【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

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4.唐突の婚約破棄

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激しい消耗の発作から数日後。
まだベッドから起き上がることもままならないうちに、王家主催の晩餐会への参加を命じる使者がやってきた。

父は「王太子殿下たってのご所望だ。これが最後の機会だと思え。これ以上、王家と我が家の顔に泥を塗るようなことがあれば……分かっているな。這ってでも出席しろ」と容赦ない語気で私を追い立てた。

アマンダはここぞとばかりに嫌味を口にしながら、私の着替えをさせる。

「まあ、晩餐会でございますか。この素晴らしいドレスが可哀想ですわ。イリス様がお召しになった方がどれほど輝くことでしょうに。倒れるのなら、せめて人目につかない場所でお願いしますよ」

鏡に映る私はシルクのドレスとは不釣り合いなほど顔色が悪く、まるで死装束をまとった亡霊のようだった。母は私の姿に大げさなため息をついて顔を背けた。


◇◇◇


王宮の大広間は人々の熱気で満ち溢れていた。
そのすべてが今の私には毒だった。
頭は割れるように痛み、一歩進むごとに足元が揺らぐ。
魔力がじわじわと体から抜けていく不快な感覚が人込みの中でさらに加速していくようだった。
壁の花に徹し、ただこの時間が過ぎ去るのを待とうとしたその時だった。

「フィーナ・セレスティア」

振り返ると婚約者であるアッシュ・エリオット王太子が立っていた。
彼の隣にはまるで光そのものを纏ったかのように輝く妹のイリスがいる。

「アッシュ殿下……ごきげんよう」

かろうじて声を絞り出し礼をする。
が、アッシュは私の挨拶を無視し、軽蔑に満ちた瞳で私を頭のてっぺんから爪先まで眺めた。

「その顔色、その震え……情けないにも程がある。王太子妃となるべき者が催事に出席するだけでこれほど消耗するとは。お前のその体はもはや欠陥品と言っても過言ではあるまい」
「……っ! そ、そのような…ことは……」
「口答えをするな。事実であろう。そもそもお前を妃候補として受け入れたのは、セレスティアが歴史ある魔術師の家系だからだ。その力をもってすれば、その程度の不調、とうに克服できて然るべきではないのか? 一向に改善の兆しすら見せぬとは王家の期待を裏切るにも程がある!」

イリスは心配そうな表情を浮かべてみせるが、その瞳の奥には抑えきれない喜びの色が滲んでいた。

「まあ、殿下。お姉様もお辛いのですから、あまり責めないであげてください」
「イリス、お前は優しすぎる。だが、国を背負う立場にある我々にそのような甘えは許されんのだ」

アッシュはそう言うと、私の腕を乱暴に掴み、広間の中央へと引きずり出した。突然のことに音楽が止み、全ての視線が私たちに集中する。

「皆の者、静粛に! 今宵、発表すべきことがある!」

アッシュの声が静まり返った大広間に響き渡った。

「本日、私はここに宣言する! セレスティア伯爵家令嬢、フィーナ・セレスティアとの婚約をこれをもって破棄する!」
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