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復活の厄災編
第五十一話 巫女の威圧③
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アルノアのようなちゃんとした訳ありとは違う、本物の悪魔との繋がりを持っている。悪魔を殺し続けてきた彼女にとってそれは理解できない事だ、今までの会話から察するに何を言おうにも彼女の経験がそれを論破してしまうだろう。
そして、説明が不十分だと分かれば問答無用でセーレを始末してしまう。アマツにはそれを容易くできる覚悟がある。
タチの悪い対談だ、何を言っても無駄だと体が先に気づいてしまったからか、俺を含め全員の口が緊張で開こうとはしなかった。
そんな重苦しい状況下の中で…
「おい!」
「ぎゃっ!」
セーレは俺を足蹴にしてアマツの前に突き出した。
「あいつにちゃんと説得して、役目でしょ。」
「おまっ!俺に全部押し付ける気か!?」
振り返ると蹴りを入れたセーレはレズリィの背に隠れ、顔の上部分を覗かして答えた。
「私も馬鹿じゃない、この状況で逃げられるわけもないし、私自身が説得しても意味ないことくらいわかる。私と皆の命を守るためにあいつを説得できるのはお前しかいないのよ勇者!」
「説得力ねぇよ!人に命預からせておいて自分だけ隠れんな馬鹿!」
セーレに向かってそう吠えた瞬間、アマツの杖が俺の顎下に素早く潜り込んだ。
俺は一瞬身の危険を感じ、両手を上げて降参の意思を示した。
「悪いけど…あんた達の茶番に付き合ってられる程、私の気も長くは続かないわよ。」
「武器を下ろしてくれアマツ、信じてもらえないかもしれないが彼女は俺達に危害を加えに来た敵じゃない。俺達の仲間なん…んぐっ!」
仲間と聞いた途端、杖を上げて俺の口を無理矢理閉じらせた。
「馬鹿を通り越して異常ねあんたは。そういうのは口では何とでも言えるの、話が合うとか絆とか、見えない感情で奴を仲間って決めつけるつもり?あんた…隙を突かれて背中を刺されるわよ。」
「確かにな…そんな口だけの関係じゃ良いように使われて裏切られるのがオチだ。でもこいつはそうじゃない、目に見える仲間の証明を持ってる。」
「仲間の証明ですって?」
アマツの目がより一層厳しくなる、口頭での説得はこれ以上が限界だろう。
「口で説明するより見せた方が早いな、少し待っててくれ。」
突きつけられた杖から離れ、仲間のもとに戻ると皆心配するような目をして俺を迎えた。
「クロムさん、仲間の証明って何ですか?そんな目に見える大事もの私達持ってましたっけ?」
コハクは仲間と証明するものを手にしていたか思い出そうと顔をしかめていた。
「仲間となった経緯を話すだけでは駄目なんですか?契約決闘《エンゲージバトル》の件でしたら私もその場にいたので話せますよ。」
「無理だ、それも突拍子もない話で信じてくれるとは限らない。目に見える証明が欲しい、契約書のサインみたいなものがな。」
レズリィはあの場で起きたことを全て話そうと俺に提案してきた。だがそれだけでは足りない、口で言うことはいくらでも誇張できてしまう。
アレが必要だ、アレを見せることができれば100%こちらの味方だと証明できる。そのアレを持っているのは…
「何よ?」
異様にこちらを見てくるクロムにセーレは嫌悪感を抱くように問う。
俺は、皆の視線を合わせることなくレズリィの背後にいるセーレを見て言った。
「アマツを説得するためにはお前の力が必要なんだ、手を貸してくれ。」
「嫌よ、あいつの前に出ろだなんて死んでくれって頼んでいるようなものじゃない。」
アマツに視線をやると必ず私と目が合う、私を警戒していつでも攻撃できるような姿勢で待っている。何かしようと動きを見せれば即刻撃たれるだろう。だから私は言わない、だから私は動かない。
そう意気込んでいた私に向かってクロムは言う。
「愛するレズリィがあいつに撃たれてもいいっていうのか?」
「…ッ!!それ…どういう…?」
「あいつの狙いはお前だけじゃない、お前と主従の繋がりを持ってるレズリィにも標的にかかる危険があるんだ。アマツには俺達を殺すくらいの覚悟がある、それでもお前は黙って見ているのか?」
クロムに言われた言葉に心が揺らぐセーレ、妙に真剣な表情をして内なる自分と葛藤する彼女を前にレズリィがクロムに小声で耳打ちする。
「ちょっとクロムさん!何をまた余計なこと吹き込んでいるんですか!?」
「仕方ないだろ、レズリィにしか言うこと聞かないし、セーレにしか仲間と証明できるもの無いんだから!」
「それはそうですが…そろそろ教えてくれませんか?仲間と証明するものって一体何なんですか?」
「それは…」
レズリィの問いに答えようとした瞬間、セーレが顔を上げて決心するかのように答えを発した。
「わかったわ、やればいいんでしょ。私のせいでレズリィ様が怪我するような惨めな姿晒すもんですか!」
俺の前で仁王立ちをし、今から行う決死の対談に力強い覚悟を見せた。
「よく言ったセーレ、じゃあ自分の身分をあいつに見せるために着ている物を脱いでくれ。」
と、俺がそう話した瞬間、セーレは素早く振り上げた手を俺の脳天に振り下ろした。そのあまりの衝撃に俺の頭と体が地面に叩きつけられた。
「あぁぁぁぁぁっっったま痛ぇぇぇ!!」
「バッカじゃないのお前!なに女の子に向かって服脱げとか言ってんの?キモっ!マジで死ね!」
ズキズキと痛みが走る頭を押さえ悶え苦しむ俺を見ながら、セーレは追い討ちをかけるように俺の体を何度も蹴り出した。
「たくっ…この緊迫した状況でなにふざけたこと言ってんだこの勇者は…」
隣でそれを聞いてたアルノアもため息を吐き、呆れた目で蹴られているクロムを見下ろしていた。そして…
「このっ!このっ!変態勇者!この馬鹿!芋虫め!」
何故かその蹴りにアルノアも参加していた、まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように彼女の蹴りには勢いがあった。
「おまっ!便乗してお前も蹴りに参加するなアルノア!いぃ…痛い痛い!同じとこ蹴らないで!」
最初は呆れて何も言えないレズリィやコハクもさすがにやり過ぎだと感じ、二人をクロムのもとから離れさせた。
「ちょっ!やり過ぎですアルノアさん!あなたは違うでしょ!」
「落ち着いてくださいセーレさん!クロムさんも、まずはちゃんとした情報を話してから説明してください。急に女の子に向かって脱げだなんて失礼ですよ。」
パーティー全員が地面に這いつくばるクロムに怒声を上げていた。
その光景を見ていたアマツは呆然と立ち尽くし理解できない表情をとった。悪魔が勇者に襲いかかった時のパーティー全員の対応がまるで日常的なこなれ感が出ているように感じとれたからだ。
パーティーのリーダーが襲われてる…それだけではない、誰も悪魔の意見と行動に反対する者がいない。
彼女達の隣にいるのは悪の象徴、騙し、奪い、私欲を求める生き物だ。それを相手に警戒心を持たずに接しているのは不自然過ぎる。まるで全員があの悪魔に洗脳されているかのような光景にも見てとれる。
もしかしてこれが?そう考えたアマツは少し戸惑った口調でクロムに聞いた。
「目に見える証明って、こんな余興を見せることが…」
「違うわ!普通に襲われてるの!」
クロムは涙目になりながらアマツの誤解を全力で解く。
「い…痛てぇ…くそぉ、話と長くなるんだよ。信頼性もない今の彼女の前で長ったらしい話してみろ、妄言一点張りで対話すらままならないぞ。」
「だからといって、何故セーレさんが脱ぐことになるんですか?それをまず説明してください!」
疑問に答えてほしいと、よろけながら立ちあがる俺に向かって真っ直ぐこちらを見つめるレズリィ。
と、その背後でアマツの視線から避けようと少し距離を置くセーレの姿。
(あいつ…)
彼女が逃げようと人の陰に隠れる動きに、俺はふと…ある疑問が浮かび上がる。
セーレ自身の無実を証明するためなのに、何故アマツの前ではなく俺に向かって感情的なのか、暴行で緊張感が緩んだはずなのに何故後ろに下がろうとするのか…その意図を理解した俺はレズリィの疑問に答える前にアマツに顔を向けた。
「ああ…説明する。だけどその前に…一つ約束してくれるかアマツ。」
クロムに呼びかけられ、ほんの僅か首を傾げて反応するアマツに頼みごとを告げた。
「殺気を抑えて、何も武器を構えず話だけに集中してほしい。」
「何故?」
「セーレが証言できない、始末しなきゃいけない対象なのは分かるが、喉元にナイフ突き立てられてる状態でまともに話なんてできる訳ない。説明させてほしいならこれだけは守ってくれ。」
アマツは渋々嫌な表情をしながら光魔法の出力を止めた。だがまだ完全には警戒を解いていない、半眼でこちらを睨みつけている。
それでも少しはマシになった気分だ、いつ撃たれるかもわからない緊張状態では迂闊な行動もできない。
これで少しは話せるだろ、とそう意図を込めた目線をセーレに向けた後、意を決して全てを話す。
「俺達はここに来る前、帝国幹部率いる軍勢と戦った。今俺を蹴り続けてレズリィの後ろで隠れているのはその軍勢を率いた幹部のセーレだ。」
その話に、ちらりとレズリィの背後から見える黒髪の悪魔に驚愕の眼差しでアマツは…
「幹部ですって!あんたらどんな危険人物を…!」
「話を最後まで聞いてくれ!」
アマツはその勢いで殺気を爆発させるほどの怒りが走る。それと同じ声量でクロムが叫び、怒りを仲裁させて話続けた。
「危害を加えないって言っただろ。こいつはな、契約決闘《エンゲージバトル》で負けてレズリィの奴隷にされてる。身も心もこっちに染まり切ったシロの悪魔だ。」
「契約決闘《エンゲージバトル》に勝ったですって!?そんな話信じられないわ、あの理不尽でクソみたいな賭けに人間が勝ったなんて聞いたことない。」
当然それが常識、アマツでもそれがわかる通りクソがつくほどの悪どい賭け勝負に人間が勝利したなど決してあり得ない。
