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終幕の結婚式
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彼はわたしを、そして多くの貴族たちを救うために、あえて悪役を演じ孤独な戦いに身を投じていた。巨大な陰謀を暴くため――。そのために、わたしにさえ背を向けるという苦渋の決断をしなければならなかった。
「あなたのあの晩餐会での冷たい瞳を忘れることができなかった。でも、今ならわかる。あの瞳の奥に隠されていたのは憎しみなんかじゃなく深い苦しみと、そして……決意だったのね」
「リリーナ……」
シュロトはわたしの頬に手を伸ばし、こぼれ落ちる涙を拭った。
「君を失うかもしれないという恐怖と守り抜きたいという想いの間で、ずっともがいていた。真実を告げれば、君を危険に晒すことになる。かといって、何も告げずに君を苦しめるのも耐え難かった。どちらを選んでも地獄だった」
孤独な戦いを浮き彫りにする彼の告白。ヴァロア侯爵家の跡継ぎとして多くのものを背負いながら、それでもわたしへの愛を灯し続け、貫こうとしてくれていた。
「わたしは何も知らずにあなたを誤解してた。あなたの愛を疑いさえした。エドモンの裏切り、親戚たちの陰口、そしてあなたからの結婚式の招待状……。もう何も信じられないと心が壊れてしまいそうだった」
嗚咽が漏れる。出口のないトンネルを彷徨う日々。けれど今はもう、その暗闇さえも愛おしい。なぜならその全てがこの瞬間のためにあったのだと思えるから。
「ごめんなさい、シュロト。……あなたを信じきれなかったわたしを許してほしい。あなたはずっとわたしを見ていてくれたのに。愚かなわたしが気づかなかっただけで……」
「そんなことはないよ、リリーナ」
彼はわたしの額にそっと口づけた。その仕草一つ一つに深い愛情が伝わってくる。
「君は最後まで僕を信じようとしてくれていた。あの招待状を受け取っても、逃げずにここへ来てくれた。それが何よりの証拠だ。君のその強さと気高さが僕に勇気を与えてくれたんだ」
――そう、心の片隅では彼を待ち続けていたのかもしれない。あの絶望の淵に立たされても、かすかな希望の光を手繰り寄せて――それが今日この場所へわたしを導いてくれた……。
「……あなたの言葉がわたしを救ってくれるの。ずっと、ずっと真っ暗な闇の中に一人で取り残されていたから……」
「もう大丈夫だ、リリーナ」
シュロトはわたしの目を見つめて優しく微笑んだ。
「もう二度と君を一人にはしない。これからは僕が君の隣で、君を照らす光になる。どんな深い闇が君を飲み込もうとしても、守り抜いてみせる」
彼の蒼色の瞳には一片の曇りもない。そこには揺るぎない決意と深い愛だけが映っていた。
ようやく全ての誤解が解け、隠されていた真実が白日の下に晒された。かつてよりもずっと強く、確かなものとして蘇った二人の愛。誰にも壊せないかけがえのない絆として――。
しばらく言葉もなく見つめ合っていた。大聖堂の静寂が二人の間の親密な空気を一層濃密なものにしていく。シュロトの指がわたしの髪を慈しむように梳いた。その感触が心地よくてそっと目を閉じる。
「リリーナ」
彼の甘く低い声がわたしの鼓膜を震わせる。ゆっくりと目を開けると、彼の顔がすぐ近くにあった。その真摯な瞳に見つめられると、吸い込まれてしまいそうになる。
「僕はあの結婚式の場で多くの人々の前で言った。世界で愛する人はただ一人だと。その言葉に嘘偽りはない。僕の心は初めて君に出会ったあの瞬間から、ずっと君だけのものだ」
「あなたのあの晩餐会での冷たい瞳を忘れることができなかった。でも、今ならわかる。あの瞳の奥に隠されていたのは憎しみなんかじゃなく深い苦しみと、そして……決意だったのね」
「リリーナ……」
シュロトはわたしの頬に手を伸ばし、こぼれ落ちる涙を拭った。
「君を失うかもしれないという恐怖と守り抜きたいという想いの間で、ずっともがいていた。真実を告げれば、君を危険に晒すことになる。かといって、何も告げずに君を苦しめるのも耐え難かった。どちらを選んでも地獄だった」
孤独な戦いを浮き彫りにする彼の告白。ヴァロア侯爵家の跡継ぎとして多くのものを背負いながら、それでもわたしへの愛を灯し続け、貫こうとしてくれていた。
「わたしは何も知らずにあなたを誤解してた。あなたの愛を疑いさえした。エドモンの裏切り、親戚たちの陰口、そしてあなたからの結婚式の招待状……。もう何も信じられないと心が壊れてしまいそうだった」
嗚咽が漏れる。出口のないトンネルを彷徨う日々。けれど今はもう、その暗闇さえも愛おしい。なぜならその全てがこの瞬間のためにあったのだと思えるから。
「ごめんなさい、シュロト。……あなたを信じきれなかったわたしを許してほしい。あなたはずっとわたしを見ていてくれたのに。愚かなわたしが気づかなかっただけで……」
「そんなことはないよ、リリーナ」
彼はわたしの額にそっと口づけた。その仕草一つ一つに深い愛情が伝わってくる。
「君は最後まで僕を信じようとしてくれていた。あの招待状を受け取っても、逃げずにここへ来てくれた。それが何よりの証拠だ。君のその強さと気高さが僕に勇気を与えてくれたんだ」
――そう、心の片隅では彼を待ち続けていたのかもしれない。あの絶望の淵に立たされても、かすかな希望の光を手繰り寄せて――それが今日この場所へわたしを導いてくれた……。
「……あなたの言葉がわたしを救ってくれるの。ずっと、ずっと真っ暗な闇の中に一人で取り残されていたから……」
「もう大丈夫だ、リリーナ」
シュロトはわたしの目を見つめて優しく微笑んだ。
「もう二度と君を一人にはしない。これからは僕が君の隣で、君を照らす光になる。どんな深い闇が君を飲み込もうとしても、守り抜いてみせる」
彼の蒼色の瞳には一片の曇りもない。そこには揺るぎない決意と深い愛だけが映っていた。
ようやく全ての誤解が解け、隠されていた真実が白日の下に晒された。かつてよりもずっと強く、確かなものとして蘇った二人の愛。誰にも壊せないかけがえのない絆として――。
しばらく言葉もなく見つめ合っていた。大聖堂の静寂が二人の間の親密な空気を一層濃密なものにしていく。シュロトの指がわたしの髪を慈しむように梳いた。その感触が心地よくてそっと目を閉じる。
「リリーナ」
彼の甘く低い声がわたしの鼓膜を震わせる。ゆっくりと目を開けると、彼の顔がすぐ近くにあった。その真摯な瞳に見つめられると、吸い込まれてしまいそうになる。
「僕はあの結婚式の場で多くの人々の前で言った。世界で愛する人はただ一人だと。その言葉に嘘偽りはない。僕の心は初めて君に出会ったあの瞬間から、ずっと君だけのものだ」
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