【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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49.王冠より重きもの

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それどころか、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。宰相が国王の前に静かに進み出ると、その場に膝をついたのだ。

「陛下、お待ちください!」

それを皮切りに広間にいた大臣、将軍、衛兵たちが次々と玉座の前に跪いていく。彼らは剣を抜くのではなく、頭を垂れた。

「な……何を血迷ったか、お前たち!命令が聞こえんのか!」
「陛下!」

宰相が悲痛な声で叫んだ。

「我らの耳には命令よりも民の呻き声が、そして都が滅びゆく音の方が大きく聞こえるのです! この者たちを失えば、王都に明日はございません!……この期に及んで王家の面子が民の命より重いと仰せか!」

別の大臣は、

「要求は決して不当なものではありません。我々がそれだけ多くのものを失い、道を誤ってきたからこその当然の対価です! どうか民のために、ご決断を!」

ヴォルフもまた父の前に進み出た。

「どうか現実を見てください! 父上が守ろうとしているのはこの国でも民でもない! 過ぎ去った栄光の幻影に過ぎません! ルティアは……彼女だけがこの国を救う羅針盤なのです! 俺たちがそれを手放した過ちを今こそ正さねばならないのです!」

息子からの、そして最も信頼すべき家臣たちからの反逆に国王は愕然と立ち尽くす。その時、今まで沈黙を守っていた王妃が静かに椅子から立ち上がった。彼女は国王の腕にそっと触れると、涙を浮かべて懇願した。

「あなた……。もう、およしになって。私も先日、城下へ忍んで参りました。……そこには、もう私たちの知る王都はありませんでした。どうか民のために、この国のために頭を下げてくださいまし……!」

息子も妻も、そして腹心の部下たちも全員が自分に背を向けた。孤立無援。守るべき権威の足元が砂のように崩れ落ちていく。国王の顔から怒りが消え、自分が犯した取り返しのつかない過ちへの後悔がその表情を覆った。

彼はまるで糸が切れた人形のように、ゆっくりと玉座に崩れ落ちた。やがて自らの敗北を認めるような声で、

「…………ルティア・ヴェルフェン市長。……そなたの勝ちだ。その交渉、ヴェリタス国王として受けて立つ。市長、そなたの要求を……改めて聞かせよ」

私はその光景を静かに見つめていた。勝利の感慨はない。ただ、ようやくスタートラインに立てたという、重い責務を再認識するだけだった。ヴォルフが安堵の息を漏らし、家臣たちが静かに頭を上げる。こうして沈みゆく王都の未来を賭けた交渉が始まった。
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