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第1-3章 徳妃付侍女→紅玉宮妃(新版)
「わたしは夕暮れ時に口づけを交わす」
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さて、春華国における後宮は原則的に外出禁止だ。そりゃあ皇帝の妃が男と近づく機会を与えるなんてもってのほかだもの。
そしてそれは後宮勤めの女官にも適用される。おそらく不貞を働かないよう節度を求める的な理由でしょう。
ただし、女官については外に出る方法が無いわけじゃない。
成人していない皇子、皇女の護衛がその一つ。ほとんどの場合は宦官が務めるのだけれど、潔癖な妃が訓練された侍女にその任務を与える時もあるんだとか。
「と、いった次第なので暁明様を連れて街に出たいです」
「あーいいよなー雪慧達は。妾はもうかれこれ二十年近く外に出ておらんわ」
「徳妃様であっても外出は許されないんですか?」
「無理じゃな。せいぜい許されても宮廷まで出向く程度だな。それも年に数回程度、行事に参加せよと呼び出されるに過ぎぬ」
暁明様から都合がいい日にちを聞いたわたしは早速徳妃様にお伺いをたてた。徳妃様は若干機嫌を斜めにしたものの許可を出してくれた。何故か侍女頭達が生暖かい視線を送ってきたのが少し気になった。
「帝都の町は皇帝陛下のお膝元だけあって治安が良いが、油断は禁物じゃぞ。心して我が子を守るが良い」
「はい、命をとしてお守りする覚悟です」
「ううむ。普通ならそれが当たり前なのだが、こと雪慧に限ってはそれでは都合が悪いと申そうか……」
「すみませんが小声すぎて聞き取れません」
「いや、独り言じゃから気にするでない」
その後は同僚の侍女達からもみくちゃにされた。せっかく暁明様とお忍びで二人で町に出かけるのだからお洒落すべきだと一人が主張し、馬鹿言うな目立たないよう地味にすべきだと一人が主張。最終的にわたしに判断を委ねる、と丸投げされた。
「それでどこにでもいる普通の町娘風の格好を?」
「そう仰る暁明様こそ完璧に変装出来てますね」
結局わたしは帝都までの旅路で得た常識と照らし合わせて町中に溶け込む扮装を選択した。わたしの任務は暁明様をお守りすることなんだからお洒落なんて不要。そう断じたら暁明様は少し残念がった。何故に。
一方の暁明様は服は地味だし少し汚れているし、肌も化粧でシミや傷を作っていた。匂いは……ちゃんと臭い。髪もごわついているし、目の下にクマも描いている。これなら庶民に紛れても皇子だと特定されないでしょう。
「まあね。何回か町には出かけてるから」
「そう言えばそうでしたね」
わたしと暁明様との出会いも町中だったっけ、と振り返った。そしてあれから随分と経ったものだとしみじみ感じた。
あの時は単に路銀を求めてありついた仕事だったけれど、今の境遇に満足してしまっている自分にもはや疑いはなかった。
いっそ何もかも忘れてこのままで、とは口が裂けても言えない。
時の流れは不可逆的であり、暁明様はまだまだ成長なさる。当たり前のように隣りにいる彼はもうじき後宮から巣立っていく。
日常が非日常へ、その日は着実に近づいているのだ。
「じゃあ、今日はめいいっぱい楽しんじゃいましょうか」
「そうだね」
まあ、深く考えるのは明日の自分に任せればいい。そうわたしは思考を放棄した。
だって隣には暁明様がいる。なら彼がいなくなるその後を想定するなんて勿体ないもの。
そんなわけでわたしは暁明様と一緒に後宮を出発した。
わたしももうかれこれ半年以上ぶりの外界になる。後宮内の生活はおかげさまで退屈ではなかったけれど、やっぱり新しい環境はとても刺激があってとても胸がはしゃいだ。