だがそのありえないことを俺達は成し遂げた。その証拠に悪魔にはないアレがセーレにはある。
「だからその証明に…レズリィ、セーレの体から奴隷の紋様があるか探してくれ。俺の予想なら、胸にその紋様が刻まれてるはずだ。それも青色のな。」
「えっ…」
対話の途中、疑問だったあの言動の答えをサラッとレズリィに伝えると意外な答えに彼女は戸惑い、
「なんでそんなことわかるんですか?まさかセーレの体を…」
「違うから!そういうのがあるって耳にしたことがあるだけだから!」
皆の目が(特にセーレが)レズリィの誤解を招く言葉に呆れ模様で俺を睨みつける。当然ともいうべき反応だろう、何の前置きもなしで服を脱げと告げたり、刻印のある場所を的確に告げたりと、まるでセーレの裸を見たかような捉え方に聞こえてしまう。
「まぁ…俺も急に言って悪かったと思ってる。奴隷の身分なら自分の体に紋様がつけられていることくらいわかっているつもりだったが、それは建前みたいだったし。」
俺はセーレに向かってチラリと目を通すと、何か言いたそうなもどかしい顔をしている。
「多分本音はそういうことじゃないんだと思う、セーレは…」
「それ以上は言わなくていいわよ。」
唐突に声を発したセーレは、レズリィの陰から抜け出し前へ歩き出した。その途中、一瞬こちらに睨みつけ、
「説明省きすぎなのよキモ勇者、でも…お前が作った土台には感謝してる。」
そう言いつつ、覚悟を決めた表情でアマツがいる場所へ向かった。
「どういう意味なんですか?セーレさんは一体…」
意味深な会話と、何を言おうとしていたのか疑問になったレズリィは俺に問う。
「多分あいつはわかっていた、自分の体に刻印が刻まれてることを、それを見せればこの事態は解決できることを、でも…出来なかった。」
「出来なかったって…」
「アマツは対話なんて最初から望んじゃいなかった、対話するくらいなら最初の不意打ち攻撃も、俺達に光魔法を向けることなんてしない。」
話なんて無駄なこと、俺達が言う事すべてが理解できない妄言、そう結論付けるように俺達の関係は異常に見えていた。悪魔が人間と親しくだなんて騙されているに決まっている、そう思われて当然だから。
だからアマツは決して悪いことなどしていない、騙されている俺達に目を覚めさせようとしていただけだ。悪魔を絶対悪として認識している彼女からしてみれば当然の反応だと考える。
だからこそ…とクロムは思う。
「俺達の関係性を改めるべく、自分は俺達とじゃれ合う仲だってことを証明したくてあんな行動をとったんだろうな。本当に騙されていたら落ち着けってセーレに軽く言える雰囲気じゃなかっただろうし。」
そう話す隣で、レズリィは冷静に応じる。
「……あの…良いこと言ってるつもりみたいですけど、普通に服を脱げって言われて怒っただけじゃないでしょうか?」
「だよね…反省してる。」
少し苦い笑みを浮かべ、迷わず頷くクロム。
そして…そんな話をする中、アマツとセーレの間にも動きが生じる。
「聞いたと思うけど、私は契約決闘《エンゲージバトル》でレズリィ様の奴隷となった。お前の目には私が皆を良いように支配しているように見えてるみたいだけど、これを見て同じこと言えるかしら?」
セーレはそう言いつつ赤いコートを脱ぎ始めた、彼女が幹部と聞いた時から警戒心を強めていたアマツはセーレを無言で睨み続け、変な気を起こせば即殺せるように殺気を上手く消していた。
だが、セーレはそんな気を起こすこと無く、赤いコートの上部分を脱ぎ、中の白シャツのボタンを胸元まで開けると、ソレが見えるようにアマツへ胸を突き出した。
「見えるかしら?この紋様が。私が下、皆が上よ。一人を除いて…」
「おーい聞こえてるぞー、余計なことあんま言うなー。」
後ろから変態が気怠げに注意を促しているが無視して、セーレ。
「お前ならこの紋様の意味がわかるでしょう?」
とアマツにそう問う。彼女の目線の先には、白く綺麗な胸元に拳大ほどの大きさがある十字架と、操り糸でその十字架をまとわりつくような導線が入っている模様をした奴隷紋が刻まれており。アマツはその模様の意味を理解した。
「青色の奴隷紋…人間奴隷の証ね。」
アマツの口から出てきた意味あり気な奴隷の証という言葉に、コハクは首を傾げる。
「人間奴隷…?」
「人間が主人だと青色、魔物だと赤色に区別される。それに模様にも種類がある、悪魔ならヘラに付き従うから悪魔を象徴とした赤色の紋様が記されるんだ。」
「紋様…奴隷…」
その言葉にコハクはふと、ルーナ城で起こった事を思い浮かべる。あの時商会から助けた獣人族の仲間にその紋様が入っていただろうかと心配に思っていた。
「その紋様があるとどのようなことが起こるんですか?」
「自分に不利な制限をかけられる、主人が反抗するなと命令すれば反抗出来なくなるように、契約された主人からは逃げられなくなる。」
