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第1部
フェーズ1-9
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昼休み、私と愛音は音楽室でランチすることにした。教室にはクラスメイトがいて話しづらかったからだ。中庭や屋上も人目が気になった。他には誰もいない音楽室ならと私から誘い、そこで涼にプロポーズされたことを報告した。
「プロポーズぅぅぅ!?」
音楽室に愛音の声が響き渡った。教室や他の場所でなくてよかった。
「まずは婚約ってことになるんだけど。籍を入れるのは高校を卒業してからにしよう、って」
あれから話をして、やっぱりそういうことになった。涼は近々、私の家に挨拶にきてくれる。
「驚いた。何、そのスピード展開」
私も驚いている。
「どんなシチュエーションだった? 夜景を見ながら? それとも高級レストラン? 片膝をついて、指輪の箱をパカッって?」
「キッチンでコーヒー淹れながら。指輪はないよ」
答えると愛音は吹き出した。
「全然いつもと変わらない様子で、何気ない会話をするかのようにさらっと。ちゃんとよく考えたのかな」
「最初からそのつもりだったんじゃない?」
紙パック入りの緑茶をストローで一口吸うと、愛音はあっさりと言った。
「まさか」
そんなはずはない。まだ高校生の私を、そんなふうに考えるはずは。
「で、彩は受けたんだ? プロポーズを」
「うん。だって、私には涼しか考えられないし、ずっとずっと一緒にいられたらって思うから」
「感激して泣いちゃった?」
「言われたときはただびっくりして、頭の中が真っ白になっちゃって。だんだん、じわじわとうれしくなってきたって感じかな」
夢を見てるのかと思ったけど、そういうわけでもなかったみたい。帰ってから私は自分の頬を思いきりつねった。今朝もだ。
「あ、まだ親には話してないの。親の許可をもらうまでは正式に婚約したことにはならないから、まだ秘密ね。この話をするのは愛音だけだから」
「わかってるって」
任せてと言わんばかりに愛音はVサインを作った。
瀬谷さんが入院してから、愛音はほぼ毎日お見舞いにいっていた。涼に会えるかもしれないからと私も誘われたけど、病院はそういう理由で行くところではないからと断った。それに私がいたら二人のお邪魔になる。涼には週末には会えるんだから、我慢、我慢だ。
校内で愛音と別れ、一人で正門を出たところでまた正木さんが待っていた。大学の講義が早めに終わるという水曜日に、正木さんがこうして待っていることが恒例になりつつある。断ったのに。
「今日も一人?」
「愛音は瀬谷さんのお見舞いにいったので」
「ああ、そうか。彩ちゃんは行かないの? 行けばあの医者にまた会えるかもしれないよ」
正木さんが試すような言い方をする。相変わらず疑われているようだ。婚約のことを話したいけど、正木さんにはまだ言えない。正式に決まってからでないと言えない。
「じゃあ、俺と放課後デートしよ」
「大学にはかわいい人もきれいな人もたくさんいるでしょう。どうして私なんですか」
「俺、年下好きみたい。彩ちゃんは年上ウケするよね」
「正木さんとはひとつしか変わらないじゃないですか」
「彼氏もそれくらいだろ? それとももっと上かな?」
あまり喋るとボロが出そう。私は押し黙った。
「不倫にしろ、あの医者にしろ、やめたほうがいい。不倫は論外だけど、医者のほうも絶対遊ばれてる」
不倫の線もまだ残ってたんだ。遊ばれてるって、ずっと心の奥底で不安に感じていることをずばり言われた。プロポーズされる前だったらしばらく落ち込んだかもしれない。
「どこ行く? とりあえずお茶する? バイトまでまだ時間があるからどっか入ろうよ」
「行きません。ごめんなさい、私、本当に彼のことしか考えられないので」
頭を下げ、私は正木さんの前から走り去った。正木さん、ごめんなさい。婚約が決まったら正直に全部話します。そのときは、正木さんを傷つけてしまうことになるのだけど。
「プロポーズぅぅぅ!?」
音楽室に愛音の声が響き渡った。教室や他の場所でなくてよかった。
「まずは婚約ってことになるんだけど。籍を入れるのは高校を卒業してからにしよう、って」
あれから話をして、やっぱりそういうことになった。涼は近々、私の家に挨拶にきてくれる。
「驚いた。何、そのスピード展開」
私も驚いている。
「どんなシチュエーションだった? 夜景を見ながら? それとも高級レストラン? 片膝をついて、指輪の箱をパカッって?」
「キッチンでコーヒー淹れながら。指輪はないよ」
答えると愛音は吹き出した。
「全然いつもと変わらない様子で、何気ない会話をするかのようにさらっと。ちゃんとよく考えたのかな」
「最初からそのつもりだったんじゃない?」
紙パック入りの緑茶をストローで一口吸うと、愛音はあっさりと言った。
「まさか」
そんなはずはない。まだ高校生の私を、そんなふうに考えるはずは。
「で、彩は受けたんだ? プロポーズを」
「うん。だって、私には涼しか考えられないし、ずっとずっと一緒にいられたらって思うから」
「感激して泣いちゃった?」
「言われたときはただびっくりして、頭の中が真っ白になっちゃって。だんだん、じわじわとうれしくなってきたって感じかな」
夢を見てるのかと思ったけど、そういうわけでもなかったみたい。帰ってから私は自分の頬を思いきりつねった。今朝もだ。
「あ、まだ親には話してないの。親の許可をもらうまでは正式に婚約したことにはならないから、まだ秘密ね。この話をするのは愛音だけだから」
「わかってるって」
任せてと言わんばかりに愛音はVサインを作った。
瀬谷さんが入院してから、愛音はほぼ毎日お見舞いにいっていた。涼に会えるかもしれないからと私も誘われたけど、病院はそういう理由で行くところではないからと断った。それに私がいたら二人のお邪魔になる。涼には週末には会えるんだから、我慢、我慢だ。
校内で愛音と別れ、一人で正門を出たところでまた正木さんが待っていた。大学の講義が早めに終わるという水曜日に、正木さんがこうして待っていることが恒例になりつつある。断ったのに。
「今日も一人?」
「愛音は瀬谷さんのお見舞いにいったので」
「ああ、そうか。彩ちゃんは行かないの? 行けばあの医者にまた会えるかもしれないよ」
正木さんが試すような言い方をする。相変わらず疑われているようだ。婚約のことを話したいけど、正木さんにはまだ言えない。正式に決まってからでないと言えない。
「じゃあ、俺と放課後デートしよ」
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「俺、年下好きみたい。彩ちゃんは年上ウケするよね」
「正木さんとはひとつしか変わらないじゃないですか」
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不倫の線もまだ残ってたんだ。遊ばれてるって、ずっと心の奥底で不安に感じていることをずばり言われた。プロポーズされる前だったらしばらく落ち込んだかもしれない。
「どこ行く? とりあえずお茶する? バイトまでまだ時間があるからどっか入ろうよ」
「行きません。ごめんなさい、私、本当に彼のことしか考えられないので」
頭を下げ、私は正木さんの前から走り去った。正木さん、ごめんなさい。婚約が決まったら正直に全部話します。そのときは、正木さんを傷つけてしまうことになるのだけど。
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