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診察Ⅰ
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「フローラ様、どうぞこれをお履きください」
浴室で香りのよいお湯で足をきれいに洗ってもらった後、用意されていたのは光沢のあるレモンイエローの室内履きというのものでした。
椅子に座った私にエルザが履かせてくれます。
柔らかくて締めつけがないのですっと足に馴染んで履きやすいです。うちにも欲しいわと思いつつ、立ち上がって着け心地を試してみました。軽くて歩きやすくて私は思わずターンをしてしまいます。
ドレスの裾を翻してクルっクルと回ります。快適だわ。裾を少し持ち上げて室内履きを眺めたり、数歩歩いて履き心地を確かめたり、いろいろ試していると
「ふふっ……」
忍び笑いが聞こえたので振り返るとエルザと目が合いました。
西の宮または三の宮と呼ばれる宮殿はレイニー第三王子殿下の住居であり、エルザはこの宮の侍女長だと教えてくれました。
「あっ……ごめんなさい」
恥ずかしくて咄嗟に両手で頬を押さえました。浮かれて人前でターンをするなど落ち着きのない態度は、淑女のふるまいではありませんでした。
「こちらの方こそ、申し訳ございません。お可愛らしくて、つい口元が緩んでしまいました」
私を見るエルザのまなざしが温かくて好意的に感じられたので、呆れられたかもしれないと心配していましたが、どうやら大丈夫だったようです。けれど、侯爵令嬢として身の処し方は気をつけなければいけません。
「室内履きの履き心地が良すぎて、つい浮かれてしまいました。はしたない真似をしてすみません」
「いいえ、お気になさることはありませんよ。レイニー殿下もきっとかわいいと思いこそすれ、お咎めなどなさらないでしょうから」
なぜここでレイ様が出てくるのかわかりませんが、エルザはまたクスクスと笑い出しました。やっぱり私のふるまいがおかしかったのでしょうか? そばで控えている三人の侍女たちも笑っているような気がします。だって肩が震えていますもの。穴があったら入りたいです。
「フローラ様が履き心地が良いとおっしゃるのはわかります。わたしも自宅で履いていますから」
なんですって! 笑いがおさまったエルザから衝撃的な事実が発覚しました。
「「「わたしもです」」」
エルザだけではなくほかの侍女たちからも声が上がりました。びっくりです。もしかしてレイ様の宮では流行っているのでしょうか?
「まあ、そうなんですか? もうすでに経験者がいらっしゃるとは、うらやましいですわ」
自邸にいてもヒールのある靴を履いていますから足が疲れるのですよね。ですから足のマッサージは欠かせないのです。外出用には難しいでしょうけれど、もう少し靴底が厚ければ室内であればどこでも使えそうです。そうすれば足の負担も軽減されるのではないでしょうか。
俄然ほしくなりました。数カ月は履いたようにしっくりと馴染んでいて手放せなくなりそうです。
「あの……これ、どちらで買われたのですか? 取り扱っている商会を教えてくださいませんか?」
ざっと記憶を手繰っても見覚えもなく使った覚えもないのでうちの商会ではなく、どこか別のところなのでしょう。一体、どこなんでしょう?
