家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第3部 見捨てられた令嬢、伯爵邸で咲く

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すると彼女達はまるで、親しい人に話しかけるように私に尋ねた。

「旦那様はお優しいですか?」

「そうね。」

まだ一日しか経っていないけれど、そう答えた。

「だって、そうよ。旦那様は私達にもお優しいもの。お嬢様と違って。」

「お嬢様?」思わず聞き返す。

「旦那様のお姉様です。」

私は驚いた。

そんな話、聞いていない。
「……今はどこにお住まいなの?」

「ええっと……出産で、お亡くなりになられて……」

口ごもる侍女の言葉に、私は沈黙した。

「とてもお綺麗で、気高いお方でした。でも、私達には少し厳しくて……」

彼女たちは互いに目を見合わせながら、どこか遠慮がちに語る。

「旦那様は、お姉様が亡くなってから、より一層、私達に優しくなったんです。」

私は胸の奥がじんとした。

セドリックの優しさの根には、そんな深い哀しみがあったのだと初めて知った。

「私はこの家の事を何も知らずに嫁いだのね。」

それがなぜか、悔しかった。

「そんなものですよ。」

侍女の一人がふっと笑った。

「お嬢様の時もそうでしたから。」

「……そう。」

「公爵家に嫁いだのですが、何も情報は知らされませんでした。ご立派な家柄でしたけれど……」

他の侍女が小さな声で続けた。

「あとで分かったのですが、お嬢様……かなり虐められていたようで。」

「誰に?」

私は息を呑んだ。

「お母上様や、侍女たちにです。」

そんな話をセドリックから一度も聞いたことがない。

「とても辛い日々だったと……でも決して弱音は吐かれませんでした。」

「どうして?」

「お嬢様は……プライドの高い方でしたから。ご自身が弱いところを見せるのを嫌がって。」

私は胸の奥が苦しくなった。

セドリックの姉は、誇り高く、そして誰にも頼れないまま命を落としたのかもしれない。

夜になり、セドリックが帰って来た。

「おかえりなさいませ。」

私は立ち上がって出迎える。

「ただいま。」

真っ直ぐに私の元へ歩いてきた彼は、微笑むと、私の手をそっと取った。

「お腹が空いてますでしょう。夕食にしましょう。」

「……ああ。」

そう言って背中を向けたその瞬間、セドリックが私を後ろから抱きしめてきた。

「クラリスが……ここにいる。」

まるで、私の存在を確かめるような強い抱擁。

「帰って来たら、クラリスがいないのではないかと思った。」

「まあ、どうして?」私は驚いて振り返ろうとした。

「……夢じゃないかって思ったんだ。君が、ここにいることが。」

低く落ち着いた声で、けれどどこか不安げに。

私は静かに微笑み、彼の手に自分の手を重ねた。

「私は逃げたりしないわ。ちゃんと、ここにいるもの。」

その言葉に、彼の腕がもう一度ぎゅっと強くなった。

暖かくて、安心できる夜だった。
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