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第1部
フェーズ3-11
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すべての外来患者の診察が終わったようで、涼が呼びにきてくれた。私はロビーに移動し、涼はまだやることがあるからと病棟のフロアへ上がっていった。入院患者を診にいったんだろう。その間、私は会計を済ませてしばらくロビーで待つことになった。外来の診療時間が終わったこの時間のロビーは人がまばらで、外はすでに真っ暗だ。
家に連絡しないと。遅くなってきっと心配してる。私は携帯電話で家に電話をかけた。すぐに母が出て、
「こんな時間まで何してるの!」
と、いきなり怒られた。
「病院にきたら熱が上がっちゃって、休ませてもらってた。涼が家まで送ってくれるって」
「お忙しいでしょうに迷惑かけて……。だから一緒に行くって言ったでしょう」
今朝、母が病院に付き添うと言ってくれたのだけど、パートを休ませるのは悪いから断った。昨晩よりは回復し、熱も下がっていたから、一人でも大丈夫だと思った。
「とにかくもうすぐ帰るから」
「着いたら先生にも家に上がってもらってちょうだい。そのまま帰すんじゃないわよ」
ガミガミと怒る母の声が頭に響く。私は「わかった」と短く返事をして電話を切った。
しばらくすると帰り支度を済ませた涼が戻ってきた。車は玄関に回してきてくれて、処方箋薬局では私の代わりに薬を受け取ってきてくれた。
「ごめんね、忙しいのに」
家に向かう車の中で私は涼に謝った。
「気にするな。それより大丈夫か?」
「頭が痛い」
「帰って薬飲んで寝れば楽になるよ」
だるくて重い体をシートの背もたれに預ける。正直いって、バスに乗って自力で帰るのはしんどかった。涼がいてくれてよかった。仕事、まだ途中だったんじゃないかな。こんなに早く帰ることは普段はないはずだ。ごめんね。目を閉じながら、私は心の中で繰り返し謝った。
家に着いた。母が涼をそのまま帰さないようにと言っていたけど、もともと私を送り届けてそのまま帰るつもりはなかったようだ。二階にある私の部屋まで付き添ってくれて、ベッドに寝かせてくれた。
部屋の外の廊下から涼と母の会話が聞こえてきた。私の病気との関連を心配する母に、涼は「喉も腫れてますから風邪でしょう」と説明している。他にも着替えがどうとかいろいろ話してたけど、途中から小声になったようで聞き取れなかった。
母に手伝ってもらって着替えて、額に冷却シートを貼られた。ひんやり冷たくて気持ちがいい。首や脇の下には、熱を下げるためにタオルで包んだ保冷剤が当てられている。
お粥が運ばれてきて、涼が食べさせてくれた。食欲はないけど食べて薬を飲めばよくなるはずだからと、無理して食べた。
体が熱い。苦しい。薬はさっき飲ませてもらったばかりで、効果はまだ出ていない。朦朧としているとドアがノックされた。
「先生、お母さんがご飯できたからどうぞって」
花の声だ。涼を呼びにきたらしい。
「ありがとう」
私は立ち上がろうとした涼の服を掴んだ。行っちゃうの? 行かないで。そばにいて。
「お姉ちゃ~ん?」
「あとでいただきます、って伝えてくれる」
涼は部屋にとどまってくれた。誰よりも一番そばにいてほしい人。いてくれるだけでほっとする。
どれくらい経っただろう。さっきより楽になった気がする。ズキズキしてつらかった頭痛もだいぶ鎮まった。顔を横に向けると、涼が壁に寄りかかって眠っていた。サイドテーブルのデジタル時計に目をやる。表示されている数字を見てぎょっとした。二十三時を過ぎている。
ベッドの上で慌てて起き上がる。まだ体が重く、だるい。自分の体ではないみたいだ。ベッドが軋む音で涼も目を覚ました。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん、こんな時間まで……」
さらにはっとする。
「ご飯は?」
「用意してもらって食べたよ」
そういえば、熱にうなされているときに花が呼びにきた気がする。
体温計を差し出されて計測した。熱は三十七度五分まで下がっていた。
「私は大丈夫だから、もう帰って? ごめんね、本当に、こんな遅くまで」
疲れてるのに、明日も仕事なのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。おろおろする私とは対照的に涼は落ち着いている。テーブルの上に用意されていた紙パックのオレンジジュースを手に取り、ストローを差し込んで私に手渡してくれた。
「ありがと」
マスクをずらし、受け取ったジュースに口をつける。酸っぱくておいしい。
「ねえ、本当にもう帰って?」
マスクの位置を戻して言った。涼が苦笑する。
「あんまり帰れ帰れ言われると、ちょっと傷つく」
「だって、明日も仕事……」
しかも今日はまだ月曜日なのだ。一刻も早く帰って休んでもらいたい。
「そうだな。熱も下がってきたし、もう大丈夫だろう。お母さんに声かけてくよ」
「うん。いろいろありがとう。ちゃんと手洗いとうがいしてね」
涼が立ち上がり、私の頭をぽんぽんした。
「無理するなよ。お大事に」
優しい微笑みを残して、涼は部屋から出ていった。
階下から母と話す声が聞こえてくる。
「熱は……」
