11 / 136
第1部
フェーズ1-10
しおりを挟む
日曜日は梅雨の晴れ間だった。マンションのすぐ前にある臨海公園は広くてのどかな憩いの場で、休日には多くの人でにぎわう。カップルや家族連れが行き交う煉瓦道を、私と涼も並んで歩いていた。
「テレビ出演?」
「そう。日曜夜の医療バラエティー番組。一昨日、その番組のプロデューサーとやらが澄先生に出演交渉にきてたんだ。澄先生が断ったらしくて、俺が代わりに目をつけられた」
その番組なら私も見たことがある。専門医や研究者がゲストとして出演し、最新の医療技術や研究成果などについて紹介する番組だ。出演者の中には他の番組やCMなどでも見かけ、タレントのように活躍する医師もいる。テレビ出演なんてすごいと思う反面、涼が遠くにいってしまいそうで喜べない。できれば出演してほしくない。
「もちろん断ったけど」
それを聞いてほっとした。
「よかった。芸能人みたいになったら困る」
「ならないよ」
涼は小さく笑った。大げさではない。こうして歩いてると、すれ違った女の人が振り向いていくくらい涼はかっこいいんだもの。テレビに出演なんてしたら、きっとたちまち人気者になってしまう。
隣にいる私は、まわりからどう見えるんだろう。恋人に見えている自信は、ない。早く涼とつり合う女性になりたい。鷹宮先生のような知的で大人の女性に。
手を繋ぎたいけど秘密だから繋げない。一緒に歩いてるだけなら、知り合いに見られたとしても「お世話になった先生に偶然会った」で済む。婚約したら堂々と手を繋いで歩けるのだろうか。そんなことを考えていたら大事なことを思い出した。
「お父さん、来週末に帰ってくるって」
私の父は他県に単身赴任中で、一カ月に一度か二度、家に帰ってくる。金曜日の夜に帰ってきて、日曜日の午後にまた赴任先へ戻っていく。その父が帰ってくるタイミングに合わせて、涼が家に挨拶にきてくれることになっていた。
「わかった」
プロポーズしてもらってから一週間が経った。実はまだ半信半疑だ。本当にいいのかな。気が変わって後悔してないかな。不安で涼の表情をうかがってしまう。
「両親に許してもらえたら、すぐに婚約指輪、見にいこうな」
そのひと言でそれまでの不安は吹き飛んだ。私は笑顔になって大きく頷いた。
「憂うつだなあ」
今日は朝から雨が絶え間なく降りつづけている。薄暗い窓の外を眺めながら、愛音がぼやいた。
「こんな時期にテスト勉強なんてありえない。つくづく付属高でよかったと思うわ」
この高校は隣に建つ大学の付属高校で、卒業後はエスカレーター式に大学へ進学することができる。テストは他の高校と同じようにあるものの、よほどひどい成績でない限り進学に影響はない。
「なのになんで勉強してんの?」
くるりと振り向き、机にノートとテキストを広げてテスト勉強をしている私に向かって愛音が言った。
「成績が落ちたら親に涼のこと反対されそうだから」
来週は一学期の期末テストがある。もし成績が落ちたら、涼と付き合っていることで勉強をおろそかにしていると思われる。婚約を許してもらえないかもしれない。マイナス評価につながりそうな要素は、できるだけ取り除いておきたい。いつも涼と会う日曜日の帰りは、あまり遅くならないようにと涼が気遣ってくれて、早めに家まで送り届けてくれる。付き合い始めてからあからさまに帰宅時間が遅くなったとか、外泊するようになったとかはない。その点は大丈夫だろう。
「テストのあとだっけ? 緊張のご対面」
「うん」
「どんな反応するだろうね、彩の両親。驚くだろうなあ。だって、まさかの相手じゃん?」
両親の反応は私も気になっている。驚かれるのは間違いない。問題はそのあとだ。反対される可能性はある。理由は考えるまでもなく私が高校生だから。それと、もうひとつ気になっていることがある。涼が言っていた、私の担当医だからこそ反対されるかもしれないとは、どういうことなんだろう。
「彩? どうかした?」
愛音が私の顔を覗き込んでいた。
「ううん、なんでもない」
気を取り直して再びノートの上にシャーペンを走らせる。
「来年もこうやって勉強してそうだよねえ。両立できそう?」
両立とは大学と結婚生活のことだろう。婚約のことは学校では秘密だから、決定的なワードは避けて会話してくれている。
「がんばる」
両親に婚約を許してもらえたら、高校を卒業後に入籍することになるんだと思う。私は大学に通いながら涼と結婚生活を送る。大学でもテストはあるから、愛音の言うように来年もこうしてテスト勉強をしてるだろう。仕事が多忙な涼のこともしっかり支えたい。両立できるだろうか。それともまさか、涼の言う「卒業」とは、大学の卒業のこと? それだとあと四年以上もある。そんなの、長すぎる。「大人になるまで待てない」と言ってくれたのだから、違うよね。
