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思い出の秘密基地で
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昨日、一枚のメモをアランの服のポケットに忍ばせた。"明日、秘密基地で待ってる"――子供の頃、二人だけで見つけた森の古い小屋。そこは厳格な貴族社会のしがらみから逃れて、ただのわたしと、ただのアランとして過ごせた唯一の場所だった。
彼がこのメモを見てくれるか、見てくれたとして来てくれるか、まったく確信はなかったけれど、もう、公の場で彼に嘲弄されることにも、意味の分からない「愛してる」に答えを探し求めることにも疲れ果てていた。どうしても二人きりで話がしたかった。
夕暮れが迫る頃、わたしは秘密基地にいた。埃っぽくて、蜘蛛の巣が張っていて、それでもそこかしこに二人の思い出が残っている。壁には昔、背比べをしたときに刻んだ傷、床の片隅にはアランが拾ってきた鳥の羽根や、わたしが好きだった野の花を飾った花瓶の跡。ここにいると時間が巻き戻ったかのように、彼の屈託のない笑顔や、優しい声が聞こえてきそうで胸がキュッとなる。
「……本当に来てくれるのかしら」
独り言はしんとした小屋の中に吸い込まれて消えた。期待と不安が交互に押し寄せて、落ち着かなく小屋の中を何度も行き来する。もし来てくれなかったら? それならそれで、もう彼の言葉に一喜一憂するのはやめよう。そう心に決めたつもりでも、カサリと外で物音がするたびに、心臓がドキリとするのを止められない。
どれくらいの時間が経っただろうか。諦めにも似た感情が心を覆い始めた時、ぎい、と古びた扉が軋む音がして、逆光の中に長身の影が現れた。
「……リリーナ」
そこに立っていたのは、紛れもなくアランだった。いつも夜会で見るような隙のない着こなしではなく、少しラフな格好をしている。それがかえって昔の彼を彷彿とさせた。
「アラン……来てくれたのね」
彼は一歩、また一歩とゆっくり小屋の中に入り、わたしから数歩離れた場所で足を止めた。
「何のつもりだ? こんな古臭い場所に呼び出して。昔話でもしようと? 感傷にでも浸っているのか? 伯爵令嬢らしくもない」
彼の声は夜会で聞き慣れた冷たく閉ざされたもの。
「……単刀直入に聞くわ。どうしてあんなことをするの?」
真っ直ぐに彼を見つめ、心の奥に積もった問いを投げかけた。
「わたしを……公の場で何度も侮辱して、傷つけて……それなのに、どうして……どうして去り際にいつも『愛してる』なんて言うのよ!」
ずっと胸の内に溜め込んでいた疑問と痛みが彼にぶつかっていく。
アランはしばらく黙ってわたしを見つめていた。その瞳には何の感情も浮かんでいないように見える。やがて、彼はふっと鼻で笑った。
「『愛してる』? 何のことだか、さっぱりだな。君の聞き間違いじゃないのか?」
「聞き間違いですって!? いいえ、あなたは確かにそう言ったわ! 一度や二度じゃない! あの冷たい目で蔑んでおきながら、最後には必ず……!」
「だから、何の証拠がある? 俺がそんなことを言う理由も義理も何一つない」
彼の声はどこまでも平坦――わたしの揺れる気持ちなど最初から取り合う気がないかのように。
彼がこのメモを見てくれるか、見てくれたとして来てくれるか、まったく確信はなかったけれど、もう、公の場で彼に嘲弄されることにも、意味の分からない「愛してる」に答えを探し求めることにも疲れ果てていた。どうしても二人きりで話がしたかった。
夕暮れが迫る頃、わたしは秘密基地にいた。埃っぽくて、蜘蛛の巣が張っていて、それでもそこかしこに二人の思い出が残っている。壁には昔、背比べをしたときに刻んだ傷、床の片隅にはアランが拾ってきた鳥の羽根や、わたしが好きだった野の花を飾った花瓶の跡。ここにいると時間が巻き戻ったかのように、彼の屈託のない笑顔や、優しい声が聞こえてきそうで胸がキュッとなる。
「……本当に来てくれるのかしら」
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どれくらいの時間が経っただろうか。諦めにも似た感情が心を覆い始めた時、ぎい、と古びた扉が軋む音がして、逆光の中に長身の影が現れた。
「……リリーナ」
そこに立っていたのは、紛れもなくアランだった。いつも夜会で見るような隙のない着こなしではなく、少しラフな格好をしている。それがかえって昔の彼を彷彿とさせた。
「アラン……来てくれたのね」
彼は一歩、また一歩とゆっくり小屋の中に入り、わたしから数歩離れた場所で足を止めた。
「何のつもりだ? こんな古臭い場所に呼び出して。昔話でもしようと? 感傷にでも浸っているのか? 伯爵令嬢らしくもない」
彼の声は夜会で聞き慣れた冷たく閉ざされたもの。
「……単刀直入に聞くわ。どうしてあんなことをするの?」
真っ直ぐに彼を見つめ、心の奥に積もった問いを投げかけた。
「わたしを……公の場で何度も侮辱して、傷つけて……それなのに、どうして……どうして去り際にいつも『愛してる』なんて言うのよ!」
ずっと胸の内に溜め込んでいた疑問と痛みが彼にぶつかっていく。
アランはしばらく黙ってわたしを見つめていた。その瞳には何の感情も浮かんでいないように見える。やがて、彼はふっと鼻で笑った。
「『愛してる』? 何のことだか、さっぱりだな。君の聞き間違いじゃないのか?」
「聞き間違いですって!? いいえ、あなたは確かにそう言ったわ! 一度や二度じゃない! あの冷たい目で蔑んでおきながら、最後には必ず……!」
「だから、何の証拠がある? 俺がそんなことを言う理由も義理も何一つない」
彼の声はどこまでも平坦――わたしの揺れる気持ちなど最初から取り合う気がないかのように。
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