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第二部
仲良くできるか
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他の隊員達は沈黙している。サラは立場的に、アーノルドは性格的に言えないのかもしれないが、動かした視線から動揺しているのは感じ取れる。ダニーはめんどくさいという態度で、気だるそうに欠伸をした。
だがエディ小隊長はなぜ傍観している? 様子を見るに好奇心からではないだろう。
姓を聞かなければ家が分からないが……小隊長ならば自分が受け持つ隊員の個人情報は把握しているはずだ。ジュールのほうが爵位が上なのか?
とはいえ国王軍内では当然ながら階級が優先される。そうでなければ、どの場においてもほぼ俺が最上位になるし。
「何でさっきギファルドって名乗らなかったんだ? 兄貴に気を使っているのか……それとも兄貴に自分だけが公爵家子息だと、脅されているのか?」
答える意味もないという様子でレオンは沈黙していたが、「ああ、相当虐められていて怖くて何も言えないのか」とジュール達は勝手な解釈をし、ますます室内の嫌な空気を膨張させていく。
重い沈黙の中に、ニタニタとした笑みから漏れ出す鼻息がべったりと充満する。
いくら四大公爵家嫡男とはいえ、ここでは新入隊員だ。というより、いつもの貴公子としての振る舞いで俺が上手く水に流そうじゃないか。
だが口に出そうとした時、レオンに先を越された。
「ジュール隊員。ジルベール様は誠実な方です。決してそのようなことを要求いたしませんし、私が気を使っているわけでもございません」
レオンは淡々と感情を音に含めずに言うと、そのまま小隊長のほうに顔を向けた。
「エディ小隊長」
「エディで構わないよ」
「――ではエディさん。国王軍に所属しているからには、訓練のための個人の異能や運動能力についての情報提供は必要不可欠だと思います」
エディが頷き、赤髪が揺れる。
「ですが、いくら先輩とはいえ一個人の家庭の事情などの、不要かつ不躾な質問についても答えなくてはならないのでしょうか」
レオンの問いに反論しようと声を上げたジュール達をエディが制し、優しいがはっきりとした口調で言った。
「チームワークの良さは訓練や実際の戦闘時に有効に働くから、私生活に関する会話――例えば好きな料理とか恋人の有無とかでも――は、私もするし好きだよ。だがそれを強要してはいけないし、もちろん答えるかどうかはレオン、君に決める権利がある。まあ私は仲が良かったら、自然と口にしていくものだと思うかな。そういうことだからジュール、まずは先輩として彼らが過ごしやすい雰囲気を作るよう心がけてもらえると、班を任されている身として頼もしいな」
ジュールは返事をしたが、反省している様子は全く見受けられなかった。まあラファエルのように不満を思い切り顔に出して主張しないだけいくらかマシだろうが、このままでは(もしかしたらすでに)エディの温和な性格に付け込んで増長するのが目に見えている。
エディは場を仕切り直すように、全員をゆっくりと見回した。
「この後は、他の隊とも合同での訓練がある」
「はい」
「能力については終わった後に言い合おうと思う。だから今日の訓練では、異能は使わず何も相手の情報がない状態での対戦形式――敵との遭遇を想定してほしい。では挨拶も終わったことだし、今から向かおう」
任務時に必要となるため、班で、場合によっては別の班とも、隊員の異能の情報は共有される。
当然外に漏らしたりすることは禁止事項に当たり、罰則がある。
エディはこう言ったが、英雄のレオンが風を操る能力を持っているという話は国中に広まったから国王軍で知らない者はいないだろう。ギファルド家嫡男の俺も火の異能を受け継いでいると思われているはずだから不利……いや、知られているだけで実際に異能を使用しての対戦ではないから問題はないか。今日の訓練の目的はそれぞれの基本的な運動能力を見ることだ。
軍事宮が建っている敷地の一番端にある訓練場へと皆で向かう。屋内のこの訓練場は、破壊されるのを防ぐため元々攻撃系の異能の使用は禁止されている。学園時代でも何回か使ったことがあり、一階が大きな訓練スペース、二階が突き抜けになっていて、壁沿いにある通路から下の様子を観察できる。
到着すると、すでに他の班の隊員達が数人グループずつになって剣での模擬戦をしているところだった。
グレンロシェの国民全員が持っている異能は、人によって使える内容が違う。通常戦闘向けの能力を持つ者がハディード学園に入学し国王軍に所属するため、実際の戦いでも異能に頼ることが多い。だが使える限度や状況、敵との相性もあり、そして個人の身体能力を高めることは重要である。そのため剣術も必修科目であり、学園時代にも授業があった。