「テレビ出演?」
「そう。日曜夜の医療バラエティー番組。一昨日、その番組のプロデューサーとやらが澄先生に出演交渉にきてたんだ。澄先生が断ったらしくて、俺が代わりに目をつけられた」
その番組なら私も見たことがある。専門医や研究者がゲストとして出演し、最新の医療技術や研究成果などについて紹介する番組だ。出演者の中には他の番組やCMなどでも見かけ、タレントのように活躍する医師もいる。テレビ出演なんてすごいと思う反面、涼が遠くにいってしまいそうで喜べない。できれば出演してほしくない。
「もちろん断ったけど」
それを聞いてほっとした。
「よかった。芸能人みたいになったら困る」
「ならないよ」
涼は小さく笑った。大げさではない。こうして歩いてると、すれ違った女の人が振り向いていくくらい涼はかっこいいんだもの。テレビに出演なんてしたら、きっとたちまち人気者になってしまう。
隣にいる私は、まわりからどう見えるんだろう。恋人に見えている自信は、ない。早く涼とつり合う女性になりたい。鷹宮先生のような知的で大人の女性に。
手を繋ぎたいけど秘密だから繋げない。一緒に歩いてるだけなら、知り合いに見られたとしても「お世話になった先生に偶然会った」で済む。婚約したら堂々と手を繋いで歩けるのだろうか。そんなことを考えていたら大事なことを思い出した。
「お父さん、来週末に帰ってくるって」
私の父は他県に単身赴任中で、一カ月に一度か二度、家に帰ってくる。金曜日の夜に帰ってきて、日曜日の午後にまた赴任先へ戻っていく。その父が帰ってくるタイミングに合わせて、涼が家に挨拶にきてくれることになっていた。
「わかった」
プロポーズしてもらってから一週間が経った。実はまだ半信半疑だ。本当にいいのかな。気が変わって後悔してないかな。不安で涼の表情をうかがってしまう。
「両親に許してもらえたら、すぐに婚約指輪、見にいこうな」
そのひと言でそれまでの不安は吹き飛んだ。私は笑顔になって大きく頷いた。
「憂うつだなあ」
今日は朝から雨が絶え間なく降りつづけている。薄暗い窓の外を眺めながら、愛音がぼやいた。
「こんな時期にテスト勉強なんてありえない。つくづく付属高でよかったと思うわ」
この高校は隣に建つ大学の付属高校で、卒業後はエスカレーター式に大学へ進学することができる。テストは他の高校と同じようにあるものの、よほどひどい成績でない限り進学に影響はない。
「なのになんで勉強してんの?」
くるりと振り向き、机にノートとテキストを広げてテスト勉強をしている私に向かって愛音が言った。
「成績が落ちたら親に涼のこと反対されそうだから」
来週は一学期の期末テストがある。もし成績が落ちたら、涼と付き合っていることで勉強をおろそかにしていると思われる。婚約を許してもらえないかもしれない。マイナス評価につながりそうな要素は、できるだけ取り除いておきたい。いつも涼と会う日曜日の帰りは、あまり遅くならないようにと涼が気遣ってくれて、早めに家まで送り届けてくれる。付き合い始めてからあからさまに帰宅時間が遅くなったとか、外泊するようになったとかはない。その点は大丈夫だろう。
「テストのあとだっけ? 緊張のご対面」
「うん」
「どんな反応するだろうね、彩の両親。驚くだろうなあ。だって、まさかの相手じゃん?」
両親の反応は私も気になっている。驚かれるのは間違いない。問題はそのあとだ。反対される可能性はある。理由は考えるまでもなく私が高校生だから。それと、もうひとつ気になっていることがある。涼が言っていた、私の担当医だからこそ反対されるかもしれないとは、どういうことなんだろう。
「彩? どうかした?」
愛音が私の顔を覗き込んでいた。
「ううん、なんでもない」
気を取り直して再びノートの上にシャーペンを走らせる。
「来年もこうやって勉強してそうだよねえ。両立できそう?」
両立とは大学と結婚生活のことだろう。婚約のことは学校では秘密だから、決定的なワードは避けて会話してくれている。
「がんばる」
両親に婚約を許してもらえたら、高校を卒業後に入籍することになるんだと思う。私は大学に通いながら涼と結婚生活を送る。大学でもテストはあるから、愛音の言うように来年もこうしてテスト勉強をしてるだろう。仕事が多忙な涼のこともしっかり支えたい。両立できるだろうか。それともまさか、涼の言う「卒業」とは、大学の卒業のこと? それだとあと四年以上もある。そんなの、長すぎる。「大人になるまで待てない」と言ってくれたのだから、違うよね。
3
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる