【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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50.感傷なき支援

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国王が玉座に崩れ落ちたあの日から、王家側との交渉は速やかに進展した。抵抗勢力はもはや存在せず、宰相やヴォルフが主導する形で王都とアトランシア間の経済支援協定は正式に締結された。それは事実上、アトランシアが王国自体の経済を管理下に置くことを意味していた。

その内容はアトランシアによる食料及び物資支援と引き換えに、王国は主要港湾の使用権と関税自主権の一部をアトランシアへ譲渡、さらに王国の鉱山採掘権もアトランシアが管理するというものだった。

街に帰還した翌日から、支援計画は実行に移された。アトランシアからは食料や生活必需品を満載した輸送隊が、疲弊しきった王都の各地区へと派遣される。同時に『アトラ・ワークス』を携えた熟練の技術者たちが派遣され、閉鎖されていた工場の再稼働や、荒れ果てたインフラの修復に着手した。停滞していた経済にアトランシアから力強い血液が送り込まれ、少しずつだが確実に脈動を取り戻し始めていた。

飢えに苦しんでいた民衆の元へ食料が行き渡り、王都の市場には活気が戻り始めた。物価は安定し、治安も目に見えて回復していく。民衆は王侯貴族ではなく、追放されたはずの辺境の市長がもたらした救済に感謝の祈りを捧げた。

一方でアトランシアもまた、この協定によって一段と発展を遂げていた。王国の港湾使用権を得たことで、南方諸国との新たな交易路が拓かれ、アトランシアの製品は大陸全土へと販路を拡大。王国直轄の鉱山では派遣された技術者たちが新たな採掘技術を導入し、アトランシアの魔鉱鉄と組み合わせることで、より強靭で高品質な合金を生み出すことに成功。それは新たな産業の芽吹きを予感させた。その結果、アトランシアの税収は飛躍的に増大し、その富は市民の福祉やさらなる都市開発へと還元。アトランシアの名声はかつての最盛期を凌ぐ勢いで高まっていく――――。

ある夜、市長室で報告書に目を通していた私の元へ、シオンが温かいレモンティーを運んできてくれた。

「順調のようだな。君の描いた通りにすべてが進んでいる」
「ええ。これで王都の混乱が大陸全体へ波及する事態は避けられる。アトランシアの安全保障にとっても、これは必要な投資だったわ」

私の言葉にシオンは小さく笑みをこぼした。

「君は決して『故郷を救った』とは言わないのだな」
「……これはあくまで事業再生だから。経営破綻した王都という名の不良債権を買い取り、私たちの管理下で立て直す……その取引相手が私のふるさとだった。それだけの話」

私は立ち上がり、彼の隣で窓の外を見つめた。ここから始まる新たな時代の胎動。これは救済ではない。追放された復讐でもない。ただ、アトランシアという都市が繁栄するための、最も合理的で最善の一手。
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