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第1-3章 徳妃付侍女→紅玉宮妃(新版)
「因縁つけられました」
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「雪慧のいじわる」
「何を急に仰るんですか。名誉毀損です」
「僕も雪慧の歌聞きたかった」
「宴会芸ですので断じてお断りしておきます」
来てからずっと機嫌が悪かった暁明様に見つめられ続けること数刻。とうとう音を上げて理由を尋ねたら思った以上に子供っぽい答えが返ってきた。
この方はどれだけわたしを知っていたいんだ、とさすがに呆れてしまった。
「じゃあ今度一緒に街に行こうよ」
「別に構いませんけれど、許可はきちんと貰ってきてくださいね」
「勿論。僕だって大目玉は喰らいたくないし」
「じゃあわたしも暁明様の日程に合わせて許可を頂いておきます」
で、ご機嫌を取るのにそんな約束を取り付けてしまったりする。
それが厄介事を招くだなんてその時のわたしは考えが及ばなかった。
■■■
「貴女、少し調子に乗り過ぎではありませんか?」
「はい?」
ある日、わたしは妃の一人に呼び出されてしまった。
しかも人目がつかない裏手を指定する念の入れようだった。
あまり関わったことがない方だったけれど、彼女は九名いる正二品の妃の一人だったと記憶している。さすが九嬪にまで上り詰めただけあってその美貌は並を遥かに超えて整っていて、姿勢や仕草が洗練されていた。
しかしそんな魅力も鳴りを潜めて……いや、正確には憤怒に彩られて台無しになっていた。
これじゃあ百年の恋も覚めるってやつなんだけど、彼女に仕えている侍女も同じように憤っているのだから、もう話になりそうになかった。
「調子に乗る、と言いますと?」
「とぼけないで。お前は恐れ多くも紅玉宮殿下に立場をわきまえずに馴れ馴れしくしているじゃないの」
「いや、それは暁明様がそうしろって言うから……」
「おだまり! そもそもお名前を呼ぶだなんて無礼は許されないわ!」
それも暁明様のわがままによるんだけどなぁ、と心の中で思ったものの口には出さなかった。どうせ言い訳だって一蹴されるのが目に見えていたから。
怒りに支配された彼女は自分の都合のいい意見しか聞く耳は持つまい。
皇子、皇女は言葉が喋れるようになるまで成長すると各々に宮殿が与えられる。そしてその日からは原則的に名前で呼ばれなくなるんだ。なにがし宮殿下、といった具合に宮殿の名称が彼、彼女を指すようになるから。
そして、それはなんと母の妃も例外じゃない。皇子達の名を呼べる存在は父たる皇帝を除けばただ一人、彼等が生涯の伴侶と認めた者だけなんだ。
皇子・皇女としてではなく一人の人間として共に歩んでいくべき、との考えからなのかしら?
