4 / 34
4.唐突の婚約破棄
しおりを挟む
激しい消耗の発作から数日後。
まだベッドから起き上がることもままならないうちに、王家主催の晩餐会への参加を命じる使者がやってきた。
父は「王太子殿下たってのご所望だ。これが最後の機会だと思え。これ以上、王家と我が家の顔に泥を塗るようなことがあれば……分かっているな。這ってでも出席しろ」と容赦ない語気で私を追い立てた。
アマンダはここぞとばかりに嫌味を口にしながら、私の着替えをさせる。
「まあ、晩餐会でございますか。この素晴らしいドレスが可哀想ですわ。イリス様がお召しになった方がどれほど輝くことでしょうに。倒れるのなら、せめて人目につかない場所でお願いしますよ」
鏡に映る私はシルクのドレスとは不釣り合いなほど顔色が悪く、まるで死装束をまとった亡霊のようだった。母は私の姿に大げさなため息をついて顔を背けた。
◇◇◇
王宮の大広間は人々の熱気で満ち溢れていた。
そのすべてが今の私には毒だった。
頭は割れるように痛み、一歩進むごとに足元が揺らぐ。
魔力がじわじわと体から抜けていく不快な感覚が人込みの中でさらに加速していくようだった。
壁の花に徹し、ただこの時間が過ぎ去るのを待とうとしたその時だった。
「フィーナ・セレスティア」
振り返ると婚約者であるアッシュ・エリオット王太子が立っていた。
彼の隣にはまるで光そのものを纏ったかのように輝く妹のイリスがいる。
「アッシュ殿下……ごきげんよう」
かろうじて声を絞り出し礼をする。
が、アッシュは私の挨拶を無視し、軽蔑に満ちた瞳で私を頭のてっぺんから爪先まで眺めた。
「その顔色、その震え……情けないにも程がある。王太子妃となるべき者が催事に出席するだけでこれほど消耗するとは。お前のその体はもはや欠陥品と言っても過言ではあるまい」
「……っ! そ、そのような…ことは……」
「口答えをするな。事実であろう。そもそもお前を妃候補として受け入れたのは、セレスティアが歴史ある魔術師の家系だからだ。その力をもってすれば、その程度の不調、とうに克服できて然るべきではないのか? 一向に改善の兆しすら見せぬとは王家の期待を裏切るにも程がある!」
イリスは心配そうな表情を浮かべてみせるが、その瞳の奥には抑えきれない喜びの色が滲んでいた。
「まあ、殿下。お姉様もお辛いのですから、あまり責めないであげてください」
「イリス、お前は優しすぎる。だが、国を背負う立場にある我々にそのような甘えは許されんのだ」
アッシュはそう言うと、私の腕を乱暴に掴み、広間の中央へと引きずり出した。突然のことに音楽が止み、全ての視線が私たちに集中する。
「皆の者、静粛に! 今宵、発表すべきことがある!」
アッシュの声が静まり返った大広間に響き渡った。
「本日、私はここに宣言する! セレスティア伯爵家令嬢、フィーナ・セレスティアとの婚約をこれをもって破棄する!」
まだベッドから起き上がることもままならないうちに、王家主催の晩餐会への参加を命じる使者がやってきた。
父は「王太子殿下たってのご所望だ。これが最後の機会だと思え。これ以上、王家と我が家の顔に泥を塗るようなことがあれば……分かっているな。這ってでも出席しろ」と容赦ない語気で私を追い立てた。
アマンダはここぞとばかりに嫌味を口にしながら、私の着替えをさせる。
「まあ、晩餐会でございますか。この素晴らしいドレスが可哀想ですわ。イリス様がお召しになった方がどれほど輝くことでしょうに。倒れるのなら、せめて人目につかない場所でお願いしますよ」
鏡に映る私はシルクのドレスとは不釣り合いなほど顔色が悪く、まるで死装束をまとった亡霊のようだった。母は私の姿に大げさなため息をついて顔を背けた。
◇◇◇
王宮の大広間は人々の熱気で満ち溢れていた。
そのすべてが今の私には毒だった。
頭は割れるように痛み、一歩進むごとに足元が揺らぐ。
魔力がじわじわと体から抜けていく不快な感覚が人込みの中でさらに加速していくようだった。
壁の花に徹し、ただこの時間が過ぎ去るのを待とうとしたその時だった。
「フィーナ・セレスティア」
振り返ると婚約者であるアッシュ・エリオット王太子が立っていた。
彼の隣にはまるで光そのものを纏ったかのように輝く妹のイリスがいる。
「アッシュ殿下……ごきげんよう」
かろうじて声を絞り出し礼をする。
が、アッシュは私の挨拶を無視し、軽蔑に満ちた瞳で私を頭のてっぺんから爪先まで眺めた。
「その顔色、その震え……情けないにも程がある。王太子妃となるべき者が催事に出席するだけでこれほど消耗するとは。お前のその体はもはや欠陥品と言っても過言ではあるまい」
「……っ! そ、そのような…ことは……」
「口答えをするな。事実であろう。そもそもお前を妃候補として受け入れたのは、セレスティアが歴史ある魔術師の家系だからだ。その力をもってすれば、その程度の不調、とうに克服できて然るべきではないのか? 一向に改善の兆しすら見せぬとは王家の期待を裏切るにも程がある!」
イリスは心配そうな表情を浮かべてみせるが、その瞳の奥には抑えきれない喜びの色が滲んでいた。
「まあ、殿下。お姉様もお辛いのですから、あまり責めないであげてください」
「イリス、お前は優しすぎる。だが、国を背負う立場にある我々にそのような甘えは許されんのだ」
アッシュはそう言うと、私の腕を乱暴に掴み、広間の中央へと引きずり出した。突然のことに音楽が止み、全ての視線が私たちに集中する。
「皆の者、静粛に! 今宵、発表すべきことがある!」
アッシュの声が静まり返った大広間に響き渡った。
「本日、私はここに宣言する! セレスティア伯爵家令嬢、フィーナ・セレスティアとの婚約をこれをもって破棄する!」
162
あなたにおすすめの小説
わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。
バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。
そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。
ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。
言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。
この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。
3/4 タイトルを変更しました。
旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」
3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて
放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。
行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。
たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。
ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。
聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~
雪丸
恋愛
【あらすじ】
聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。
追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。
そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。
「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」
「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」
「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」
命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに?
◇◇◇
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
カクヨムにて先行公開中(敬称略)
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました
er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。
宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。
絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。
近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。
追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~
放浪人
恋愛
公爵令嬢セラフィナは、異母妹イゾルデの策略により、婚約者である王子アラリックから「悪役令嬢」の汚名を着せられ、婚約破棄と同時に辺境への追放を宣告される。絶望の中、彼女を待ち受けていたのは、冷酷無比と噂される「氷の辺境伯」カシアンとの政略結婚だった。死をも覚悟するセラフィナだったが、カシアンは噂とは裏腹に、不器用ながらも彼女を大切に扱い始める。戸惑いながらも、カシアンの隠された優しさに触れ、凍てついた心が少しずつ溶かされていくセラフィナ。しかし、そんな彼女たちの穏やかな日々を、過去の陰謀が再び脅かそうとする。果たしてセラフィナは、降りかかる不遇を乗り越え、カシアンと共に真実の愛と幸福を掴むことができるのか? そして、彼女を陥れた者たちに訪れる運命とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる