ドクターダーリン【完結】

桃華れい

文字の大きさ
39 / 136
第1部

フェーズ3-11

しおりを挟む
 すべての外来患者の診察が終わったようで、涼が呼びにきてくれた。私はロビーに移動し、涼はまだやることがあるからと病棟のフロアへ上がっていった。入院患者を診にいったんだろう。その間、私は会計を済ませてしばらくロビーで待つことになった。外来の診療時間が終わったこの時間のロビーは人がまばらで、外はすでに真っ暗だ。
 家に連絡しないと。遅くなってきっと心配してる。私は携帯電話で家に電話をかけた。すぐに母が出て、
「こんな時間まで何してるの!」
 と、いきなり怒られた。
「病院にきたら熱が上がっちゃって、休ませてもらってた。涼が家まで送ってくれるって」
「お忙しいでしょうに迷惑かけて……。だから一緒に行くって言ったでしょう」
 今朝、母が病院に付き添うと言ってくれたのだけど、パートを休ませるのは悪いから断った。昨晩よりは回復し、熱も下がっていたから、一人でも大丈夫だと思った。
「とにかくもうすぐ帰るから」
「着いたら先生にも家に上がってもらってちょうだい。そのまま帰すんじゃないわよ」
 ガミガミと怒る母の声が頭に響く。私は「わかった」と短く返事をして電話を切った。
 しばらくすると帰り支度を済ませた涼が戻ってきた。車は玄関に回してきてくれて、処方箋薬局では私の代わりに薬を受け取ってきてくれた。
「ごめんね、忙しいのに」
 家に向かう車の中で私は涼に謝った。
「気にするな。それより大丈夫か?」
「頭が痛い」
「帰って薬飲んで寝れば楽になるよ」
 だるくて重い体をシートの背もたれに預ける。正直いって、バスに乗って自力で帰るのはしんどかった。涼がいてくれてよかった。仕事、まだ途中だったんじゃないかな。こんなに早く帰ることは普段はないはずだ。ごめんね。目を閉じながら、私は心の中で繰り返し謝った。

 家に着いた。母が涼をそのまま帰さないようにと言っていたけど、もともと私を送り届けてそのまま帰るつもりはなかったようだ。二階にある私の部屋まで付き添ってくれて、ベッドに寝かせてくれた。
 部屋の外の廊下から涼と母の会話が聞こえてきた。私の病気との関連を心配する母に、涼は「喉も腫れてますから風邪でしょう」と説明している。他にも着替えがどうとかいろいろ話してたけど、途中から小声になったようで聞き取れなかった。
 母に手伝ってもらって着替えて、額に冷却シートを貼られた。ひんやり冷たくて気持ちがいい。首や脇の下には、熱を下げるためにタオルで包んだ保冷剤が当てられている。
 お粥が運ばれてきて、涼が食べさせてくれた。食欲はないけど食べて薬を飲めばよくなるはずだからと、無理して食べた。

 体が熱い。苦しい。薬はさっき飲ませてもらったばかりで、効果はまだ出ていない。朦朧としているとドアがノックされた。
「先生、お母さんがご飯できたからどうぞって」
 花の声だ。涼を呼びにきたらしい。
「ありがとう」
 私は立ち上がろうとした涼の服を掴んだ。行っちゃうの? 行かないで。そばにいて。
「お姉ちゃ~ん?」
「あとでいただきます、って伝えてくれる」
 涼は部屋にとどまってくれた。誰よりも一番そばにいてほしい人。いてくれるだけでほっとする。

 どれくらい経っただろう。さっきより楽になった気がする。ズキズキしてつらかった頭痛もだいぶ鎮まった。顔を横に向けると、涼が壁に寄りかかって眠っていた。サイドテーブルのデジタル時計に目をやる。表示されている数字を見てぎょっとした。二十三時を過ぎている。
 ベッドの上で慌てて起き上がる。まだ体が重く、だるい。自分の体ではないみたいだ。ベッドが軋む音で涼も目を覚ました。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん、こんな時間まで……」
 さらにはっとする。
「ご飯は?」
「用意してもらって食べたよ」
 そういえば、熱にうなされているときに花が呼びにきた気がする。
 体温計を差し出されて計測した。熱は三十七度五分まで下がっていた。
「私は大丈夫だから、もう帰って? ごめんね、本当に、こんな遅くまで」
 疲れてるのに、明日も仕事なのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。おろおろする私とは対照的に涼は落ち着いている。テーブルの上に用意されていた紙パックのオレンジジュースを手に取り、ストローを差し込んで私に手渡してくれた。
「ありがと」
 マスクをずらし、受け取ったジュースに口をつける。酸っぱくておいしい。
「ねえ、本当にもう帰って?」
 マスクの位置を戻して言った。涼が苦笑する。
「あんまり帰れ帰れ言われると、ちょっと傷つく」
「だって、明日も仕事……」
 しかも今日はまだ月曜日なのだ。一刻も早く帰って休んでもらいたい。
「そうだな。熱も下がってきたし、もう大丈夫だろう。お母さんに声かけてくよ」
「うん。いろいろありがとう。ちゃんと手洗いとうがいしてね」
 涼が立ち上がり、私の頭をぽんぽんした。
「無理するなよ。お大事に」
 優しい微笑みを残して、涼は部屋から出ていった。
 階下から母と話す声が聞こえてくる。
「熱は……」
「……まですみません。……これ、明日の朝食……」
 朝食用に何か持たせてくれているようだ。さすが母だ。頭が下がる。
「……明日も……」
 全部は聞き取れないがこんな内容だった。私は背中をヘッドボードに預け、またオレンジジュースを飲んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...