「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
8 / 46

第二章 復讐のための婚約 ③

しおりを挟む
「……違う。逆だ。あまりに“上”すぎる」

「え……?」

「いいか、セレナ。カイル殿下は確かに第2皇子だが……皇太子になり得るお方だ。」

「……えっ?」

私は思わず問い返した。

けれど、父はそれには答えず、重い足取りで立ち上がると、ゆっくりと窓際に歩いていった。

そして、遠く空を見上げるようにして、低く静かに語りはじめた。

「今の皇太子殿下──第一皇子は、妾腹のお子だ。正室の王妃様が産んだわけではない。だが国王陛下は温情深く、それを理由に差別することなく、皇太子の座をお与えになられた。」

言葉を選ぶような慎重な語り口だった。

「しかし……あの方は、剣術が苦手でな。

学問には通じておられるが、軍務には不向きと囁かれている。

もしこの国に大きな危機が訪れ、剣と指導力が求められる日が来たら──」

父は、ふっと息を吐いた。

「そのとき真に国を守れるのは、“正妃の子”であり、“剣を振るえる王子”……つまり、カイル殿下なのだ」

頭の中が一瞬、真っ白になった。

……そんな話、聞いたことがなかった。

けれど父の表情は真剣そのもので、冗談ではないとすぐにわかった。

「だからこそ……私は、お前を殿下に近づけまいとした。王族の妻になるということは──お前の人生を、自分の手で手放すことになるからだ」

父の背中が、少しだけ寂しそうに見えた。

「……それでも、私は引くことはできません」

静かに、でも確かにそう告げたとき、父の背中がぴくりと揺れた。

カイル殿下は、たとえ嘘でも、私にプロポーズしてくださった。

あの片膝をついて差し出された手を……あの、ウィンクを……私が手放したら──二度と見ることはできない。

言葉を紡ぎながら、あの夜のことが鮮明によみがえる。

優しい声。あたたかい手。

まるで夢のような時間だった。でも、あれは確かに現実だった。

私は一歩、父に近づいた。

「お父様。私は……カイル殿下に片膝をつかせた令嬢なのですよ」

その一言に、父は驚いたように私を見つめた。

「セレナ……」

「殿下のご決意。私は、お受けしたいと思っています」

たとえ復讐のための偽りの婚約でも──

私はこの機会を、決して無駄にはしない。

ユリウスに捨てられ、笑われ、見下されたまま終わるなんて、絶対にいや。

私は、私の誇りを、取り戻す。

「……そうか」

父は、しばらく黙ってから、小さく目を閉じた。

その表情にあったのは、怒りでも拒絶でもなく──ほんの少しの、諦めと、父としての祈りだった。

そして、しばらくの後。

私と両親は、王城へと招かれた。

深紅の絨毯が敷かれた謁見の間。

そこには、堂々たる威厳をまとった国王陛下、そしてその傍らには、正装に身を包んだカイル殿下の姿があった。

「よく来てくれた。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

処理中です...