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3.謎の魔力疾患
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自室に戻った私はベッドに倒れ込むように身を投げ出した。
悔しい。悲しい。そして何より―――苦しい。
家族からも侍女からも存在を否定される。
「……どうして私だけがこんな目に……」
窓の外からは活気のある王都の賑わいが聞こえてくる。
妹のイリスは今頃、街の人々から喝采を浴びているのだろう。
『聖女イリス様!』と。
そして私は薄暗い部屋の片隅でただ痛みに耐えるだけ。
「幽霊令嬢……出来損ない……」
家族からも世間からも、そう呼ばれ続ける人生。
ゆっくりと体を起こし、部屋の隅にある書架に向かった。
そこには魔術に関する古今東西の書物がぎっしりと並んでいる。
知識との対話が私の唯一の慰めだった。
――私のこの症状は一体何なのか。
その答えを求めて、あらゆる魔力疾患に関する文献を読み漁った。
(『過剰魔力症候群』……違う。『魔力枯渇症』……これも違う)
どの症例にも当てはまらない。
私の体は巨大な魔力タンクでその底には大きな穴が空いているかのよう。
いくら魔力を満たしても、そこからとめどなく流れ出て私自身を潤す分さえ残らない。
(魔力は……どこに消えているの……?)
その疑問がずっと頭から離れない。
制御できないのではなく、まるで誰かに何かに――強制的に「使わされている」ような感覚。
もしそうだとしたら、誰が?何のために?
ふと、私は窓辺に寄り、王都の景色を眺めた。
活気ある街並みの向こう、丘の上にそびえ立つ王宮。
エリオット王国の中心。
私の婚約者――王太子アッシュ・エリオット殿下の住まう場所。
いつか私の良き理解者になってくれるのでは、なんて淡い期待はとっくに砕け散った。アッシュ様も私が王家の汚点でしかないと思っているはずだ。
孤独だった。
家族からも侍女からも婚約者からも、誰からも求められない。
私の存在価値って一体なんなのだろう。
「う……っ!」
その時、これまでとは比較にならないほどの激しい魔力消耗の波が私を襲った。
視界がぐらりと揺れ、立っていられなくなる。
床に崩れ落ち、荒い息を繰り返した。
「はぁっ……はぁっ……! あ、ああ……!」
ひゅうと喉が鳴る。
体の内側からごっそりと何かが奪われていく。
寒い。骨の芯まで凍てつくようだ。
ガタガタガタッ!
部屋の中の家具が漏れ出した魔力に呼応して微かに震え始める。
窓ガラスには真冬のように霜が張り付いていく。
「な、なんですの!?」
異変に気づいたのか、廊下からアマンダの声が聞こえ、扉が再び乱暴に開けられた。
床にうずくまる私を見下ろした彼女の顔は一瞬驚きに歪んだが、すぐに「またか」といううんざりした表情に変わった。
「またでございますか、お嬢様! 本当に手のかかる……!」
「だ、いじょう、ぶ……すぐ、に……」
「大丈夫なわけないでしょう!? ああもう、面倒ですわね! 誰か、誰か医師を呼んできなさい! 早く!」
アマンダの甲高い声は心配する響きではなく、ただヒステリックに響き渡るだけだった。面倒事が起きたと周りに触れ回っているように。
もう意識が朦朧としてきた。
ああ、まただ。
また、この得体の知れない“何か”に私は命を吸い取られていく。
(もう……いや……)
いっそこのまま魔力がすべてなくなって、楽になれたらいいのに。
そんな考えが頭をよぎる。
薄れゆく意識の中、最後に私の目に映ったのは、早くこの騒ぎが収まらないかと苛立つアマンダの冷たい目だった。
悔しい。悲しい。そして何より―――苦しい。
家族からも侍女からも存在を否定される。
「……どうして私だけがこんな目に……」
窓の外からは活気のある王都の賑わいが聞こえてくる。
妹のイリスは今頃、街の人々から喝采を浴びているのだろう。
『聖女イリス様!』と。
そして私は薄暗い部屋の片隅でただ痛みに耐えるだけ。
「幽霊令嬢……出来損ない……」
家族からも世間からも、そう呼ばれ続ける人生。
ゆっくりと体を起こし、部屋の隅にある書架に向かった。
そこには魔術に関する古今東西の書物がぎっしりと並んでいる。
知識との対話が私の唯一の慰めだった。
――私のこの症状は一体何なのか。
その答えを求めて、あらゆる魔力疾患に関する文献を読み漁った。
(『過剰魔力症候群』……違う。『魔力枯渇症』……これも違う)
どの症例にも当てはまらない。
私の体は巨大な魔力タンクでその底には大きな穴が空いているかのよう。
いくら魔力を満たしても、そこからとめどなく流れ出て私自身を潤す分さえ残らない。
(魔力は……どこに消えているの……?)
その疑問がずっと頭から離れない。
制御できないのではなく、まるで誰かに何かに――強制的に「使わされている」ような感覚。
もしそうだとしたら、誰が?何のために?
ふと、私は窓辺に寄り、王都の景色を眺めた。
活気ある街並みの向こう、丘の上にそびえ立つ王宮。
エリオット王国の中心。
私の婚約者――王太子アッシュ・エリオット殿下の住まう場所。
いつか私の良き理解者になってくれるのでは、なんて淡い期待はとっくに砕け散った。アッシュ様も私が王家の汚点でしかないと思っているはずだ。
孤独だった。
家族からも侍女からも婚約者からも、誰からも求められない。
私の存在価値って一体なんなのだろう。
「う……っ!」
その時、これまでとは比較にならないほどの激しい魔力消耗の波が私を襲った。
視界がぐらりと揺れ、立っていられなくなる。
床に崩れ落ち、荒い息を繰り返した。
「はぁっ……はぁっ……! あ、ああ……!」
ひゅうと喉が鳴る。
体の内側からごっそりと何かが奪われていく。
寒い。骨の芯まで凍てつくようだ。
ガタガタガタッ!
部屋の中の家具が漏れ出した魔力に呼応して微かに震え始める。
窓ガラスには真冬のように霜が張り付いていく。
「な、なんですの!?」
異変に気づいたのか、廊下からアマンダの声が聞こえ、扉が再び乱暴に開けられた。
床にうずくまる私を見下ろした彼女の顔は一瞬驚きに歪んだが、すぐに「またか」といううんざりした表情に変わった。
「またでございますか、お嬢様! 本当に手のかかる……!」
「だ、いじょう、ぶ……すぐ、に……」
「大丈夫なわけないでしょう!? ああもう、面倒ですわね! 誰か、誰か医師を呼んできなさい! 早く!」
アマンダの甲高い声は心配する響きではなく、ただヒステリックに響き渡るだけだった。面倒事が起きたと周りに触れ回っているように。
もう意識が朦朧としてきた。
ああ、まただ。
また、この得体の知れない“何か”に私は命を吸い取られていく。
(もう……いや……)
いっそこのまま魔力がすべてなくなって、楽になれたらいいのに。
そんな考えが頭をよぎる。
薄れゆく意識の中、最後に私の目に映ったのは、早くこの騒ぎが収まらないかと苛立つアマンダの冷たい目だった。
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