コハクを見ると少し思い詰めたかのような表情をしているのが見えた。質問の内容とセーレを見ず少し俯いているところから察し、俺は話を続けた。
「人間奴隷の特徴は絶対服従の権利にある、だけどその命令を下す主人の声が無ければ権能は機能しない。だから…」
コハクの頭にクロムは手を乗せ、優しく答える。
「ルーナ城を出て自由に歩き回れるなら、あいつらが縛られることは絶対ない。心配するな。」
聞かされた理由に、安心したように目を閉じ笑顔で返事した。
「……はい。」
皆が持つ疑問が解消した今、残る問題を解決しようとクロムはセーレの隣へ向かう。
「これでわかっただろ、セーレは俺達に危害を加えない。俺達の仲間だ。しかも主人は神官のレズリィだ、人を殺せと命令できる顔に見えるか?」
アマツは複雑な顔をしながら頭を抑える、人間奴隷として繋がれているということは反抗に移ることはまずない。それはわかった。
だがそれ以前に、最初に聞いた時よりも何故という疑問がさらに湧き上がる。
「じゃあ何故?あんた達は何故悪魔を仲間に取り入れようと考えたの?それも相手が幹部という危険(リスク)を負ってまで。」
アマツの問いにクロムが答えた。
「少しでも帝国内部の情報が欲しかった、今のこの戦いもセーレの情報があったから対応できたんだ。」
隣でセーレが私、やってやったぜ。みたいな自慢げの表情をしているが、それは置いといて…
「俺達はアマツみたいに、自分の力で何でも解決できる力は持っていない。だからこそ多少の危険(リスク)を負ってでも相手より先に先手を打つ。そこに降りかかる文句や暴論も甘んじて受ける、事件解決に近づけるなら認めてくれるだろ。」
「荒療治なやり方ね…そんな無茶苦茶な進み方をすれば、いずれ取り返しのつかないことになるわよ。それをわかってやってるの?」
その問いに、クロムはいつにも増して真剣な表情を作り答えた。
「これは戦いだ、負けたら死ぬんだよ。皆が死なないように少しでも準備しておく事は大事だろ。ただ俺は…その過程が他の人と少しズレているだけさ。」
あるものはなんだって使う、たとえ敵の駒を利用してでも勝たなければいけない。
負けたらリトライができるゲームじゃない、もし負けても戦闘前に再登場(リスポーン)が出来たとしても、このあらゆる感覚がリアルの現実で「死亡」という概念は恐ろしい。それは…これまでの戦いで経験したから理解していた。
ーー負ければ奪われる…尊厳も、価値も、命すらも。
そして…そんな最悪の結末を彼女達にも味合わせるわけにはいかない、だから…
「死に物狂いで正解のルートを見つけだす、皆で突破できる状況を作り出す、それが今代の勇者のやり方だ。」
そう力強く発した言葉に、アマツの心が揺れた。
「間違ってることは言ってない…けど…」
今代の勇者を見て思う。浅はか、力で解決するような能力もない、ただ頑張るだけのように聞こえる無駄な努力家、それが彼の印象だった。
だが…何故だろうか?彼が発する言葉に虚勢が感じられない。
(何?この無謀にも見える覚悟と、すべてがわかりきっているような口ぶりは…ただの無鉄砲さと何か違う…。)
理解できない事だらけで頭が痛くなる、彼は何を根拠にそう言える?彼のやり方に何故皆は反対しないのか?そんな戦い方を一体どこで学んできたのか?
聞きたい事は山ほどある、いつからか疑問の標的があの悪魔からクロムに変わっていた。
「駄目ね…キリがないわ。」
強敵とも相対していないのに疲れが湧き出てきた。天を仰ぐ仕草をし、気持ちを一旦リセットする。
「あんたらのこと…聞き出していたら日が暮れちゃうわ。何で単純に魔物を討伐してくれないのかしら。」
「先代達が強すぎなんだよ、別に帝国を倒すのに仲間を限定するなんて決まり無いだろ。だったらじゃんじゃか仲間を集めて強くなってやる。」
…ああ、まただ。この妄言にも聞こえる実際にやりかねない彼の勢い。そんな気持ちがどこから湧いて出てくるのか問いただしたい。
だが、ここにいてから時間をかけすぎた、さすがにこれ以上戦況を放置しておくのはまずい。アマツは渋々口を開き、
「わかったわ…今はこれ以上何も追求しない、その悪魔もあんた達の問題だから自分達で管理しなさい。」
頭に入った蟠(わだかま)りを消去し、頭のスイッチを切り変えると、それだけを言い残しクロム達より先に歩き出した。
後ろではパーティーの皆がセーレの存在を認められたことに安堵していた、本当に彼女は仲間なんだとアマツはそう感じていると…
「ありがとうなアマツ、信じてくれて。」
背後から聞こえたクロムの声に足を止め、不服そうにアマツは申し立てる。
「勘違いしないで、まだ完全に信じたわけじゃないわ。信用してほしいならこの先にいる黒幕を倒してみなさい。その意思を見せたなら考えてあげる。」
「考えてあげるって、それでも完全には信用していないんだな。」
「えぇ…悪魔と並んであんたもね。」
「俺がか?」
名指しされ、何故と言った表情でクロムは自分自身に指を指す。
「生き抜きなさいよ、死んだりしたら聞けるものも聞けなくなるから。」
