家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第3部 見捨てられた令嬢、伯爵邸で咲く

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午後の陽射しの中、私はゆっくりと庭を散歩していた。

「広い敷地ね。」

何気なく呟くと、後ろからマリーナが答えてくれる。

「お屋敷が小さいので、そう思われるのです。」

彼女の遠慮のない物言いに、少しだけ親近感を覚える。

「花が多いわね。」

「ええ。伯爵夫人――前の伯爵夫人のお好みです。」

マリーナは私についてくるのに必死なようで、私はわざと歩くスピードを緩めた。

そんな時だった。

「やあ、新しい夫人かぁ。」

陽に焼けた顔の中年男性が、手にした剪定ばさみを持ったまま笑いかけてきた。

「クラリスです。宜しく。」

「ロルフ・ヘンダーソンだ。庭師をしている。ロルフと呼んでくれ。」

「分かったわ、ロルフ。」

気さくな笑顔と、手入れの行き届いた庭が、彼の誠実な人柄を物語っていた。

ここでの生活にも、少しずつ馴染める気がしてきた。

「そうだ。この前、敷地の整備をして空いている土地がある。クラリス様の好きな花を植えよう。」

ロルフが少し照れくさそうに言った。

「ありがとう、ロルフ。楽しみにしているわ。」

自分のために何かをしてくれる――それがこんなにも嬉しいものなのだと、私は改めて実感した。

そこからまたしばらく歩いていくと、ふと人の声が聞こえてきた。

声のする方へ目を向けると、数人の使用人たちがバルコニーに集まって、お茶を楽しんでいる様子だった。

敷地のほぼ真ん中にあるその場所は、日当たりも良く、風通しのいい気持ちのよい空間。

だが、驚いたのはそこが使用人たちに使われていることだった。

「バルコニーって……使用人が使っていいの?」

私は思わずマリーナに尋ねた。

「ええ。旦那様が、”いい空間は皆で分け合おう”とおっしゃって、使用人の休憩所として開放されたのです。」

セドリックの優しさと、公正な人柄をまた一つ知ることになった。

そして、侍女の一人が私に気づいた。

「クラリス様……!」

彼女の声に反応して、他の侍女たちも一斉にこちらを振り向いた。

そして、まるでいたずらを見つかった子どもたちのように、慌ててお茶会の茶器を片付け始めた。

「まあまあ、いいのよ。そのままで。」

私はにっこりと微笑んで言い、バルコニーの椅子に腰を下ろした。

「いつもここでお茶会をしているの?」

私の問いかけに、少し戸惑いながらも一人の侍女が答えた。

「はい。伯爵夫人……いえ、前の伯爵夫人が、“ここは良い場所だから、皆で使いなさい”と仰せられて。」

確かに、お母様ならそう言いそうだ。あの方は本当に、心の広い人だから。

「それなら、私も参加してもいいかしら?」

私がそう言うと、侍女たちの顔が一気に明るくなった。

「はい!ぜひぜひ!」

「お茶、淹れ直しますね!」

「お菓子もまだありますから!」

たちまちその場は、嬉しそうな声でにぎやかになった。

どこか緊張していた私の心が、ふっとほどけていくようだった。
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