御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第4章 仮面夫婦説

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うん、間違いない。私たち夫婦は、ちゃんと恋愛してるし、夫婦関係も順調そのものだ。

「よしっ!」

そんな気分の時って、不思議と仕事もはかどる。

「できた!」

達成感でいっぱいの私に、側にいた滝くんが恐るおそる声をかけてきた。

「なんか……最近、仕事めっちゃ充実してません?」

「そうね。これなら部長だって、“もっと仕事しろ”なんて言えないでしょ?」

にっこり笑うと、滝くんはさらにそろりと近づいて、こそっと耳打ちした。

「夫婦生活……上手くいってるんですか?」

その一言に、私は思わず吹き出しそうになった。

「えっ!」

私は滝くんを見た。

「ええっ?」

まさか、そんなこと聞いてくるなんて思わなかった。

「うん、まあ……この前なんて……朝、出かける時に……玄関で……」

言ってから、自分で顔が熱くなるのがわかった。

「って、何言わせるのよ!」

思わず滝くんの背中をバシッと叩く。

「いいっすねえ~。」

滝くんはあははと笑っている。

「ふーん、なるほど。そっちの夫婦生活ですか。」

「……え?」

私が目をぱちくりさせると、滝くんはちょっと困ったような顔で言った。

「俺、夜のことじゃなくて、新生活について聞いたんですけど。」

「きゃあああああああ!」

もう恥ずかしすぎて、椅子の下に潜り込みたかった。

「いやぁ、仲がいいのはいいことですよ。ええ、ほんと。」

滝くんの顔が、絶妙ににやけているのがまた腹立たしい。

すると突然、背後から肩を叩かれた。

「どうした?悲鳴なんて上げて。仕事が上手くいってないのか?」

「ぶ、部長……!」

私はくるりと振り向き、胸を張って堂々と言い切った。

「任せてください。今なら、どんな仕事もこなせる自信があります!」

すると部長はジト目でひと言。

「夫婦生活、上手く行ってないんだな。」

「えぇぇっ⁉」

思わず、デスクにガクッと突っ伏した。

「いえ、生活は上手く行ってます!むしろ、完璧です!」

「……あっ、そう。」

何気ない顔でうんうんと頷く部長。だが、次の瞬間――。

「いやな、朝倉って“疑似結婚”なんじゃないかって噂があってな。」

「ぎ、疑似結婚!?」

顔を上げた私は、目をまんまるにして部長を見つめた。

「今って、契約結婚って言うの?恋愛感情なくて、お互いの利害一致で結婚するやつ。」

「え、えええええっ!? 誰ですか、そんなこと言い出したの!? 律さんとは、ちゃんと愛し合ってますっ!」

否定したはずなのに、滝君はそっと立ち上がって、部長の耳元に何かを囁いた。

「部長、その件はあまり……」

「ん? ああ、内緒だったのか?」

「な、なになに⁉」私は慌てて椅子から立ち上がる。

「ど、どうしてそんなことになってるの?」

すると二人は、なんとも言えない苦笑いを浮かべた。

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