【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

文字の大きさ
17 / 34

17.支えになりたい

しおりを挟む
「えっ……?」
「公務で王宮を訪れた時だ。大勢の貴族たちが談笑する中で、君は一人壁際で静かに佇んでいた」

彼の言葉に記憶の扉が開かれる。
それはいつかの辛い公務。
気分が悪くなるのを必死で堪え、早く時間が過ぎるのを祈っていたあの日のこと。

「周りの連中が聞こえよがしに『幽霊令嬢』だの『病弱な飾り物』だのって君を嘲笑っていた。腹の底から怒りが込み上げて殴りかかりそうになったよ。だが君は違った。誰に何を言われても決して卑屈になることなく、一輪の花のようにそこにいた。その姿が……ずっと忘れられなかったんだ」

――――思いがけない告白。
孤独の闇の中にいた私をこんなにも真摯に見ていてくれた人がいた。
私は一人なんかじゃなかった――――。

「だが俺は属国の皇太子。君は王太子の婚約者だ。迂闊に声をかければ、かえって君を面倒な立場に追いやってしまうかもしれない。結局、何もできずに見ていることしかできなかった。……すまない」
「ううん、あなたのその気持ちだけであの時の辛かった私が今、救われたから」

ロイエルは照れをごまかすようにガリガリと首筋を掻く。
そして改まって真剣に語り始める。

「フィーナ。俺は君をただの客人としてここに招いたわけじゃない。俺の、いや、このグリゼルダ皇国のパートナーとしてここにいてほしいんだ」
「パートナー……?」
「そうだ。君はグランフェルドを蘇らせた。それはこの国にとって何物にも代えがたい奇跡だ。もう誰も君を『出来損ない』なんて呼ばせない。君は世界を変える力を持った『聖女』以上の存在なんだ」

彼の力強い訴えが心の奥深くに染み渡っていく。

「この国の発展に力を貸してほしい。俺たちには君の力が必要だ」

彼の目を見つめ返した。そこにはもう微塵の迷いもなかった。
すべてを失い、空っぽになったはずの私にこんなにも素晴らしい居場所と使命を与えてくれる人がいる。
私ははっきりと頷いた。

「喜んで。私でよければ……あなたと一緒ならきっと何でもできる。あなたの隣でこのグリゼルダ皇国のために、私の力のすべてを捧げます」

その答えを聞いてロイエルの顔が満面の笑みで輝いた。
それはグランフェルドで見た、飾り気のない私の好きな彼の笑顔だった。


◇◇◇


その夜、ロイエルに連れられてグリゼルダ皇国の女帝陛下に謁見することになった。
玉座に座る女性は凛とした威厳を放ちながらも、その瞳の奥にはロイエルと通じる深い優しさを宿している。彼女が女帝、アウレリア・グリゼルダ陛下。

「顔を上げなさい、フィーナ・セレスティア」

ロイエルが隣で励ますように小さく頷いてくれるのを感じながら、ゆっくりと顔を上げた。

「息子から全て聞きました。我が夫が夢見、志半ばで果たせなかったグランフェルドの再生……。その奇跡を成し遂げてくれたこと、グリゼルダ皇国を代表し心より感謝します」
「もったいないお言葉です、陛下。私一人の力ではございません。ロイエル殿下とそして先帝陛下の遺された研究があったからこそです」
「エリオットでのあなたの境遇も聞いています。あのような非道な仕打ちを受けながら、あなたのその瞳の輝きは少しも曇っていない。それどころか苦難を乗り越えた者だけが持つ、強く清らかな光を持っている」

女帝はふっと表情を和らげ、母の顔になった。

「フィーナ、どうか私の愚息の支えになってはくれませんか。あの子は情に厚いがゆえに、一人で多くを背負い込みすぎる。あなたのような人が隣にいてくれるのなら、これほど心強いことはない」

