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新たな縁談
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穏やかでありながら、威厳を秘めた声がホールに響き渡った。はっとして振り返ると、そこにはいつの間にか、シュロト・ヴァロア様が立っていた。瞳の奥には静かに燃える青い炎のような怒りの色が浮かんでいる。
「僕の大切な女性をみすぼらしいなどと評するとは、随分とご自身の審美眼に立派な自信がおありのようだ」
シュロト様の言葉にアランとルネアの顔色が一変した。特にアランは目の前の光景に唖然とし唇をわななかせ、隠しようもない狼狽をあらわにする。ルネアも先程までの余裕綽々の態度は消え失せ、顔を引きつらせていた。
「ヴァ、ヴァロア侯爵ご子息……シュロト様……!?」
アランの声が上ずる。
「シュ、シュロト様が、なぜこのような場所に……リリーナとご一緒に……?」
ルネアもかろうじて途切れ途切れの言葉を絞り出した。
シュロト様はわたしの隣に颯爽と歩み寄ると、その手をそっとわたしの肩に置いた。その温もりが流れ込み、強張っていた身体からふっと力が抜けていく。
「リリーナさん、お待たせして申し訳ありませんでした。少しばかり手間取ってしまいまして。ですが、どうやら僕のエスコートが遅れたおかげで、不快な思いをさせてしまったようです」
その声はあくまでも冷静だったが、アランとルネアに向けられた視線は絶対零度の氷のように冷え切っていた。
ヴァロア侯爵家といえば、共和国でも五指に入る名門。二人とは比べ物にならないほどの格上の存在。その子息であるシュロト様の登場は彼らにとってまさに青天の霹靂だったに違いない。
「アラン殿」シュロト様はアランに向き直った。
「あなたがかつて婚約者であらせられた女性に対して、そのような無礼極まりない態度を取られるとは、正直驚きを禁じ得ません。あなたの父君であるデラクロウ子爵は礼節を重んじられる立派な方だと伺っておりますが、ご子息の教育はいささか疎かだったようですね」
その言葉は痛烈な皮肉だった。
アランは顔を真っ赤にし、何かを言い返そうとして口を開きかけたが、シュロト様の威圧感に気圧されたのか、気が動転している。
「い、いえ、その……これは何かの誤解です、シュロト様。我々はただ旧知の仲として、リリーナにご挨拶を……」
「そ、そうですわ!」ルネアが慌ててアランの言葉に被せた。
「リリーナとは昔から大変親しくしておりましたものですから、つい、くだけたお話をしてしまっただけでございまして……悪気は少しも……」
彼女の声は震え、その顔からは血の気が完全に引いて青白くなっている。
シュロト様はその哀れな言い訳を冷ややかに一蹴した。
「くだけた話ですか……。僕の耳には、悪意に満ちた低俗な中傷としか聞こえませんでしたが。ルネア嬢、あなたの家名については寡聞にして存じ上げませんが、貴族の社交場における言葉遣いというものを、もう少しお学びになられた方がよろしいかと。特にスフレ伯爵令嬢であり――そして近い将来、ヴァロア家に嫁ぐやもしれぬ女性に対しては」
「ヴァロア家に嫁ぐ……!?」
アランが息を呑むのが聞こえた。ルネアは顔面蒼白になり、金縛りにあったかのように動けない。周囲にいた他の貴族たちもこの衝撃的な展開にざわめき立っている。
シュロト様の最後の言葉は計算されたものだったのだろう。わたしと彼の関係を公にし、アランとルネアにこれ以上の手出しをさせないための力強く決定的な牽制。アランたちへの強い言葉だとは分かっていても、シュロト様の口から紡がれた「ヴァロア家に嫁ぐやもしれぬ」という響きは驚きと、それから込み上げてくる止めどない喜びに頬がカッと熱くなる。
シュロト様は騒めきを背にわたしに向かって優しく微笑みかけた。
「リリーナさん、このような不快な輩のことはどうかお忘れになって。さあ、夜会を楽しみましょう」
その言葉と共に彼はわたしの手をとり、エスコートしてくださる。シュロト様の堂々とした態度と、何よりもわたしを守ってくれたその強さと優しさに、深い感謝と安堵の念を抱かずにはいられなかった。アランとルネアはシュロト様の静かなる凄みの前に最早ひと言も発することができず、バツが悪そうにそそくさとその場を離れていくのが視界の端に映った。彼らの背中はこれ以上なく小さく見えた。