「じゃあまずどこ行きます?」
「うーん。雪慧はどこ行きたい?」
「いや、そもそもわたし、帝都来た初日にもう後宮に勤め始めたんで町中とか全く分からないんですけれど」
「それなら適当に練り歩けばいいかな」
そんなわけでやってきたのは繁華街だった。
帝都の中でも割と裕福な層が住む地域の住民が主な客層だけあってとても活気に満ちていた。ほんのちょっとよそ見しただけでぶつかるぐらい人だらけで正直鬱陶しかった。
服や装飾品、日用雑貨は後宮内でも事足りる。目新しいのはやはり食材や料理でしょうね。地方独特の料理を提供する店もあったり道の真ん中に露店を開いていたり、ここを訪ねれば食には困らなそうだった。
「何か食べる?」
「大胆ですね。毒味とかしなくていいんですか?」
「いや、別に変装は見破られてないんだし、僕を狙う人なんているのかなぁ?」
「……わたしが毒味しますから、暁明様は絶対にわたしより先に料理を口にしないでくださいね」
腹が満たされたら後は町を巡るだけだった。別に視察目的ではないので住宅街には行かず、繁華街や市場を中心に回った。途中小腹が空いたら買い食いして、と結構贅沢な散策だったと思う。
「何か買ってほしい物はある?」
「いえ、特に困ってません。嗜好品は別に要りませんし」
「簪は? それとも櫛がいいかな?」
「あっても困りませんがこだわる程でもありません」
ただ宮中で襲われた時とっさに武器にしたいから鋭い方がいい、と答えたら苦笑いされた。
じゃあお洒落に興味無いのかと呆れ半分で聞かれたので少し腹を立てたわたしはあるけれど人にねだるつもりは無いと語尾を強めて返しておいた。
「分かっていませんねー。駄目ですよ。全然駄目です」
「……何が?」
「試験の回答を試験官に聞く馬鹿がいますか? 女の子はですね、男の子にどれだけ自分を分かってもらえているかが知りたいんですよ」
「つまり?」
「普段の女の子の生活から何が好みか、何を送ったら喜んでもらえるか。色々と考えられた贈り物は送られてとても嬉しいんです。想いがこもっていますからね」
「贈り物自体じゃなくて気持ちの方が大事、か……」
だって贈り物を選んでいる間はずっとその女の子の事ばかり考えてくれるでしょう? まあ、結果が好みから大きく外れたら失望一色になっちゃうから、一長一短なのだけれどね。
それだけ暁明様に期待しちゃっている、ってことで何卒。
「じゃあ、僕が雪慧に似合うって思ったものは貰ってくれるの?」
「ええ。無論、節度はあるべきと考えますが」
「分かった。じゃあ僕に任せて。ほら行こう」
「……へ?」
ところがそれで逆にやる気を出した暁明様は服飾屋、装飾屋、雑貨屋など色々と巡った。なんと終いにはわたしが身につける服、靴、下着、装飾等ありとあらゆる物が暁明様からの贈り物に変化してしまった。
「これで雪慧が僕一色に染まってくれたね」
「暁明様が楽しそうで何よりです……」
嬉しそうにはしゃぐ暁明様はわたしには止められませんでした。無念。
「夕日が綺麗ですね」
「そうだね。帝都が茜色に染まっているよ」
太陽が傾いた時刻になると道を行き交う人々の層が変わってきた。具体的には仕事終わりの男性の姿が多くなった。
彼らの何割かはこれから夜の街に出かけて精神的な疲れを癒やすんでしょう。
「これで昼の世界は一旦終わりを迎えて夜の世界が始まるんですね」
「帝都は夜の町も活発だからね。寝静まるのはもう少し先かな」
「酒と女を売る町に様変わりするんでしたっけ。あいにく興味がありませんね」
「僕もだね。結構歩き回ったし、そろそろ帰ろうか」
わたし達は彼らとは逆に王宮へ向かって足を進めた。