それは国の未来を共に担う対等なパートナーとして私を認めてくれた言葉だった。

「はい、陛下。喜んでお受けいたします。この身に宿る力のすべてをロイエル殿下と、そしてグリゼルダ皇国の未来のために」

迷いなく告げた私の言葉に女帝は深く頷いた。
この日、皇太子の最も信頼する協力者として新たな一歩を踏み出した。
――――大丈夫、もう私は一人ではないのだから。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

有賀冬馬
恋愛
子爵令嬢の私は、いつだって日陰者。 唯一の光だった公爵子息ヴィルヘルム様の婚約者という立場も、あっけなく捨てられた。「君のようなつまらない娘は、公爵家の妻にふさわしくない」と。 もう二度と恋なんてしない。 そう思っていた私の前に現れたのは、傷を負った一人の青年。 彼を献身的に看病したことから、私の運命は大きく動き出す。 彼は、この国の王太子だったのだ。 「君の優しさに心を奪われた。君を私だけのものにしたい」と、彼は私を強く守ると誓ってくれた。 一方、私を捨てた元婚約者は、新しい婚約者に振り回され、全てを失う。 私に助けを求めてきた彼に、私は……

悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。 ……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。 「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」 「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」 ※※※ 冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【26話完結】日照りだから帰ってこい?泣きつかれても、貴方のために流す涙はございません。婚約破棄された私は砂漠の王と結婚します。

西東友一
恋愛
「やっぱり、お前といると辛気臭くなるから婚約破棄な?あと、お前がいると雨ばっかで気が滅入るからこの国から出てってくんない?」 雨乞いの巫女で、涙と共に雨を降らせる能力があると言われている主人公のミシェルは、緑豊かな国エバーガーデニアの王子ジェイドにそう言われて、婚約破棄されてしまう。大人しい彼女はそのままジェイドの言葉を受け入れて一人涙を流していた。  するとその日に滝のような雨がエバーガーデニアに降り続いた。そんな雨の中、ミシェルが泣いていると、一人の男がハンカチを渡してくれた。 ミシェルはその男マハラジャと共に砂漠の国ガラハラを目指すことに決めた。 すると、不思議なことにエバーガーデニアの雨雲に異変が・・・  ミシェルの運命は?エバーガーデニアとガラハラはどうなっていくのか?

元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

碧野葉菜
恋愛
フランチェスカ家の伯爵令嬢、アンジェリカは、両親と妹にいない者として扱われ、地下室の部屋で一人寂しく暮らしていた。 そんな彼女の孤独を癒してくれたのは、使用人のクラウスだけ。 彼がいなくなってからというもの、アンジェリカは生きる気力すら失っていた。 そんなある日、フランチェスカ家が破綻し、借金を返すため、アンジェリカは娼館に売られそうになる。 しかし、突然現れたブリオット公爵家からの使者に、縁談を持ちかけられる。 戸惑いながらブリオット家に連れられたアンジェリカ、そこで再会したのはなんと、幼い頃離れ離れになったクラウスだった――。 8年の時を経て、立派な紳士に成長した彼は、アンジェリカを妻にすると強引に迫ってきて――!? 執着系年下美形公爵×不遇の無自覚美人令嬢の、西洋貴族溺愛ストーリー!

【完結】婚約破棄された令嬢リリアナのお菓子革命

猫燕
恋愛
アルテア王国の貴族令嬢リリアナ・フォン・エルザートは、第二王子カルディスとの婚約を舞踏会で一方的に破棄され、「魔力がない無能」と嘲笑される屈辱を味わう。絶望の中、彼女は幼い頃の思い出を頼りにスイーツ作りに逃避し、「癒しのレモンタルト」を完成させる。不思議なことに、そのタルトは食べた者を癒し、心を軽くする力を持っていた。リリアナは小さな領地で「菓子工房リリー」を開き、「勇気のチョコレートケーキ」や「希望のストロベリームース」を通じて領民を笑顔にしていく。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...