そう言った後、先急ぐように再び前へ歩き始めた。
何だか、また面倒事になりそうだとクロムはそう考えながらもアマツを追いかける。
「皆行くぞ、あいつは待ってくれそうにないみたいだ。」
そして、説明が不十分だと分かれば問答無用でセーレを始末してしまう。アマツにはそれを容易くできる覚悟がある。
タチの悪い対談だ、何を言っても無駄だと体が先に気づいてしまったからか、俺を含め全員の口が緊張で開こうとはしなかった。
そんな重苦しい状況下の中で…
「おい!」
「ぎゃっ!」
セーレは俺を足蹴にしてアマツの前に突き出した。
「あいつにちゃんと説得して、役目でしょ。」
「おまっ!俺に全部押し付ける気か!?」
振り返ると蹴りを入れたセーレはレズリィの背に隠れ、顔の上部分を覗かして答えた。
「私も馬鹿じゃない、この状況で逃げられるわけもないし、私自身が説得しても意味ないことくらいわかる。私と皆の命を守るためにあいつを説得できるのはお前しかいないのよ勇者!」
「説得力ねぇよ!人に命預からせておいて自分だけ隠れんな馬鹿!」
セーレに向かってそう吠えた瞬間、アマツの杖が俺の顎下に素早く潜り込んだ。
俺は一瞬身の危険を感じ、両手を上げて降参の意思を示した。
「悪いけど…あんた達の茶番に付き合ってられる程、私の気も長くは続かないわよ。」
「武器を下ろしてくれアマツ、信じてもらえないかもしれないが彼女は俺達に危害を加えに来た敵じゃない。俺達の仲間なん…んぐっ!」
仲間と聞いた途端、杖を上げて俺の口を無理矢理閉じらせた。
「馬鹿を通り越して異常ねあんたは。そういうのは口では何とでも言えるの、話が合うとか絆とか、見えない感情で奴を仲間って決めつけるつもり?あんた…隙を突かれて背中を刺されるわよ。」
「確かにな…そんな口だけの関係じゃ良いように使われて裏切られるのがオチだ。でもこいつはそうじゃない、目に見える仲間の証明を持ってる。」
「仲間の証明ですって?」
アマツの目がより一層厳しくなる、口頭での説得はこれ以上が限界だろう。
「口で説明するより見せた方が早いな、少し待っててくれ。」
突きつけられた杖から離れ、仲間のもとに戻ると皆心配するような目をして俺を迎えた。
「クロムさん、仲間の証明って何ですか?そんな目に見える大事もの私達持ってましたっけ?」
コハクは仲間と証明するものを手にしていたか思い出そうと顔をしかめていた。
「仲間となった経緯を話すだけでは駄目なんですか?契約決闘《エンゲージバトル》の件でしたら私もその場にいたので話せますよ。」
「無理だ、それも突拍子もない話で信じてくれるとは限らない。目に見える証明が欲しい、契約書のサインみたいなものがな。」
レズリィはあの場で起きたことを全て話そうと俺に提案してきた。だがそれだけでは足りない、口で言うことはいくらでも誇張できてしまう。
アレが必要だ、アレを見せることができれば100%こちらの味方だと証明できる。そのアレを持っているのは…
「何よ?」
異様にこちらを見てくるクロムにセーレは嫌悪感を抱くように問う。
俺は、皆の視線を合わせることなくレズリィの背後にいるセーレを見て言った。
「アマツを説得するためにはお前の力が必要なんだ、手を貸してくれ。」
「嫌よ、あいつの前に出ろだなんて死んでくれって頼んでいるようなものじゃない。」
アマツに視線をやると必ず私と目が合う、私を警戒していつでも攻撃できるような姿勢で待っている。何かしようと動きを見せれば即刻撃たれるだろう。だから私は言わない、だから私は動かない。
そう意気込んでいた私に向かってクロムは言う。
「愛するレズリィがあいつに撃たれてもいいっていうのか?」
「…ッ!!それ…どういう…?」
「あいつの狙いはお前だけじゃない、お前と主従の繋がりを持ってるレズリィにも標的にかかる危険があるんだ。アマツには俺達を殺すくらいの覚悟がある、それでもお前は黙って見ているのか?」
クロムに言われた言葉に心が揺らぐセーレ、妙に真剣な表情をして内なる自分と葛藤する彼女を前にレズリィがクロムに小声で耳打ちする。
「ちょっとクロムさん!何をまた余計なこと吹き込んでいるんですか!?」
「仕方ないだろ、レズリィにしか言うこと聞かないし、セーレにしか仲間と証明できるもの無いんだから!」
「それはそうですが…そろそろ教えてくれませんか?仲間と証明するものって一体何なんですか?」
「それは…」
レズリィの問いに答えようとした瞬間、セーレが顔を上げて決心するかのように答えを発した。
「わかったわ、やればいいんでしょ。私のせいでレズリィ様が怪我するような惨めな姿晒すもんですか!」
俺の前で仁王立ちをし、今から行う決死の対談に力強い覚悟を見せた。
「よく言ったセーレ、じゃあ自分の身分をあいつに見せるために着ている物を脱いでくれ。」
と、俺がそう話した瞬間、セーレは素早く振り上げた手を俺の脳天に振り下ろした。そのあまりの衝撃に俺の頭と体が地面に叩きつけられた。
「あぁぁぁぁぁっっったま痛ぇぇぇ!!」
