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新たな縁談
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数日後、シュロト様から夜会の招待状が届いた。金の縁取りが施された上質な手紙には、流麗な筆致で彼の名が記されている。それは古城で密やかに催されるカップル限定の特別な夜会への誘いだった。
<リリーナさん、もしよろしければ、僕とご一緒していただけませんか? まだ僕たちの関係は始まったばかりですが、共に楽しい時間を過ごせればと願っています。もちろん、ご無理強いはいたしません>
彼の申し出にためらいが心をよぎった。「カップル限定」――その言葉がアランとの辛い記憶を容赦なく呼び覚ます。二人で参加した建国記念の夜会、あの悪夢のような薔薇の散る夜会が脳裏に蘇った。
しかし、シュロト様の真摯な招待文を何度も読み返すうち、そんな弱気はどこかへ吹き飛んでしまう。きっと大丈夫。彼がそばにいてくれるなら、新しい一歩を踏み出せるはず。
<はい、シュロト様。喜んでご一緒させていただきます。その日を心待ちにしております>
わたしはそう返信した。爽やかなドレスを選ぼう。過去を脱ぎ捨てるように――。自分らしさを表現できるミントグリーンのドレスを仕立てることにした。それは生まれ変わったわたしへのささやかな誓いでもあった。
---
夜会当日。仕上がったばかりのドレスは光沢を湛え、肌の上を滑るように軽やか。デコルテの繊細なレースがわたしをいつもより大人びて見せ、上品な輝きを放っている。不安と期待が入り混じる中、古城の壮麗なホールへと足を踏み入れた。
シュロト様は急な執務の都合で少し遅れると、侍者を通じて連絡があった。約束の時間までまだ少しある。広間の片隅でグラスを手に彼が到着するのを待つことにした。一人でいるとどうしても周囲の視線が気になる。婚約破棄の噂は、まだ社交界の隅々にくすぶっているのだ。ヒソヒソ声が聞こえてくるような気がして落ち着かない。
「大丈夫よ、リリーナ。シュロト様がすぐに来てくださるわ」
自分にそう言い聞かせた時だった。
「あら、リリーナじゃない。こんなところでお一人ですの?」
聞き覚えのある、ねっとりとした甘い声。振り返るとそこにはやはり、アランの腕に絡みつくルネアの姿があった。彼女はわざとらしく周囲の注目を一身に集めるように声を張り上げた。
「今夜はカップル限定の夜会だと伺っておりましたけれど。もしかして、お相手の方に愛想を尽かされて、逃げられたのかしら? まあ、なんて可哀想」
その言葉に、周囲からクスクスと抑えた笑い声が漏れるのが聞こえた。顔が熱くなるのを感じる。アランは、そんなルネアを諌(いさ)めるでもなく、ただ冷ややかにわたしを一瞥した。
「ふん、……無様だな。誰かにすがらなければ、このような場にも参加できないのか? スフレ伯爵令嬢ともあろう方が」
アランは秘密基地での出来事など、初めからなかったかのように冷え切っていた。あの小屋で、震える声で問い詰めたわたし。掴んだ腕から伝わってきた、彼のわずかな動揺さえも気のせいだったのかもしれない。ほんの少しでも、何かを期待した自分がひどく愚かに思えた。
「……あなたたちにそんな風に言われる筋合いはない。わたしは待ち合わせをしているだけ」
努めて冷静に言い返す。
「待ち合わせ? 本当かしら。そのお相手とやらが本当に来るのかどうか、怪しいものねぇ」
ルネアはこれ見よがしにアランの腕にさらに強くしがみつきながら、わたしの新しいドレスを頭の先からつま先まで、まるで汚いものでも見るかのように品定めした。
「まあ、そのドレス。野暮ったいこと。以前の水色のドレスの方がまだマシ。今のあなたにはなんだか……色褪せてくすんで見えるわ。まるで、今のあなたの心境をそのまま表しているかのようで……見ていて痛々しいったらありゃしない」
悔しさと怒りで唇を噛みしめる。なぜこの厚顔無恥な女にいちいち評価されなければならないのか。
「あなたにわたしの服装についてとやかく言われる覚えはないわ。それよりも他人の不幸を肴にすることでしか、自分の価値を見出せないあなたの方がよほど哀れでみすぼらしく見えるけれど」
精一杯の皮肉を込めて言い返した。
アランが鼻でせせら笑う気配がした。
「口だけは達者になったようだな。だが、所詮はその程度だ。いつまでも過去の栄光に……いや、過去の男に執着している女の末路か。虫唾が走る」
屈辱に体が震える。このままではシュロト様にも申し訳が立たない。何か言い返さなければ――そう思った、まさにその時だった。
