推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十一話 巫女の威圧①

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「……はっ!!」

 まるで爆風に押し出されたような感触を受け、シトリーは目覚めた。目の前は薄暗く、石造りの冷たい空間で一人地に座って寝ていたようだ。
 この空間には見覚えがある、谷から流れる腐敗ガスが少し匂う、地上から近い位置となればパンデルム遺跡内部第一層で間違いないだろう。

「ここは…私は…くっ…。」

 頭が酷くクラクラする、長い夢を見ていたせいか疲労感が半端なく、ましてやこんな臭う場所でずっといたのだ、気分が悪くなるのも当然だ。
 私はめまいを振り払おうと顔を手で覆う、すると手元に濡れた感触があった。意識がはっきりしてくるとわかる、私は…泣いていた。

「なんだ…これは…?それになんだったんだ…あの気持ち悪いほどに現実味のある夢は…?」

 長く見ていた夢が脳裏にこびりつくように覚えている。酷く生々しく悪夢のような話、だが私はその夢の内容に違和感を感じていた。
 仲間がいた…悪魔ではなく人間の?魔紅石を手に入れ武器を作った…私達の武器は魔力によるパワーなはずだ。
 私が見てきたものと経験してきたものとでは何もかもが違う。魔物の襲撃で重傷で倒れていた所を帝国の幹部に拾われ、傷を治療する段階で魔力を過剰に摂取してしまったがために私は悪魔になった。ヒズミもその場におり、私と同じく傷を治療した。彼は私と違って傷の治りが早く、人としてその姿を保つことができたのだ。
 そして、私とヒズミは救ってくれた恩を返すため帝国で働き続けた。その実力がヘラ様に届き、私は幹部にまで上りつめたはずなのだ…
 だけど…違う…何かが違う…私の心がそれを否定しているような、妙な不快感が体を駆け巡る。

「……いや、落ち着け私…死の瀬戸際にいたせいで混乱しているだけだ。私が元人間?ヘラ様を殺したいと憎んだ?そんなことあるわけがない!」

 私はその誤った記憶を振り払おうと否定的に念じた。
 きっと大勢の仲間の死を目の当たりにして幻覚を見ていただけだ、きっとヒズミに聞けば私と同じ言葉が返ってくる、ずっと帝国の下で働いていたと。だったらこんな不安や心配なんて別におかしいことじゃない、私の心が弱いだけに変な妄想をしてしまった。それで済む話だ、何も違和感など感じない。
 私は帝国幹部だ、他の悪魔より群を抜いて強い。
 聞かされた、記憶している、間違いなく私は帝国(ここ)に拾われて生きていた。
 私は…!

 私…は…

 ………………

 気づくとシトリーは、薄暗い空間の中で一人熱弁していた。
 誰も彼女の話など聞いておらず、誰も彼女の話に賛同する者もいない。ただ大きな声で独り言を発している、それが虚しく…そして…

「私は…誰に言い訳をしているんだ…。」

 自分の存在自体を自ら否定しているような感覚に合い、彼女は言葉を失った。

「うっ…!あぁ…ァァァァ!」

 色々な思考や感情が頭を巡り、頭痛と吐き気が止まらない。私は誰だ?本当の私は一体何なんだ?何が本当で何が違う?何故こんな不快な疑問を思い浮かべ続ける?わからない…わからないわからないわからない…!!
 自身の精神がスパークしかけ、あらゆる五感が閉ざされようとした瞬間…

 ーー閉じるな…自分の感情くらい静めろ…

「…っ!?」

 膨大な量の思考がグルグルと回り続けて頭がパンクしそうなはずなのに、その声はクリアに脳に反響した。

 ーー余計な考えは捨てろ…お前は私の指示に従っていればいい…

 まるでスイッチを入れられたように、その声に従われるように、たった一言を発したその内容に私の脳内で溢れた思考が何かに覆い被さるように見えなく、感じなくなった。
 自分の精神が反応する、その声の主に絶対的な服従をしなければならないと。

「ヘラ…様?」

 まるで神を前にしたかのような崇める姿をし、主の名を呼ぶ。そこに主の姿がいなくとも、脳内に響くその声に主が目の前に居座っているように見えた。

 ーー殺せ…私に歯向かう者すべてを…

「勇者達一行の殲滅…ですよね。ですが…それは…」

 シトリーはヘラの命令を聞き困窮する、仲間達の被害、自身の負傷による戦力低下、そして何より勇者の異常な変化、どれも良い報告など一つもない。何を言っても理不尽な返答が返ってくる、それに恐れることしかシトリーには許さなかった。

 ーー被害が甚大…自身は戦える状態ではない…だからもううつ手がない…そう言いたいのか?

