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3、次の婚約者
③
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私の声は震えていなかった。
グレイブの前では、こんな強気な言葉は言えなかったのに。
ベンジャミン王子の軽薄な色気と、父の押し付けが交差する今、私はなぜか冷静だった。
ベンジャミンは少し驚いたように目を見開き、それからまた笑った。
「なるほど。そういう強いところも君の魅力だ。ますます気に入ったよ」
私は何も言わず、その場を離れた。
背後で父が「アーリン!」と呼ぶ声が聞こえたが、応じる気にはなれなかった。
また、自分の意思とは関係のない婚約を迫られている。
誰かの都合で、誰かの思惑で。
でも、もう私はあのときのように黙って受け入れたりはしない。
心の中に、グレイブの言葉が蘇る――「俺は、アーリンだけにこの想いを伝えるよ」
私は唇を噛みしめながら、静かに階段を下りた。
私は誰の飾りでも、政治の駒でもない。
私は――私の心で、私の未来を選ぶ。
「……どうして、勝手に決めてしまったの?」
震える声で問いかけると、父――ワイズ公爵は眉ひとつ動かさず、低く言い放った。
「なぜそんなことを? だと? 一国の王子との縁談だぞ。お前のような、もう十八にもなって未婚の令嬢には、これ以上の相手など望めるものか!」
その言葉に、胸が焼けるように痛んだ。
“余った姫”――その言葉が突き刺さる。
私は物ではない、売れ残りでもない。なのに、父にとって私は“家の名誉を守るための駒”でしかなかった。
「でも、私は……私はそんな結婚、望んでいません!」
思わず叫ぶように口走った。だが父は、怒りすら見せず淡々と告げた。
「断る理由などない。王子が望んでいる。それで十分だ」
そう言って父は背を向けた。
まるで、私の意思など最初からなかったかのように。
そしてすべては、怒涛のように決まっていった。
婚礼の式は、たった一週間後に。
場所も、来賓も、式次第もすでに整っていた。
断る隙など与えられない。断ればワイズ家に泥を塗ることになると、母までが静かに言う。
ウェディングドレスまで、すでに縫製に入っているという。
真珠をあしらった純白のドレス。
私が望んだ未来のためではなく、王子の隣に立たされるための衣装。
その日、私は部屋に戻るとベッドにうつ伏せて泣いた。
「どうして……」
声にならない嗚咽が、何度も喉から漏れる。
夢見た結婚とはこんなものだっただろうか?
誰かの思惑に振り回され、心のない誓いの言葉を述べさせられ、永遠を誓わされる。
自由も、愛も、もう私には残されていないのだろうか。
まるで――
「まるで、人形じゃない……」
笑うことも、泣くことも、嫌だと叫ぶことすら許されない。
ただそこにいればいい。
王家の肖像画に似合う妃として、美しく着飾って、黙って隣に立っていれば。
こんなの、人生じゃない。
グレイブの言葉が頭をよぎる。
「俺は、アーリンだけにこの想いを伝えるよ」
彼が夜に囁いたその声が、今は遠くに感じた。
あの夜のぬくもりも、優しい腕も。――もう二度と戻れないのだろうか。
私は両手で顔を覆い、ただ声もなく泣いた。
逃げ道は、どこにもなかった。
グレイブの前では、こんな強気な言葉は言えなかったのに。
ベンジャミン王子の軽薄な色気と、父の押し付けが交差する今、私はなぜか冷静だった。
ベンジャミンは少し驚いたように目を見開き、それからまた笑った。
「なるほど。そういう強いところも君の魅力だ。ますます気に入ったよ」
私は何も言わず、その場を離れた。
背後で父が「アーリン!」と呼ぶ声が聞こえたが、応じる気にはなれなかった。
また、自分の意思とは関係のない婚約を迫られている。
誰かの都合で、誰かの思惑で。
でも、もう私はあのときのように黙って受け入れたりはしない。
心の中に、グレイブの言葉が蘇る――「俺は、アーリンだけにこの想いを伝えるよ」
私は唇を噛みしめながら、静かに階段を下りた。
私は誰の飾りでも、政治の駒でもない。
私は――私の心で、私の未来を選ぶ。
「……どうして、勝手に決めてしまったの?」
震える声で問いかけると、父――ワイズ公爵は眉ひとつ動かさず、低く言い放った。
「なぜそんなことを? だと? 一国の王子との縁談だぞ。お前のような、もう十八にもなって未婚の令嬢には、これ以上の相手など望めるものか!」
その言葉に、胸が焼けるように痛んだ。
“余った姫”――その言葉が突き刺さる。
私は物ではない、売れ残りでもない。なのに、父にとって私は“家の名誉を守るための駒”でしかなかった。
「でも、私は……私はそんな結婚、望んでいません!」
思わず叫ぶように口走った。だが父は、怒りすら見せず淡々と告げた。
「断る理由などない。王子が望んでいる。それで十分だ」
そう言って父は背を向けた。
まるで、私の意思など最初からなかったかのように。
そしてすべては、怒涛のように決まっていった。
婚礼の式は、たった一週間後に。
場所も、来賓も、式次第もすでに整っていた。
断る隙など与えられない。断ればワイズ家に泥を塗ることになると、母までが静かに言う。
ウェディングドレスまで、すでに縫製に入っているという。
真珠をあしらった純白のドレス。
私が望んだ未来のためではなく、王子の隣に立たされるための衣装。
その日、私は部屋に戻るとベッドにうつ伏せて泣いた。
「どうして……」
声にならない嗚咽が、何度も喉から漏れる。
夢見た結婚とはこんなものだっただろうか?
誰かの思惑に振り回され、心のない誓いの言葉を述べさせられ、永遠を誓わされる。
自由も、愛も、もう私には残されていないのだろうか。
まるで――
「まるで、人形じゃない……」
笑うことも、泣くことも、嫌だと叫ぶことすら許されない。
ただそこにいればいい。
王家の肖像画に似合う妃として、美しく着飾って、黙って隣に立っていれば。
こんなの、人生じゃない。
グレイブの言葉が頭をよぎる。
「俺は、アーリンだけにこの想いを伝えるよ」
彼が夜に囁いたその声が、今は遠くに感じた。
あの夜のぬくもりも、優しい腕も。――もう二度と戻れないのだろうか。
私は両手で顔を覆い、ただ声もなく泣いた。
逃げ道は、どこにもなかった。
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