途中で暁明様が照れながらこちらに腕を絡ませようとしたので、わたしは逆に彼の手を取って指を絡ませた。徳妃様から暁明様にこうしろと教わったのだけれど、何だか妙に恥ずかしい気分になった。
「ねえ雪慧」
「何でしょうか暁明様」
「僕は雪慧が好きなんだ」
「わたしも暁明様が好きですよ」
「そうじゃなくて、僕は雪慧を愛しているんだ」
「……。嬉しいですね。そう言ってもらえるのは」
人は多くいるのにわたしには暁明様の声しか聞こえなかった。
不思議なもので、視線は前方を向いていたし周囲への警戒は怠っていないつもりなのに、全ての感覚が彼へ向けられている錯覚に陥った。
「雪慧はどうなの? 僕のことをどう思う?」
「愛、が何なのかは分かりませんが……いつの間にか暁明様と一緒の時間がこの上なく愛おしく感じるんです」
「それって、僕と一緒にいたいの?」
「ええ、ええ。そうですとも認めましょう。暁明様がいないと寂しいって思うようになっちゃいましたよ。どうしてくれるんですか?」
「勿論責任は取るよ」
もう王宮の門が見え始めた。くぐれば彼は紅玉宮殿下に、わたしは徳妃様付き侍女に戻る。
そこから先はこれまでと同じなんでしょう。殿下が成人なさって後宮に来れなくなる残った日々を大切にして共に時間を送るんだ。
……それじゃあ満足出来ない。
この人にはずっと見てもらいたいし話しかけてもらいたい気にかけてもらいたい。
ずっとずーっと。成人してもどこかに封ぜられても余生を送ろうと、傍にいたい。
嗚呼。
わたし、こんなにも暁明様を好きになっていたんだ。
わたし達が歩みを止めたのはほぼ同時だった。互いに相手を正面から見つめたのもほぼ同時だった。
それはまるで、わたし達以外の世界が止まったようだった。
「雪慧、僕の妻になってください」
「暁明様、わたしの夫になってくださりますか?」
そして、告白するのは全く同時だった。
二人して軽く驚き、笑いあった。
「勿論」
「喜んで」
わたし達二人は愛しの相手を欲し、口づけを交わした。
それは暁明様の成人の儀まで一月を切った日のことだった。
そしてそれは後宮勤めの女官にも適用される。おそらく不貞を働かないよう節度を求める的な理由でしょう。
ただし、女官については外に出る方法が無いわけじゃない。
成人していない皇子、皇女の護衛がその一つ。ほとんどの場合は宦官が務めるのだけれど、潔癖な妃が訓練された侍女にその任務を与える時もあるんだとか。
「と、いった次第なので暁明様を連れて街に出たいです」
「あーいいよなー雪慧達は。妾はもうかれこれ二十年近く外に出ておらんわ」
「徳妃様であっても外出は許されないんですか?」
「無理じゃな。せいぜい許されても宮廷まで出向く程度だな。それも年に数回程度、行事に参加せよと呼び出されるに過ぎぬ」
暁明様から都合がいい日にちを聞いたわたしは早速徳妃様にお伺いをたてた。徳妃様は若干機嫌を斜めにしたものの許可を出してくれた。何故か侍女頭達が生暖かい視線を送ってきたのが少し気になった。
「帝都の町は皇帝陛下のお膝元だけあって治安が良いが、油断は禁物じゃぞ。心して我が子を守るが良い」
「はい、命をとしてお守りする覚悟です」
「ううむ。普通ならそれが当たり前なのだが、こと雪慧に限ってはそれでは都合が悪いと申そうか……」
「すみませんが小声すぎて聞き取れません」
「いや、独り言じゃから気にするでない」
その後は同僚の侍女達からもみくちゃにされた。せっかく暁明様とお忍びで二人で町に出かけるのだからお洒落すべきだと一人が主張し、馬鹿言うな目立たないよう地味にすべきだと一人が主張。最終的にわたしに判断を委ねる、と丸投げされた。
「それでどこにでもいる普通の町娘風の格好を?」
「そう仰る暁明様こそ完璧に変装出来てますね」