「バッカじゃないのお前!なに女の子に向かって服脱げとか言ってんの?キモっ!マジで死ね!」
ズキズキと痛みが走る頭を押さえ悶え苦しむ俺を見ながら、セーレは追い討ちをかけるように俺の体を何度も蹴り出した。
「たくっ…この緊迫した状況でなにふざけたこと言ってんだこの勇者は…」
隣でそれを聞いてたアルノアもため息を吐き、呆れた目で蹴られているクロムを見下ろしていた。そして…
「このっ!このっ!変態勇者!この馬鹿!芋虫め!」
何故かその蹴りにアルノアも参加していた、まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように彼女の蹴りには勢いがあった。
「おまっ!便乗してお前も蹴りに参加するなアルノア!いぃ…痛い痛い!同じとこ蹴らないで!」
最初は呆れて何も言えないレズリィやコハクもさすがにやり過ぎだと感じ、二人をクロムのもとから離れさせた。
「ちょっ!やり過ぎですアルノアさん!あなたは違うでしょ!」
「落ち着いてくださいセーレさん!クロムさんも、まずはちゃんとした情報を話してから説明してください。急に女の子に向かって脱げだなんて失礼ですよ。」
パーティー全員が地面に這いつくばるクロムに怒声を上げていた。
その光景を見ていたアマツは呆然と立ち尽くし理解できない表情をとった。悪魔が勇者に襲いかかった時のパーティー全員の対応がまるで日常的なこなれ感が出ているように感じとれたからだ。
パーティーのリーダーが襲われてる…それだけではない、誰も悪魔の意見と行動に反対する者がいない。
彼女達の隣にいるのは悪の象徴、騙し、奪い、私欲を求める生き物だ。それを相手に警戒心を持たずに接しているのは不自然過ぎる。まるで全員があの悪魔に洗脳されているかのような光景にも見てとれる。
もしかしてこれが?そう考えたアマツは少し戸惑った口調でクロムに聞いた。
「目に見える証明って、こんな余興を見せることが…」
「違うわ!普通に襲われてるの!」
クロムは涙目になりながらアマツの誤解を全力で解く。
「い…痛てぇ…くそぉ、話と長くなるんだよ。信頼性もない今の彼女の前で長ったらしい話してみろ、妄言一点張りで対話すらままならないぞ。」
「だからといって、何故セーレさんが脱ぐことになるんですか?それをまず説明してください!」
疑問に答えてほしいと、よろけながら立ちあがる俺に向かって真っ直ぐこちらを見つめるレズリィ。
と、その背後でアマツの視線から避けようと少し距離を置くセーレの姿。
(あいつ…)
彼女が逃げようと人の陰に隠れる動きに、俺はふと…ある疑問が浮かび上がる。
セーレ自身の無実を証明するためなのに、何故アマツの前ではなく俺に向かって感情的なのか、暴行で緊張感が緩んだはずなのに何故後ろに下がろうとするのか…その意図を理解した俺はレズリィの疑問に答える前にアマツに顔を向けた。
「ああ…説明する。だけどその前に…一つ約束してくれるかアマツ。」
クロムに呼びかけられ、ほんの僅か首を傾げて反応するアマツに頼みごとを告げた。
「殺気を抑えて、何も武器を構えず話だけに集中してほしい。」
「何故?」
「セーレが証言できない、始末しなきゃいけない対象なのは分かるが、喉元にナイフ突き立てられてる状態でまともに話なんてできる訳ない。説明させてほしいならこれだけは守ってくれ。」
アマツは渋々嫌な表情をしながら光魔法の出力を止めた。だがまだ完全には警戒を解いていない、半眼でこちらを睨みつけている。
それでも少しはマシになった気分だ、いつ撃たれるかもわからない緊張状態では迂闊な行動もできない。
これで少しは話せるだろ、とそう意図を込めた目線をセーレに向けた後、意を決して全てを話す。
「俺達はここに来る前、帝国幹部率いる軍勢と戦った。今俺を蹴り続けてレズリィの後ろで隠れているのはその軍勢を率いた幹部のセーレだ。」
その話に、ちらりとレズリィの背後から見える黒髪の悪魔に驚愕の眼差しでアマツは…
「幹部ですって!あんたらどんな危険人物を…!」
「話を最後まで聞いてくれ!」
アマツはその勢いで殺気を爆発させるほどの怒りが走る。それと同じ声量でクロムが叫び、怒りを仲裁させて話続けた。
「危害を加えないって言っただろ。こいつはな、契約決闘《エンゲージバトル》で負けてレズリィの奴隷にされてる。身も心もこっちに染まり切ったシロの悪魔だ。」
「契約決闘《エンゲージバトル》に勝ったですって!?そんな話信じられないわ、あの理不尽でクソみたいな賭けに人間が勝ったなんて聞いたことない。」
当然それが常識、アマツでもそれがわかる通りクソがつくほどの悪どい賭け勝負に人間が勝利したなど決してあり得ない。
だがそのありえないことを俺達は成し遂げた。その証拠に悪魔にはないアレがセーレにはある。
「だからその証明に…レズリィ、セーレの体から奴隷の紋様があるか探してくれ。俺の予想なら、胸にその紋様が刻まれてるはずだ。それも青色のな。」
「えっ…」
