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3、次の婚約者
④
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夜の風が静かにカーテンを揺らしていた。
眠れぬまま、私はグレイブの元へと足を運んだ。
もう会えなくなる前に――彼に、きちんと別れを告げなければならなかった。
月明かりの下、いつものように城壁のそばで待っていたグレイブは、私の姿を見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「来てくれたんだな。」
その声に、私は堪えていた涙をこぼす。
「グレイブ……私、結婚するの。もう逃げられないの。」
グレイブの表情は揺れなかった。
ただ、少しだけ目を細めて、穏やかに言った。
「おめでとう、アーリン」
――おめでとう。
その言葉が、何よりも胸に刺さった。彼の心が、自分から完全に離れてしまったような気がして。
「どうして……あなたは……そんなに優しくできるの……? 本当は結婚なんてしたくないの。ベンジャミン王子がどれだけ高貴でも、私の心は、あなただけなのに……」
私はグレイブの胸にすがりついた。
もう、誰にも届かないような小さな声で呟く。
「どこか遠くに行ってしまいたい。あなたと……二人で……」
その言葉に、グレイブの腕がそっとアーリンの肩を抱いた。彼の声は、まっすぐで強かった。
「――じゃあ、行こう」
「え……?」
「君を迎えに行くよ、結婚式の日に。俺が、君をさらいに行く」
「そんな……! だって、それは……」
「そんな状態で、結婚なんて無理だろ。心がそこにないんだ。誰の許しもいらない。俺は、君を守るって決めた。今度こそ、迷わない」
彼の胸の中で私は震えた。夢でも聞き間違いでもない。これは――希望だった。
「……本当に来てくれるの?」
「当たり前だ。君をあんな奴の手に渡してたまるか。もう誰にも何も言わせない。俺は、アーリンと結婚する。」
その言葉に、私は深く頷いた。
「私、待ってる。たとえ世界中を敵に回しても、あなたが来てくれるなら、私は行くわ。」
静かな夜に、二人の決意だけが強く響いた。遠く鐘の音が鳴り、結婚式まで残された時間を告げていた。
だがその瞬間、私の瞳に再び光が灯った。
これは終わりではない――新しい始まり。
そして 私ははもう迷わなかった。
遠く鐘の音が響く。
アーリンは純白のドレスに身を包み、静かに馬車の揺れに身を任せていた。
たどり着いたのは、隣国の壮麗な王宮。重たく装飾された扉の先に、彼女の運命が待っている――はずだった。
「グレイブは……来る」
何度も心の中で繰り返す。胸の奥で、小さな希望の炎を灯して。
式場に入ると、賓客たちの視線が彼女に集まった。
王族、貴族、誰もが整った笑顔で「祝福」を注いでくる。
その中央、王冠をかすかに傾けて立つベンジャミン王子がいた。相変わらず冷静で、隙のない立ち姿。
――グレイブ、早く。
アーリンの心は逸っていた。
今、扉が開いて、彼が現れる。
そんな奇跡があるはずだと信じていた。
だが、誓いの言葉が近づくにつれ、時間は残酷に進んでいく。
神官の声が、静寂を切り裂く。
「それでは、新郎新婦の誓いの言葉を。アーリン・ワイズ、あなたはベンジャミン王子を夫とし、生涯変わらぬ愛を誓いますか?」
アーリンの視界がかすむ。
会場は静まり返り、誰もが彼女の返事を待っていた。
ベンジャミン王子が小さく微笑み、耳元で囁く。
「……もう私との結婚生活を想って胸がいっぱいなのだね。安心して。君を幸せにする」
その声音はやさしく聞こえながらも、底に冷たい確信を滲ませていた。
彼は自信に満ちていた。逃げ場などないと理解している男の顔。
その瞬間、アーリンの背筋が凍る。
――違う。私はこんな形で誰かの妻になりたかったんじゃない。
「……誓いますか?」
再び神官の声。
その言葉が、ナイフのようにアーリンの胸をえぐる。
――グレイブ、お願い……来て。
一秒が永遠のように流れる。
指先が震え、唇が開きかけて――
眠れぬまま、私はグレイブの元へと足を運んだ。
もう会えなくなる前に――彼に、きちんと別れを告げなければならなかった。
月明かりの下、いつものように城壁のそばで待っていたグレイブは、私の姿を見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「来てくれたんだな。」
その声に、私は堪えていた涙をこぼす。
「グレイブ……私、結婚するの。もう逃げられないの。」
グレイブの表情は揺れなかった。
ただ、少しだけ目を細めて、穏やかに言った。
「おめでとう、アーリン」
――おめでとう。
その言葉が、何よりも胸に刺さった。彼の心が、自分から完全に離れてしまったような気がして。
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私はグレイブの胸にすがりついた。
もう、誰にも届かないような小さな声で呟く。
「どこか遠くに行ってしまいたい。あなたと……二人で……」
その言葉に、グレイブの腕がそっとアーリンの肩を抱いた。彼の声は、まっすぐで強かった。
「――じゃあ、行こう」
「え……?」
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「そんな……! だって、それは……」
「そんな状態で、結婚なんて無理だろ。心がそこにないんだ。誰の許しもいらない。俺は、君を守るって決めた。今度こそ、迷わない」
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「……本当に来てくれるの?」
「当たり前だ。君をあんな奴の手に渡してたまるか。もう誰にも何も言わせない。俺は、アーリンと結婚する。」
その言葉に、私は深く頷いた。
「私、待ってる。たとえ世界中を敵に回しても、あなたが来てくれるなら、私は行くわ。」
静かな夜に、二人の決意だけが強く響いた。遠く鐘の音が鳴り、結婚式まで残された時間を告げていた。
だがその瞬間、私の瞳に再び光が灯った。
これは終わりではない――新しい始まり。
そして 私ははもう迷わなかった。
遠く鐘の音が響く。
アーリンは純白のドレスに身を包み、静かに馬車の揺れに身を任せていた。
たどり着いたのは、隣国の壮麗な王宮。重たく装飾された扉の先に、彼女の運命が待っている――はずだった。
「グレイブは……来る」
何度も心の中で繰り返す。胸の奥で、小さな希望の炎を灯して。
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王族、貴族、誰もが整った笑顔で「祝福」を注いでくる。
その中央、王冠をかすかに傾けて立つベンジャミン王子がいた。相変わらず冷静で、隙のない立ち姿。
――グレイブ、早く。
アーリンの心は逸っていた。
今、扉が開いて、彼が現れる。
そんな奇跡があるはずだと信じていた。
だが、誓いの言葉が近づくにつれ、時間は残酷に進んでいく。
神官の声が、静寂を切り裂く。
「それでは、新郎新婦の誓いの言葉を。アーリン・ワイズ、あなたはベンジャミン王子を夫とし、生涯変わらぬ愛を誓いますか?」
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「……もう私との結婚生活を想って胸がいっぱいなのだね。安心して。君を幸せにする」
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彼は自信に満ちていた。逃げ場などないと理解している男の顔。
その瞬間、アーリンの背筋が凍る。
――違う。私はこんな形で誰かの妻になりたかったんじゃない。
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再び神官の声。
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