エディが隊員達を訓練場の隣にある武器庫の扉の前に集めた。
「本日の合同訓練だが、目的は鍛錬と隊員同士の純粋な剣の技能を見ることだ。勝敗は関係ない、無理をして怪我をしないよう注意してほしい。まずは自分に合う剣を選ぶように」
中に入り、自分の体で扱いやすい長さの剣を手に取る。当然俺は自分自身の剣を持っているが、こういった訓練時での使用は許可されていない。
国王軍には平民出身の隊員もおり、給付金は家族へ仕送りするため剣を買う余裕がない者がいる。また、価格によって剣の強度が異なることも、勝ち負けが重要でない、国を守るための訓練としては相応しくないとの見解のためらしい。
父上が学生時代にそう思い、当時の軍事宮高官であった祖父と国王陛下に意見を伝えたと噂で聞いている。
選び終えてから空いているスペースまで行くと、エディが「まずはティムとケント、君達からいこうか」と指示を出した。二人とも大柄の体格で、力の強さは見た限り差はあまりなさそうだ。
剣を構え、二人は早速始めた。金属音が響き渡るが……下手だとか慣れていないのではなく、どう見ても本気でやっているようには見えない。もちろん訓練なので故意に怪我をさせるようなことは禁止されているし、相手が格下と分かればそのレベルに合わせる必要がある。
だが、ティムとケントの二人は仲間同士、相手の力量を完全に把握していて、手を抜いているようにしか感じられない。いくら勝敗は関係ない訓練といえども、これでは対戦訓練ではなくお遊びの延長に近いとさえ思える。
真剣にやらない訓練に上達は付随しない。実際の戦闘時に自分達はもちろん、仲間も危険に晒す。このような感じなのでなかなか決着がつかずにいると、エディが声をかけて止め、「次はジュールとアーノルドで」と促した。
なぜ何も注意しない、との疑問が浮かぶ。フェリー大隊長のエディの評価、『 訓練は厳しいが優しい、公正な人物』というのは間違いなのか?
それにアーノルドの異能は何だ? 国王軍所属とは思えないほど頼りなく見える。
ダッドも内気だが、情報収集が主な任務だから戦闘能力に優れていなくとも、前線に出ないため特に問題はない。むしろダッドの役割では、敵側に進み過ぎて捕まったり魔物に近付いて攻撃されることを回避する慎重さが求められるため、彼の性格は適している。
一方でこの第五班は火と風という戦闘向けの能力を持つ俺達が配属されたのだから、実際に戦うことを想定されているはずだし、そもそも数字の若い第九隊だ。
二人が前に出たが、先ほどのような発言をし強気な性格で鍛え上げられた体躯のジュールと、小柄な上におどおどとして視線も定まらないアーノルドでは訓練にならないだろう。
新しく班が編制されたといっても通常ならば前小隊長から引き継ぎがあるだろうし、もし実力を知らなかったとしても、それならば尚更この組み合わせは理解できない。
ジュール達四人組は嫌らしい笑みを隠し切れず、口元が緩んでいる。レオンとダニーは無表情だがサラは心配そうにしているし、異様な雰囲気に気が付いた周囲の隊員達もこちらに注目し始めた。すぐに彼らの小隊長から注意されていたが。
大勢の中で圧倒的な差を見せつけられ、恥をかかせるような悪趣味なことをするようには見えないエディだが……ましてやアーノルドの性格は、打ちのめされて奮い立つよりも、そのまま退軍を選ぶ方だろうに。
二人は一定の距離を保ち、剣を構えて向かい合っている。まだ間合いに余裕があるので、ジュールは相手を揶揄うように、剣を持った右手を大袈裟なほど持ち上げた。アーノルドは完全に萎縮し、視線も動かせないほど固まっているように見える。
ジュールが一歩踏み出し、その勢いのまま右手を振り下ろした。きちんと学んだ型ではなく、我流だ。体格が良く運動能力も高そうなのとあの性格で喧嘩慣れしているのか、力任せに飛びかかる。
アーノルドは足が竦んでいるのか後退しない。ジュールが上手く攻撃を逸らせればよいが、このままでは直撃する……訓練を見ている周りの隊員のほとんどが僅かな時間にそう想像し、ジュールの剣がアーノルドの左肩を打ち付けたのを見たのと同時に「ぐえっ」という呻き声、そして体が地面に叩きつけられる音を聞いた。
一瞬アーノルドから発せられたと思ったが、実際にはジュールが大きい体を大の字にして、完全に伸びた姿で地面に横たわっていた。
だがエディ小隊長はなぜ傍観している? 様子を見るに好奇心からではないだろう。
姓を聞かなければ家が分からないが……小隊長ならば自分が受け持つ隊員の個人情報は把握しているはずだ。ジュールのほうが爵位が上なのか?
