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思い出の秘密基地で
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「リリーナ、今のアランの態度、ひどすぎるわ」
沈んだ声で話しかけてきたのは、同年代の友人であるビアンカ。彼女はわたしの表情を気遣うように見つめてくる。
「彼、どうしちゃったの? あんなふうに変わるなんて信じられない」
「わたしだって……。ああしてわざと傷つけるような言葉を投げつけてくる」
ビアンカの憤慨する声がかえってわたしの孤独を際立たせる。ただ小さく苦笑いしてみせるだけ。彼女はわたしの背中をさすりながら、そっと耳打ちする。
「ねえ、本当のところはどうなの? 何か理由があるんじゃない? 人があんなふうに一夜にして変わるなんて……」
「……正直、わたしにもよくわからない。春風のように優しかった彼が……。確かめる術がないの。あんなにも強く拒絶されて、さらに踏み込む勇気もない……」
「そう……。でも、何かおかしいと感じるのなら、放っておかないほうがいい気がする。リリーナ、あなた自身がどうしたいのか、それだけは見失わないで」
ビアンカの言葉は真っ直ぐで胸に沁みるけど、結論は出せない。アラン本人がああしてわたしに明確な憎悪を投げかけてくる状態だ。その壁の前で、どう目的を定めればいいのか。結局その場で曖昧に言葉を濁すしかなかった。
---
そんな混乱を抱えたまま、時は無情に過ぎていく。わたしは依然として夜会やお茶会へと顔を出さなければならなかった。伯爵家は共和国の政(まつりごと)に深く関わっている立場でもあるから、こうした社交の場を欠席するわけにはいかない。逃げたい気持ちと、背負わなければならない立場……それがわたしを苦しめる。またアランとルネアに会ってしまうのではという恐怖に強張りながらも、ドレスをまとい、笑顔を作って足を運ぶ。
そして案の定、どの場にも彼らは現れた。あたかも行く先を嗅ぎつけているのではないかと思うほど、常にその存在をちらつかせる。アランはわたしを目にすると、いちいち聞こえるように鋭い言葉を投げてくる。
「伯爵令嬢殿、お前の取り巻きは賑やかで結構なことだな」
「あなたに言われたくないわ。……それに、わたしはもうあなたとは何の関係もない他人のはず。いちいち話しかけないで」
「やめてよ、アラン様。そんなつまらない女、相手にするだけ馬鹿らしいことじゃなくて?」
ルネアが艶然と笑いかける。
「そうだな。俺もこんな無意味なやりとりに労力を使うつもりはない」
「じゃあ行けばいいじゃない。……放っておいて」
怒りに任せて吐き捨てるように言ったわたしに、アランはほんの一瞬だけ視線を重ねてくる。その瞳の奥にはほんの微かな影が見えた。ただの錯覚かもしれない。そう言い聞かせるけれど、どうしても見逃せない微妙な揺らぎ。けれど次の瞬間には、彼は相変わらず冷酷そうな笑みを口元に浮かべて背を向ける。
「……じゃあな」
「ええ……さようなら」
そっけなく返した別れ際。アランはまたしても吐息のような声で呟いた。
「……愛してる」
――許せない。尊厳をこれでもかと踏みにじっておきながら、最後の最後にそんな言葉で甘く揺さぶるなんて。これ以上、翻弄されるのは嫌だった。信じたいのに信じられない。怒りや悲しみでいっぱいだ。いっそ耳を塞ぎたいのに……アランの声はそっと優しく、心をくすぐっていく。
わたしは行動を起こした。愛の囁きの瞬間、彼の懐にメモを仕込んだ。"明日、秘密基地で待ってる"というメモを――。
沈んだ声で話しかけてきたのは、同年代の友人であるビアンカ。彼女はわたしの表情を気遣うように見つめてくる。
「彼、どうしちゃったの? あんなふうに変わるなんて信じられない」
「わたしだって……。ああしてわざと傷つけるような言葉を投げつけてくる」
ビアンカの憤慨する声がかえってわたしの孤独を際立たせる。ただ小さく苦笑いしてみせるだけ。彼女はわたしの背中をさすりながら、そっと耳打ちする。
「ねえ、本当のところはどうなの? 何か理由があるんじゃない? 人があんなふうに一夜にして変わるなんて……」
「……正直、わたしにもよくわからない。春風のように優しかった彼が……。確かめる術がないの。あんなにも強く拒絶されて、さらに踏み込む勇気もない……」
「そう……。でも、何かおかしいと感じるのなら、放っておかないほうがいい気がする。リリーナ、あなた自身がどうしたいのか、それだけは見失わないで」
ビアンカの言葉は真っ直ぐで胸に沁みるけど、結論は出せない。アラン本人がああしてわたしに明確な憎悪を投げかけてくる状態だ。その壁の前で、どう目的を定めればいいのか。結局その場で曖昧に言葉を濁すしかなかった。
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そんな混乱を抱えたまま、時は無情に過ぎていく。わたしは依然として夜会やお茶会へと顔を出さなければならなかった。伯爵家は共和国の政(まつりごと)に深く関わっている立場でもあるから、こうした社交の場を欠席するわけにはいかない。逃げたい気持ちと、背負わなければならない立場……それがわたしを苦しめる。またアランとルネアに会ってしまうのではという恐怖に強張りながらも、ドレスをまとい、笑顔を作って足を運ぶ。
そして案の定、どの場にも彼らは現れた。あたかも行く先を嗅ぎつけているのではないかと思うほど、常にその存在をちらつかせる。アランはわたしを目にすると、いちいち聞こえるように鋭い言葉を投げてくる。
「伯爵令嬢殿、お前の取り巻きは賑やかで結構なことだな」
「あなたに言われたくないわ。……それに、わたしはもうあなたとは何の関係もない他人のはず。いちいち話しかけないで」
「やめてよ、アラン様。そんなつまらない女、相手にするだけ馬鹿らしいことじゃなくて?」
ルネアが艶然と笑いかける。
「そうだな。俺もこんな無意味なやりとりに労力を使うつもりはない」
「じゃあ行けばいいじゃない。……放っておいて」
怒りに任せて吐き捨てるように言ったわたしに、アランはほんの一瞬だけ視線を重ねてくる。その瞳の奥にはほんの微かな影が見えた。ただの錯覚かもしれない。そう言い聞かせるけれど、どうしても見逃せない微妙な揺らぎ。けれど次の瞬間には、彼は相変わらず冷酷そうな笑みを口元に浮かべて背を向ける。
「……じゃあな」
「ええ……さようなら」
そっけなく返した別れ際。アランはまたしても吐息のような声で呟いた。
「……愛してる」
――許せない。尊厳をこれでもかと踏みにじっておきながら、最後の最後にそんな言葉で甘く揺さぶるなんて。これ以上、翻弄されるのは嫌だった。信じたいのに信じられない。怒りや悲しみでいっぱいだ。いっそ耳を塞ぎたいのに……アランの声はそっと優しく、心をくすぐっていく。
わたしは行動を起こした。愛の囁きの瞬間、彼の懐にメモを仕込んだ。"明日、秘密基地で待ってる"というメモを――。
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