「それでは作って下さったご本人がいらっしゃっておりますから、話をお聞きになられたらよろしいかと思いますよ。ですが、その前に診察を受けてからにしましょう」
「えっ、ご本人が? 会いたいです。えっ……診察ですか?」
ご本人と診察。同時に言われたら困ってしまいます。えっと、どうしたらいいんでしょう。できれば診察よりお会いしたいんですけども。
「はい。怪我の様子を診てもらうようにと、レイニー殿下からのお言葉でしたので女性のお医者様をお呼びしております」
「どこも痛いところはないので、大丈夫かと思いますが」
「それでも、念のために診察をお受けください。それと実はお呼びしたお医者様が室内履きを作った方なのですよ」
「まあ。そうなのですか?」
まさか、お医者様だったとは思いませんでした。ここで渋っている場合ではありませんわね。レイ様も私のことを心配してのことでしょうから、無下にもできませんし。心は決まりました。同じ方であれば、診察をちゃっちゃっと済ませて頂いてあとはゆっくりとお話を伺いましょう。
「わかりました。それでは行きましょう」
我ながら現金ですけれど、善は急げです。
浴室で香りのよいお湯で足をきれいに洗ってもらった後、用意されていたのは光沢のあるレモンイエローの室内履きというのものでした。
椅子に座った私にエルザが履かせてくれます。
柔らかくて締めつけがないのですっと足に馴染んで履きやすいです。うちにも欲しいわと思いつつ、立ち上がって着け心地を試してみました。軽くて歩きやすくて私は思わずターンをしてしまいます。
ドレスの裾を翻してクルっクルと回ります。快適だわ。裾を少し持ち上げて室内履きを眺めたり、数歩歩いて履き心地を確かめたり、いろいろ試していると
「ふふっ……」
忍び笑いが聞こえたので振り返るとエルザと目が合いました。
西の宮または三の宮と呼ばれる宮殿はレイニー第三王子殿下の住居であり、エルザはこの宮の侍女長だと教えてくれました。
「あっ……ごめんなさい」
恥ずかしくて咄嗟に両手で頬を押さえました。浮かれて人前でターンをするなど落ち着きのない態度は、淑女のふるまいではありませんでした。
「こちらの方こそ、申し訳ございません。お可愛らしくて、つい口元が緩んでしまいました」
私を見るエルザのまなざしが温かくて好意的に感じられたので、呆れられたかもしれないと心配していましたが、どうやら大丈夫だったようです。けれど、侯爵令嬢として身の処し方は気をつけなければいけません。
「室内履きの履き心地が良すぎて、つい浮かれてしまいました。はしたない真似をしてすみません」
「いいえ、お気になさることはありませんよ。レイニー殿下もきっとかわいいと思いこそすれ、お咎めなどなさらないでしょうから」
なぜここでレイ様が出てくるのかわかりませんが、エルザはまたクスクスと笑い出しました。やっぱり私のふるまいがおかしかったのでしょうか? そばで控えている三人の侍女たちも笑っているような気がします。だって肩が震えていますもの。穴があったら入りたいです。
「フローラ様が履き心地が良いとおっしゃるのはわかります。わたしも自宅で履いていますから」
なんですって! 笑いがおさまったエルザから衝撃的な事実が発覚しました。
「「「わたしもです」」」
エルザだけではなくほかの侍女たちからも声が上がりました。びっくりです。もしかしてレイ様の宮では流行っているのでしょうか?
「まあ、そうなんですか? もうすでに経験者がいらっしゃるとは、うらやましいですわ」
自邸にいてもヒールのある靴を履いていますから足が疲れるのですよね。ですから足のマッサージは欠かせないのです。外出用には難しいでしょうけれど、もう少し靴底が厚ければ室内であればどこでも使えそうです。そうすれば足の負担も軽減されるのではないでしょうか。
俄然ほしくなりました。数カ月は履いたようにしっくりと馴染んでいて手放せなくなりそうです。
「あの……これ、どちらで買われたのですか? 取り扱っている商会を教えてくださいませんか?」
ざっと記憶を手繰っても見覚えもなく使った覚えもないのでうちの商会ではなく、どこか別のところなのでしょう。一体、どこなんでしょう?
「それでは作って下さったご本人がいらっしゃっておりますから、話をお聞きになられたらよろしいかと思いますよ。ですが、その前に診察を受けてからにしましょう」
「えっ、ご本人が? 会いたいです。えっ……診察ですか?」
ご本人と診察。同時に言われたら困ってしまいます。えっと、どうしたらいいんでしょう。できれば診察よりお会いしたいんですけども。
「はい。怪我の様子を診てもらうようにと、レイニー殿下からのお言葉でしたので女性のお医者様をお呼びしております」
「どこも痛いところはないので、大丈夫かと思いますが」
「それでも、念のために診察をお受けください。それと実はお呼びしたお医者様が室内履きを作った方なのですよ」
「まあ。そうなのですか?」
まさか、お医者様だったとは思いませんでした。ここで渋っている場合ではありませんわね。レイ様も私のことを心配してのことでしょうから、無下にもできませんし。心は決まりました。同じ方であれば、診察をちゃっちゃっと済ませて頂いてあとはゆっくりとお話を伺いましょう。
「わかりました。それでは行きましょう」
我ながら現金ですけれど、善は急げです。
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