まあ、つまり、わたしが暁明様の名を連呼するのをそれ以上無い失礼、侮辱の類と捉えるのは無茶でもない。暁明様の方がわたしに近寄っているって事実を棚上げすれば難癖の付け所はある。
「で? わたしにどうしろと?」
「お前、二度と紅玉宮殿下に近づくんじゃないわ」
投げかける視線には憎悪が、吐きかける言葉には侮蔑が込められていた。
連れの者達も一様にわたしへの非難を含めたように威圧が感じられた。更には彼女等はわたしを壁際まで追い詰めるかのように立ち位置を変えてくる始末だった。
勿論彼女達も分かっているだろう。こういった事態にならないよう暁明様はわたしとの絆を皆に見せつけてきた、と。もしわたしが被害を受けるようなら自分の名において容赦はしない、と言葉にせずとも語っていた、と。
だからこそこうして秘密裏にわたしだけを対象に命令する。わたしが自分から紅玉宮殿下を拒絶するように。そしてそれが出来なければこの後宮から立ち去るように、と。さもなくばわたしを消すことなどわけない、と脅しているのだ。
(なんて浅はかな)
別に脅迫されるような弱みを見せた覚えが無いのにこんなあからさまな罠に不用心に飛び込んできたと思っているのかしら? 侍女頭や文月にはわたしの予定は伝達済みだから異変があったら真っ先に疑われるのに。
だからわたしがやるべきは暁明様や徳妃様の威光を振りかざして彼女たちを躊躇させ、その隙に脱出。後は淡々と後宮の秩序を乱した存在として彼女たちの蛮行を処断してもらえば済む話だ。
「嫌です」
「……何ですって?」
けれど、わたしの口から自然に発せられたのは他でもない、明確な拒絶だった。
それも、わたし個人の想いから。
「聞こえなかったんですか? 嫌だ、って言ったんですけど」
「なっ、お前、何を言っているのか分かっているの!?」
「好意に好意で返しちゃいけないわけでもないですよね。いけませんか?」
まさかこの状況におかれても全くひるまずに歯向かってくるとは思いもしなかったらしく、正二品の妃はひどく驚いた。
しかしすぐに怒りで頭に血が上ったのか、腕や唇が震えだした。その表情といったら、もはや鬼の類と形容すべきかしら。
「ふざけるんじゃないわよ! お前はどれだけ身の程知らずか理解しちゃいない!」
「皇子殿下が一介の下女に好意を抱くことがですか? それだけあの方の目にはわたしが魅力的に映ったんでしょうね。光栄です」
「……っ! わきまえろって言ってんのよ! 頭悪いの!?」
「頭悪いのは貴女様の方でしょう。嫌だって言いましたけれどもう忘れましたか?」
売り言葉に買い言葉を返したら彼女の怒りは加速度的に増していった。もはや言葉を吐くたびに唾が飛んでくるし建物の向こうにまで聞こえるんじゃないかってぐらい大声だし、残念と思うぐらい彼女の有様は醜悪だった。
「こ、のぉ、端女がっ!」
とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、彼女はわたしを平手で叩こうとしてきた。
けれど常に美と品を追求して皇帝の寵愛を受けようとしていた妃の攻撃なんて、予備動作も無駄だらけですぐに感づいた。避けるのはとっても簡単だった。
わたしは逆に空振って体勢を崩しかけた彼女の手首を掴んだ。あまり力を入れていないのに彼女は顔をしかめて痛いと主張してきた。あまりにか細い腕だったから少し力を込めたら折ってしまいそうで逆にこっちが怖かったくらいだ。
「端女で結構。わたしは暁明様からの想いを無下にしたくはありませんので」
「は、離しなさいよこの無礼者!」
「おっと後ろの方々、少しでも妙な真似をするようでしたら妃様の無事は保証しかねますよ」
主の危機に付き人達が一斉に非難の声を上げ、中にはこちらに手を伸ばしてきた。これ以上場を混乱させたくなかったわたしは先手を打って相手の行動を制した。歯ぎしりしてきたものの何とか衝動をこらえたのを見計らい、妃を彼らへと突き飛ばして解放した。
「話はこれで終わりですか? それじゃあわたしは仕事に戻りますけど?」
「おのれ、こっちがちょっと下手に出てやったからっていい気になってるんじゃないわよ!」
妃は顔を歪ませて後ろを見やった。すると侍女達の後ろから現れたのはなんと屈強な男性じゃないの。
後宮に入れるんだから彼らも宦官なんでしょうけれど、だからこそその尋常じゃない鍛えっぷりは称賛にすら値した。
そんな彼は腕や首を軽く動かしつつこちらへと迫ってきた。そして一定の距離にまで迫るとこちらへと腕と手を向けてきた。
構えだ、と悟った時には既にわたしの身体は無意識のうちに身構えていた。
「やっておしまい! もう二度と不愉快な真似が出来ないようにね!」