 ヘラはシトリーの感情の揺らぎと、言いにくそうに口籠った様子に大体の状況を理解し、シトリーが言葉を紡ぐ前にその状況を答えた。
 その心を読まれたかのような答え方に冷や汗が滲み出たが…

 ーー自分の状態を見ろ…そしてこの空間の微小な違和感を感じ取れ…被害がどうなろうと構わない、私達はもう奴らに《王手》をかけている。

 ヘラが続いて述べた言葉にシトリーは予想もしなかったような声を発し、緊張の糸が緩んだ。

「王手…」

 その言葉がどういう意味なのか、シトリーは伝えられた言葉を理解するため体を起こし動き始めた。
 自分の存在について考え悩み続けていたから気づかなかった、あの勇者との戦いで負傷した傷が無くなり体が思った以上に軽い。きっと自分が倒れている時に仲間達が治療してくれたのだろう。
 そして…

「何…この体の中にまで伝わる異様な重圧は…。」

 まるで重苦しい空気が自分の体にまとわりつくような不快な感覚を感じる。この感覚には見覚えがある…ヘラ様が相手を威圧させる際によく使う、圧倒的魔力量を周囲に発散させる覇気だ。

「まさか…!?」

 シトリーは瞬間、自分以上の魔力量を持つ者がこの場に現れたと実感し、その異常事態に動揺と冷静さを交互に行き来しながら現れた実力者の存在を頭で探る。

「考えられるとすれば、最悪…敵対勢力の中に圧倒的な魔力を持つ者が現れたことだが…私が信じたいのは…!」

 シトリーはすぐさま遺跡の最下層に繋がる穴に飛び込んだ。その体が二層から三層へ移動する際、自身の危機感が察知する前にシトリーは体を翻すような姿勢で浮遊した。

「ぐっ…!この唯(ただ)ならぬ異臭は!」

 穴の下から何とも言いがたい強烈な異臭が立ち込め、シトリーの鼻腔に触る。自分が飛べる能力があって助かったと実感したのは今日以外他にはないだろう、もしあのまま下に降りてしまえば臭いで済む問題ではない、最悪生きては戻って来られないと予感がした。
 こんな異常事態は初めてだ、今までにない確かな成果、想像を軽く超えてくるその異常な魔力の発生。可能性など考えなくともわかる、故にこう考える。

「まさか…やったのか?厄災魔獣が…ついに復活を!?」

 地に降りた途端感じる、ゴゴゴゴ…と地鳴りを発しながら僅かに揺れ続ける空間を。穴の下を覗かなくともわかる、ゆっくりと…硬い地面を裂き…辺りの生物を萎縮させるような呻き声を発しながら…這い上がってくる巨大な何かを。

「こいつさえ復活すればここに用はない、急いでここから撤退を皆に伝えないと!」

 やった!やった!仲間達に申し訳ないことをしたが、今までの非道さは無駄じゃなかった!
 すぐに皆に知らせを!そして私を治してくれたことに感謝を伝えなければ!
 ヒズミ…私達は生きて帰れるぞ!勝利を手にし、胸を張って帰れる…!

 …そう、シトリーはこの悪臭漂う内部を喜びを隠さず飛行している。
 一度は諦めかけた心に火が灯る、一度負けたからなんだ?仲間が大勢やられたからなんだ?最終的に目的を達成できればそれでいい、私達の勝利ですべて決まる!
 シトリーは重たい石造りの入り口の扉を前に、思いっきりこじ開けて外の光を体に取り入れた。
 まるで自分を祝福してくれるような眩しい光、目が慣れないままではあるが私は外にいる仲間達に向かって勝利の宣言を混ぜた撤退を叫ぶ。

「お前達!撤退だ!厄災魔獣が目覚めたぞ!」

 その言葉に仲間達の歓喜の雄叫びが耳に届くのを待った。

「ーーー………。」

 しん、と。
 異様に静まり返る周りにシトリーは妙な胸騒ぎがした。
 眩しい太陽の光に徐々に慣れてきた目をゆっくりと開き、外の光景を見てその異様さを理解した。

 ーーそこには…最初から誰もいなかったような虚空が広がっていた。

 ………………は…………?