結局わたしは帝都までの旅路で得た常識と照らし合わせて町中に溶け込む扮装を選択した。わたしの任務は暁明様をお守りすることなんだからお洒落なんて不要。そう断じたら暁明様は少し残念がった。何故に。
一方の暁明様は服は地味だし少し汚れているし、肌も化粧でシミや傷を作っていた。匂いは……ちゃんと臭い。髪もごわついているし、目の下にクマも描いている。これなら庶民に紛れても皇子だと特定されないでしょう。
「まあね。何回か町には出かけてるから」
「そう言えばそうでしたね」
わたしと暁明様との出会いも町中だったっけ、と振り返った。そしてあれから随分と経ったものだとしみじみ感じた。
あの時は単に路銀を求めてありついた仕事だったけれど、今の境遇に満足してしまっている自分にもはや疑いはなかった。
いっそ何もかも忘れてこのままで、とは口が裂けても言えない。
時の流れは不可逆的であり、暁明様はまだまだ成長なさる。当たり前のように隣りにいる彼はもうじき後宮から巣立っていく。
日常が非日常へ、その日は着実に近づいているのだ。
「じゃあ、今日はめいいっぱい楽しんじゃいましょうか」
「そうだね」
まあ、深く考えるのは明日の自分に任せればいい。そうわたしは思考を放棄した。
だって隣には暁明様がいる。なら彼がいなくなるその後を想定するなんて勿体ないもの。
そんなわけでわたしは暁明様と一緒に後宮を出発した。
わたしももうかれこれ半年以上ぶりの外界になる。後宮内の生活はおかげさまで退屈ではなかったけれど、やっぱり新しい環境はとても刺激があってとても胸がはしゃいだ。
「じゃあまずどこ行きます?」
「うーん。雪慧はどこ行きたい?」
「いや、そもそもわたし、帝都来た初日にもう後宮に勤め始めたんで町中とか全く分からないんですけれど」
「それなら適当に練り歩けばいいかな」
そんなわけでやってきたのは繁華街だった。
帝都の中でも割と裕福な層が住む地域の住民が主な客層だけあってとても活気に満ちていた。ほんのちょっとよそ見しただけでぶつかるぐらい人だらけで正直鬱陶しかった。
服や装飾品、日用雑貨は後宮内でも事足りる。目新しいのはやはり食材や料理でしょうね。地方独特の料理を提供する店もあったり道の真ん中に露店を開いていたり、ここを訪ねれば食には困らなそうだった。
「何か食べる?」
「大胆ですね。毒味とかしなくていいんですか?」
「いや、別に変装は見破られてないんだし、僕を狙う人なんているのかなぁ?」
「……わたしが毒味しますから、暁明様は絶対にわたしより先に料理を口にしないでくださいね」
腹が満たされたら後は町を巡るだけだった。別に視察目的ではないので住宅街には行かず、繁華街や市場を中心に回った。途中小腹が空いたら買い食いして、と結構贅沢な散策だったと思う。
「何か買ってほしい物はある?」
「いえ、特に困ってません。嗜好品は別に要りませんし」
「簪は? それとも櫛がいいかな?」
「あっても困りませんがこだわる程でもありません」
ただ宮中で襲われた時とっさに武器にしたいから鋭い方がいい、と答えたら苦笑いされた。
じゃあお洒落に興味無いのかと呆れ半分で聞かれたので少し腹を立てたわたしはあるけれど人にねだるつもりは無いと語尾を強めて返しておいた。
「分かっていませんねー。駄目ですよ。全然駄目です」
「……何が?」
「試験の回答を試験官に聞く馬鹿がいますか? 女の子はですね、男の子にどれだけ自分を分かってもらえているかが知りたいんですよ」
「つまり?」
「普段の女の子の生活から何が好みか、何を送ったら喜んでもらえるか。色々と考えられた贈り物は送られてとても嬉しいんです。想いがこもっていますからね」
「贈り物自体じゃなくて気持ちの方が大事、か……」