「御意に」
宦官は妃の命に応じるとこちらへと襲いかかってくる。
突進してわたしを組み伏せようとしていると判断したわたしは、遠慮なく彼の顔面めがけて膝蹴りをかました。反撃されると思っていなかったのか、わたしの攻撃は相手に吸い込まれるように命中した。
「が、あ……!」
互いの勢いがそのまま威力になったのか、大量の鼻血を出して宦官は怯む。
あの様子だと鼻の骨でも折れたのかは知らないけれど、生じた隙は見逃さない。
わたしはそのまま体重が乗るように飛び上がりつつ彼の顎に拳を食らわせてやった。
倒れる大男。無傷の侍女。
この構図が異様と映ったのか、目撃した妃の侍女達の何人かがこちらに恐怖を見せてきた。そしてその中には妃本人も含まれていて、よほどわたしが打ちのめした宦官の暴力には自信があったらしい。
「実力行使に訴えるんでしたらこちらもそうするまでです。まだ続けますか?」
「お、お前は一体何なのよ……!?」
先程の勢いは鳴りを潜めていた。わたしが一歩前へ踏み出すと逆に彼女達は一歩引き下がったぐらいだ。
どうやら勝敗は決したようだったので臨戦態勢を解いたわたしは、とりあえず包囲から抜け出すことにした。
「ただの侍女ですよ。ただし明日どうなるかは天のみぞ知る、です」
さて、この一件なんだけれど、問題視されなかった。
と言うのも正二品の妃は一介の女官に忠告して女官が生意気にも逆らい、少し教育しようとした宦官は足を滑らせて地面に転がる石に顔を打ち付けて怪我して、その間に女官が逃げた、と主張したからだ。
わたしはわたしで別に危害を被ったわけでもなかったしこれ以上は面倒になって概ね正しいと供述。けれどソレを全く信じなかった暁明様に脅され……もとい、問い質されて経緯を細かく報告する破目になった。
「ふぅん、そうなんだ。僕の雪慧を、ねえ」
その時の暁明様は……背筋が凍るぐらい怖かった。
後日、その妃はわたしを見る度に発狂するんじゃないかってぐらい怯えるようになった。一体何をされたのか、それは今でも知らない。
暁明様曰く、少し再教育したそうだけど、きっと詳細は聞かない方が幸せに違いない。
「何を急に仰るんですか。名誉毀損です」
「僕も雪慧の歌聞きたかった」
「宴会芸ですので断じてお断りしておきます」
来てからずっと機嫌が悪かった暁明様に見つめられ続けること数刻。とうとう音を上げて理由を尋ねたら思った以上に子供っぽい答えが返ってきた。
この方はどれだけわたしを知っていたいんだ、とさすがに呆れてしまった。
「じゃあ今度一緒に街に行こうよ」
「別に構いませんけれど、許可はきちんと貰ってきてくださいね」
「勿論。僕だって大目玉は喰らいたくないし」
「じゃあわたしも暁明様の日程に合わせて許可を頂いておきます」
で、ご機嫌を取るのにそんな約束を取り付けてしまったりする。
それが厄介事を招くだなんてその時のわたしは考えが及ばなかった。
■■■
「貴女、少し調子に乗り過ぎではありませんか?」
「はい?」
ある日、わたしは妃の一人に呼び出されてしまった。
しかも人目がつかない裏手を指定する念の入れようだった。
あまり関わったことがない方だったけれど、彼女は九名いる正二品の妃の一人だったと記憶している。さすが九嬪にまで上り詰めただけあってその美貌は並を遥かに超えて整っていて、姿勢や仕草が洗練されていた。
しかしそんな魅力も鳴りを潜めて……いや、正確には憤怒に彩られて台無しになっていた。
これじゃあ百年の恋も覚めるってやつなんだけど、彼女に仕えている侍女も同じように憤っているのだから、もう話になりそうになかった。
「調子に乗る、と言いますと?」
「とぼけないで。お前は恐れ多くも紅玉宮殿下に立場をわきまえずに馴れ馴れしくしているじゃないの」
「いや、それは暁明様がそうしろって言うから……」
「おだまり! そもそもお名前を呼ぶだなんて無礼は許されないわ!」
それも暁明様のわがままによるんだけどなぁ、と心の中で思ったものの口には出さなかった。どうせ言い訳だって一蹴されるのが目に見えていたから。
怒りに支配された彼女は自分の都合のいい意見しか聞く耳は持つまい。
皇子、皇女は言葉が喋れるようになるまで成長すると各々に宮殿が与えられる。そしてその日からは原則的に名前で呼ばれなくなるんだ。なにがし宮殿下、といった具合に宮殿の名称が彼、彼女を指すようになるから。
そして、それはなんと母の妃も例外じゃない。皇子達の名を呼べる存在は父たる皇帝を除けばただ一人、彼等が生涯の伴侶と認めた者だけなんだ。
皇子・皇女としてではなく一人の人間として共に歩んでいくべき、との考えからなのかしら?