「……まですみません。……これ、明日の朝食……」
朝食用に何か持たせてくれているようだ。さすが母だ。頭が下がる。
「……明日も……」
全部は聞き取れないがこんな内容だった。私は背中をヘッドボードに預け、またオレンジジュースを飲んだ。
家に連絡しないと。遅くなってきっと心配してる。私は携帯電話で家に電話をかけた。すぐに母が出て、
「こんな時間まで何してるの!」
と、いきなり怒られた。
「病院にきたら熱が上がっちゃって、休ませてもらってた。涼が家まで送ってくれるって」
「お忙しいでしょうに迷惑かけて……。だから一緒に行くって言ったでしょう」
今朝、母が病院に付き添うと言ってくれたのだけど、パートを休ませるのは悪いから断った。昨晩よりは回復し、熱も下がっていたから、一人でも大丈夫だと思った。
「とにかくもうすぐ帰るから」
「着いたら先生にも家に上がってもらってちょうだい。そのまま帰すんじゃないわよ」
ガミガミと怒る母の声が頭に響く。私は「わかった」と短く返事をして電話を切った。
しばらくすると帰り支度を済ませた涼が戻ってきた。車は玄関に回してきてくれて、処方箋薬局では私の代わりに薬を受け取ってきてくれた。
「ごめんね、忙しいのに」
家に向かう車の中で私は涼に謝った。
「気にするな。それより大丈夫か?」
「頭が痛い」
「帰って薬飲んで寝れば楽になるよ」
だるくて重い体をシートの背もたれに預ける。正直いって、バスに乗って自力で帰るのはしんどかった。涼がいてくれてよかった。仕事、まだ途中だったんじゃないかな。こんなに早く帰ることは普段はないはずだ。ごめんね。目を閉じながら、私は心の中で繰り返し謝った。
家に着いた。母が涼をそのまま帰さないようにと言っていたけど、もともと私を送り届けてそのまま帰るつもりはなかったようだ。二階にある私の部屋まで付き添ってくれて、ベッドに寝かせてくれた。
部屋の外の廊下から涼と母の会話が聞こえてきた。私の病気との関連を心配する母に、涼は「喉も腫れてますから風邪でしょう」と説明している。他にも着替えがどうとかいろいろ話してたけど、途中から小声になったようで聞き取れなかった。
母に手伝ってもらって着替えて、額に冷却シートを貼られた。ひんやり冷たくて気持ちがいい。首や脇の下には、熱を下げるためにタオルで包んだ保冷剤が当てられている。
お粥が運ばれてきて、涼が食べさせてくれた。食欲はないけど食べて薬を飲めばよくなるはずだからと、無理して食べた。
体が熱い。苦しい。薬はさっき飲ませてもらったばかりで、効果はまだ出ていない。朦朧としているとドアがノックされた。
「先生、お母さんがご飯できたからどうぞって」
花の声だ。涼を呼びにきたらしい。
「ありがとう」
私は立ち上がろうとした涼の服を掴んだ。行っちゃうの? 行かないで。そばにいて。
「お姉ちゃ~ん?」
「あとでいただきます、って伝えてくれる」
涼は部屋にとどまってくれた。誰よりも一番そばにいてほしい人。いてくれるだけでほっとする。
どれくらい経っただろう。さっきより楽になった気がする。ズキズキしてつらかった頭痛もだいぶ鎮まった。顔を横に向けると、涼が壁に寄りかかって眠っていた。サイドテーブルのデジタル時計に目をやる。表示されている数字を見てぎょっとした。二十三時を過ぎている。
ベッドの上で慌てて起き上がる。まだ体が重く、だるい。自分の体ではないみたいだ。ベッドが軋む音で涼も目を覚ました。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん、こんな時間まで……」
さらにはっとする。
「ご飯は?」
「用意してもらって食べたよ」
そういえば、熱にうなされているときに花が呼びにきた気がする。
体温計を差し出されて計測した。熱は三十七度五分まで下がっていた。
「私は大丈夫だから、もう帰って? ごめんね、本当に、こんな遅くまで」
疲れてるのに、明日も仕事なのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。おろおろする私とは対照的に涼は落ち着いている。テーブルの上に用意されていた紙パックのオレンジジュースを手に取り、ストローを差し込んで私に手渡してくれた。
「ありがと」
マスクをずらし、受け取ったジュースに口をつける。酸っぱくておいしい。
「ねえ、本当にもう帰って?」
マスクの位置を戻して言った。涼が苦笑する。
「あんまり帰れ帰れ言われると、ちょっと傷つく」
「だって、明日も仕事……」
しかも今日はまだ月曜日なのだ。一刻も早く帰って休んでもらいたい。
「そうだな。熱も下がってきたし、もう大丈夫だろう。お母さんに声かけてくよ」
「うん。いろいろありがとう。ちゃんと手洗いとうがいしてね」
涼が立ち上がり、私の頭をぽんぽんした。
「無理するなよ。お大事に」
優しい微笑みを残して、涼は部屋から出ていった。
階下から母と話す声が聞こえてくる。
「熱は……」
「……まですみません。……これ、明日の朝食……」
朝食用に何か持たせてくれているようだ。さすが母だ。頭が下がる。
「……明日も……」
全部は聞き取れないがこんな内容だった。私は背中をヘッドボードに預け、またオレンジジュースを飲んだ。
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