とはいえ国王軍内では当然ながら階級が優先される。そうでなければ、どの場においてもほぼ俺が最上位になるし。
「何でさっきギファルドって名乗らなかったんだ? 兄貴に気を使っているのか……それとも兄貴に自分だけが公爵家子息だと、脅されているのか?」
答える意味もないという様子でレオンは沈黙していたが、「ああ、相当虐められていて怖くて何も言えないのか」とジュール達は勝手な解釈をし、ますます室内の嫌な空気を膨張させていく。
重い沈黙の中に、ニタニタとした笑みから漏れ出す鼻息がべったりと充満する。
いくら四大公爵家嫡男とはいえ、ここでは新入隊員だ。というより、いつもの貴公子としての振る舞いで俺が上手く水に流そうじゃないか。
だが口に出そうとした時、レオンに先を越された。
「ジュール隊員。ジルベール様は誠実な方です。決してそのようなことを要求いたしませんし、私が気を使っているわけでもございません」
レオンは淡々と感情を音に含めずに言うと、そのまま小隊長のほうに顔を向けた。
「エディ小隊長」
「エディで構わないよ」
「――ではエディさん。国王軍に所属しているからには、訓練のための個人の異能や運動能力についての情報提供は必要不可欠だと思います」
エディが頷き、赤髪が揺れる。
「ですが、いくら先輩とはいえ一個人の家庭の事情などの、不要かつ不躾な質問についても答えなくてはならないのでしょうか」
レオンの問いに反論しようと声を上げたジュール達をエディが制し、優しいがはっきりとした口調で言った。
「チームワークの良さは訓練や実際の戦闘時に有効に働くから、私生活に関する会話――例えば好きな料理とか恋人の有無とかでも――は、私もするし好きだよ。だがそれを強要してはいけないし、もちろん答えるかどうかはレオン、君に決める権利がある。まあ私は仲が良かったら、自然と口にしていくものだと思うかな。そういうことだからジュール、まずは先輩として彼らが過ごしやすい雰囲気を作るよう心がけてもらえると、班を任されている身として頼もしいな」
ジュールは返事をしたが、反省している様子は全く見受けられなかった。まあラファエルのように不満を思い切り顔に出して主張しないだけいくらかマシだろうが、このままでは(もしかしたらすでに)エディの温和な性格に付け込んで増長するのが目に見えている。
エディは場を仕切り直すように、全員をゆっくりと見回した。
「この後は、他の隊とも合同での訓練がある」
「はい」
「能力については終わった後に言い合おうと思う。だから今日の訓練では、異能は使わず何も相手の情報がない状態での対戦形式――敵との遭遇を想定してほしい。では挨拶も終わったことだし、今から向かおう」
任務時に必要となるため、班で、場合によっては別の班とも、隊員の異能の情報は共有される。
当然外に漏らしたりすることは禁止事項に当たり、罰則がある。
エディはこう言ったが、英雄のレオンが風を操る能力を持っているという話は国中に広まったから国王軍で知らない者はいないだろう。ギファルド家嫡男の俺も火の異能を受け継いでいると思われているはずだから不利……いや、知られているだけで実際に異能を使用しての対戦ではないから問題はないか。今日の訓練の目的はそれぞれの基本的な運動能力を見ることだ。
軍事宮が建っている敷地の一番端にある訓練場へと皆で向かう。屋内のこの訓練場は、破壊されるのを防ぐため元々攻撃系の異能の使用は禁止されている。学園時代でも何回か使ったことがあり、一階が大きな訓練スペース、二階が突き抜けになっていて、壁沿いにある通路から下の様子を観察できる。
到着すると、すでに他の班の隊員達が数人グループずつになって剣での模擬戦をしているところだった。
グレンロシェの国民全員が持っている異能は、人によって使える内容が違う。通常戦闘向けの能力を持つ者がハディード学園に入学し国王軍に所属するため、実際の戦いでも異能に頼ることが多い。だが使える限度や状況、敵との相性もあり、そして個人の身体能力を高めることは重要である。そのため剣術も必修科目であり、学園時代にも授業があった。
エディが隊員達を訓練場の隣にある武器庫の扉の前に集めた。
