御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第4章 仮面夫婦説

「朝倉さん、なんといいますか……」

滝君が言いにくそうに言葉を探していると、部長がズバッと口を挟んだ。

「新婚さんって雰囲気、ないんだよな。」

「へ?」

「仕事ばっかりしてるし。朝も夜も遅いし。ほんとに一緒に暮らしてるのか?って。」

「いや、ちゃんと暮らしてます!玄関でキスしてます!っていうか、今朝なんて――」

はっ、と口を押さえる。

……しまった。またやらかした。

部長がニヤついた顔で言った。

「何、朝からイチャついてきたのか?」

私は黙って下を向く。だって……図星だし。

すると部長がふっと遠くを見るような目になった。

「俺にもあったな……そういう時期。」

「部長……」

滝君がそっと部長の背中を摩った。

「うちも……遠い昔に。」

なんかしみじみしてるけど、その“昔”って、どれくらい前なんだろう。

私はぼんやり思う。いつか律さんも、こんな風に懐かしむ日が来るのかな。

その時、素朴な疑問が浮かんだ。

「ねえ、男の人って、そんなにイチャつくのが大事なんですか?」

その瞬間、部長の目がギラッと光った。

「大事だ!!」

何その即答と、無駄な熱量!

「男にとって、妻とイチャつけるというのはな――」

部長は、スーツの袖をまくりながら力説する。

「俺はイケてるっていう、自信の証なんだ!」

「証って……なにそれ、バッジみたいに言わないでください。」

「いやマジだぞ!イチャつかせてもらえるってことは、まだ男として現役ってことだからな。」

部長が拳を握って語る姿に、なんだか胸がいっぱいになる。

そして、私はふっと微笑んで言った。

「でも、うちの旦那は、そんなことしなくてもイケてますけど。」

「おおっと?」

部長と滝君が声を揃えた。

……やば。思わずのろけた。

でも、いいの。
だって本当に、私の旦那は“そのままでもイケてる”んだから。

夜、家に帰って律さんにその話をした。

「今日、私達は疑似結婚なんじゃないかって言われた。」

ソファーでビールを飲んでいる律さんが吹き出しそうになった。

「疑似結婚⁉」

律さんがハイトーンボイスで驚く。

「なんか、新婚の雰囲気がないって。」

私も律さんの隣に座ってビールを飲んだ。

「雰囲気がないって、俺達そんな冷えてるかな。」

「うーん。なんかね、イチャつくのが大事だって言われた。」

律さんは、ビールをもう一口飲んでから、ぽつりと言った。

「イチャつくのが大事……か。なるほどね。」

「うん。部長が言ってた。“妻とイチャつけるってことは、俺はまだイケてるっていう自信の証なんだ”って。」

律さんが吹き出した。

「なんだそれ、部長さん熱いな。でも……間違ってないかも。」

「え?」

「俺もさ、千尋が甘えてくれると、やっぱり嬉しいし、男として見られてるんだって思える。」

そう言って、律さんは私の手をそっと握った。
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