婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
17 / 195

診察Ⅱ

しおりを挟む
 浴室のドアを開けると、一人の女性が待っていました。白衣を着ていらっしゃるのでこの方がお医者様なのでしょう。

「サマンサ・トリッシュと言います。王家の専属医をしております。どうぞよろしくお願い致します」

 肩のあたりで切り揃えられた亜麻色の髪がお辞儀と一緒にさらっと流れます。若草色の瞳が理知的で聡明さが際立つきれいな女医さんです。
 ショートの髪は貴族女性には考えられないですが、職業婦人と呼ばれる経済的に自立している方や平民の女性に多い印象です。

 それにしてもなぜ王家の専属医を呼ばれたのでしょう。私が診て頂いても大丈夫なのでしょうか? 王宮には何人か医者がいますが、王族と王宮勤めの貴族や使用人では担当が違うと聞いています。疑問が残りますが、それは置いといて自分の目的のためにさっさと終わらせてしまいましょう。

「ブルーバーグ侯爵家の長女フローラでございます。今日は私のためにご足労頂きまして申し訳ございません」

 礼を取って顔を上げると、サマンサ先生は目を見開いて驚いたような顔で私を見ていました。

「先生?」

「……何でもありません。それでは診察を始めましょうか」

 なんでもないような感じではなかったような……

「先生、診察のあとで少しの間、お時間頂けますか? お忙しければ後日でも構いませんが」

「? いいですよ。わたしも話がありますので聞いてくださいますか」

 先生もですか? 
 疑問符は浮かぶものの了承の返事をしました。とにもかくにもすべては診察の後で、私はオットマンに足を預けました。

「これ、履いてくださったんですね。靴を履いていらっしゃらないと聞きましたので、差し出がましいかとは思ったのですが、お持ちしたのです」

 室内履きを脱がせながら先生が嬉しそうに顔を綻ばせます。でも、私が裸足であることが伝わっていたのですね。穴がいくつあっても足りないくらい恥ずかしいですが、そのおかげで室内履きに巡り合えたことになりますから少々の恥には目を瞑りましょう。

「お心遣いありがとうございます。ええ。とても気入りました。我が家に持って帰りたいくらいです」

「これはフローラ様のために用意したものですから、遠慮なくお持ち帰りください」

「よろしいのですか? ありがとうございます」

 お邸に帰ったらさっそく履きましょう。今日のいろいろな出来事がすべて帳消しになるくらい、うきうきと心が弾みます。
  
「ローラおねえちゃん。入ってもいい?」

 隣の部屋からドアの開く音がしてちょこんと顔を見せたのは、リッキー様でした。

「リチャード殿下。レディーの診察中ですよ。入ってはいけません」

 先生がリッキー様を窘めます。

「でも、心配なんだ。ローラおねえちゃん、マロンを助けるために怪我したんだよ」

「リッキー様。怪我はしておりませんよ。ですから、心配なさらなくても大丈夫です」

「でもー」

 レイ様が大袈裟にされて医者を手配されただけなんですけど。リッキー様はマロンの飼い主として責任を感じられたのかしら? 

「先生。リッキー様を入れてあげてください。怪我してないとわかれば安心されるでしょうから」

 男の子とは言っても、まだ小さい子供ですしね。多めに見てあげてもいいと思うわ。

「フローラ様がよろしければそのようにいたしましょう。リチャード殿下、今回はフローラ様のお許しが出ましたから、特別に許可いたしますが今回だけですよ」

「うん。わーい。やったー」

 殊勝な顔で返事をされたリッキー様でしたが、すぐにばんざいをして喜んでいます。私を心配していたわけではなかったのかしら?

「俺も入ってもいいかな? ローラのことが心配なんだ」

 次にドアから顔をのぞかせたのは、置いてけぼりを食らった犬みたいな表情のレイ様でした。

「レイニー殿下は部屋でお待ちください。レディーの診察中ですので入室禁止です」

 リッキー様の時よりも厳しい口調で注意が飛びます。

「えー、そんなあ。リッキーは許可したじゃないか。だったら俺も。ホントに心配なんだ」

 ドアの隙間から顔半分出していかにもな感じで訴えていますが、単に駄々っ子のようにしか見えませんけど。

「わかりました」

 先生は仕方なさそうに大きなため息を吐くと、レイ様のところへ歩いていきました。

「あ、あの……」

 先生、もしかしてレイ様を部屋に入れるのですか? それは、困ります。どうしたらいいのでしょう。診察をしているところを見られたくはありません。ハラハラドキドキしていると

「リチャード殿下はまだお子様です。しかしレイニー殿下はれっきとした男性ですから、どんなに心配なさっていてもお入れするわけにはまいりません。子供ではないのですから、そちらのお部屋で大人しくお待ちください」

 ぴしゃりと言い放った先生はパタンとドアを閉めました。

「いやだー。開けてくれー」

 叫び声とともにドンドンとドアをたたく音が聞こえます。

「まっ、気にしなくてもよろしいでしょう。さて始めましょうか」

 そうですね。かまっていたらいつまでたっても終わりませんからね。

 ドンドンドン。
 まだ聞こえますが、レイ様けっこうしつこいです。

 リッキー様は私の横にぴったりとくっついて座っています。マロンは私の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしています。私はマロンの小さな体を撫でながら診察を受けました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...