ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第1部

フェーズ2-4

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 駅前の広場に連れてこられた。
「ここまでくれば追ってこないだろ。大丈夫?」
 正木さんに促されて近くのベンチに腰かける。
「あのオッサン、何だったの? なんであんな写真を?」
「週刊誌の記者です」
「週刊誌? なんでそんなのが」
 正木さんが困惑している。私にもわけがわからない。どうして涼とのことを知ってるの? しかもあんな写真まで撮られてしまった。どうしよう、怖い。
「まさか、あの医者とのことで?」
 私は黙って頷いた。
「ああ、もしかして未成年だからってこと? まあ、それは俺もちらっと……」
 落ち込む私を見て、正木さんはそれ以上は口にしなかった。
「とりあえず、あいつに連絡したほうがいいんじゃない? って、今は仕事中か」
 混乱して何も考えられない私に、正木さんが冷静にアドバイスしてくれる。あとで涼に連絡してみよう。
「すみません、正木さん。助けてくれてありがとうございます」
「全然いいよ。帰ろ。送ってくから。バイクだから乗せてくよ」
 バイク? でもさっきからバイクなんて見当たらない。小首を傾げる私に、正木さんが説明をしてくれる。
「俺も最近バイク通学始めたんだ。さっきの公園の入口に止めてある。走ってたら彩ちゃんが変な男に公園に連れ込まれるのを見かけたから、バイク止めて公園に入ったんだ。ここでちょっと待っててくれる? 超ダッシュで取ってくるよ」
 わざわざバイクから降りて助けにきてくれたんだ。しかも大事なバイクを置いたままここまで一緒に逃げてきてくれた。
「大丈夫です。バスに乗れば、あとは家に帰るだけですから」
「家の前にまたあいつがいるかもしれないよ?」
 それもそうか。何日か前から私を張っていたのなら、自宅の場所を知られていてもおかしくはない。
「大丈夫、大丈夫。心配ないよ。瀬谷より俺のほうが運転うまいから。俺はあんなヘマしないから安心して。彩ちゃんを乗せるんだから、絶対安全運転するし」
 正木さんが笑いながら言った。私もつられて笑顔になる。私がいなくても常に安全運転してください。お言葉に甘えて正木さんにバイクで家まで送ってもらうことにした。

 夜になり、涼の仕事が終わった頃を見計らって電話をかけてみた。呼び出し音が数コール鳴ったあと、涼が出た。
「どうした?」
「今、平気? もう仕事終わった?」
「ちょうど駐車場にきて、車に乗ったところだ」
「今日、学校の帰りにカメラをぶら下げた週刊誌の記者に声をかけられたの。私と涼のことを知ってて、写真を見せられた。私が涼のマンションに入っていくところや、涼の車に乗って出てくるところを撮られてたみたいで。神河先生とはどういう関係なのかとか、いろいろ訊かれた」
 思い返すだけで声が震える。
「なんて答えたんだ?」
「何も喋ってないよ。答える前に逃げたから」
「そうか」
「涼は? なんともない?」
「ああ、今のところは。車の乗り降りは職員専用の地下駐車場だし、出入口には警備員の目がある。カメラを持った怪しげな人間がうろつくのは難しいはずだ」
 さすがに病院の中までは入ってこないと思いたい。登下校で街を歩く私よりは、涼のほうが安全だろう。
「とりあえず、あまり一人で行動しないほうがいい。学校の行き帰りもなるべく愛音ちゃんに一緒にいてもらうとか、人通りが多いところへ。いずれ俺のところにもくるだろうから、対処しておくよ」
「うん、わかった」
 私の声に元気がないから、涼は電話を切れずにいるみたいだ。記者の突撃を受けたことで、自分が悪いことをしていて、世間から責められている気分になっていた。怖い。
「大丈夫か?」
 電話越しでも涼が心配してくれてるのがわかる。
「ごめんね、私が未成年のせいで」
「何言ってるんだ。彩が謝ることない」
「涼が医者を辞めさせられたりしたら、どうしたらいいの」
 いつか想像したワイドショーや週刊誌の見出しが、現実になろうとしている。私が涼を犯罪者にしてしまう。最悪なことを考えて、私は泣いてしまっていた。
「大丈夫。そんなことにはならない」
 涼の声、安心する。
「ごめん、私が泣いてると帰れないね。もう切る」
 私は鼻をすすった。
「また何かあったら連絡して。場合によっては飛んでいく」
「写真を撮ろうと張ってるはずだよ。会わないほうがいいよ」
「関係ない。俺にとって一番大事なのは彩だよ」
 私だって涼が大事だ。だからこそ、やっぱり今は会わないほうがいいと思う。気持ちはうれしい。
「ありがとう」
 怖くて不安でいっぱいだったのが涼のおかげで和らいだ。きっと大丈夫、なんとかなる。そう思える優しい声と言葉だった。
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