「おや、それは聞き捨てなりませんね、アラン殿、そしてルネア嬢」
<リリーナさん、もしよろしければ、僕とご一緒していただけませんか? まだ僕たちの関係は始まったばかりですが、共に楽しい時間を過ごせればと願っています。もちろん、ご無理強いはいたしません>
彼の申し出にためらいが心をよぎった。「カップル限定」――その言葉がアランとの辛い記憶を容赦なく呼び覚ます。二人で参加した建国記念の夜会、あの悪夢のような薔薇の散る夜会が脳裏に蘇った。
しかし、シュロト様の真摯な招待文を何度も読み返すうち、そんな弱気はどこかへ吹き飛んでしまう。きっと大丈夫。彼がそばにいてくれるなら、新しい一歩を踏み出せるはず。
<はい、シュロト様。喜んでご一緒させていただきます。その日を心待ちにしております>
わたしはそう返信した。爽やかなドレスを選ぼう。過去を脱ぎ捨てるように――。自分らしさを表現できるミントグリーンのドレスを仕立てることにした。それは生まれ変わったわたしへのささやかな誓いでもあった。
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夜会当日。仕上がったばかりのドレスは光沢を湛え、肌の上を滑るように軽やか。デコルテの繊細なレースがわたしをいつもより大人びて見せ、上品な輝きを放っている。不安と期待が入り混じる中、古城の壮麗なホールへと足を踏み入れた。
シュロト様は急な執務の都合で少し遅れると、侍者を通じて連絡があった。約束の時間までまだ少しある。広間の片隅でグラスを手に彼が到着するのを待つことにした。一人でいるとどうしても周囲の視線が気になる。婚約破棄の噂は、まだ社交界の隅々にくすぶっているのだ。ヒソヒソ声が聞こえてくるような気がして落ち着かない。
「大丈夫よ、リリーナ。シュロト様がすぐに来てくださるわ」
自分にそう言い聞かせた時だった。
「あら、リリーナじゃない。こんなところでお一人ですの?」
聞き覚えのある、ねっとりとした甘い声。振り返るとそこにはやはり、アランの腕に絡みつくルネアの姿があった。彼女はわざとらしく周囲の注目を一身に集めるように声を張り上げた。
「今夜はカップル限定の夜会だと伺っておりましたけれど。もしかして、お相手の方に愛想を尽かされて、逃げられたのかしら? まあ、なんて可哀想」
その言葉に、周囲からクスクスと抑えた笑い声が漏れるのが聞こえた。顔が熱くなるのを感じる。アランは、そんなルネアを諌(いさ)めるでもなく、ただ冷ややかにわたしを一瞥した。
「ふん、……無様だな。誰かにすがらなければ、このような場にも参加できないのか? スフレ伯爵令嬢ともあろう方が」
アランは秘密基地での出来事など、初めからなかったかのように冷え切っていた。あの小屋で、震える声で問い詰めたわたし。掴んだ腕から伝わってきた、彼のわずかな動揺さえも気のせいだったのかもしれない。ほんの少しでも、何かを期待した自分がひどく愚かに思えた。
「……あなたたちにそんな風に言われる筋合いはない。わたしは待ち合わせをしているだけ」
努めて冷静に言い返す。
「待ち合わせ? 本当かしら。そのお相手とやらが本当に来るのかどうか、怪しいものねぇ」
ルネアはこれ見よがしにアランの腕にさらに強くしがみつきながら、わたしの新しいドレスを頭の先からつま先まで、まるで汚いものでも見るかのように品定めした。
「まあ、そのドレス。野暮ったいこと。以前の水色のドレスの方がまだマシ。今のあなたにはなんだか……色褪せてくすんで見えるわ。まるで、今のあなたの心境をそのまま表しているかのようで……見ていて痛々しいったらありゃしない」
悔しさと怒りで唇を噛みしめる。なぜこの厚顔無恥な女にいちいち評価されなければならないのか。
「あなたにわたしの服装についてとやかく言われる覚えはないわ。それよりも他人の不幸を肴にすることでしか、自分の価値を見出せないあなたの方がよほど哀れでみすぼらしく見えるけれど」
精一杯の皮肉を込めて言い返した。
アランが鼻でせせら笑う気配がした。
「口だけは達者になったようだな。だが、所詮はその程度だ。いつまでも過去の栄光に……いや、過去の男に執着している女の末路か。虫唾が走る」
屈辱に体が震える。このままではシュロト様にも申し訳が立たない。何か言い返さなければ――そう思った、まさにその時だった。
「おや、それは聞き捨てなりませんね、アラン殿、そしてルネア嬢」
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