14 / 101
第2部 初夜の誤解と、優しい眼差し
③
しおりを挟む
そして最後に、にこやかに笑うルシアが姿を現した。
私の妹――誰よりも美しく、誰よりも自信に満ちた瞳を持つ少女。
「お姉様。ようやく結婚ね。」
「ありがとう。」
「これからは夫人として生きるのね。」
「そうね。」
「“伯爵”夫人としてね。」
その言葉には、かすかに含みがあった。まるで、私を見下しているような――そんな気がした。
「私はまあ、公爵夫人になるとは思うけれど。」
「そうかもね。」私は微笑んで応じたつもりだった。
でも、胸が少しだけざわついた。
ルシアは一歩近づき、囁くように言った。
「夜会で見かけても、話しかけないでね。」
「えっ?」思わず聞き返すと、彼女はくすりと笑った。
まるで、これが姉妹の最後の挨拶だとでも言うように。
私は何も返せず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。
「だって、妹の私が公爵夫人なのに、姉は伯爵夫人だなんて。どう考えても釣り合わないでしょ。」
ルシアは涼しげな笑みを浮かべながら、まるで事実を告げるだけのような口ぶりでそう言った。
胸の奥に小さな棘が刺さる。私は感情を抑えて言葉を返す。
「伯爵家だって、立派な貴族よ。」
「最近成り上がったばかりだけどね。」
ルシアのその一言に、私は思わず拳を握り締めた。
確かに、グレイバーン伯爵家は父の代に爵位を得た家。
由緒ある家系とは言えない。
でも、だからといって蔑まれる謂れはない。
「そんなこと、関係ないわ。」
「ふうん? でも世間は、そう思ってくれるかしら?」
ルシアは意地悪く目を細めて、最後に一礼した。
「それじゃ、お幸せに。お姉様。」
その言葉だけは、少しだけ本心が混じっていたように思えた。
でも私は――口を閉じたまま、背筋だけは伸ばして見送った。
私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、ゆっくりと動き出すまでの短い間に、母が声をかけてきた。
「子供が生まれたら、顔を見せに来なさい。」
「はい。分かりました。」
母の目には、再び涙が浮かんでいた。
きっといろいろな思いがあるのだろう。
「結婚式には行くから。」
「……はい、お母様。」
小さくうなずきながら、私は目線を横に移した。
そこには妹のルシアがいた。
だが、彼女は私と目を合わせようとせず、そっぽを向いたままだった。
「ルシア。」私は少し声を強めて呼びかけた。
「なに?」
不機嫌そうな顔で、ようやく振り向いた妹に、私は優しく言った。
「結婚が決まったら、教えて。」
ルシアは少しの沈黙のあと、ふいっと目をそらしながら、ぽつりと答えた。
「分かったわ。」
その声には、どこか拗ねたような響きがあった。
そして、馬車は静かに動き始めた。
私は揺れる馬車の中で、家族との最後の時間を胸に刻みながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
私の妹――誰よりも美しく、誰よりも自信に満ちた瞳を持つ少女。
「お姉様。ようやく結婚ね。」
「ありがとう。」
「これからは夫人として生きるのね。」
「そうね。」
「“伯爵”夫人としてね。」
その言葉には、かすかに含みがあった。まるで、私を見下しているような――そんな気がした。
「私はまあ、公爵夫人になるとは思うけれど。」
「そうかもね。」私は微笑んで応じたつもりだった。
でも、胸が少しだけざわついた。
ルシアは一歩近づき、囁くように言った。
「夜会で見かけても、話しかけないでね。」
「えっ?」思わず聞き返すと、彼女はくすりと笑った。
まるで、これが姉妹の最後の挨拶だとでも言うように。
私は何も返せず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。
「だって、妹の私が公爵夫人なのに、姉は伯爵夫人だなんて。どう考えても釣り合わないでしょ。」
ルシアは涼しげな笑みを浮かべながら、まるで事実を告げるだけのような口ぶりでそう言った。
胸の奥に小さな棘が刺さる。私は感情を抑えて言葉を返す。
「伯爵家だって、立派な貴族よ。」
「最近成り上がったばかりだけどね。」
ルシアのその一言に、私は思わず拳を握り締めた。
確かに、グレイバーン伯爵家は父の代に爵位を得た家。
由緒ある家系とは言えない。
でも、だからといって蔑まれる謂れはない。
「そんなこと、関係ないわ。」
「ふうん? でも世間は、そう思ってくれるかしら?」
ルシアは意地悪く目を細めて、最後に一礼した。
「それじゃ、お幸せに。お姉様。」
その言葉だけは、少しだけ本心が混じっていたように思えた。
でも私は――口を閉じたまま、背筋だけは伸ばして見送った。
私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、ゆっくりと動き出すまでの短い間に、母が声をかけてきた。
「子供が生まれたら、顔を見せに来なさい。」
「はい。分かりました。」
母の目には、再び涙が浮かんでいた。
きっといろいろな思いがあるのだろう。
「結婚式には行くから。」
「……はい、お母様。」
小さくうなずきながら、私は目線を横に移した。
そこには妹のルシアがいた。
だが、彼女は私と目を合わせようとせず、そっぽを向いたままだった。
「ルシア。」私は少し声を強めて呼びかけた。
「なに?」
不機嫌そうな顔で、ようやく振り向いた妹に、私は優しく言った。
「結婚が決まったら、教えて。」
ルシアは少しの沈黙のあと、ふいっと目をそらしながら、ぽつりと答えた。
「分かったわ。」
その声には、どこか拗ねたような響きがあった。
そして、馬車は静かに動き始めた。
私は揺れる馬車の中で、家族との最後の時間を胸に刻みながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
170
あなたにおすすめの小説
異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。
ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。
前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。
婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。
国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。
無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした
er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる