【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

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7.新たな息吹

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「なんだ、あんたは。幽霊か何かか?」
「……人間よ」
「だろうな。だがな、こんな場所に貴族の令嬢みたいな格好の奴がいる方が幽霊よりよっぽど不気味だ。道にでも迷ったのか?」

用心深く問いただす。

「いいえ。私はフィーナ・セレスティア。王都から追放され、今日からここが私の暮らす場所だと」
「なるほど、追放令嬢サマというわけか。それは大変だったな。見ての通り、ここは君のような人が着飾って生きていける場所じゃない。水も食料もすべてが貴重品なんだ。早めに別の場所を探すことだな」
「忠告ありがとう。でも、私はここで生きていくと決めたの。私を捨てた人たちを見返すためじゃない。この場所で私自身の力で生きてみたい」

きっぱりと言い返した私に青年は意外そうな顔をした。彼は私の顔をじっと見つめる。

「……妙だな。追放されてきた割にはずいぶんと顔色がいいじゃないか。もっと泣き喚いてるか、青白い顔でへたり込んでいるかとばかり思っていたが」
「以前よりずっと体調がいいの。この土地は私に合っているのかもしれない」
「合っているだと? この瘴気まみれの土地が? 頭のネジでも飛んでるのか? ……自己紹介がまだだったな。俺はロイエル。普段は隣のグリゼルダ皇国って小国に住んでるんだが、月に数度ここへ来ては無駄な足掻きをしてる物好きさ」

ロイエルと名乗った彼はふいっと私から顔を背け、再び畑に向き直った。

「見ての通りこの土地を蘇らせようとしてる。偉い学者が開発したっていう『瘴気耐性植物』の種をどうにか手に入れてな。これを育てて土地を浄化するんだ」
「すごいわ……。あなた一人で?」
「他に誰がいる。けど結果はこれだ」

ロイエルが指さした先には、か細く芽を出した苗がいくつかあったが、どれも葉が黄色く変色し、今にも枯れ果てそうだった。

「瘴気が強すぎる。耐性があると言っても、この土地では気休めにもなりゃしない」

彼の声は諦めの色に染まっていた。
私は無意識にその弱々しい苗に歩み寄り、そっと膝をついた。

(可哀想に……。なんだか昔の私みたい……)

常に何かに生命力を奪われ、ただ枯れていくのを待つだけの存在。
私は自然と枯れかけた苗の一つに手を伸ばしていた。
静かに祈りをささげる。すると―――

「―――え?」

自分の指先から温かい光のようなものが溢れ出し、苗へと注ぎ込まれていくのが見えた。それはかつての暴走する魔力とは似て非なるもの。意志に逆らって荒れ狂うことのない清らかで優しい力。

―――すると奇跡が起こった。

私が触れた苗がほのかな光を放ち始めたのだ。
黄色く変色していた葉は見る見るうちに瑞々しい緑色を取り戻し、萎れていた茎がしゃんと天に向かって伸びていく。

「なっ……!?」

ロイエルが信じられないものを見る目で、私と苗を交互に見つめていた。

「おい……君、今……何をした?」
「……わからない。でも……暖かかくて優しくて……。見て、ロイエル……この子、元気になったみたい」

私は自分の両手を見つめた。
この力は、間違いなく私の魔力。
けれど、生まれつき制御できなかったはずの力が今は思い通りに動いてくれる。それどころか生命力を吸い上げるのではなく、与える力に変わっている。

(私の魔力は……「何か」に奪われ、性質を捻じ曲げられていた……?)

その「何か」から解放された今、本来の力を取り戻したのかもしれない。

「おい、こっちもだ!こっちもやってみてくれ!」

ロイエルは我に返ると、慌てた様子で他の枯れかけた苗を指さした。私は彼の言う通り、一つ一つの苗にそっと触れていく。すると触れた苗が次々と生命力を取り戻し、畑全体が淡い光と生命力に満たされていった。
全ての苗が蘇った畑を前に、ロイエルは呆然と立ち尽くしていた。

「……信じられない……。こんなこと……」

彼はゆっくりと私の方を振り返った。
その瞳には驚愕と、そして――希望の光が満ちていた。

「フィーナ……君は一体何者なんだ?」

その問いに私は穏やかに微笑んで答えた。

「王都では『出来損ない』の『幽霊令嬢』と呼ばれていたわ。でも……ここでは違うみたいね」

―――私は生まれ変わった。
この見捨てられた地で、本当の自分として。
長年の呪縛から解き放たれた私の新しい人生が、二人の壮大な挑戦が今、静かに幕を開けようとしていた。
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