 言葉が出ない…同じ光景だというのに別世界に飛ばされたような気分だ。
 たしかに仲間達が大勢やられたところは見た、だがそれはここじゃない、まだ軍の半数近く、およそ200体程度がここに待機していたはずだ。
 誰かの声が聞こえたっていい、誰かが戦っている音がしたっていい、ましてや私を残して全員いなくなるとはおかしい話だ。

「皆…どこに行った?何故…誰もいない?」

 孤独がシトリーの心を壊していく、あれだけうるさいと思っていた仲間達の声が恋しくなる。私はどれだけ寝ていた?寝ている間に何があった?まさか…全員やられ…

「いや…!ありえない!あいつらがそう簡単にやられるような奴じゃない、きっと勇者達を追い詰めるために全員出動してる!そうに違いない!」

 最悪の結果が頭をよぎったが、生易しい願望でその思いたくないものを記憶の奥底に追いやった。
 だが、戦闘不能に陥っている幹部を一人残し全員出動などありえない。そんなの普通に考えればわかることだが、そんな事に気づけないほどシトリーは焦っていた。
 きっとどこかで戦っている、空を飛べば彼らの姿が見えてくる、と半ば都合のいい願望を胸にシトリーは飛び立つ。それだけがシトリーを動かす原動力だった、そう考えでもしないと夢で見たあの残酷な光景を思い浮かべてしまうから…

 ビュュン!!
 光線銃のような奇怪な音と共に、羽ばたくシトリーの翼に風穴が開いた。

「……ぁ?」

 マヌケな声を上げ、風穴が開いた翼に視線を送る。
 撃たれた…そう考えつくのが妥当だろう、じわじわとくる痛みでようやく自分が冷静ではないと気付かされた。
 そして、たった今自分が撃たれた方を注視すると、彼らがいた…

 計七人、獣人と人間、白巫女と黒装衣の人物、拳を交えた悪魔もいる。そして…彼がこちらを見上げていた。

「シトリー…やっぱり生きていやがったか。」

 勇者が、いた。

「あい…つ!!」
 
 ギリッ!と奥歯を噛み締め、恨めしそうな目でクロムを睨みつける。
 翼の負傷により飛行ができなくなったシトリーは崖先に着地し、睨みつけるクロムの視線を少し外すと、今の状況…突きつけられる現状…がシトリーの脳に焼きついた。

「あっ……あぁぁ……お前達…!」

谷の地形が大きく切り崩され、広く見渡しても仲間の姿など誰一人として確認できない。魔物の特性上、命がそこ尽きれば塵となって消えるのが宿命。だからこそ、見渡すかぎり誰もいない光景を目に苦い真実を受け入れるしかなかった。

「お前らァァッ…!何人殺したァァ!!」

 仲間達を殺されたその怒りが、慟哭混じりの殺意を表し勇者達に牙をむいた。


 ーー遡ること一時間前…。

 白い装衣を着飾ったアマツは崖上の頂上で死霊の谷とパンデルム遺跡に群がるシトリーの軍勢を見てため息をこぼした。

「はぁ…これじゃ光に群がる蛾と一緒ね。」

 数は20を数えたあたりから数えるのを諦めた、そんな絶望的に見える勢力を眺めながら、改めてクロムから教えてもらった状況を思い浮かべる。
 近衛隊と魔道隊の活躍により、こちらに攻めてきた軍勢を追いやることができたが、その代償に負傷者が多く出てしまったために二つの隊はこれ以上の深追いは不可と判断。
 クロム率いるパーティー五名はここから先の戦闘に継続できる力を持っているが、疲労と怪我による体力低下が目に見えている。特にクロムの状態は周りと比べて酷い、さっきまで起き上がるのがやっとな体の状態で皆の足に必死についていっている。戦闘となったら前線に立つことなどできないだろう。
 だが敵組織の状況も好戦にまで乗れていない、進軍してきた軍勢はほとんどが倒され、軍の司令塔である幹部も行動不能に陥っている。
 この幹部不在で指揮系統が落ちている今、奴らの目的である厄災魔獣の復活も成しえていない今しか攻めるチャンスはない。
 …と、聞いた話と照らし合わせるが、目の前の大軍をもう一度見てやる気を落とした。

「かなり減ってると期待していたけど全然ね、どっちも数で対抗しようっていう馬鹿な考えが見えてくるわ。」

 不満気に敵味方に愚痴をこぼした後、頭のスイッチを切り替えるように呆れた表情から慈悲を持たないような鋭い顔つきに切り替えた。

「クロノス、マリアナ…もうあんた達のような個の力を振るう者が希少種になってきている。時代が戦争を忘れてきてるわ。」

 懐から人差し指程度の長さの銀色の針を持つ、すると針が白く発光し始めアマツの背丈と同じほどに伸び、手にしっくりくるような太さに変わった。そして長い棒状の先端から四角くいくつもの折り重なった装飾が現れる。

