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6.見捨てられた地
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王宮を追われた私に与えられたのは粗末な布袋一つと、骨張った老馬が引く荷馬車だけだった。御者台には無言で鞭を振るう兵士が一人。
「セレスティア家の紋章が入ったものは一つたりとも持っていくな」
それだけが伝えられ、家族の誰も、侍女のアマンダすら見送りに来ることはなかった。
ガタガタと揺れる荷台の上で、王都から遠ざかっていく景色をぼんやりと眺めていた。あれほど私を苦しめた家族や元婚約者たちの顔を思い浮かべても、不思議と心は凪いでいた。
(さよなら、私の牢獄)
一日また一日と馬車が進むにつれて、私は自分の体に起きている信じられない変化に気づき始めていた。
(あれ……?)
あれほど私をむしばんでいた頭痛がほとんど感じられない。
喉の奥にこびりついていた倦怠感が薄れ、体の芯からじわじわと魔力が漏れ出すあの不快な感覚も、いつの間にか消え失せていた。
最初は気のせいかと思った。
けれど旅が終わりに近づく頃には確信に変わっていた。
(体が……軽い)
生まれ落ちてからずっと私を縛り付けていた重い枷が音もなく外れたかのようだった。魔力を絶えず吸い上げられていた巨大な穴がぴたりと塞がった感覚。皮肉なことに全てを失い、死地へ送られる今、人生で最も満ち足りた気分でいた。
「着いたぞ、元令嬢」
何日目かの昼過ぎ、兵士の無愛想な声が響いた。
荷台から降り立つと、そこは噂に違わぬ荒涼とした土地だった。
地面はひび割れ、枯れた木々がまるで亡霊のように枝を伸ばしている。
空気は淀み、濃い瘴気が霧のように漂っていた。
「ここがお前の住処だ。食料は袋の中の分だけ。あとは自力でなんとかしろ。せいぜい長生きすることだな。ではお達者で」
兵士はそう言い残すとさっさと馬車をUターンさせ、逃げるように走り去って行った。あっという間にその姿は見えなくなり本当に私一人だけが、この「グランフェルド」に取り残された。
用意されていた小屋は埃をかぶった廃屋だった。
それでも立派なベッドがあったあの息苦しい部屋よりも、ずっと心地よく感じられた。
(ここでなら静かに生きていけるかもしれない)
深く息を吸い込んだ。
王都の人々の悪意や蔑みを含んだ空気より、この瘴気の方がよほど私の肌に馴染む気がした。
◇◇◇
翌朝、驚くほどすっきりと目覚めた。
長年苦しめられた悪夢のような朝のめまいがない。
信じられない思いで体を起こし、手足を動かしてみる。
痛みもだるさもどこにもない。
小屋の外に出て、辺りを散策してみることにした。
しばらく歩くと、この不毛の土地で信じられない光景を目にした。
痩せた土地に作られた小さな畑。
傍らにはここまでの移動手段らしい馬車が停まっている。
そこで一人の青年がくわを片手に必死で土を耕していたのだ。
土埃で汚れた簡素な服、雑に切られた黒髪。
私より少し年上だろうか。
私が近づいていくのに気づくと、青年は警戒心を露わにした鋭い視線を向けてきた。
「セレスティア家の紋章が入ったものは一つたりとも持っていくな」
それだけが伝えられ、家族の誰も、侍女のアマンダすら見送りに来ることはなかった。
ガタガタと揺れる荷台の上で、王都から遠ざかっていく景色をぼんやりと眺めていた。あれほど私を苦しめた家族や元婚約者たちの顔を思い浮かべても、不思議と心は凪いでいた。
(さよなら、私の牢獄)
一日また一日と馬車が進むにつれて、私は自分の体に起きている信じられない変化に気づき始めていた。
(あれ……?)
あれほど私をむしばんでいた頭痛がほとんど感じられない。
喉の奥にこびりついていた倦怠感が薄れ、体の芯からじわじわと魔力が漏れ出すあの不快な感覚も、いつの間にか消え失せていた。
最初は気のせいかと思った。
けれど旅が終わりに近づく頃には確信に変わっていた。
(体が……軽い)
生まれ落ちてからずっと私を縛り付けていた重い枷が音もなく外れたかのようだった。魔力を絶えず吸い上げられていた巨大な穴がぴたりと塞がった感覚。皮肉なことに全てを失い、死地へ送られる今、人生で最も満ち足りた気分でいた。
「着いたぞ、元令嬢」
何日目かの昼過ぎ、兵士の無愛想な声が響いた。
荷台から降り立つと、そこは噂に違わぬ荒涼とした土地だった。
地面はひび割れ、枯れた木々がまるで亡霊のように枝を伸ばしている。
空気は淀み、濃い瘴気が霧のように漂っていた。
「ここがお前の住処だ。食料は袋の中の分だけ。あとは自力でなんとかしろ。せいぜい長生きすることだな。ではお達者で」
兵士はそう言い残すとさっさと馬車をUターンさせ、逃げるように走り去って行った。あっという間にその姿は見えなくなり本当に私一人だけが、この「グランフェルド」に取り残された。
用意されていた小屋は埃をかぶった廃屋だった。
それでも立派なベッドがあったあの息苦しい部屋よりも、ずっと心地よく感じられた。
(ここでなら静かに生きていけるかもしれない)
深く息を吸い込んだ。
王都の人々の悪意や蔑みを含んだ空気より、この瘴気の方がよほど私の肌に馴染む気がした。
◇◇◇
翌朝、驚くほどすっきりと目覚めた。
長年苦しめられた悪夢のような朝のめまいがない。
信じられない思いで体を起こし、手足を動かしてみる。
痛みもだるさもどこにもない。
小屋の外に出て、辺りを散策してみることにした。
しばらく歩くと、この不毛の土地で信じられない光景を目にした。
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傍らにはここまでの移動手段らしい馬車が停まっている。
そこで一人の青年がくわを片手に必死で土を耕していたのだ。
土埃で汚れた簡素な服、雑に切られた黒髪。
私より少し年上だろうか。
私が近づいていくのに気づくと、青年は警戒心を露わにした鋭い視線を向けてきた。
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