対話の途中、疑問だったあの言動の答えをサラッとレズリィに伝えると意外な答えに彼女は戸惑い、
「なんでそんなことわかるんですか?まさかセーレの体を…」
「違うから!そういうのがあるって耳にしたことがあるだけだから!」
皆の目が(特にセーレが)レズリィの誤解を招く言葉に呆れ模様で俺を睨みつける。当然ともいうべき反応だろう、何の前置きもなしで服を脱げと告げたり、刻印のある場所を的確に告げたりと、まるでセーレの裸を見たかような捉え方に聞こえてしまう。
「まぁ…俺も急に言って悪かったと思ってる。奴隷の身分なら自分の体に紋様がつけられていることくらいわかっているつもりだったが、それは建前みたいだったし。」
俺はセーレに向かってチラリと目を通すと、何か言いたそうなもどかしい顔をしている。
「多分本音はそういうことじゃないんだと思う、セーレは…」
「それ以上は言わなくていいわよ。」
唐突に声を発したセーレは、レズリィの陰から抜け出し前へ歩き出した。その途中、一瞬こちらに睨みつけ、
「説明省きすぎなのよキモ勇者、でも…お前が作った土台には感謝してる。」
そう言いつつ、覚悟を決めた表情でアマツがいる場所へ向かった。
「どういう意味なんですか?セーレさんは一体…」
意味深な会話と、何を言おうとしていたのか疑問になったレズリィは俺に問う。
「多分あいつはわかっていた、自分の体に刻印が刻まれてることを、それを見せればこの事態は解決できることを、でも…出来なかった。」
「出来なかったって…」
「アマツは対話なんて最初から望んじゃいなかった、対話するくらいなら最初の不意打ち攻撃も、俺達に光魔法を向けることなんてしない。」
話なんて無駄なこと、俺達が言う事すべてが理解できない妄言、そう結論付けるように俺達の関係は異常に見えていた。悪魔が人間と親しくだなんて騙されているに決まっている、そう思われて当然だから。
だからアマツは決して悪いことなどしていない、騙されている俺達に目を覚めさせようとしていただけだ。悪魔を絶対悪として認識している彼女からしてみれば当然の反応だと考える。
だからこそ…とクロムは思う。
「俺達の関係性を改めるべく、自分は俺達とじゃれ合う仲だってことを証明したくてあんな行動をとったんだろうな。本当に騙されていたら落ち着けってセーレに軽く言える雰囲気じゃなかっただろうし。」
そう話す隣で、レズリィは冷静に応じる。
「……あの…良いこと言ってるつもりみたいですけど、普通に服を脱げって言われて怒っただけじゃないでしょうか?」
「だよね…反省してる。」
少し苦い笑みを浮かべ、迷わず頷くクロム。
そして…そんな話をする中、アマツとセーレの間にも動きが生じる。
「聞いたと思うけど、私は契約決闘《エンゲージバトル》でレズリィ様の奴隷となった。お前の目には私が皆を良いように支配しているように見えてるみたいだけど、これを見て同じこと言えるかしら?」
セーレはそう言いつつ赤いコートを脱ぎ始めた、彼女が幹部と聞いた時から警戒心を強めていたアマツはセーレを無言で睨み続け、変な気を起こせば即殺せるように殺気を上手く消していた。
だが、セーレはそんな気を起こすこと無く、赤いコートの上部分を脱ぎ、中の白シャツのボタンを胸元まで開けると、ソレが見えるようにアマツへ胸を突き出した。
「見えるかしら?この紋様が。私が下、皆が上よ。一人を除いて…」
「おーい聞こえてるぞー、余計なことあんま言うなー。」
後ろから変態が気怠げに注意を促しているが無視して、セーレ。
「お前ならこの紋様の意味がわかるでしょう?」
とアマツにそう問う。彼女の目線の先には、白く綺麗な胸元に拳大ほどの大きさがある十字架と、操り糸でその十字架をまとわりつくような導線が入っている模様をした奴隷紋が刻まれており。アマツはその模様の意味を理解した。
「青色の奴隷紋…人間奴隷の証ね。」
アマツの口から出てきた意味あり気な奴隷の証という言葉に、コハクは首を傾げる。
「人間奴隷…?」
「人間が主人だと青色、魔物だと赤色に区別される。それに模様にも種類がある、悪魔ならヘラに付き従うから悪魔を象徴とした赤色の紋様が記されるんだ。」
「紋様…奴隷…」
その言葉にコハクはふと、ルーナ城で起こった事を思い浮かべる。あの時商会から助けた獣人族の仲間にその紋様が入っていただろうかと心配に思っていた。
「その紋様があるとどのようなことが起こるんですか?」
「自分に不利な制限をかけられる、主人が反抗するなと命令すれば反抗出来なくなるように、契約された主人からは逃げられなくなる。」
コハクを見ると少し思い詰めたかのような表情をしているのが見えた。質問の内容とセーレを見ず少し俯いているところから察し、俺は話を続けた。
「人間奴隷の特徴は絶対服従の権利にある、だけどその命令を下す主人の声が無ければ権能は機能しない。だから…」
コハクの頭にクロムは手を乗せ、優しく答える。
「ルーナ城を出て自由に歩き回れるなら、あいつらが縛られることは絶対ない。心配するな。」