 ーー神巫ノ祓串(かんなぎのはらえぐし)

 アマツが扱う専用杖であり、その形は神社の神主がお祓いに使う祭儀の道具であった。
 その杖を持ち、大きく円を描くと眩い光線が空中で杖を辿った軌跡となり現れる。そして出来上がった光の輪から文字が徐々に綴られていき黄色の魔法陣を形成した。
 その魔法陣から蛍のような小さな光球が何百と渦を巻くようになって現れ、幻想的な花火を作り出す。

「おい、あれを見てみろ!なんだあの弾幕!魔法なのか!?」

 その場にいるほとんどの悪魔がその弾幕に魅入られ、そして恐れた。それはまるで空からすべてを焼き払おうとするあの巨大な火球(超級魔法・紅蓮《インフィルノ》)を見た時のような本能的な死を。

「違う…違うけどそうじゃない…」

 ある悪魔は察した…炎のような威風な存在でもなく、雷のような荒々しさでもない、攻撃する魔法では珍しい暖かな光…強い光…を発しているあの魔法の存在を。

「嘘だろ…あれってまさか…」

 ある悪魔は察した…周りの風景に溶け込むことのない白い人間の存在を。
 20年前のルカラン王国とグラン帝国との戦争に現れた白装飾の女、大勢の同胞がその者に殺されたと記録に記され、先代勇者クロノスに続き最重要危険人物としてその特徴が綴られる。
 生きる希望…太陽の巫女…人間達は彼女にそう異名を名付けているが、最も呼ばれてる異名は…

「神巫の巫女ッ!」
「馬鹿なッ!なんでここに!」
「あんなの敵うわけない、シトリー様呼んでくる!」
「なら俺も!」
「わっ、私は仲間を集めてくる!」

 初めて目にした死を送りつける最強の存在に少数のひ弱な悪魔達は妥当な言い訳を発して、背を向けて逃げ出した。自分じゃ戦えないと、誰かに任せようと、強い味方にそれを押し付けた。

「お前達持ち場を離れるな!数で応戦しろ!」
「ただの人間に怖気づく馬鹿がいるか!あんな奴俺達の力で消し炭だ!」
「待て!突撃はまだ早い!」

 辺りは勝手に持ち場を離れる者達と、その者達に指示を送って留まらせる者達、こちらに向かって猛進して来る者達と指揮系統が落ちてバラバラに行動している光景が見てとれる。
 その光景が広がる隙をアマツは見逃さなかった。

「悪いけど、あんた達がどんなに策を練ろうが、今から私に向かって総攻撃を仕掛けようが…これが展開された時点であんた達はもう詰みよ。」

 そう言うと、自身の杖を悪魔の方へ向けた。すると、ゆっくりと渦巻く蛍の光のような弾幕は一瞬のうちに凄まじい速度に切り替わり、悪魔達の体に向かって撃ち込まれた。

「ーーは……?」

 アマツのもとへ飛び込んで行った者達を後ろで見ていた仲間達は絶句した。一瞬の出来事だった…弾丸のように飛び込んできた光球に仲間が撃たれ、悲痛な叫び声をあげる前に次の、また次の光球に撃たれ続ける。
 それはまさに機関銃のようであり、無差別に広範囲に容赦なく撃ち続ける。周りに味方を作らない狐狼の彼女だからこそ成せる、魔物殲滅魔法ーー中級光魔法《散光弾》だ。

「こっちに来るぞ!うっ、うわぁぁぁぁぁ!!」

 その射程は後方で見ていた仲間達にまで広がる、目の前の惨劇に呆気に取られていた者達は逃げる判断が遅れ次々と光魔法の餌食となっていく。

「ここまで届くっていうのか!あんながむしゃらに放つ魔法が!」

 無論、撒き散らすだけの魔法にここまでの射程がある事に驚きだが、彼らの本能が驚き以上の反応を示しているのはその威力だった。
 地面や壁に当たった光球は弾けて消える、まるでシャボン玉のように硬いものに触れた途端破裂する弱そうなものだったが、私達が相手だとそのシャボン玉は大きく化ける。
 体にその光球が触れた途端強力な酸をかけられたようたようにその部分が溶け始める、その酸が勢いよく向かってくるのだ、胴体に当たれば一瞬で風穴ができてしまう。
 甘く見ていた、情報だけでしか知らされていない神巫の巫女の力、その理不尽な火力を体験してようやく実感した。

 ーー悪魔は彼女に関わってはいけないことに。
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