「僕の大切な女性をみすぼらしいなどと評するとは、随分とご自身の審美眼に立派な自信がおありのようだ」
シュロト様の言葉にアランとルネアの顔色が一変した。特にアランは目の前の光景に唖然とし唇をわななかせ、隠しようもない狼狽をあらわにする。ルネアも先程までの余裕綽々の態度は消え失せ、顔を引きつらせていた。
「ヴァ、ヴァロア侯爵ご子息……シュロト様……!?」
アランの声が上ずる。
「シュ、シュロト様が、なぜこのような場所に……リリーナとご一緒に……?」
ルネアもかろうじて途切れ途切れの言葉を絞り出した。
シュロト様はわたしの隣に颯爽と歩み寄ると、その手をそっとわたしの肩に置いた。その温もりが流れ込み、強張っていた身体からふっと力が抜けていく。
「リリーナさん、お待たせして申し訳ありませんでした。少しばかり手間取ってしまいまして。ですが、どうやら僕のエスコートが遅れたおかげで、不快な思いをさせてしまったようです」
その声はあくまでも冷静だったが、アランとルネアに向けられた視線は絶対零度の氷のように冷え切っていた。
ヴァロア侯爵家といえば、共和国でも五指に入る名門。二人とは比べ物にならないほどの格上の存在。その子息であるシュロト様の登場は彼らにとってまさに青天の霹靂だったに違いない。
「アラン殿」シュロト様はアランに向き直った。
「あなたがかつて婚約者であらせられた女性に対して、そのような無礼極まりない態度を取られるとは、正直驚きを禁じ得ません。あなたの父君であるデラクロウ子爵は礼節を重んじられる立派な方だと伺っておりますが、ご子息の教育はいささか疎かだったようですね」
その言葉は痛烈な皮肉だった。
アランは顔を真っ赤にし、何かを言い返そうとして口を開きかけたが、シュロト様の威圧感に気圧されたのか、気が動転している。
「い、いえ、その……これは何かの誤解です、シュロト様。我々はただ旧知の仲として、リリーナにご挨拶を……」
「そ、そうですわ!」ルネアが慌ててアランの言葉に被せた。
「リリーナとは昔から大変親しくしておりましたものですから、つい、くだけたお話をしてしまっただけでございまして……悪気は少しも……」
彼女の声は震え、その顔からは血の気が完全に引いて青白くなっている。
シュロト様はその哀れな言い訳を冷ややかに一蹴した。
「くだけた話ですか……。僕の耳には、悪意に満ちた低俗な中傷としか聞こえませんでしたが。ルネア嬢、あなたの家名については寡聞にして存じ上げませんが、貴族の社交場における言葉遣いというものを、もう少しお学びになられた方がよろしいかと。特にスフレ伯爵令嬢であり――そして近い将来、ヴァロア家に嫁ぐやもしれぬ女性に対しては」
「ヴァロア家に嫁ぐ……!?」
アランが息を呑むのが聞こえた。ルネアは顔面蒼白になり、金縛りにあったかのように動けない。周囲にいた他の貴族たちもこの衝撃的な展開にざわめき立っている。
シュロト様の最後の言葉は計算されたものだったのだろう。わたしと彼の関係を公にし、アランとルネアにこれ以上の手出しをさせないための力強く決定的な牽制。アランたちへの強い言葉だとは分かっていても、シュロト様の口から紡がれた「ヴァロア家に嫁ぐやもしれぬ」という響きは驚きと、それから込み上げてくる止めどない喜びに頬がカッと熱くなる。
シュロト様は騒めきを背にわたしに向かって優しく微笑みかけた。
「リリーナさん、このような不快な輩のことはどうかお忘れになって。さあ、夜会を楽しみましょう」
その言葉と共に彼はわたしの手をとり、エスコートしてくださる。シュロト様の堂々とした態度と、何よりもわたしを守ってくれたその強さと優しさに、深い感謝と安堵の念を抱かずにはいられなかった。アランとルネアはシュロト様の静かなる凄みの前に最早ひと言も発することができず、バツが悪そうにそそくさとその場を離れていくのが視界の端に映った。彼らの背中はこれ以上なく小さく見えた。
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