だって贈り物を選んでいる間はずっとその女の子の事ばかり考えてくれるでしょう? まあ、結果が好みから大きく外れたら失望一色になっちゃうから、一長一短なのだけれどね。
それだけ暁明様に期待しちゃっている、ってことで何卒。
「じゃあ、僕が雪慧に似合うって思ったものは貰ってくれるの?」
「ええ。無論、節度はあるべきと考えますが」
「分かった。じゃあ僕に任せて。ほら行こう」
「……へ?」
ところがそれで逆にやる気を出した暁明様は服飾屋、装飾屋、雑貨屋など色々と巡った。なんと終いにはわたしが身につける服、靴、下着、装飾等ありとあらゆる物が暁明様からの贈り物に変化してしまった。
「これで雪慧が僕一色に染まってくれたね」
「暁明様が楽しそうで何よりです……」
嬉しそうにはしゃぐ暁明様はわたしには止められませんでした。無念。
「夕日が綺麗ですね」
「そうだね。帝都が茜色に染まっているよ」
太陽が傾いた時刻になると道を行き交う人々の層が変わってきた。具体的には仕事終わりの男性の姿が多くなった。
彼らの何割かはこれから夜の街に出かけて精神的な疲れを癒やすんでしょう。
「これで昼の世界は一旦終わりを迎えて夜の世界が始まるんですね」
「帝都は夜の町も活発だからね。寝静まるのはもう少し先かな」
「酒と女を売る町に様変わりするんでしたっけ。あいにく興味がありませんね」
「僕もだね。結構歩き回ったし、そろそろ帰ろうか」
わたし達は彼らとは逆に王宮へ向かって足を進めた。
途中で暁明様が照れながらこちらに腕を絡ませようとしたので、わたしは逆に彼の手を取って指を絡ませた。徳妃様から暁明様にこうしろと教わったのだけれど、何だか妙に恥ずかしい気分になった。
「ねえ雪慧」
「何でしょうか暁明様」
「僕は雪慧が好きなんだ」
「わたしも暁明様が好きですよ」
「そうじゃなくて、僕は雪慧を愛しているんだ」
「……。嬉しいですね。そう言ってもらえるのは」
人は多くいるのにわたしには暁明様の声しか聞こえなかった。
不思議なもので、視線は前方を向いていたし周囲への警戒は怠っていないつもりなのに、全ての感覚が彼へ向けられている錯覚に陥った。
「雪慧はどうなの? 僕のことをどう思う?」
「愛、が何なのかは分かりませんが……いつの間にか暁明様と一緒の時間がこの上なく愛おしく感じるんです」
「それって、僕と一緒にいたいの?」
「ええ、ええ。そうですとも認めましょう。暁明様がいないと寂しいって思うようになっちゃいましたよ。どうしてくれるんですか?」
「勿論責任は取るよ」
もう王宮の門が見え始めた。くぐれば彼は紅玉宮殿下に、わたしは徳妃様付き侍女に戻る。
そこから先はこれまでと同じなんでしょう。殿下が成人なさって後宮に来れなくなる残った日々を大切にして共に時間を送るんだ。
……それじゃあ満足出来ない。
この人にはずっと見てもらいたいし話しかけてもらいたい気にかけてもらいたい。
ずっとずーっと。成人してもどこかに封ぜられても余生を送ろうと、傍にいたい。
嗚呼。
わたし、こんなにも暁明様を好きになっていたんだ。
わたし達が歩みを止めたのはほぼ同時だった。互いに相手を正面から見つめたのもほぼ同時だった。
それはまるで、わたし達以外の世界が止まったようだった。
「雪慧、僕の妻になってください」
「暁明様、わたしの夫になってくださりますか?」
そして、告白するのは全く同時だった。
二人して軽く驚き、笑いあった。
「勿論」
「喜んで」
わたし達二人は愛しの相手を欲し、口づけを交わした。
それは暁明様の成人の儀まで一月を切った日のことだった。
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