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2.非情な家族
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簡素な朝食を自室で済ませた後、父であるセレスティア伯爵に呼び出された。重い足取りで執務室へ向かうと、机の向こうで父がしかめっ面をして私を待っていた。
「またその顔色か、フィーナ」
開口一番、投げつけられたのは心配ではなく詰問だった。
「申し訳ありません、お父様……」
「お前のその体調について王家から問い合わせがあった。『婚約者である王太子の妃となる者がいつまでも病に臥せっていては示しがつかん』と、遠回しに釘を刺されたのだ。どうするつもりだ」
父の冷たい視線が私を射抜く。
その隣に立つ母もまた軽蔑の眼差しを向けてきた。
「本当に情けないことですわ。我がセレスティア家の恥ですわね」
母の足元で微睡んでいた大型犬がその声に反応してゆるりと頭を持ち上げた。我が家の愛犬ミルキーだ。
「あら、ミルキー。どうしたの?私が怖い顔をしていたかしら」
母は一瞬で表情を和らげ、長女に向けるのとは天地ほども違う甘い声で犬に話しかける。その寵愛ぶりはこの犬の方が本当の娘だとでも言いたげだった。
「お母様……」
「だってお聞きなさい、フィーナ。あなたの妹、イリスは『聖女』とまで呼ばれて、神殿や民衆から絶大な支持を得ているのですよ?奇跡を呼ぶ治癒魔法に神々しい精霊召喚。それに比べて姉のあなたは一体何ですの?魔力は無駄に多いだけで制御もできず、ただ寝込んでいるだけ。出来損ないと言われても仕方ありませんわ」
グサリグサリと言葉のナイフが心に傷跡を残していく。
魔力が常に消耗し続ける理由がわからない以上、私にだってどうしようもないのに。好きでこうなっているわけではないのに。
「申し訳ございません……」
その時、書斎の扉が軽やかに開いた。
「あら、お姉様もいらしたのですね」
そこに立っていたのは妹イリスだった。活力と自信に満ち溢れたその姿は私とは何もかもが対照的。周りには祝福するかように光の粒子がキラキラと舞っている。彼女が得意とする光の精霊の加護だ。
「イリス、今日も神殿へ?」
さっきまでの険しい表情はどこへやら、母はイリスに優しく声をかける。
「ええ! 王太子殿下から直々にご指名なの。最近、わたくしの力を頼ってくださる方がとても多いみたいで。ふふ、けどわたくしの治癒魔法と精霊様のお力があればきっと大丈夫!」
そう言って、イリスはちらりとこちらに視線を向けた。その瞳に浮かぶのは哀れみと優越感。
「お姉様もいつまでもお部屋に籠もっていないで、少しは家の役に立っては如何ですかしら?まあ、そのお体では無理でしょうけれど。わたくし、お姉様の病が少しでもよくなるように、精霊様にお祈りしておきますわね」
一見優しげな笑みの裏には真心のかけらもない。
彼女はただ不出来な姉を持つ心優しい聖女を演じているだけ。
―――家族の前で、世間の前で。
何も言い返せず、ただ俯くことしかできなかった。イリスはそんな私を一瞥すると、ふわりとスカートを翻し、鼻歌交じりに部屋を出て行った。
「……見たかフィーナ。あれがセレスティア家の令嬢としてあるべき姿だ。お前も少しは見習え」
父の吐き捨てるような言葉を背に、私は逃げるようにふらつく足で執務室を後にした。
「またその顔色か、フィーナ」
開口一番、投げつけられたのは心配ではなく詰問だった。
「申し訳ありません、お父様……」
「お前のその体調について王家から問い合わせがあった。『婚約者である王太子の妃となる者がいつまでも病に臥せっていては示しがつかん』と、遠回しに釘を刺されたのだ。どうするつもりだ」
父の冷たい視線が私を射抜く。
その隣に立つ母もまた軽蔑の眼差しを向けてきた。
「本当に情けないことですわ。我がセレスティア家の恥ですわね」
母の足元で微睡んでいた大型犬がその声に反応してゆるりと頭を持ち上げた。我が家の愛犬ミルキーだ。
「あら、ミルキー。どうしたの?私が怖い顔をしていたかしら」
母は一瞬で表情を和らげ、長女に向けるのとは天地ほども違う甘い声で犬に話しかける。その寵愛ぶりはこの犬の方が本当の娘だとでも言いたげだった。
「お母様……」
「だってお聞きなさい、フィーナ。あなたの妹、イリスは『聖女』とまで呼ばれて、神殿や民衆から絶大な支持を得ているのですよ?奇跡を呼ぶ治癒魔法に神々しい精霊召喚。それに比べて姉のあなたは一体何ですの?魔力は無駄に多いだけで制御もできず、ただ寝込んでいるだけ。出来損ないと言われても仕方ありませんわ」
グサリグサリと言葉のナイフが心に傷跡を残していく。
魔力が常に消耗し続ける理由がわからない以上、私にだってどうしようもないのに。好きでこうなっているわけではないのに。
「申し訳ございません……」
その時、書斎の扉が軽やかに開いた。
「あら、お姉様もいらしたのですね」
そこに立っていたのは妹イリスだった。活力と自信に満ち溢れたその姿は私とは何もかもが対照的。周りには祝福するかように光の粒子がキラキラと舞っている。彼女が得意とする光の精霊の加護だ。
「イリス、今日も神殿へ?」
さっきまでの険しい表情はどこへやら、母はイリスに優しく声をかける。
「ええ! 王太子殿下から直々にご指名なの。最近、わたくしの力を頼ってくださる方がとても多いみたいで。ふふ、けどわたくしの治癒魔法と精霊様のお力があればきっと大丈夫!」
そう言って、イリスはちらりとこちらに視線を向けた。その瞳に浮かぶのは哀れみと優越感。
「お姉様もいつまでもお部屋に籠もっていないで、少しは家の役に立っては如何ですかしら?まあ、そのお体では無理でしょうけれど。わたくし、お姉様の病が少しでもよくなるように、精霊様にお祈りしておきますわね」
一見優しげな笑みの裏には真心のかけらもない。
彼女はただ不出来な姉を持つ心優しい聖女を演じているだけ。
―――家族の前で、世間の前で。
何も言い返せず、ただ俯くことしかできなかった。イリスはそんな私を一瞥すると、ふわりとスカートを翻し、鼻歌交じりに部屋を出て行った。
「……見たかフィーナ。あれがセレスティア家の令嬢としてあるべき姿だ。お前も少しは見習え」
父の吐き捨てるような言葉を背に、私は逃げるようにふらつく足で執務室を後にした。
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