まあ、つまり、わたしが暁明様の名を連呼するのをそれ以上無い失礼、侮辱の類と捉えるのは無茶でもない。暁明様の方がわたしに近寄っているって事実を棚上げすれば難癖の付け所はある。
「で? わたしにどうしろと?」
「お前、二度と紅玉宮殿下に近づくんじゃないわ」
投げかける視線には憎悪が、吐きかける言葉には侮蔑が込められていた。
連れの者達も一様にわたしへの非難を含めたように威圧が感じられた。更には彼女等はわたしを壁際まで追い詰めるかのように立ち位置を変えてくる始末だった。
勿論彼女達も分かっているだろう。こういった事態にならないよう暁明様はわたしとの絆を皆に見せつけてきた、と。もしわたしが被害を受けるようなら自分の名において容赦はしない、と言葉にせずとも語っていた、と。
だからこそこうして秘密裏にわたしだけを対象に命令する。わたしが自分から紅玉宮殿下を拒絶するように。そしてそれが出来なければこの後宮から立ち去るように、と。さもなくばわたしを消すことなどわけない、と脅しているのだ。
(なんて浅はかな)
別に脅迫されるような弱みを見せた覚えが無いのにこんなあからさまな罠に不用心に飛び込んできたと思っているのかしら? 侍女頭や文月にはわたしの予定は伝達済みだから異変があったら真っ先に疑われるのに。
だからわたしがやるべきは暁明様や徳妃様の威光を振りかざして彼女たちを躊躇させ、その隙に脱出。後は淡々と後宮の秩序を乱した存在として彼女たちの蛮行を処断してもらえば済む話だ。
「嫌です」
「……何ですって?」
けれど、わたしの口から自然に発せられたのは他でもない、明確な拒絶だった。
それも、わたし個人の想いから。
「聞こえなかったんですか? 嫌だ、って言ったんですけど」
「なっ、お前、何を言っているのか分かっているの!?」
「好意に好意で返しちゃいけないわけでもないですよね。いけませんか?」
まさかこの状況におかれても全くひるまずに歯向かってくるとは思いもしなかったらしく、正二品の妃はひどく驚いた。
しかしすぐに怒りで頭に血が上ったのか、腕や唇が震えだした。その表情といったら、もはや鬼の類と形容すべきかしら。
「ふざけるんじゃないわよ! お前はどれだけ身の程知らずか理解しちゃいない!」
「皇子殿下が一介の下女に好意を抱くことがですか? それだけあの方の目にはわたしが魅力的に映ったんでしょうね。光栄です」
「……っ! わきまえろって言ってんのよ! 頭悪いの!?」
「頭悪いのは貴女様の方でしょう。嫌だって言いましたけれどもう忘れましたか?」
売り言葉に買い言葉を返したら彼女の怒りは加速度的に増していった。もはや言葉を吐くたびに唾が飛んでくるし建物の向こうにまで聞こえるんじゃないかってぐらい大声だし、残念と思うぐらい彼女の有様は醜悪だった。
「こ、のぉ、端女がっ!」
とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、彼女はわたしを平手で叩こうとしてきた。
けれど常に美と品を追求して皇帝の寵愛を受けようとしていた妃の攻撃なんて、予備動作も無駄だらけですぐに感づいた。避けるのはとっても簡単だった。
わたしは逆に空振って体勢を崩しかけた彼女の手首を掴んだ。あまり力を入れていないのに彼女は顔をしかめて痛いと主張してきた。あまりにか細い腕だったから少し力を込めたら折ってしまいそうで逆にこっちが怖かったくらいだ。