「本日の合同訓練だが、目的は鍛錬と隊員同士の純粋な剣の技能を見ることだ。勝敗は関係ない、無理をして怪我をしないよう注意してほしい。まずは自分に合う剣を選ぶように」
中に入り、自分の体で扱いやすい長さの剣を手に取る。当然俺は自分自身の剣を持っているが、こういった訓練時での使用は許可されていない。
国王軍には平民出身の隊員もおり、給付金は家族へ仕送りするため剣を買う余裕がない者がいる。また、価格によって剣の強度が異なることも、勝ち負けが重要でない、国を守るための訓練としては相応しくないとの見解のためらしい。
父上が学生時代にそう思い、当時の軍事宮高官であった祖父と国王陛下に意見を伝えたと噂で聞いている。
選び終えてから空いているスペースまで行くと、エディが「まずはティムとケント、君達からいこうか」と指示を出した。二人とも大柄の体格で、力の強さは見た限り差はあまりなさそうだ。
剣を構え、二人は早速始めた。金属音が響き渡るが……下手だとか慣れていないのではなく、どう見ても本気でやっているようには見えない。もちろん訓練なので故意に怪我をさせるようなことは禁止されているし、相手が格下と分かればそのレベルに合わせる必要がある。
だが、ティムとケントの二人は仲間同士、相手の力量を完全に把握していて、手を抜いているようにしか感じられない。いくら勝敗は関係ない訓練といえども、これでは対戦訓練ではなくお遊びの延長に近いとさえ思える。
真剣にやらない訓練に上達は付随しない。実際の戦闘時に自分達はもちろん、仲間も危険に晒す。このような感じなのでなかなか決着がつかずにいると、エディが声をかけて止め、「次はジュールとアーノルドで」と促した。
なぜ何も注意しない、との疑問が浮かぶ。フェリー大隊長のエディの評価、『 訓練は厳しいが優しい、公正な人物』というのは間違いなのか?
それにアーノルドの異能は何だ? 国王軍所属とは思えないほど頼りなく見える。
ダッドも内気だが、情報収集が主な任務だから戦闘能力に優れていなくとも、前線に出ないため特に問題はない。むしろダッドの役割では、敵側に進み過ぎて捕まったり魔物に近付いて攻撃されることを回避する慎重さが求められるため、彼の性格は適している。
一方でこの第五班は火と風という戦闘向けの能力を持つ俺達が配属されたのだから、実際に戦うことを想定されているはずだし、そもそも数字の若い第九隊だ。
二人が前に出たが、先ほどのような発言をし強気な性格で鍛え上げられた体躯のジュールと、小柄な上におどおどとして視線も定まらないアーノルドでは訓練にならないだろう。
新しく班が編制されたといっても通常ならば前小隊長から引き継ぎがあるだろうし、もし実力を知らなかったとしても、それならば尚更この組み合わせは理解できない。
ジュール達四人組は嫌らしい笑みを隠し切れず、口元が緩んでいる。レオンとダニーは無表情だがサラは心配そうにしているし、異様な雰囲気に気が付いた周囲の隊員達もこちらに注目し始めた。すぐに彼らの小隊長から注意されていたが。
大勢の中で圧倒的な差を見せつけられ、恥をかかせるような悪趣味なことをするようには見えないエディだが……ましてやアーノルドの性格は、打ちのめされて奮い立つよりも、そのまま退軍を選ぶ方だろうに。
二人は一定の距離を保ち、剣を構えて向かい合っている。まだ間合いに余裕があるので、ジュールは相手を揶揄うように、剣を持った右手を大袈裟なほど持ち上げた。アーノルドは完全に萎縮し、視線も動かせないほど固まっているように見える。
ジュールが一歩踏み出し、その勢いのまま右手を振り下ろした。きちんと学んだ型ではなく、我流だ。体格が良く運動能力も高そうなのとあの性格で喧嘩慣れしているのか、力任せに飛びかかる。
アーノルドは足が竦んでいるのか後退しない。ジュールが上手く攻撃を逸らせればよいが、このままでは直撃する……訓練を見ている周りの隊員のほとんどが僅かな時間にそう想像し、ジュールの剣がアーノルドの左肩を打ち付けたのを見たのと同時に「ぐえっ」という呻き声、そして体が地面に叩きつけられる音を聞いた。
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