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第7章 初めての喧嘩と仲直り
⑦
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最初に口を開いたのは、お父さんだった。
「話は聞いている。」
律さんは姿勢を正した。
「初めての誕生日を、無視したな。」
「無視ではありません。時間に、間に合わなかっただけで……」
言葉尻に、律さんの悔しさが滲んでいた。
でも、お父さんは顔色ひとつ変えずに続けた。
「だが娘は、二時間もおまえを待ったんだ。何も知らされずに。誕生日に、一人で。」
律さんは口を開きかけ、しかし言葉が出なかった。
代わりに静かに俯き、拳を膝の上で握った。
「千尋はおまえを信じていた。その信頼を、どうやって取り戻すつもりだ?」
問い詰めるような声。
私は苦しくなって、視線を落とした。
律さんは顔を上げ、私に向き直った。
「……言い訳はしません。責任のある立場なのは事実だけど、それで千尋の気持ちを後回しにしていい理由にはならない。」
律さんの目がまっすぐだった。
いつかプロポーズされたときと、同じ眼差し。
「千尋。申し訳なかった。」
その声に顔を上げると、そこには、膝をつき頭を下げる律さんの姿があった。
「……えっ⁉」
驚きで、私は一歩後ずさる。
律さんが、私に――土下座?
会社では数千人を率いる御曹司。
冷静沈着で、誰よりも堂々としている人。
そんな律さんが、今、私一人のために、頭を床につけている。
「やめてよ、律さん……!」
慌てて律さんの肩に手を伸ばす。
でも、彼は動かない。
「千尋。」
顔を上げた律さんが、私の手をそっと取った。
その手は、冷たくもあたたかくもなく、ただ真剣だった。
「もう一度……やり直したいんだ。千尋の誕生日を。」
その目に、また胸が痛くなった。
真っ直ぐで、必死で、どこまでも不器用で。
「でも、誕生日は……その日しかないのよ。」
ぽつりとつぶやいた私の声に、律さんは力強く頷いた。
「分かってる。だから、“やり直す”じゃなくて、“やり直したい”んだ。千尋が生まれてきてくれたことを、ちゃんと……心から、お祝いしたい。」
その言葉に、思わず喉が詰まる。
律さんが、私の誕生日を「祝いたい」と言ってくれた。
形式じゃなくて、義務でもなくて――心から。
「……そんなの、ズルいよ……」
気づけば、涙が頬を伝っていた。
その一滴を、律さんの指先がそっと拭った。
「泣かせたくて来たんじゃない。笑ってほしいんだ。千尋の、あの笑顔が見たい。」
「……じゃあ、ちゃんと連れて行ってよ。今度こそ。」
「もちろん。」
律さんは立ち上がると、私の手を優しく握り直した。
「君の誕生日を、世界で一番大切な日にする。何度でも、これからもずっと。」
私は、うん、と小さく頷いた。
「……帰って来てくれるね?」
律さんが、少しだけ不安そうに私を見つめる。
私は――涙で滲んだ目のまま、うんうんと何度も頷いた。
「うん……うん……!」
すると律さんは、小さく息を吐いて微笑んだ。
そして私の手をしっかりと握り直す。
「話は聞いている。」
律さんは姿勢を正した。
「初めての誕生日を、無視したな。」
「無視ではありません。時間に、間に合わなかっただけで……」
言葉尻に、律さんの悔しさが滲んでいた。
でも、お父さんは顔色ひとつ変えずに続けた。
「だが娘は、二時間もおまえを待ったんだ。何も知らされずに。誕生日に、一人で。」
律さんは口を開きかけ、しかし言葉が出なかった。
代わりに静かに俯き、拳を膝の上で握った。
「千尋はおまえを信じていた。その信頼を、どうやって取り戻すつもりだ?」
問い詰めるような声。
私は苦しくなって、視線を落とした。
律さんは顔を上げ、私に向き直った。
「……言い訳はしません。責任のある立場なのは事実だけど、それで千尋の気持ちを後回しにしていい理由にはならない。」
律さんの目がまっすぐだった。
いつかプロポーズされたときと、同じ眼差し。
「千尋。申し訳なかった。」
その声に顔を上げると、そこには、膝をつき頭を下げる律さんの姿があった。
「……えっ⁉」
驚きで、私は一歩後ずさる。
律さんが、私に――土下座?
会社では数千人を率いる御曹司。
冷静沈着で、誰よりも堂々としている人。
そんな律さんが、今、私一人のために、頭を床につけている。
「やめてよ、律さん……!」
慌てて律さんの肩に手を伸ばす。
でも、彼は動かない。
「千尋。」
顔を上げた律さんが、私の手をそっと取った。
その手は、冷たくもあたたかくもなく、ただ真剣だった。
「もう一度……やり直したいんだ。千尋の誕生日を。」
その目に、また胸が痛くなった。
真っ直ぐで、必死で、どこまでも不器用で。
「でも、誕生日は……その日しかないのよ。」
ぽつりとつぶやいた私の声に、律さんは力強く頷いた。
「分かってる。だから、“やり直す”じゃなくて、“やり直したい”んだ。千尋が生まれてきてくれたことを、ちゃんと……心から、お祝いしたい。」
その言葉に、思わず喉が詰まる。
律さんが、私の誕生日を「祝いたい」と言ってくれた。
形式じゃなくて、義務でもなくて――心から。
「……そんなの、ズルいよ……」
気づけば、涙が頬を伝っていた。
その一滴を、律さんの指先がそっと拭った。
「泣かせたくて来たんじゃない。笑ってほしいんだ。千尋の、あの笑顔が見たい。」
「……じゃあ、ちゃんと連れて行ってよ。今度こそ。」
「もちろん。」
律さんは立ち上がると、私の手を優しく握り直した。
「君の誕生日を、世界で一番大切な日にする。何度でも、これからもずっと。」
私は、うん、と小さく頷いた。
「……帰って来てくれるね?」
律さんが、少しだけ不安そうに私を見つめる。
私は――涙で滲んだ目のまま、うんうんと何度も頷いた。
「うん……うん……!」
すると律さんは、小さく息を吐いて微笑んだ。
そして私の手をしっかりと握り直す。
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