげで私達は助かりました。こんなに傷を負って…かなり大変な仕事だったしょう。」
私達に挨拶もせずに一人で敵地に向かい、死ぬかもしれない戦いを潜り抜けてきた。
帰る場所に戻れることがどれだけ幸せなことか、仲間達の顔を再び見れることがどれだけ嬉しいことか、それならあの突撃はセーレなりの喜びの気持ちの表れなのではないか?
「中等治癒《ハイヒール》」
レズリィは怪我をしているセーレの右手を優しく手に取り、進化した治癒魔法でセーレの傷を癒した。
その回復力は初級の治癒魔法より早く傷を治し、重傷だった右手もかさぶたができる程だ。
「進化したのか、今までより凄い回復量だ。」
「さっきクロムさんを治療した時に編み出したんです。無茶なことばかりする人達ですから、ちゃんと無茶できるように今まで以上の回復力を身につけないといけないって考えついたんですよ。」
無茶なことと、まるでクロムだけに向かって言っているように聞こえた。呆れを通り越して吹っ切れたような微笑をクロムの方に向けると、ペコっと軽く頭を下げ、
「はい、気をつけます…」
と、クロムはパーティーのリーダーとは思えない様子で謝った。
そうともしてる内にセーレの回復が終わり、レズリィはセーレの体の所々を目で追いながら聞いた。
「一通り傷は治しました、翼は動きますか?右手は完全に治ったと思わずなるべく安静にしててください。」
怒った時は打って変わって、自分の怪我の具合を心配してくれるレズリィの表情はまるで聖母のような存在だった。
「レズリィ様…!もうあなただけですよ!傷を癒してくれて、しかも私の体を心配してくれるのは!こんなありがとうも言わない、再会も喜ばない、口先だけで無理難題押し付けてくる人扱いの悪い人と違って!」
「ねぇ、それ俺に言ってる!?悪質な部分だけ切り取って話すのやめてくれない!」
レズリィの胸に顔を埋めながら俺に指をさすセーレ、それに合わせて皆もジロッとこちらを半眼で睨んできた。
「そんな目で見るなお前ら!俺だってセーレを助けようと考えて魔導隊といざこざ…」
クロムの苦労話の途中、彼の背後から矢のような細長い黄色の弾丸が襲いかかる。
「ッ!!」
いち早く気づいたニーナはその弾丸の斜線上に身を投げ出し、クロムを片手で横に突き飛ばした。
「ぬあっ!」
クロムの呻く声と一緒に、ニーナの槍が弾丸を弾く音が響いた。
「クロム!無事!?」
「あぁ…って、そう言える雰囲気じゃなさそうだな。」
突き飛ばされた時、崖上から誰かがこちらを見ていることに気がついた。
そこから俺の体を正確に狙った射撃技術、いや…魔法技術と言うべきか、こんな芸当ができる人物など一人しかいない。それが敵側だったらどれだけ良かったことか。
「どういう事か説明してもらえる?」
アマツだ、白装飾の着物が目立つ格好でそれが誰なのかわかった。彼女は光魔法で作った光球を薄く伸ばし、光球の浮遊を駆使した力で十数メートルはある土壁から飛び降り俺達の前に現れた。
その目は無慈悲に冷たく俺達を見ていた、躊躇なく殺せるという自信が彼女の容貌から物語っていた。
「後からじゃダメ?今こうして話してる間にも敵が襲って来たら大変だろ。」
「心配いらないわ、話す時間を設けるためにあらかた殲滅しておいたから。残党達のあの様子じゃ、もう襲いにくる事はないでしょうし。」
「マジか…あの大軍を殲滅って軽く言えるあたり、すごいを通り越して末恐ろしいんだけど。」
空気が重い…まるで神巫の巫女と相手しているような気分だ。まだ対話に応じてくれるところから見て、相手の話も聞かずに力でどうこうしようとする考えではない事だけは救いだが…
カンッ!
アマツは杖の先を地面に叩いた、それと同時に彼女の足元から黄色の魔法陣が展開され、その中から多くの光球が外へ出てきた。
「だから聞かせてほしいの、あなた達とその悪魔…どういう関係なのか。」
冷たく相手を気圧させるアマツの声に、俺達は恐怖という感情で心臓を締め付けられる。
そう…今までの対話と違う点として挙げられるのは、アマツ相手ではたとえ本当の事を話しても受け入れてくれる保証など絶対に無いことと…
戦って相手を落ち着かせるような、アマツはそんな柔な存在ではないということだ。
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「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
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