聞かされた理由に、安心したように目を閉じ笑顔で返事した。
「……はい。」
皆が持つ疑問が解消した今、残る問題を解決しようとクロムはセーレの隣へ向かう。
「これでわかっただろ、セーレは俺達に危害を加えない。俺達の仲間だ。しかも主人は神官のレズリィだ、人を殺せと命令できる顔に見えるか?」
アマツは複雑な顔をしながら頭を抑える、人間奴隷として繋がれているということは反抗に移ることはまずない。それはわかった。
だがそれ以前に、最初に聞いた時よりも何故という疑問がさらに湧き上がる。
「じゃあ何故?あんた達は何故悪魔を仲間に取り入れようと考えたの?それも相手が幹部という危険(リスク)を負ってまで。」
アマツの問いにクロムが答えた。
「少しでも帝国内部の情報が欲しかった、今のこの戦いもセーレの情報があったから対応できたんだ。」
隣でセーレが私、やってやったぜ。みたいな自慢げの表情をしているが、それは置いといて…
「俺達はアマツみたいに、自分の力で何でも解決できる力は持っていない。だからこそ多少の危険(リスク)を負ってでも相手より先に先手を打つ。そこに降りかかる文句や暴論も甘んじて受ける、事件解決に近づけるなら認めてくれるだろ。」
「荒療治なやり方ね…そんな無茶苦茶な進み方をすれば、いずれ取り返しのつかないことになるわよ。それをわかってやってるの?」
その問いに、クロムはいつにも増して真剣な表情を作り答えた。
「これは戦いだ、負けたら死ぬんだよ。皆が死なないように少しでも準備しておく事は大事だろ。ただ俺は…その過程が他の人と少しズレているだけさ。」
あるものはなんだって使う、たとえ敵の駒を利用してでも勝たなければいけない。
負けたらリトライができるゲームじゃない、もし負けても戦闘前に再登場(リスポーン)が出来たとしても、このあらゆる感覚がリアルの現実で「死亡」という概念は恐ろしい。それは…これまでの戦いで経験したから理解していた。
ーー負ければ奪われる…尊厳も、価値も、命すらも。
そして…そんな最悪の結末を彼女達にも味合わせるわけにはいかない、だから…
「死に物狂いで正解のルートを見つけだす、皆で突破できる状況を作り出す、それが今代の勇者のやり方だ。」
そう力強く発した言葉に、アマツの心が揺れた。
「間違ってることは言ってない…けど…」
今代の勇者を見て思う。浅はか、力で解決するような能力もない、ただ頑張るだけのように聞こえる無駄な努力家、それが彼の印象だった。
だが…何故だろうか?彼が発する言葉に虚勢が感じられない。
(何?この無謀にも見える覚悟と、すべてがわかりきっているような口ぶりは…ただの無鉄砲さと何か違う…。)
理解できない事だらけで頭が痛くなる、彼は何を根拠にそう言える?彼のやり方に何故皆は反対しないのか?そんな戦い方を一体どこで学んできたのか?
聞きたい事は山ほどある、いつからか疑問の標的があの悪魔からクロムに変わっていた。
「駄目ね…キリがないわ。」
強敵とも相対していないのに疲れが湧き出てきた。天を仰ぐ仕草をし、気持ちを一旦リセットする。
「あんたらのこと…聞き出していたら日が暮れちゃうわ。何で単純に魔物を討伐してくれないのかしら。」
「先代達が強すぎなんだよ、別に帝国を倒すのに仲間を限定するなんて決まり無いだろ。だったらじゃんじゃか仲間を集めて強くなってやる。」
…ああ、まただ。この妄言にも聞こえる実際にやりかねない彼の勢い。そんな気持ちがどこから湧いて出てくるのか問いただしたい。
だが、ここにいてから時間をかけすぎた、さすがにこれ以上戦況を放置しておくのはまずい。アマツは渋々口を開き、
「わかったわ…今はこれ以上何も追求しない、その悪魔もあんた達の問題だから自分達で管理しなさい。」
頭に入った蟠(わだかま)りを消去し、頭のスイッチを切り変えると、それだけを言い残しクロム達より先に歩き出した。
後ろではパーティーの皆がセーレの存在を認められたことに安堵していた、本当に彼女は仲間なんだとアマツはそう感じていると…
「ありがとうなアマツ、信じてくれて。」
背後から聞こえたクロムの声に足を止め、不服そうにアマツは申し立てる。
「勘違いしないで、まだ完全に信じたわけじゃないわ。信用してほしいならこの先にいる黒幕を倒してみなさい。その意思を見せたなら考えてあげる。」
「考えてあげるって、それでも完全には信用していないんだな。」
「えぇ…悪魔と並んであんたもね。」
「俺がか?」
名指しされ、何故と言った表情でクロムは自分自身に指を指す。
「生き抜きなさいよ、死んだりしたら聞けるものも聞けなくなるから。」
そう言った後、先急ぐように再び前へ歩き始めた。
何だか、また面倒事になりそうだとクロムはそう考えながらもアマツを追いかける。
「皆行くぞ、あいつは待ってくれそうにないみたいだ。」
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