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13.伝説の傭兵
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キノコスープによる食料問題解決への道筋が見えた今、市庁舎の作戦室で次なる計画を宣言した。地図の上に置いた駒を、街で最も治安が悪いとされる地区へと動かす。
「『水』『食料』の次は『安全』です。市民が夜も安心して眠れる環境なくして、街の本格的な復興はあり得ません」
あの地区は市庁舎の管理が及ばない無法地帯。そこを縄張りとするゴロツキ集団の存在が治安悪化の最大の原因だった。
「市長、まさか彼らを討伐するとおっしゃるのでは……我々の手勢では到底太刀打ちできません」
「討伐? とんでもない。私は彼らを『雇用』しに行きます」
私の言葉にその場にいた全員が閉口した。
「オドネル、護衛をお願いします。ゴロツキのリーダーに直接会い、交渉してきます」
「お嬢様、話の通じる相手では……」
「だからこそ、私が行くのです。彼らの有り余る力を街を壊すためではなく、守るために使ってもらう。アトランシアの警備隊としてね」
翌日、私とオドネルはゴロツキたちのアジトである酒場へと足を踏み入れた。中は薄暗く、酒の匂いが立ち込めている。私たちの登場に、だらしなく座っていた男たちの視線が一斉に突き刺さった。その視線をものともせず、奥でふんぞり返る、頭にバンダナを巻いた大柄な男へとまっすぐ進む。彼がこの集団の親分、ファーゴだろう。
「はじめまして、市長のルティア・ヴェルフェンです。単刀直入に申し上げます。あなた方をアトランシアの警備隊として正式に雇用したい」
静まり返っていた酒場が下卑た笑い声で満たされた。ファーゴはテーブルに足を乗せたまま、
「警備隊だあ? お嬢ちゃん、寝言は寝て言えってんだ。俺たちがあんたの言うことなんざ聞くと思ってんのか?」
「もちろん、タダでとは言いません。安定した報酬をお約束します。街を守る誇りある仕事です。無法者ではなく、守り手として市民から尊敬される立場になる。悪い話ではないでしょう?」
「うるせえな!小娘が調子に乗りやがって!」
一触即発の空気の中、私は一歩も引かなかい。その時、それまで半歩後ろで気配を消していたオドネルが静かに前に出た。
「そこまでにしてもらおうか。少し度が過ぎる」
その声は普段の眠たげなものとはまるで違う、鋼のような響きを帯びていた。ファーゴはオドネルを一瞥し、鼻で笑う。
「なんだこのオッサンは。お嬢ちゃんの番犬か?」
「市長に対して無礼な口の利き方は許さんぞ!小童ども!」
オドネルが一喝した瞬間、酒場の空気が凍り付いた。歴戦の強者だけが放てるような凄まじい威圧感と殺気。普段の温和な彼とはまるで別人。ゴロツキたちは蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
ファーゴは目を剥き、目の前の中年騎士の顔をまじまじと見つめた。その顔から血の気が引いていく。
「そ、その目つき……まさか……あんたは……『雷光のオドネル』!?」
「やれやれ。まさかこんな場所で、若い頃のあだ名を聞くことになるとはな」
その異名が響いた途端、ゴロツキたちの間に衝撃が走った。「あの伝説の傭兵が!?」「なぜこんな場所に!?」という囁きが恐怖へと変わる。
次の瞬間、ファーゴは先ほどの威勢が嘘のように、その場で土下座していた。
「も、申し訳ありません! まさかオドネル殿がいらっしゃるとはつゆ知らず、無礼の数々、何とぞお許しください!」
部下たちも慌てて後に続く。私は驚いて隣のオドネルを見上げた。彼はただ困ったように頭を掻いているだけだった。父がつけてくれた護衛の本当の意味をようやく理解した。内心で父に感謝しながら、毅然とした声で縮こまるファーゴに告げた。
「顔を上げなさい。さて、交渉の続きを始めましょうか」
私の言葉にファーゴは震えながらも勢いよく顔を上げた。その瞳に先ほどの侮りは微塵も残っていなかった。
「『水』『食料』の次は『安全』です。市民が夜も安心して眠れる環境なくして、街の本格的な復興はあり得ません」
あの地区は市庁舎の管理が及ばない無法地帯。そこを縄張りとするゴロツキ集団の存在が治安悪化の最大の原因だった。
「市長、まさか彼らを討伐するとおっしゃるのでは……我々の手勢では到底太刀打ちできません」
「討伐? とんでもない。私は彼らを『雇用』しに行きます」
私の言葉にその場にいた全員が閉口した。
「オドネル、護衛をお願いします。ゴロツキのリーダーに直接会い、交渉してきます」
「お嬢様、話の通じる相手では……」
「だからこそ、私が行くのです。彼らの有り余る力を街を壊すためではなく、守るために使ってもらう。アトランシアの警備隊としてね」
翌日、私とオドネルはゴロツキたちのアジトである酒場へと足を踏み入れた。中は薄暗く、酒の匂いが立ち込めている。私たちの登場に、だらしなく座っていた男たちの視線が一斉に突き刺さった。その視線をものともせず、奥でふんぞり返る、頭にバンダナを巻いた大柄な男へとまっすぐ進む。彼がこの集団の親分、ファーゴだろう。
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「警備隊だあ? お嬢ちゃん、寝言は寝て言えってんだ。俺たちがあんたの言うことなんざ聞くと思ってんのか?」
「もちろん、タダでとは言いません。安定した報酬をお約束します。街を守る誇りある仕事です。無法者ではなく、守り手として市民から尊敬される立場になる。悪い話ではないでしょう?」
「うるせえな!小娘が調子に乗りやがって!」
一触即発の空気の中、私は一歩も引かなかい。その時、それまで半歩後ろで気配を消していたオドネルが静かに前に出た。
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「そ、その目つき……まさか……あんたは……『雷光のオドネル』!?」
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その異名が響いた途端、ゴロツキたちの間に衝撃が走った。「あの伝説の傭兵が!?」「なぜこんな場所に!?」という囁きが恐怖へと変わる。
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「も、申し訳ありません! まさかオドネル殿がいらっしゃるとはつゆ知らず、無礼の数々、何とぞお許しください!」
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