「端女で結構。わたしは暁明様からの想いを無下にしたくはありませんので」
「は、離しなさいよこの無礼者!」
「おっと後ろの方々、少しでも妙な真似をするようでしたら妃様の無事は保証しかねますよ」
主の危機に付き人達が一斉に非難の声を上げ、中にはこちらに手を伸ばしてきた。これ以上場を混乱させたくなかったわたしは先手を打って相手の行動を制した。歯ぎしりしてきたものの何とか衝動をこらえたのを見計らい、妃を彼らへと突き飛ばして解放した。
「話はこれで終わりですか? それじゃあわたしは仕事に戻りますけど?」
「おのれ、こっちがちょっと下手に出てやったからっていい気になってるんじゃないわよ!」
妃は顔を歪ませて後ろを見やった。すると侍女達の後ろから現れたのはなんと屈強な男性じゃないの。
後宮に入れるんだから彼らも宦官なんでしょうけれど、だからこそその尋常じゃない鍛えっぷりは称賛にすら値した。
そんな彼は腕や首を軽く動かしつつこちらへと迫ってきた。そして一定の距離にまで迫るとこちらへと腕と手を向けてきた。
構えだ、と悟った時には既にわたしの身体は無意識のうちに身構えていた。
「やっておしまい! もう二度と不愉快な真似が出来ないようにね!」
「御意に」
宦官は妃の命に応じるとこちらへと襲いかかってくる。
突進してわたしを組み伏せようとしていると判断したわたしは、遠慮なく彼の顔面めがけて膝蹴りをかました。反撃されると思っていなかったのか、わたしの攻撃は相手に吸い込まれるように命中した。
「が、あ……!」
互いの勢いがそのまま威力になったのか、大量の鼻血を出して宦官は怯む。
あの様子だと鼻の骨でも折れたのかは知らないけれど、生じた隙は見逃さない。
わたしはそのまま体重が乗るように飛び上がりつつ彼の顎に拳を食らわせてやった。
倒れる大男。無傷の侍女。
この構図が異様と映ったのか、目撃した妃の侍女達の何人かがこちらに恐怖を見せてきた。そしてその中には妃本人も含まれていて、よほどわたしが打ちのめした宦官の暴力には自信があったらしい。
「実力行使に訴えるんでしたらこちらもそうするまでです。まだ続けますか?」
「お、お前は一体何なのよ……!?」
先程の勢いは鳴りを潜めていた。わたしが一歩前へ踏み出すと逆に彼女達は一歩引き下がったぐらいだ。
どうやら勝敗は決したようだったので臨戦態勢を解いたわたしは、とりあえず包囲から抜け出すことにした。
「ただの侍女ですよ。ただし明日どうなるかは天のみぞ知る、です」
さて、この一件なんだけれど、問題視されなかった。
と言うのも正二品の妃は一介の女官に忠告して女官が生意気にも逆らい、少し教育しようとした宦官は足を滑らせて地面に転がる石に顔を打ち付けて怪我して、その間に女官が逃げた、と主張したからだ。
わたしはわたしで別に危害を被ったわけでもなかったしこれ以上は面倒になって概ね正しいと供述。けれどソレを全く信じなかった暁明様に脅され……もとい、問い質されて経緯を細かく報告する破目になった。
「ふぅん、そうなんだ。僕の雪慧を、ねえ」
その時の暁明様は……背筋が凍るぐらい怖かった。
後日、その妃はわたしを見る度に発狂するんじゃないかってぐらい怯えるようになった。一体何をされたのか、それは今でも知らない。
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